著者
高久 宏佑 細谷 和海
出版者
水産増殖談話会
雑誌
水産増殖 = The aquiculture (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.13-18, 2008-03-20
被引用文献数
2

カワバタモロコは、コイ科ラスボラ亜科に属する全長3-6cmの日本固有の淡水魚で、日本に生息する淡水魚類の中ではもっとも小さいコイ科魚類とされる。静岡県瀬戸川以西の本州太平洋側、四国瀬戸内海側および九州北西部に分布し、主に平野部の農業用ため池や用水路など里山の環境に生息している。本種には繁殖期に顕著な性的二型が見られ、雌は雄より大型化し、雄は鮮やかな黄金の婚姻色を呈する。このような特徴的な形態を持つため、キンモロコ、キンターなど地方名も多く残される馴染み深い魚であり、西日本では里山のシンボルフィッシュとなっている。しかし、近年ではブラックバス・ブルーギルなど肉食性外来魚による食害や、圃場整備などの水田開発、農地の放棄による生息地の荒廃により個体数は激減し、最新の環境省版レッドリストでは絶滅危惧IB類に指定されている。希少種では、生息地や野外個体の数が制限されることが多く、保全に必要な生態情報を得るには野外調査だけでは不十分な場合が多い。飼育実験により得られた生態情報を野外へ還元することは希少種の保全において重要であり、そのためには、まず供試魚を効率的に得るための人工繁殖方法の確立が必要となる。そこで本研究では、カワバタモロコの系統保存技術向上と、生息地保全のための基礎的研究を目的として、ホルモン投与による産卵誘発方法の確立、適した初期飼育条件の選定、基礎的な成長に関する実験を行なった。
著者
片野 修 細谷 和海 井口 恵一朗 青沼 佳方
出版者
日本魚類学会
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.19-25, 2001-05-25 (Released:2010-06-28)
参考文献数
31
被引用文献数
12

Freshwater fish in rice fields near the Chikuma River, Nagano Prefecture, were investigated by visual census and net sampling. The rice fields were classified into three types. Type 1-terraced and supplied with water from an upper pond; type 2-supplied with water from drainage ditches; and type 3-supplied and drained by separate irrigation ditches. Rhinogobius sp.OR (sensu Kawanabe and Mizuno, 1989), Misgurnus anguillicaudatus and Pseudorasbora parva were abundant in type 1 fields, whereas Tribolodon hakonensis, Carassius spp., M. anguillicaudatus and Gnathopogon elongatus elongatus were recorded in type 2 fields. Only M. anguillicaudatus was found in type 3 fields. The fish abundance and diversity did not differ significantly between type 1 and 2, but was extremely poor in type 3. The recent rearrangement of rice fields from types 1 and 2 to type 3 evidently reduced fish abundance and diversity.
著者
小西 雅樹 朝井 俊亘 武内 啓明 細谷 和海
出版者
近畿大学農学部
雑誌
近畿大学農学部紀要 = Memoirs of the Faculty of Agriculture of Kinki University (ISSN:04538889)
巻号頁・発行日
no.43, pp.105-110, 2010-03

干物から透明骨格標本を作製するため二重染色法を改良した。この方法が従来の方法と大きく異なる点は、1.塩抜きのために水戻しをすること、2.固定時のフォルマリン濃度を高くすること、3.透明化処理時の水酸化カリウム水溶液濃度を低くすることの3点である。この方法は、干物をきれいに透明化できる点で従来の方法よりも優れている。
著者
井藤 大樹 今田 彩乃 石田 孝信 水出 千尋 細谷 和海
出版者
近畿大学農学部
雑誌
近畿大学農学部紀要 (ISSN:04538889)
巻号頁・発行日
no.46, pp.81-89, 2013

近畿大学農学部キャンパス内に造成された棚田ビオトープにおいて水生生物相調査を行なった。その結果,18目34科37属39種の水生動物が確認された。本調査で確認された種の中にはレッドリストおよびレッドデータブックに記載されているシマヒレヨシノボリ(環境省版:準絶滅危惧),ミナミメダカ(環境省版:絶滅危惧II類,奈良県版:希少種),ニホンアカガエル(奈良県版:絶滅危惧種),トノサマガエル(環境省版:準絶滅危惧),コオイムシ(環境省版:準絶滅危惧,奈良県版:希少種)が含まれていた。一方で,国外外来種であるアメリカザリガニとサカマキガイも確認され,早急な駆除対策が求められる。一時的水域である水田,水路での出現種数は,1年を通して水量が安定している温水路,調整池での出現種数よりも少なかった。しかし,希少種であるコオイムシは水路でのみ確認されており,生物多様性の創出には生息場所の多様性が必要であると考えられた。また,本調査地で確認された魚類の種数と両生類の種構成は平地の田んぼと異なっていた。これは,樹林帯に囲まれている棚田と用水路や河川と連絡している平地田との周辺環境の差異に影響されているものと考えられた。
著者
細谷 和海 西井 啓大
出版者
近畿大学農学部
雑誌
近畿大学農学部紀要 (ISSN:04538889)
巻号頁・発行日
no.36, pp.73-130, 2003

