著者
藤井 賢一 大苗 敦
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.239-246, 2002-04-05
被引用文献数
2

基礎物理定数が1999年末に十数年ぶりに大幅改訂され公表された.実験と理論の進歩により多くの基礎物理定数が高精度化された.得られたデータの比較・検討から,我々は自然現象を理解するための手段として頼りにしているモデルの妥当性を検証することができる.最近では,より高精度化された基礎物理定数が,質量の単位キログラムの再定義を実現するための鍵として注目されている.本稿ではミクロな世界とマクロな世界を結びつけるアボガドロ定数と,ミクロな世界を記述するプランク定数の測定方法について紹介し,これらの定数を使ったキログラム再定義の実現可能性について述べる.
著者
藤井 賢一
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.61, no.10, pp.716-720, 2019 (Released:2020-04-02)
参考文献数
12

2018年11月にメートル条約にもとづいて開催された第26回国際度量衡総会において,国際単位系(SI)の定義を大幅に改定することが採択された。これによって,SIの根幹をなす7つのSI基本単位のうち,キログラム,アンペア,ケルビン,モルの定義が基礎物理定数にもとづく新しい定義へと移行した。特に,キログラムについては国際キログラム原器による定義が廃止され,130年ぶりにその定義が改定された。本稿ではプランク定数にもとづくキログラムの新しい定義の概要について解説し,定義改定の影響について述べる。
著者
藤井 賢一
出版者
公益社団法人 精密工学会
雑誌
精密工学会誌 (ISSN:09120289)
巻号頁・発行日
vol.80, no.7, pp.625-629, 2014-07-05 (Released:2014-07-05)
参考文献数
26
著者
臼田 孝 藤井 賢一 保坂 一元
出版者
公益社団法人 計測自動制御学会
雑誌
計測と制御 (ISSN:04534662)
巻号頁・発行日
vol.55, no.12, pp.1103-1108, 2016 (Released:2016-12-28)
参考文献数
21
被引用文献数
2
著者
藤井 賢一 大苗 敦
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.239-246, 2002-04-05 (Released:2011-02-09)
参考文献数
26
被引用文献数
3

基礎物理定数が1999年末に十数年ぶりに大幅改訂され公表された. 実験と理論の進歩により多くの基礎物理定数が高精度化された. 得られたデータの比較・検討から, 我々は自然現象を理解するための手段として頼りにしているモデルの妥当性を検証することができる. 最近では, より高精度化された基礎物理定数が, 質量の単位キログラムの再定義を実現するための鍵として注目されている. 本稿ではミクロな世界とマクロな世界を結びつけるアボガドロ定数と, ミクロな世界を記述するプランク定数の測定方法について紹介し, これらの定数を使ったキログラム再定義の実現可能性について述べる.
著者
藤井 賢一
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.69, no.9, pp.604-612, 2014-09-05 (Released:2019-08-22)
被引用文献数
4

