著者
原田 静香 杉本 正子 秋山 正子 岡田 隆夫 櫻井 しのぶ
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂醫事雑誌 (ISSN:21879737)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.480-489, 2013 (Released:2014-05-29)
参考文献数
42

目的:入院中の患者の退院調整において,訪問看護師が病院に出向き,直接退院調整に関与した場合としなかった場合で,在宅移行期に起きた家族介護者の状況の違いについて比較し,検討した.対象:都内急性期病院を退院した65歳以上の在宅療養者を主に介護する家族12名.方法:対象者のうち,入院中に訪問看護師が病院に出向いて行う退院調整を受けて退院した場合を「関与あり群」6名,入院中には訪問看護師の関与がなく病院で通常の退院調整を受けた場合を「関与なし群」6名とした.調査は事例ごとに自記式質問紙および,半構造化インタビューを行った.聞き取った回答は研究者が検討し分類した.退院調整から在宅移行時の経験や思いについては質的帰納的に分析した.結果:①関与なし群では,家族介護者の主観的な健康度が低く,介護負担感が高い傾向があった.②退院調整へ関与した専門職人数は,関与あり群が平均4.3名,関与なし群で平均2.8名であった.関与あり群は,病院と在宅ケア事業者の双方向の関与があったが,関与なし群は在宅ケア事業者の支援が少なかった.③保健・医療・福祉サービスの導入状況では,関与あり群は入院中にサービスの導入が計画され,退院後に追加導入はなかった.一方,関与なし群は退院後に介護力不足が顕在化し,サービスを追加導入していた.④在宅移行時の経験として,関与あり群は訪問看護師の支援に安心感を持ち,介護方法の指導を受け,介護を何とかやっていけると回答した.関与なし群は在宅移行時の不安感と,介護への戸惑いを感じていた.結論:訪問看護師が退院調整に関与した場合,①家族介護者は健康状態の悪化や介護負担の増大を回避できると示唆された.②退院調整に多職種が関与し,地域連携の促進が可能である.③入院中に的確な保健・医療・福祉サービスが導入できることが示唆された.④家族介護者は在宅移行期より安心感をもち,生活状況に合わせた支援が補完され,介護へ適応するための支援が行われていた.訪問看護師の関与のなかった場合は,介護負担が大きく在宅移行期の不安感や介護への戸惑いがみられた.
著者
秋山 正子
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.53-65, 2020

<p>第3期がん対策推進基本計画の全体目標の一つ,尊厳をもって安心して暮らせる社会の構築は「がんとの共生」と表現され,次の分野別施策が示された。①がんと診断された時からの緩和ケア②相談支援,情報提供③社会連携に基づくがん対策・がん患者支援④がん患者等の就労を含めた社会的な問題⑤ライフステージに応じたがん対策の5つである。</p><p>英国で1996年に誕生したマギーズキャンサーケアリングセンターをモデルとしたマギーズ東京が2016年に日本にできるまでを紹介し,従来の形ではなく新しい方法を取り入れて,今のがん医療で取り残されてきていた相談支援を,病院以外で行うことの意義を,開設後3年間の実績を踏まえて紹介をした。それはまさに協働的意思決定(シェアードディシジョンメーキング)支援の場になっている。</p><p>この活動によって,当事者である患者や家族のみでなく,関わる専門職も,短時間で,情報提供し答えを出さねばという呪縛から解放されていく様子を見せて貰っている。これは,看護の実践の場として,ケアの質を維持し,モチベーションを高めていくことにも繋がり,今後はこの実践現場からの結果を,情報発信していくことも重要となろう。</p><p>予約なし,相談料無料,そして全てがチャリティによって運営されていると言うこと自体もチャレンジャブルである。建築と環境にも心を配られたマギーズセンターは,医療のみならず異分野からも着目されている。</p>
著者
秋山 正子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.58-59, 2021-01-15

アメリカ発祥の「Continuing Care Retirement Community」、略称「CCRC」。これは、リタイア後の高齢者が健康な段階で入居し、継続的なケアを受けながら終身暮らすことができる生活共同体のことを指します。計画的に「街づくり」された郊外の広大な地域に、数百人規模の高齢者が住むイメージです。そんな場所が、全米で2000か所にも増えているといいます。 一般的な高齢者施設と異なるのは、元気なうちからコミュニティに移り住む点。元気なうちから移り住むことによって、その地域共同体に新たな一員として加わることができます。そして、時間が経って医療や介護が必要となる段階が訪れても、そのころにはそこが「住み慣れた場所」となり、他地域にある施設へ移ることなく、適切なケアを受けながら暮らすことができるというわけです。
著者
飯岡 由紀子 中山 祐紀子 渡邉 直美 田代 真理 榎本 英子 髙山 裕子 廣田 千穂 秋山 正子
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.89-95, 2019 (Released:2019-06-03)
参考文献数
15

本研究の目的は,看護師を対象にEnd-of-Life Careの実践を支援するリフレクションプログラムを開発し,その効果と実現可能性を検討することである.ファシリテーター主導リフレクションプログラム(FRP)と,カードを用いたリフレクションプログラム(CRP)を開発した.緩和ケアに関する知識・態度・困難感尺度と自己教育力尺度の平均得点をプログラム前・直後・3カ月後で測定し,得点の変化をFRPとCRPで比較した.倫理審査委員会の承認を得て行った.FRPは9名,CRPは15名のデータを分析した.FRPはCRPと比較して緩和ケアに関する困難感が有意に低下し,知識が有意に上昇した.また,FRPの群内においても同様の結果が得られた.FRPもCRPもプログラム評価は高く実現可能性は高いと考えられた.今後は,アウトカム指標の検討,サンプル数を増加し,効果をより明確にする必要がある.
著者
谷口 英喜 秋山 正子 五味 郁子 木村 麻美子
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.359-366, 2015-10-25 (Released:2015-12-24)
参考文献数
14
被引用文献数
2 2

目的:介護老人福祉施設の通所者におけるかくれ脱水(脱水の前段階)の実態調査を行い,非侵襲的なスクリーニングシートを開発することを目的とした.方法:介護老人福祉施設の通所者70名を対象に血清浸透圧値を計測し,かくれ脱水(体液喪失を疑わせる自覚症状が認められないにもかかわらず,血清浸透圧値が292から300 mOsm/kg・H2O)の該当者を抽出した.該当者において,脱水症の危険因子および脱水症を疑う所見に関してロジスティック回帰分析を行い,オッズ比を根拠に配点を行った.配点の高い項目から構成される高齢者用かくれ脱水発見シートを作成し,該当項目に応じた合計点毎の感度および特異度を求め,抽出に最適なカットオフ値を探索した.結果:かくれ脱水の該当者は,15名(21.4%)であった.先行研究のかくれ脱水発見シートを改良し,①女性である(4点),②BMI≧25 kg/m2(5点),③利尿薬を内服している(6点),④緩下薬を内服している(2点),⑤皮膚の乾燥や,カサつきを認める(2点),⑥冷たい飲み物や食べ物を好む(2点),の6項目から構成される高齢者用かくれ脱水発見シートを考案した.このシートにおいて,かくれ脱水である危険性が高いと考えられるカットオフ値は,9点(合計21点)に設定した(感度0.73,特異度0.82;P<0.001).結論:高齢者においては,脱水症の前段階であるかくれ(潜在的な)脱水が一定の割合で存在し,非侵襲的なスクリーニングシートにより抽出が可能である.