ブラックバスは北米原産のサンフィシュ科の淡水魚で、わが国には1925年に実業家、赤星鉄馬氏により神奈川県芦ノ湖へ移殖された。以来、本種は同湖から持ち出されることがなかったが、1970年代のルアー釣りブームを契機に一挙に分布域を拡大した。ブラックバスは魚食性が強く、コイ科を主体とする在来種の地域的な絶滅を引き起こすことが危惧されている。そのため、ブラックバスを対象とするルアー釣りをめぐり、在来種を保護しようとする側とルアー釣りを楽しみたい側とが激しく対立し、大きな社会問題となっている。問題を解決するためには、ブラックバスの食害に関する科学的データを社会に提供する必要がある。ブラックバスの生物学については、すでにアメリカにおいて1975年にStround and Clepperが総合書を取りまとめている。一方、もともとブラックバスが分布していなかったわが国ではブラックバスに関する情報は限られる。1992年に全国内水面漁業協同組合連合会が「ブラックバスとブルーギルのすべて」を、また、最近では2002年に日本魚類学会自然保護委員会が「川と湖沼の侵略者ブラックバス」を刊行している程度で、情報は充分とは言えない。サンフィシュ科魚類は北米東部を中心に9属32種が知られている。そのうち、日本の淡水域に移殖放流されたものはオオクチバス、コクチバス、およびブルーギルである。わが国において、ブラックバスという名称は慣習的にオオクチバスに当てられてきたが、コクチバスが定着して以来、両種の総称として用いられることが多い。本資料では、オオクチバスとコクチバスを対象とする。
著者
細谷 和海
出版者
近畿大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

1. 海外博物館での標本調査初年度は、シーボルト標本調査のため、直接ライデン博物館へ赴き、一部標本の再検査および同定による種名とタイプ標本の地位について確認した。しかし、分類学的な課題は依然残されており、いくつかの種については、海外の著名な博物館において絶滅危惧種など優先度の高い種について調査を行なう必要がある。そこで平成21年度は米国スミソニアン博物館へ、次いで、平成22年度は3月12日から18日までChicagoフィールド博物館ならびSan Francisco,カリフォルニア・アカデミー博物館(CAS)へ赴き、タイプ標本と照合を行なった。その結果、サケ科、およびタナゴ類など小型コイ科魚類の学名の整理(シノニム関係)ができた。このことにより、保全対象種の実態が明確となり、具体的な保全目標の設定が可能となった。2. 絶滅種の分類学的精査シーボルトコレクションは西日本に集中している。魚類標本の多くが、長崎周辺と江戸参府の際に収集されたことが原因である。そのため、日本産淡水魚相の過去の態様を探るには、東日本に分布する種について精査する必要がある。近年、絶滅したと考えられていたクニマスが、京大の研究グループにより再発見された。クニマスのタイプロカリティは秋田・田沢湖で、今回、移殖地の山梨県・西湖で生息が確認された。しかし、同定にはかなりの問題があり、模式標本との照合が強く求められていた。フィールド博物館とCASにおいてクニマスの模式標本と比較した結果、西湖の現存標本の特徴はおおむね摸式標本に一致するものの、斑紋・からだの大きさ等が異なることが明らかになった。今後、現存個体群の保全を進めると同時に、遺伝的特性も含め、個体変異と交雑の可能性について検証することが必要と思われた。
著者
北川 えみ 北川 忠生 能宗 斉正 吉谷 圭介 細谷 和海
出版者
公益社団法人 日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.146-150, 2005 (Released:2005-07-15)
参考文献数
15
被引用文献数
5 2

1988 年にオオクチバスフロリダ半島産亜種が放流された池原貯水池では,1996, 1997 年の遺伝学的調査においてフロリダ半島産亜種由来のミトコンドリア DNA(mtDNA)をもつ個体の割合は 56.8% であった。今回(2003 年)再調査を行った結果,本亜種由来の mtDNA をもつ個体は全体の 86.7% となり,前回調査より有意な増加がみとめられた。また,近畿地方の池原貯水池とは別水系の湖沼(津風呂湖,宝ヶ池,深泥池)からも本亜種由来の mtDNA をもつ個体が検出された。