著者
笠原 正治 高橋 豊 増山 博之 橘 拓至
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

P2Pネットワークに代表されるオーバレイネットワークにおいては,トランスポート層より上位のオーバレイレベルでの制御によってデータ転送が行われるため,オーバレイネットワークにおけるファイル転送遅延は論理ネットワークと物理ネットワークの双方のトポロジーに大きく依存すると考えられる.研究期間においては,まず最初の検討として,物理ネットワークとして4ノード・4ルータで構成される代表的な4種類のトポロジーを考え,論理ネットワークと物理ネットワークのトポロジー構成がファイル転送遅延に与える影響について,2層型待ち行列網モデルを用いて評価を行った.数値例において,物理トポロジーと論理トポロジーが一致する場合に遅延が小さくなる傾向にあること,また論理トポロジーの形状によっては物理トポロジーに依らず負荷に対して遅延が急激に増大することが観察された.次にP2P上の実時間サービスとしてSkypeに着目し,呼設定処理に対する動的負荷分散機構の有効性を解析的に検証した.具体的には,一般ユーザの参加を非斉時ポアソン過程でモデル化し,ノード数とスーパーノード数で規定される2変数確率過程が満たす微分方程式を導出した.数値例より,P2P型のユーザ管理方式を用いたサービスではクライアント・サーバ型方式よりも安定したサービス品質を保障できることが示された.最後に,フラッディング検索機構を有するファイル共有型P2Pネットワークに対し,4端末・4ルータ物理網より構成されるP2P網を二層型待ち行列網でモデル化し,論理レベルと物理レベルのトポロジー不一致性とフラッディング検索機構がファイル取得時間に与える影響を定量的に評価した.数値実験より,高いノード次数を持つネットワークトポロジは低負荷時において性能が高い一方,高負荷時には急激に性能が劣化することが判明した.
著者
倉谷 和彦 増山 博之 笠原 正治 高橋 豊
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. NS, ネットワークシステム (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.107, no.524, pp.187-192, 2008-02-28

近年,Session Initiation Protocol (SIP)ベースのインターネット電話に代わる電話サービスとして,Peer-to-Peer (P2P)技術に基づいたユーザ管理機構をもつSkypeが注目を集めている.Skypeではユーザ情報はユーザノードから選ばれたスーパーノードによって管理されており,ユーザノード数に応じてその数を動的に増減させることで負荷の分散を図っている.本稿では,このユーザ管理機構に着目し,呼設定処理に対するP2P型動的負荷分散機構の有効性を解析的に検証する.具体的には,一般ユーザの参加を非斉時ポアソン過程でモデル化し,ユーザノード数の満たす状態確率微分方程式に対してStationary Peakedness Approximation法によって時間依存の状態確率を計算する.数値例より,P2P型のユーザ管理方式を用いたサービスでは,能力の高い中央サーバを用いた場合のクライアント・サーバ型方式に匹敵し,初期設定時間の観点から見て安定したQoSの保証が実現できることが示された.
著者
境 隆一 笠原 正雄
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. ISEC, 情報セキュリティ (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.102, no.212, pp.131-138, 2002-07-12
被引用文献数
4

2001年7月開催のISEC研究会で同一題目の発表を行い,ペアリングの双線形性を利用した幾つかの暗号方式を紹介し,新しい署名方式も提案した.また,筆者等はID情報に基づく公開鍵暗号方式も幾つか提案した.本論文では同様に,ペアリングの双線形性を利用した新しい形の公開鍵暗号方式および署名方式を提案する.そして,提案方式と従来のペアリングを用いた方式との差について考察する.
著者
佐竹 賢治 笠原 正雄
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.79, no.3, pp.702-710, 1996-03-25
被引用文献数
2

RSA 暗号は高いセキュリティレベルを有し, またディジタル署名も可能な優れた暗号方式として, 活発に研究されてきている. しかしこの暗号方式は暗号化, 復号にべき乗および剰余演算を繰返し実行する必要があるため, その処理時間が膨大になるという実用上の欠点を有している. 本論文では, このRSA暗号システムに適用可能な高速化べき乗剰余演算法を提案している. この手法は剰余演算に用いる法 (合成数) を工夫することによって, 剰余演算の処理ステップを大幅に削減し, 高速化を実現するものである. この手法をRSA暗号に適用した場合, 演算処理の高速化に加え, 公開鍵情報の短縮化といった著しい特徴を有する暗号システムの実現が可能となる. 本論文では, この高速べき乗剰余演算手法を適用したRSA暗号を, ユーザインタフェースとしての簡便さと安全性とを, トレードオフの関係のもとに自由に設定し得る実用的な暗号方式として論じ, その安全性等について考察を加えている.