著者
花渕 馨也
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.459-477, 2009-12-31 (Released:2017-08-18)

変身の一つの技法としての憑依は、狂気やトランスとして語られる無秩序な動作なのではなく、日常とは異なるコードにおいて行為と主体の関係を構成する、統御された振舞いである。人類学者が見出してきたのは、一見して狂気にも見える憑依の舞台で演じる主人公達であり、理性的な説明を与えうるその秩序ある振舞いであった。憑依は身体や出来事の偶発性を飼い慣らし、人間を社会化する一つの方法として見ることもできるだろう。だが、憑依は必ず痙攣する身体からはじまるように、統御しがたい身体の偶発性や、予測不可能な出来事と結びついており、憑依の実践には説明を拒否するかのような、不確かな振舞いや出来事の曖昧さが顕著に見られる。精霊憑依とは規範から逸脱する根源的な他者とつきあう方法でもあるのだ。本稿では、ンダマルと呼ばれる野蛮な王の精霊とある女性の親子三代にわたる家族的関係の歴史を検討することで、不確かな他者としての精霊との移ろいゆく関係を通じたコモロにおける身体-自己の形成と変容のあり方について明らかにしたい。
著者
小泉 潤二 春日 直樹 中川 敏 栗本 英世 石川 登 花渕 馨也 春日 直樹 中川 敏 栗本 英世 中川 理 石川 登 花渕 馨也 松川 恭子
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、トランスナショナルな、つまり国家、国民、民族を超える現代世界の動態的現象を人類学的に把握し分析するために、「境界」に生まれるもの、つまり境界の生産性に着目した。中米、アフリカ、東南アジア、オセアニア、ヨーロッパなど各地で現地調査を実施して経験的資料を集め、国家や民族やモダニティなど多様な要因により複雑に構築される境界の理解を進めるとともに、その境界を越える人やモノの流れの現実を明らかにした。
著者
花渕 馨也
出版者
北海道医療大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

マルセイユのコモロ系移民のコミュニティでは、90年代から、同じ村出身者による同郷組合の組織が急激に増加した。同郷組合の活動の中心は、故郷村への援助活動であり、「援助文化」として新たに創造された、資金を集めるためのイベントを頻繁に開催している。本研究では、同郷組合活動の実態の分析を通じ、移民と故郷は村の伝統的社会構造を再編成するトランスナショナルなコミュニティを形成する一方で、援助をめぐる威信競争による新たな社会関係が生じることで位階的な社会構造に変化が起こりつつあることを明らかにした。