著者
井本 萌 宮川 修一 フォン フラークシュタイン アレクサンドラ 川窪 伸光 加藤 正吾 岩澤 淳
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.96, no.1, pp.36-42, 2014

ドイツにおける「森の幼稚園」を市民による森林空間と資源の利用という観点から評価する目的で, ヘッセン州ベンスハイム市において2種類のアンケート調査を行った。まず, 幼稚園児の保護者による森の利用状況を調査した。子供が森の幼稚園, 一般の幼稚園のどちらに通っているかに関わらず, 週12回, 家族で, 散歩を目的に森を訪れる保護者が最も多く, 幼稚園児を持つ家族が近隣の森を訪れることは, 日常的な営みの一つと考えられた。次に, 地域と森の幼稚園における森林資源利用を比較した。地域住民が歴史的に食用, 茶・薬用, 工作・装飾, 燃料, 子供時代の遊びなどに用いてきた森林資源の利用は131例あった。自身の子供時代の遊びを除いた112例のうち90が現在も住民に利用されており, 90のうち64は森の幼稚園でも利用されていた。地域で現在利用されない22例のうち7例は森の幼稚園では自然教育を目的に利用されていた。一方, 森の幼稚園における利用例86のうち, 地域での利用履歴がないのは5例のみであった。このことから, 森の幼稚園における森林資源の利用は, 地域の森林資源利用の歴史を反映したものとなっていると考えられた。
著者
足達 慶尚 小野 映介 宮川 修一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.5, pp.493-509, 2010-09-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
38
被引用文献数
2 5

本稿では,ラオス中部のヴィエンチャン平野に立地するドンクワーイ村を対象として,1952年以降の水田の拡大過程と世帯増加・自然条件・農業政策との関連性を検討した.同村では,2005年時点で約90%の世帯が自給的な天水田稲作に従事している.天水田の開田は世帯数の増加に対応して進められ,その面積は1952年から2006年の54年間に約4.3倍に増加した.特に1980年代から1990年代にかけて急速に開田が進行し,雨季の河川の増水による湛水リスクのある低地へも天水田域が拡大した.政府による農業の集団化政策を受けて,村では1979年に農業組織の一形態である水田協同組合が組織されたが,生産米の分配方法に対する不満から大半の世帯は1年で脱退したため,同政策による天水田面積の増減は生じなかった.ただし,組合に残った一部の世帯は河川の氾濫原を利用した浮稲栽培や乾季の灌漑水田稲作を開始し,稲作形態が多様化した.浮稲栽培や灌漑水田稲作は,組合の解散後も受け継がれ,多くの村民が携わるようになったが,1997年以降の灌漑水田面積は微増にとどまっている.乾季作の作付面積は,割高な灌漑設備の維持・使用の費用と,雨季作の収穫状況を踏まえて増減調整がなされており,雨季作の不作時におけるセーフティー・ネットとしての性格を有する.
著者
野間 晴雄 野中 健一 宮川 修一 岡本 耕平 堀越 昌子 舟橋 和夫 池口 明子 加藤 久美子 加納 寛 星川 和俊 西村 雄一郎 鰺坂 哲朗 竹中 千里 小野 映介 SIVILAY Sendeaune 榊原 加恵 SOULIDETH DR.MR. Khamamany BOURIDAM MS. Somkhith ONSY Salika CHAIJAROEN Sumalee 岡田 良平 的場 貴之 柴田 恵介 瀬古 万木 足達 慶尚 YANATAN Isara 板橋 紀人 渡辺 一生
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

東南アジア大陸部に位置する天水田農業を主体とした不安定な自然環境における平原地帯(東北タイドンデーン村とラオスのヴィエンチャン平野ドンクワーイ村)における多品種の稲や植物,魚介類や昆虫など様々な動植物資源の栽培・採集・販売などの複合的な資源利用の実態とその変化の態様を地域の学際的・総合的共同調査で明らかにした。両村ともグローバル市場経済の影響が認められるが,ドンデーン村ではかつて存在した複合的な資源利用が平地林の消滅や都市近郊村落化によって失われており,ドンクワーイ村はグローバル化や森林伐採で変容を遂げつつあるが,インフラの未整備によって伝統は保持されている。
著者
宮川 修一
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会東海支部会報
巻号頁・発行日
no.124, pp.19-26, 1997-12-10
被引用文献数
1
著者
若月 利之 石田 英子 増田 美砂 林 幸博 広瀬 昌平 TRAORE S.K.B ALLURI K. OTOO E. OLANIYAN G.O IGBOANUGO A. FAGBAMI A. 小池 浩一郎 宮川 修一 鹿野 一厚 中条 広義 福井 捷朗
出版者
島根大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

