著者
利島 保 樋口 聡 鳥光 美緒子 坂越 正樹 藤川 信夫 小笠原 道雄
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

ポスト・モダン的状況下における教育科学の課題に関して日独協力研究を実施した結果、下記の諸点について新たな知見が得られた。美学、身体性の観点から:「ミーメーシス」は美学の特殊な術語として理解されてきたが、「模倣」「倣う」「写す」という日本語の意味の広がりにおいて捉えるとき、ゲバウア、ヴルフ等のドイツにおける研究と連関させられる。模倣の身体性、芸術制作の創造性とともに日本の伝統的な学びのスタイルが模倣と習熟にあったことが学びの復権として改めて注目されるべきである。環境問題の視点から:環境は今や教育の一対象領域にとどまらず、今日の教育を再構築する根底的視点となっている。ドイツにおいても「持続可能な発展」のキーワードのもと、多様な文化的能力、課題発見・解決能力の形成がめざされており、日本での「生きる力」「新学力」との共通教育課題が確認された。研究の全体を通して以下のことが指摘される。教育学のポストモダン体験以降、理論レベルでは人間形成に関する理解の流動化が認められた。実践レベルでも「教育の実定性」への懐疑から、近代学校教育の周縁部で新たな人間形成理解が胚胎しつつあった。近代の理性に基づいた知から感性、身体性に基づいた教育の知への転換は、閉塞状態にある今日の教育と教育学の枠組みを組み換え、新たに展開する可能性を示唆している。その契機となるものが、芸術や環境との身体を伴った相互体験、プログラム化されない他者との一回的出会い等であることも明らかにされた。
著者
藤川 信夫 Fujikawa Nobuo フジカワ ノブオ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科教育学系
雑誌
大阪大学教育学年報 (ISSN:13419595)
巻号頁・発行日
no.16, pp.3-15, 2011-03-31

2008年に出版された論文集『教育学における優生思想の展開』は、19世紀末にイギリスで生まれた優生学が、今日に至るまで教育(学)に対していかなる影響を及ぼしたのかを多様な観点から解明しようとする試みである。しかし、その多様性を総括するような論文は、この論文集には収められていない。本論文では、この論文集の著者の一人であり編者でもある筆者の立場から改めて論文集の全体像を提示するとともに、論文集の著者たちの歴史的立ち位置についても(自己)反省を試みることにする。
著者
藤川 信夫
出版者
教育哲学会
雑誌
教育哲学研究 (ISSN:03873153)
巻号頁・発行日
vol.1989, no.59, pp.74-87, 1989-05-10 (Released:2010-01-22)
参考文献数
42

Ever since the beginnings of modern education, the problem of integrating general education and vocational education has been called an aporia. This paper examines Blankertz's concept of general education which is looked upon as the most recent attempt within the discussions carried on continuously in Germany since the beginning of this century in an attempt to solve the problem. On the one hand, like earlier representatives of the integration theory, he tries to overcome the one-sidedness of the 'special education formation process' which constitutes the unifying point of both general and vocational education, by placing it into a general context including this science; on the other hand, he realizes the necessity of critical self-examination on the part of the pupil himself concerning the vocation related to this formation process and the necessity to take into account the individual character of the pupil choosing that particular vocation. That constitutes the characteristic point in Blankertz's theory.
著者
藤川 信夫
出版者
教育思想史学会
雑誌
近代教育フォーラム (ISSN:09196560)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.161-170, 2012-10-13 (Released:2017-08-10)

シンポジウム「共同性/協働性/協同性」における山名淳氏、生澤繁樹氏、小国喜弘氏による報告、いずれも興味深いものであったとはいえ、それぞれかなり内容の詰まった発表であり、少なくとも論者にとっては、限られたシンポジウムの時間内で消化することができなかった。そこで、以下では、筆者自身の学習の意味も込めて、まず第1章で生澤氏と小国氏の報告論文の内容を簡潔に整理して相互に関連づけることにする。さらに第2章では論者自身のアジール論を展開し、その上で第3章において、3名の報告者の報告論文を対比しつつ、自己反省を兼ねて、アジール論の問題点を指摘してみたいと思う。
著者
藤川 信夫
出版者
一般社団法人日本教育学会
雑誌
教育學研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.78, no.4, pp.348-360, 2011-12-29

我々の共同研究チーム「教育と福祉のドラマトゥルギー」は、教育と福祉、理論と実践の垣根を越え、ドラマトゥルギーという「入会地」において討議を行い、自らの理論や実践の批判と改善を行うことを目的として過去一年間にわたり共同研究を続けてきた。本論文では、この研究チームによるこれまでの文献研究と予備的フィールド調査を踏まえ、教育や福祉の領域における日常的相互行為を研究するための暫定的な観点を提示する。