著者
加藤 眞義 菅野 仁
出版者
福島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、苧麻(ちょま)を素材とする織物生産の技術伝承に焦点をあわせ、同生産と後継者育成事業との現状について調査した。対象地は、福島県昭和村、沖縄県宮古島市、同石垣市、新潟県小千谷市、同塩沢町(現南魚沼市)である。1.昭和村においては、原麻生産地(新潟への供給地)としての伝統を地域活性化のシンボルとし、村外からの体験生・研修生を積極的に受け入れ、苧麻生産から織りまでの一貫した研修内容を準備している。体験生たちの参加動機には、狭義の技術習得を超えて、農山村生活への憧れ、現代的なライフスタイルの見直しといった要素が含まれている。当初、村民は外部からの来村者に対して違和感をもち、体験生たちは村の生活規範にとまどうこともみられたが、コミュニケーンの積み重ねによって、双方の受容過程が促進されたことがうかがえる。今後は生産物の販路確保、定住者の生活基盤の確保が課題となっている。2.「上布」生産の伝統をもつ宮古島市、石垣市、小千谷市、塩沢町においては、原則的に地元出身者優先で技術伝承研修が実施されている。これは人口上の過疎問題が昭和村と比して深刻化していないためであると考えられる。ただし、伝統技術の継承は、今日では高度にライフスタイルの選択としての側面をもつため、実際には外部からの意欲ある参加者も受け入れており、その参加動機は上述の昭和村の場合と重なっている。3.いずれの産地においても、糸積み工程の担い手不足が深刻な問題となっている。同工程を「隠れた前程」としたままにおくのではなく、生産工程全体を可視化することが課題となっている。4.宮古島市、石垣市、昭和村においては、かつて「伝統とは何か」についての若者層の問題提起が今日の伝統継承の重要なきっかけとなった。伝統の継承にたいしてこの「伝統定義」の検討・議論の与える力については、今後の研究課題となる。
著者
菅野 仁
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.26-40, 1990-06-30 (Released:2010-05-07)
参考文献数
37

本稿の課題は、「生」と「分業」という二つの概念の統一的把握を通して、G・ジンメルの「近代文化論」がもつ独自な意義を明らかにすることにある。これまでジンメルの近代文化論については、その中心的概念が「生」であるとし、その概念的、形而上学的性格を批判する見解や、「生」と「分業」との統一的把握のもとに近代文化の問題の核心に迫った意義深い文化論であると積極的評価を下す見解などがあった。本稿は基本的に後者の立場に依拠しており、ここではジンメルの近代文化論がどのような意味で積極的に評価しうるのかを、『貨幣の哲学』の近代文化論の検討を通じて明らかにしたいと考える。すなわちジンメルは、「生」と「分業」という二つの概念を主軸に近代文化がはらむ問題状況を、「主体の文化と客体の文化との齟齬的関係」としてとらえ直すことによって、ネガティヴな現象形態をとりつつ進展する近代文化の在り方のなかに「可能性」として蓄積されているポジティヴ性をみる、という複眼的視座からの近代文化論を展開したのである。本稿では、彼の近代文化論における「生」概念と「分業」概念との関係の在り方を明らかにすることを通して、近代文化をとらえるジンメルの複眼的視座がもつ独自な意義に迫りたい。
著者
菅野 仁
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.26-40,111*, 1990-06-30

本稿の課題は、「生」と「分業」という二つの概念の統一的把握を通して、G・ジンメルの「近代文化論」がもつ独自な意義を明らかにすることにある。<BR>これまでジンメルの近代文化論については、その中心的概念が「生」であるとし、その概念的、形而上学的性格を批判する見解や、「生」と「分業」との統一的把握のもとに近代文化の問題の核心に迫った意義深い文化論であると積極的評価を下す見解などがあった。本稿は基本的に後者の立場に依拠しており、ここではジンメルの近代文化論がどのような意味で積極的に評価しうるのかを、『貨幣の哲学』の近代文化論の検討を通じて明らかにしたいと考える。すなわちジンメルは、「生」と「分業」という二つの概念を主軸に近代文化がはらむ問題状況を、「主体の文化と客体の文化との齟齬的関係」としてとらえ直すことによって、ネガティヴな現象形態をとりつつ進展する近代文化の在り方のなかに「可能性」として蓄積されているポジティヴ性をみる、という複眼的視座からの近代文化論を展開したのである。本稿では、彼の近代文化論における「生」概念と「分業」概念との関係の在り方を明らかにすることを通して、近代文化をとらえるジンメルの複眼的視座がもつ独自な意義に迫りたい。
著者
中原 衣里菜 谷ヶ﨑 博 菅野 仁
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.67, no.6, pp.541-548, 2021-12-24 (Released:2022-01-07)
参考文献数
50
被引用文献数
2

