著者
船守 美穂
出版者
情報知識学会
雑誌
情報知識学会誌 (ISSN:09171436)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.309-322, 2017-12-02 (Released:2018-02-09)
参考文献数
23

2013年にG8科学大臣会合において研究データのオープン化を確約する共同声明が調印されてから,「オープンサイエンス」という標語による施策が,各国で展開されるようになっている.一方で,その標語の概念が広く曖昧であるためか,アカデミアにおいてこの考え方は十分に浸透していない.大学等学術機関についても,これについてどこまで対応すべきなのかが明確に理解されていない. ここでは,オープンサイエンスを3の大分類,10の小項目に分け,それぞれの項目についてアカデミアの受容可能性と大学等としての対応を検討し,オープンサイエンスを進めていく上での大学等の役割と課題を考察した.大学等は公的研究資金を得た研究成果の公開や研究不正に対応した研究データ保存といった義務化に対応するだけでなく,オープンサイエンスに関わる啓蒙・普及活動と環境整備を機関内で進め,学術が新たな次元に移行していることへの対応を図ることが肝要と考えられる.
著者
船守 美穂
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.92-98, 2018-03-01 (Released:2018-03-01)

近年,大学図書館業界においても,「大学IR」という言葉を耳にするようになったため,本小論では,大学IRの成り立ちや概要,大学IRが抱える課題を紹介しつつ,これからの大学図書館と大学IRの関わりの可能性について考察する。日本の大学図書館については,大学IRのための基礎データ収集の観点から,1)教学IRに資する,学生の図書館利用状況,2)研究IRに資する,学内で輩出される学術成果の把握などが期待される。大学業務システムや研究情報管理システムの整備,相互連携が進んでいる欧米の大学では,これらを利用した3)機関データの管理・保全や,4)同システムの利用支援も大学図書館の役割として想定されているが,日本ではこれは難しい。
著者
船守 美穂
出版者
国立情報学研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では、ゲイツ財団などの米国巨大財団が、米国の高等教育政策に及ぼす影響について研究を行った。米国巨大財団は、「戦略的アドボカシー」という手法で連邦政府や州政府の政策形成にも強い影響力を及ぼし、助成の効果をスケールさせようとする。民間財団が国の政策に圧力をかけているようにも見えるが、実際には、米国は清教徒が移住した時代、政府が機能しなかった頃から、教会や一部の成功者がフィランソロピーとして地域の発展のために尽くし、これが現代の財団や各種NPOの活動へと発展した。米国は現代においても、こうした第3セクターと政府による、多極的な国の発展を実現している。
著者
船守 美穂
出版者
研究・イノベーション学会
雑誌
研究 技術 計画 (ISSN:09147020)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.86-99, 2023-05-08 (Released:2023-05-09)
参考文献数
40

近年,外国からの不当な影響による利益・責務相反や技術流出等への懸念から,研究者の外国との関わりを把握し,リスク管理をしようとする動きが世界的に進行している。しかしこの方法は,研究者による正しい情報の申告を前提とする上,問題把握が技術流出そのものを対象とせず,間接的であることから,十分に有効ではないと考えられる。本稿では,深刻なサイバー攻撃を経て,大学によるストレージ提供と研究データ管理計画(DMP)の導入により対策をとった豪州大学の事例を参考に,国内で全国大学対象に提供される研究データ基盤(NII RDC,2021年提供開始)を利用した,大学の研究データガバナンス構築の方法を提案する。具体的には,DMPではなく,研究データ管理記録(DMR)を利用することで,機関による研究者の研究活動を把握可能とし,機関の説明責任やコンプライアンスに対応可能とする。NII RDCおよび,これに搭載予定のDMRツールは全国展開されるため,国内の大学は最小限の負担で導入可能,かつ,大学横断的な連携も容易であり,この方式は国際的に見ても優位性がある。提案の方法は,大学の研究データガバナンス構築を主目的とする。しかし,DMRにより技術流出の把握や調査が可能となるため,研究インテグリティ確保にも一定の有効性はあると考えられる。他方,機関の管理強化による研究者の研究活動の抑制は避ける必要があり,将来的にはDMRが,研究者の未来の研究構想に役立てられることが期待される。
著者
朝岡 誠 林 正治 藤原 一毅 岩井 紀子 船守 美穂 山地 一禎
出版者
情報知識学会
雑誌
情報知識学会誌 (ISSN:09171436)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.168-175, 2020-05-23 (Released:2020-06-26)
参考文献数
18

研究データの再利用を促進するためには,単純な公開だけではなく,条件付き公開(制限公開)に対するニーズを満たしたシステム基盤の整備が不可欠である.本研究では,制限公開データを提供している機関のワークフローを調査し,研究データを提供するフローの類型化を行った.さらに,汎用的なリポジトリシステムWEKO にその機能を実装し,JGSS 研究センターの制限公開ワークフローをシミュレートすることでその運用を検討した.