著者
葛谷 雅文 遠藤 英俊 梅垣 宏行 中尾 誠 丹羽 隆 熊谷 隆浩 牛田 洋一 鍋島 俊隆 下方 浩史 井口 昭久
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.363-370, 2000-05-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
18
被引用文献数
8 14

名古屋大学医学部附属病院老年科病棟と, 国立療養所中部病院高齢者包括医療病棟入院中の65歳以上の患者を対象に老年医学的総合評価 (ADL, Instrumental ADL, 認知機能, 情緒傾向, 社会的状態などを含む) と服薬コンプライアンス評価調査表を用い, 高齢者の服薬コンプライアンスに関与する因子を検討した. 2施設間の調査対象集団を比較すると, 中部病院で女性の割合が多く有意に高齢であった. さらに中部病院では Instrumental ADLが有意に低スコアーであった. 老年医学的総合評価項目と服薬コンプライアンス評価項目との検討では, 服薬管理者 (自己管理か非自己管理か) を規定している因子は主にADL, Instrumental ADL, 認知機能障害, うつ状態, コミュニケーション障害の有無であった. 服薬状況 (薬の飲みわすれ) は老年医学的総合評価項目のいずれにも有意な関係がなかったが, 用法の理解度, 薬効の理解度との関係は施設間で差を認めた. すなわち大学病院では服薬状況と用法, 薬効理解度との間に有意な関係を認めたが, 中部病院ではいずれも有意差を認めなかった. 服薬用法理解, 薬効理解度は Instrumental ADL, 認知機能, コミュニケーション能力, 集団行動能力と有意な関係にあった. 薬効理解度は教育歴とも有意な関係にあった. 2施設を比較すると多くの総合評価項目とコンプライアンスの関係は一致していた. 以上より, 高齢者の服薬コンプライアンスは患者の身体機能, 認知機能とは関係なく, 服薬用法, 薬効理解との関係が示唆された. このことは服薬指導の重要性が高齢者の服薬コンプライアンス向上に重要であることを再認識させる.
著者
秋下 雅弘 荒井 啓行 荒井 秀典 稲松 孝思 葛谷 雅文 鈴木 裕介 寺本 信嗣 水上 勝義 森本 茂人 鳥羽 研二
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.271-274, 2009 (Released:2009-06-10)
参考文献数
9

目的:日本老年医学会では,2005年に「高齢者に対して特に慎重な投与を要する薬物のリスト」を含む「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」を発表した.このような薬物有害反応(ADR)を減らす取り組みにはマスコミも関心を持ち,今般,同ガイドライン作成ワーキンググループとNHKは共同で,老年病専門医に対してADR経験と処方の実態を問うアンケート調査を行った.方法:2008年9月,学会ホームページに掲載された全ての老年病専門医(1,492名)の掲載住所宛にアンケートを郵送した.質問項目は,1)この1年間に経験した高齢者ADRの有無(他機関の処方含む),2)上記リスト薬からベンズアミド系抗精神病薬,ベンゾジアゼピン系睡眠薬,ジゴキシン(≥0.15 mg/日),ビタミンD(アルファカルシドール≥1.0 μg/日)および自由追加薬について,過去のADR経験頻度,3)ADR予防目的による薬剤の減量·中止の有無,4)課題と取り組みについての自由意見,とした.結果:回答数425件(29%).1)1年間のADR;72%.2)過去のADR;ベンズアミド79%(稀に54%,よく25%,以下同),ベンゾジアゼピン86%(62%,24%),ジゴキシン70%(61%,9%),ビタミンD 37%(33%,4%).自由回答では,非ステロイド性消炎鎮痛薬が最も多く,降圧薬,抗血小板薬,抗不整脈薬,血糖降下薬,抗うつ薬が次いだ.3)ADR予防目的の減量·中止93%.4)自由意見;ADRに関する医師·患者の啓発活動,老年病専門医の養成,多剤処方回避の指針作りやシステムの確立を挙げる意見が多かった.結語:老年病専門医はADRをよく経験する一方,多くは予防的対策を講じている.今回の意見を,新しい指針作りや啓発活動に生かすべきである.
著者
葛谷 雅文
出版者
The Japan Geriatrics Society
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.199-203, 2003-05-25
被引用文献数
13 11

高齢者は咀嚼力の低下, 嚥下障害などを伴いやすく, さらに食欲低下を起こすさまざまな原因により摂食障害また摂食量が低下し, 低栄養に陥りやすい. しかも医療者側に低栄養に関する認識が低く, 重要性の自覚がないため, 往々にしてその栄養障害を見逃し, 患者の予後に悪影響を及ぼしていることが少なくない. 実際, 寝たきり高齢者などでは, 入院中にもかかわらず, 身長, 体重が測定されていないことは決してめずらしいことではない. 低栄養の原因となる摂食障害の原因を明らかにし, それに対して適切に対処することが高齢者の予後に好影響もたらすことは明らかだが, それ以前に医療従事者が低栄養に気付くこと, また低栄養のリスクがあることを認識することがもっとも大切なことだと思う. また, もともと食欲低下がめずらしくない高齢者が食欲をそそられるような食事の提供にも今後病院側は注意をはらうことが必要であろう. さもなければ"starvation in the hospital"は今後も続くことになる.
著者
小池 晃彦 押田 芳治 葛谷 雅文 成 憲武
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

加齢による骨格筋減少のメカニズムとエイコサペンタエン酸(EPA)の筋減少抑制効果を検討するために、老化促進マウス(SAMP1)と対照マウス(SAMR1)を用いた。EPAによる骨格筋量の増加は、SAMR1でのみ見られた。しかし、SAMP1で筋力増加の傾向がみられた。また、EPA投与で、SAMR1のみ骨格筋蛋白合成シグナルの活性化がみられた。SAMP1では内在的なシグナル異常があった。代償性の筋肥大は、SAMP1でもSAMR1と同様にみられ、SAMP1の筋量減少は、筋肥大能とは関係なくおこると考えられた。以上よりEPAの投与は加齢時の筋量保持や筋力改善に有効な可能性が示された。