発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH)は,二相性自己抗体(Donath-Landsteiner抗体:DL抗体)により血管内溶血をきたす自己免疫性溶血性貧血(AIHA)である.これまでにPCHの症例をまとめた総説は乏しく,今回2000年以降の本邦でのPCH報告例に自験例を加えた73例(成人例19例,小児例54例)について臨床像を総括した.既報通り冬季に発症し,先行感染が認められることが多かった.かつては梅毒に続発する例が多くみられたが,2000年以降は非梅毒性の報告のみであった.多くの例は保温で改善傾向となったが,Hb 5.0g/dlを下回る場合に輸血が行われることが多く,重症例ではステロイドを使用した例もみられた.PCHは進行が早いため,早期に診断し,寒冷暴露を避けることが重要である.寒冷暴露で誘発される溶血性貧血として,寒冷凝集素症(CAD)との鑑別を要する.PCHの診断に必要なDL試験は委託可能な外部検査機関がなく,疑った場合には保温に努め,院内輸血/検査部門で施行を検討する.経過は通常一過性であり,DL抗体陰性化を確認後には安全に寒冷暴露制限を解除できるものと考えられた.
著者
山田 修司 菅野 仁子 宮内 美樹
雑誌
研究報告数理モデル化と問題解決(MPS)
巻号頁・発行日
vol.2013-MPS-92, no.1, pp.1-5, 2013-02-20

重力のように単一方向の力ではなく,分子間力のような粒子間引力が働いている環境における球充填シミュレーションのための高速アルゴリズムを考案した。これにより,107 個を超す球の充填シミュレーションを,パーソナルコンピュータを用いて 30 分未満で行うことが可能となる。
著者
菅野 仁
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

先天性溶血性貧血(CHA)の病型診断は治療法の選択に重要である。本研究では原因不明のCHA50例の全エクソーム解析を実施し、新規病因遺伝子としてATP11Cを同定した。ATP11Cの単一塩基アミノ酸置換は赤血球膜脂質二重層を介したホスファチジルセリン(PS)の能動輸送障害を引き起こし、赤血球表面に露出したPSが貪食目印分子となり、血管外溶血の原因となる。脱水型遺伝性有口赤血球症(DHSt)の二例にPIEZO1遺伝子変異を同定した。DHStは術後重症血栓症を併発することから脾摘術が禁忌である。今後、PIEZO1異常症の遺伝子検査により、CHA症例の脾摘術適応を確実に診断することが可能になった。
著者
三好 直美 中村 真一 菅野 仁 齋藤 登 齋藤 洋 野村 馨
出版者
東京女子医科大学
雑誌
東京女子医科大学雑誌 (ISSN:00409022)
巻号頁・発行日
vol.83, no.6, pp.408-412, 2013-12-25

症例は66歳男性、倦怠感、色素沈着、爪甲分離などを主訴に当院総合診療科を受診。消化管内視鏡検査により上部、下部消化管にポリポーシスを認め、Cronkhite-Canada症候群(CCS)と診断した。受診時、Hb 15.6 g/dl、血清鉄248 μg/dl、総鉄結合能274 μg/dlであり、トランスフェリン鉄飽和率は90.5 %と高値を呈した。一方貯蔵鉄量を示す血清フェリチンは34 ng/mlと正常下限であった。CCSでは通常、鉄の吸収障害により血清鉄量、貯蔵鉄量は共に低値となりやすく、これらの結果は予期しないものであった。詳細な問診により患者は長期間に恵命我神散を服用し、そのほか鉄含有の多い食品を多量摂取していることが判明した。恵命我神散の成分にはウコンが含まれており、ウコンの成分であるクルクミンには鉄のキレート作用があることが報告されている。鉄分の過剰摂取および恵命我神散服用中止を指示し、10ヵ月後には貯蔵鉄、フェリチンともに減少を認めた。その後、CCSに対し、グルココルチコイド内服による治療を開始した。グルココルチコイド投与は患者の鉄分欠乏および他の症状を改善した。
著者
岡本 好雄 中橋 喜悦 千野 峰子 松田 和樹 久保田 友晶 岡田 真一 守屋 友美 及川 美幸 李 舞香 木下 明美 青木 正弘 高源 ゆみ 中林 恭子 今野 マユミ 槍澤 大樹 入部 雄司 小倉 浩美 菅野 仁 藤井 寿一
出版者
一般社団法人 日本輸血・細胞治療学会
雑誌
日本輸血細胞治療学会誌 (ISSN:18813011)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.470-475, 2013 (Released:2013-07-19)
参考文献数
6
被引用文献数
1 3

腹水濾過濃縮再静注法(CART:Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy)とは,腹水症(又は胸水症)患者の腹水(又は胸水)を採取し,濾過濃縮後に再静注する治療法で,我が国で開発されて以来,保険診療の中で30年以上広く実施されている. 当院におけるCARTは各診療科が必要時に臨床工学技士に処理を委託していたが,院内統一の依頼・供給手順や製剤が存在せず,医療安全の面で問題があった.複数患者のCART実施時における患者取り違いのリスクを回避するために,輸血・細胞プロセシング部で申し込みから腹水・胸水処理,供給に至るまでを一括管理することとなった.具体的には,既存の輸血システムを流用し,電子カルテからの申込みと製剤固有バーコードの発行,バーコードによる製剤と患者の照合作業までの安全な供給体制システムを構築した. 次に輸血用血液製剤同様の製剤の安全性に関する基準を作成するために,濃縮前後,および一定条件下での保存後の腹水の性状やエンドトキシン検査に関して検討を行った.濃縮後のアルブミン量は26.5±2.7gであり,回収率は66.8%であった.処理前のアルブミン量に関わらず一定の回収率が得られた.また処理前腹水の4℃一晩保存,あるいは-30℃14日保存においてもエンドトキシンは検出されなかった.今後,冷蔵保存後の処理あるいは冷凍保存分割投与によってCARTを必要とする多くの患者へ適応可能になると考えられる.