質量の単位であるキログラム(kg)は,メートル条約に基づいて1889年に開催された第1回国際度量衡総会で定義された.このとき白金イリジウム合金製の国際メートル原器と国際キログラム原器がそれぞれ長さと質量の単位として承認されたが,長さは1960年に光の波長による定義へと移行し,国際メートル原器は不要となった.更に1983年に光速度を不確かさのない定数として定義することによって,光周波数の測定から誰もが長さの単位を実現することができるようになった.誰もが単位を実現することができるということは,特定の国や組織が所有する標準器への依存性から開放されるという点で,科学技術の進歩にとっては重要な要素である.しかし,キログラムだけは1889年以来,人工物によって定義される唯一のSI基本単位として残り現在に至っている.このため,質量を正しく測るためには国際キログラム原器への校正の連鎖が必要であるが,表面汚染の影響などにより,分銅の質量に頼る限りキログラムの安定性は50μg(相対的に5×10^<-8>)程度が限界であると考えられている.このような経緯から,2011年に開催された第24回国際度量衡総会ではプランク定数h,電荷素量e,ボルツマン定数k,アボガドロ定数N_Aを不確かさのない定数として定義し,キログラム,ケルビン,アンペア,モルの定義を将来,同時に改定することが決議された.これは,基礎物理定数を基準としてSI基本単位の定義を世界的な合意のもとで改定するという方針を示したものであり,歴史的にも極めて画期的である.キログラムの定義を改定するためには,国際キログラム原器の質量の長期安定性を超える精度でプランク定数を測定することが必要である.従来はワットバランス法と呼ばれる電気的な方法だけがこの精度を超えることに成功していた.プランク定数はアボガドロ定数からも精度よく導くことができるので,従来はX線結晶密度法と呼ばれる結晶を用いる方法でアボガドロ定数が測定されてきた.しかし,この測定には自然同位体比のシリコン結晶が用いられていたので,その同位体比の測定精度に限界があり,国際キログラム原器の質量安定性を超える精度でアボガドロ定数を測ることができなかった.この問題を解決するために,^<28>Siを遠心分離法によって99.99%まで濃縮し,その結晶の格子定数,密度,モル質量の測定からアボガドロ定数やプランク定数の精度を高めるための国際プロジェクトが実施され,ワットバランス法を超える3×10^<-8>の精度での測定結果が得られるようになった.本稿では,この精度向上をもたらした幾つかの実験技術を中心に紹介し,キログラムの定義改定をめぐる研究開発の動向について解説する.定義改定後は磁気定数や電気定数(真空の透磁率や誘電率),炭素^<12>Cのモル質量など,これまでは不確かさのない定数として扱われてきたものが,微細構造定数などの値に応じて変化する測定量(変数)になる.本稿では,国際単位系の定義改定が与える影響についても考察し,キログラムの定義改定がもたらす新たな可能性について述べる.
著者
藤井 賢一
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.74, no.10, pp.700-708, 2019-10-05 (Released:2020-03-10)
参考文献数
51
被引用文献数
1

信頼性の高い物理量の計測は科学技術発展の基礎である.その基準として用いられているのが国際単位系(SI)における7つのSI基本単位の定義である.それらのなかで,質量の単位であるキログラムだけは,1889年にメートル条約にもとづいて開催された第1回国際度量衡総会において国際キログラム原器によって定義されて以来,原器による定義が使われ続けてきた.例えば,長さの単位であるメートルは,1960年に国際メートル原器から光の波長による定義へ,さらに1983年に光の速さにもとづく定義へと移行した.これによって,光周波数の測定から長さの単位を実現することが可能になった.秒も以前は地球の自転周期や公転周期によって定義されていたが,1967年からはセシウム原子時計によって実現されるマイクロ波の周波数(約9.2 GHz)が秒の基準として用いられるようになり,さらに光周波数コムや光格子時計などによって光周波数領域(約500 THz)における新たな秒の定義に関する研究も行われている.電圧と電気抵抗についても1990年からはそれぞれジョセフソン効果と量子ホール効果にもとづく計測が実用化され,再現性の高い電気量の計測が可能になった.このように,科学技術の発展とともに多くの単位の定義は変遷を重ね,より普遍的で再現性の高い定義へと移行してきたが,キログラムだけは19世紀末に定義されて以来,人工物による定義が使われ続けてきた.しかし,表面汚染などの影響があるため,その安定性は50 µg(相対的に1億分の5)程度が限界である.このため,物理定数によってキログラムを定義するための研究が行われるようになり,21世紀に入ってからようやく原器の安定性を超える精度でプランク定数hを測定することが可能になった.このような経緯から,2018年11月にメートル条約にもとづいて開催された第26回国際度量衡総会において,キログラム,ケルビン,アンペア,モルの定義にそれぞれ不確かさのない定数として定義されたプランク定数h,電気素量e,ボルツマン定数k,アボガドロ定数NAを用いることが採択され,新しい定義が2019年5月20日の世界計量記念日から施行された.特にキログラムについては130年ぶりにその定義が改定され,歴史上初めて人工物に頼らない単位系が誕生した.これを可能にしたのがキッブルバランス法と呼ばれる電気的にhを測る方法と,X線結晶密度法と呼ばれる結晶中の原子の数を測ることによってNAを求める方法である.基礎物理定数の関係式を用いればhをNAからも高精度に導くことが可能であり,この2つの独立した測定原理から得られたプランク定数が高い精度で一致したことも,今回の定義改定を後押しした.科学技術データ委員会(CODATA)では,SI基本単位の定義改定のために2017年10月にh,e,k,NAについての特別調整を実施し,2017年7月1日までに受理された論文に報告されているデータの重み付け平均からこれらの基礎物理定数を決定した.特にプランク定数の決定においては,半数である4つのデータに産業技術総合研究所の計量標準総合センター(NMIJ)が貢献した.欧米以外の研究機関がSIの定義において決定的な役割を果たすのは歴史的にも今回が最初である.SIの新しい定義では,磁気定数μ0や炭素12Cのモル質量M(12C)などのように,これまで不確かさゼロの定数として扱われてきたものが不確かさをもつ変数に変わるものもあるが,多くの基礎物理定数の不確かさは小さくなる.SIの新しい定義では,hの不確かさがゼロになるので,原子や素粒子などの質量の不確かさも大幅に小さくなる.これまでは測定することが困難だった微小質量などをトレーサブルに計測することも可能になる.
著者
中山 貫 藤井 賢一
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.245-252, 1993-03-10 (Released:2009-02-05)
参考文献数
49
被引用文献数
8

