著者
上野 健爾 土屋 昭博 河野 俊丈 伊達 悦朗 神保 道夫 柏原 正樹 松本 尭生 三輪 哲二
出版者
京都大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

本研究は重点領域研究「無限自由度の可積分系の理論とその応用」の成果取りまとめのために行われた。平成4年度から5年間にわたって行われた本重点領域研究では無限自由度の可積分系の理論を中心に数多くの重要な成果が得られたが、これらの成果を有機的にまとめ、今後の研究へのひとつの指針を与えることが本研究の目指したものである。具体的には2次元格子模型、共形場理論、量子群、3,4次元トポロジー、無限自由度の可積分系と関係した代数幾何学に関してさらに研究を進め、今までに得られた成果をさらに高い立場から見直すことを行った。この結果、Calabi-Yau多様体のミラー対称性や量子コホモロジー群、量子群の表現と古典関数のq類似、3,4次元多様体の位相不変量などに関する研究において新しい知見が得られた。さらにこれらの成果は、非線型幾何学とも呼ぶべき新しい幾何学が背後にあることを強く示唆している。特に深谷のグループはCalabi-Yau多様体のミラー対称性を幾何学的に新しい見地から論じ、今後の研究に重要な一歩を踏み出した。また本年度の研究によって、神保のグループを中心に離散的Painleve方程式が幾何学的な構造を持つことが明瞭にされ、可積分系のもつ幾何学的構造の豊かさが改めて明らかになった。今後は、本重点領域研究の成果に基づき、非線型幾何学の建設へ研究が大きく前進していくことが期待される。
著者
上野 健爾 杉江 徹 森脇 淳 河野 明 神保 道夫 丸山 正樹
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

代数多様体,複素多様体は近年理論物理学との密接な関係が見出され、従来の数学研究とは違った観点からの興味ある現象が見出され、数学そのものの再編成が行われつつある。本研究もこうした新しい観点から研究を行ったものである。以下得られた主要な成果を記す。1.Z上の共形場理論と複素コボルディズム環桂利行,清水勇二との共同研究において,自由フェルミオンの共形場理論が整数環Z上定義できること,ボゾン化によってZ上の無限変数の多項式環が生じることを示したが,本年度さらに共同研究によって,理論は複素コボルディズム理論と密接な関係を持つことが明らかになった。特に,複素コボルディズム環でチャ-ン類を取る操作とシュ-ア多項式の関係を明らかにし,複素多様体の特性類とKP方程式系のτ函数との関係も明らかにした。2.非ア-ベル的共形場理論の算術化土屋昭博,山田泰彦との共同研究によって得られた単純リ-環をゲ-ジ対称性に持つ共形場理論が,有理数体上定義され代数曲線のモジュライ空間上の数論的代数幾何学として展開できることを示した。さらに種数Oの代数曲線上の共形場理論に限ると,さらに理論は整数環Z上定義されることを示した。3.ベクトル束および連接層のモジュライ空間の研究丸山正樹は射影的代数多様体上の放物的安定層の概念を導入しモジュライ空間を構成することに成功した。また森脇淳は準安定偏曲ファイバ-空間の概念を導入し,ボゴモロフ・ギ-ゼカ-不等式を一般化することに成功した。これはモジュライ空間の研究に応用が見込まれている。
著者
上野 健爾 山田 泰彦 齋藤 政彦 加藤 文元 神保 道夫 齋藤 秀司
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2001

上野はJ.Andersenとの共同研究で,曲線が退化する際のアーベル的共形場理論(bc系の理論)を構成した.この結果は,非アーベル的共形場理論からモジュラー函手を構成する際に,アーベル的共形場理論の分数ベキとのテンソル積を取ることが必要となり,点付き代数曲線のモジュライ空間の境界でのテンソル積の挙動を調べるために使われた.さらに,このモジュラー函手から構成される3次元多様体の不変量は,リー代数がsl(2,C)の時はReshetikhin-Turaevが構成した不変量と一致することがほぼ明らかになった.証明の詳細な詰めは次年度の研究で行う予定である.また,上野はアーベル的共形場理論を代数曲面の場合に拡張するための予備的な考察を行った.齋藤政彦はパンルヴェ方程式の初期値空間の研究を行い,初期値空間として登場する岡本・パンルヴェ対が逆にパンルヴェ方程式を決定することを,岡本・パンルヴェ対に変形理論を適用することによって示した.山田は多変数のパンルヴェ方程式を対称性の観点から研究した.また,神保は量子場の相関関数とq直交多項式との関連を考察した.また,齋藤秀司は非特異代数多様体のChow群に関するBloch-Beilinsonフィルター付けについて考察した.加藤はMumford曲線に関する研究を行い,Mumford曲線を被覆として持つ非アルキメデス的オービフォールドの特徴付けを与え,またモジュライ空間でのMumford曲線のなす軌跡の性質について新しい知見を得た.またMumfordによる擬射影平面の志村多様体としての具体的な構成を与えた.