ナイジェリア中部ニジェール洲、ビダ市付近のエミクパタ川集水域のヌペ人の村落から農民の参加意欲と土と水条件より5ケ村のベンチマーク村落を選んだ。アジア的な水田稲作とヌペの伝統的低地稲作システムを融合させながら展開するための実証試験をニジェール洲農業開発公社の普及研究員と国立作物研究所の研究員の協力を得ながら、農民参加により実施した。又、多目的樹種を中心にした育苗畑の整備と管理法及び成熟苗を利用したアップランドにおけるアグロフォレストリーの実証試験も実施した。東北タイより収集した品種特性の異なるタマリンドの種より育苗した。次年度には移植する予定。ガーナのクマシ付近のドインヤマ川小低地集水域でも、同様の水田農業とアグロフォレストリーを農民参加により実施することにより、劣化集水域を再生するための実証試験を実施するに当たって必要な土と水と気象条件、在来の農林業システム、村落の社会経済的条件等、各種の基礎的調査を実施した。一部では水田造成と稲作、村落育苗畑等の小規模実証試験を行った。ニジェールのドッソ付近のマタンカリ村付近のサヘル帯の小低地集水域でも同様の基礎調査を実施した。タイとインドネシアでは西アフリカに応用可能な農林業システムの文献資科や、上述のように樹木のタネ等を収集した。アジアと西アフリカの研究者と意見交換し、農林業システム融合の条件を検討した。又、タイで採取した樹木種子はナイジェリアの苗畑で発芽生育させ、生育は順調なので移植を準備中である。フィリピンでは世界の稲作システムに関する既存の資料を収集した。
著者
宮川 修一 Konchan Somkiat
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業 (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.p255-259, 1990-12

東北タイ, ドンデーン村における菜園の重要作目であるトウガラシの生産性を1983年7月から1984年2月まで調査した.対象とした16の菜園での平均収量は生重で3kg/100m^2/月, ないし2kg/100株/月であったが, 菜園間の差異はおおきかった.9,10月の収量が最も高く, 11月以降は更新によって若齢株が多くなるため収量は低下した.7,8月の低収量は大雨による着花不良や田植作業との労力競合が原因と推定された。面積当たり収量は株当たりの収量に強く支配されており, 旺盛な生育が得られるように管理方法を改良してゆくことが重要と考えられる.
著者
宮川 修一 コンチャン ソムキアット 河野 泰之
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業 (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.248-256, 1998-12-01
被引用文献数
7

東北タイの稲作地帯において近年盛んになりつつある直播栽培(主に乾田)の収量性を伝統的な移植栽培法と比較するため, 1994年には69筆(直播24,移植45), 1995年には103筆(直播41,移植62)の農家圃場の収量並びに収量構成要素を坪刈りによって比較した.降雨の比較的少なかった1994年には直播栽培の平均収量は移植栽培より劣った.この場合, 灌漑田では収量の方法間差異は認められず, 天水田A型(最も干ばつ被害を受けやすい)並びにB型(比較的干ばつや洪水の被害が小さい)の両者を合わせた際の平均収量では明らかに直播栽培の収量が劣っていた.これは移植栽培よりも少ない一穂穎花数並びに面積当たり穎花数に起因していた.降雨の比較的多かった1995年には, 全体でも, また水条件別に見ても両方法間の収量差はなかった.直播栽培の収量は穎花数以外にもわら重や稈長との相関が強く, 補助的灌漑, 穂肥を中心とした肥料の投入, 早期播種, 直播向き適品種の選抜普及が収量向上に貢献すると考えられた.以上のことから多雨年や灌漑田では現在の直播栽培は省力的栽培方法として移植栽培に代替可能であると評価しうるものの, 天水田ではなお技術改良を要するといえる.