単結晶の格子定数とアボガドロ定数は,密接な関係があることが,古くから知られている.現在,格子定数の絶対測定は,シリコンについてX線干渉計と光波干渉計を組み合わせた装置を用いて行われる.アボガドロ定数の決定には,格子定数のほかに結晶の密度とモル質量が必要である.ここでは筆者らが行っている格子定数と密度の測定の現状と, Seyfrledらによるアボガドロ定数の最新の決定 (1992) について,基礎的データの測定や基礎定数の決定の歴史などにも触れながら紹介する.
著者
倉本 直樹 大久保 章 藤井 賢一 水島 茂喜 稲場 肇 藤田 一慧
出版者
国立研究開発法人産業技術総合研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

近年、普遍的な基礎物理定数によって、キログラムを定義することが検討されている。これまでに我々は、シリコン単結晶の密度などからアボガドロ定数を高精度に測定し、定義改定実現のための研究を進めてきている。アボガドロ定数測定の高精度化には、密度測定に必要なシリコン単結晶球体体積測定の高精度化が支配的な役割を果たす。本研究ではキログラムの基礎物理定数による定義実現のため、次の研究開発を行う。1) 質量1 kgのシリコン単結晶球体の直径を、ほぼ原子間距離に等しい0.3 nmの精度で測定する青色半導体レーザー干渉計を開発し、球体体積を1.0E-8の精度で決定する。2) 28Si同位体濃縮シリコン結晶を用い、アボガドロ定数を世界最高精度(1.4E-8)で決定する。この目標を達成するために、以下の項目を平成29年度に実施した。1)Si球体直径測定用青色半導体レーザー干渉計開発:426 nm付近で光周波数チューニングが可能なシステムを構築した。光周波数の基準には長さの国家計量標準である「光コム」を用い、モードホップのない20 GHzの範囲にわたる光周波数掃引を可能とした。2)28Si単結晶球体を用いたアボガドロ定数測定:28Si単結晶球体の直径測定、質量測定、表面分析を実施し、アボガドロ定数を世界最高精度(1.2E-8)で決定した。新たなキログラムの定義は、原子の質量と密接に関連するプランク定数となる予定である。科学技術データ委員会(CODATA)は、2017年10月に新たなキログラムの基準となるプランク定数の値を決定した。この値の決定に、本研究で決定したアボガドロ定数から導出したプランク定数も採用されている。これは、1889年に国際キログラム原器によって質量の単位が定義されて以来、130年ぶりとなる定義改定に大きく貢献する歴史的な成果である。
著者
藤井 賢一
出版者
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
雑誌
Synthesiology (ISSN:18826229)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.201-211, 2008 (Released:2009-01-16)
参考文献数
39
被引用文献数
1 1

物質の密度、あるいは、体積や内容積、濃度といった物理量を計測するための基準として従来は水が広く用いられていた。密度だけではなく比熱や表面張力など他の物性の基準としても水が用いられることが多い。しかし、水の密度はその同位体組成に依存して変化したり、溶解ガスの影響を受けるため、1970年代からはシリコン単結晶など密度の安定な固体材料を基準として密度を計測することが検討されるようになり、特に最近では計測のトレーサビリティを確保し、製品の信頼性を向上させるために、より高精度な密度計測技術が産業界からも求められるようになってきた。このような背景から産総研では密度標準物質としてシリコン単結晶を用い、従来よりも高精度な密度標準体系を整備した。密度の基準を液体から固体にシフトすることは、単なる精度向上にとどまらず、薄膜のための新たな材料評価技術や次世代の計量標準技術の開発を促すものである。