著者
植田 和弘 森 晶寿 高田 光雄 浅野 耕太 諸富 徹 足立 幸男 新澤 秀則 室田 武 新澤 秀則 足立 幸男
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

本研究領域は、持続可能な発展論と環境ガバナンス論を重層性に着目して統合的に再構成し、持続可能な社会を実現するための理論的基礎と実践的指針を確立するという極めて実践的な問題意識を持ってすすめた。個々の研究成果を理論的・実現的に蓄積させ有機的に結合することにより、従来にない先導的で基盤的な意義を有する研究成果としてまとめた。さらに、これまでに得られた学術的研究成果を基に、最終報告書として5巻にのぼる英文学術書を取りまとめた。そのうち2巻については出版し、残り3巻についても編集作業がほぼ完了した。留意した点はいかのとおりである。昨年度までに国内外で開催された国際会議や学会において研究成果を公表してきたが、そこで得られたコメント等は本領域研究の問題意識と方法等に対しておおむね好意的であった。さらに、本領域の学術的価値を適切に評価し、国際的な評価を受けるべく適宜アドバイスを求めてきた国内外の有力研究者からの指摘は本領域研究のオリジナリティに関して高い評価を得ており、その核心部分と改善に向けての示唆を最終報告書である英文学術書5巻に反映させた。国際学術誌や国内学会誌に掲載された研究成果も多数にのぼるが、それらのエッセンスに加えて中間報告書に対する論評も考慮して、本領域研究の成果を総体として持続可能な発展の重層的環境ガバナンスに関する理論的実証的体系としてまとめた。そして、その成果を国際的に発信すべく英文で出版した。また、領域研究全体としての成果を、速やかに社会に提供できる環境を構築するべく、インターネット・ウェブ・ページを開設し、外部から自由にアクセスできるようにした。これにより、国内外を問わず、この領域に関心を示す研究者とコミュニケーションに基づく批判的吟味を受け討議を行うことが可能となった。
著者
李 秀澈 何 彦旻 昔 宣希 諸富 徹 平田 仁子 Unnada Chewpreecha
出版者
環境経済・政策学会
雑誌
環境経済・政策研究 (ISSN:18823742)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.1-12, 2021-09-26 (Released:2021-11-02)
参考文献数
22

本稿では,「発電部門の石炭火力・原発の早期フェーズアウトは,日本経済と電源構成,そして二酸化炭素排出にどのような影響を与えるのか」という「問い」に対して,E3MEモデルを用いて定量的な回答を求めた.フェーズアウトシナリオとして,原発の場合,稼働年数40年に到達した古い原発からフェーズアウトし,石炭火力は発電効率の低い順から2030年または2040年までにフェーズアウトする2つのシナリオを設定した.そしてこのフェーズアウトシナリオが実現されたときに,2050年までの日本経済(GDP,雇用など),電源構成,発電部門二酸化炭素排出に与える影響について,E3MEモデルを用いて推定を行った.分析の結果,いずれのシナリオでも経済と雇用に悪い影響は殆ど与えないことが確認された.その要因として,再生可能エネルギー発電のコストが持続的に下落し,それが既存の石炭火力と原発を代替しても,経済への負担にはならないという事情が挙げられる.ただし,原発と石炭火力の代替電源としてLNG発電の割合が再生可能エネルギー発電の割合を大きく上回ることになり,発電部門における2050年の二酸化炭素排出量は,50%ほどの削減(2017年対比)に留まることも明らかになった.そこで本稿では,発電部門の脱炭素化のためには,規制的手法だけでなく,カーボンプライシングなど経済的措置の導入も必要であることが示唆された.
著者
諸富 徹
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.249-264, 2006 (Released:2022-07-15)
参考文献数
28

租税は,財源調達手段であると同時に,政策上の目的を実現するための政策手段としての側面を持っている。本稿は,法人課税の政策手段としての側面を分析の対象とし,その意義と限界を明らかにする。その素材として1930年代にルーズヴェルト政権が導入した「留保利潤税」を取り上げる。留保利潤税は当時,一方で産業の競争条件を均等化させるための規制手段として捉えられ,他方で配当支払いの促進を通じて,経済安定化に寄与する政策手段として捉えられていた。留保利潤税は,価格メカニズムを利用することで配当支払いを促進した反面,外部資金調達コストの高さに直面する中規模企業に重い税負担をかけ,この点では政策意図と矛盾する結果を生んでしまった。にもかかわらず,現代政策課税のあり方を構想する上では,留保利潤税の教訓から政策課税の現代的意義を引き出しておくことは重要だと考えられる。
著者
中山 琢夫 ラウパッハ・スミヤ ヨーク 諸富 徹 Raupach Sumiya Jorg 諸富 徹 Morotomi Toru
出版者
法政大学サステイナビリティ研究所
雑誌
サステイナビリティ研究 (ISSN:2185260X)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.101-115, 2016-03

再生可能エネルギーを中心とした「エネルギー自治」の取り組みは、環境的な側面だけでなく、地域経済の強靱化への取り組みである。ドイツにおいて、エネルギー・ヴェンデを推進しようとしている自治体では、連邦政府を上回るレベルで気候変動対策目標を掲げると同時に、地域経済効果を狙っている。ベルリンにあるエコロジー経済研究所は、バリュー・チェーン分析を用いて、地域付加価値を精密に計るモデルを開発した。本稿では、このバリュー・チェーン分析を日本版にアレンジし、この分析モデルの特性を、実際のプロジェクトのケーススタディを通して検証した。さらに、「エネルギー自治」の先駆者である長野県飯田市における再生可能エネルギー事業に適用することで、2030年に向けた地域付加価値創造額のシミュレーションを行った。こうした事業は、投資段階よりも事業運営段階の方が、多くの付加価値を生み出す。そのうち、もっとも大きな部分は、事業者の税引き後利潤である。つまり、事業者が地域内になければ、得られた付加価値は地域外に流出する。地元からの出資比率を高め、地域がオーナーシップを持つことが、持続可能な地域の発展の鍵となる。このような地域経済の定量評価ツールは、自治体レベルでのエネルギーや気候変動に関する政策の策定に役に立つ。地域のステークホルダー間のコミュニケーションをサポートし、合意形成を容易にすることができる。Municipalities and regional communities are embracing renewable energy not only for environmental, but also for economic reasons aiming for the revitalization and development of local economies. For example, municipalities are a main driver of the German energy transition to renewables ("Energiewende"), are adopting emission reduction targets above federal standards, and are aiming for regional economic effects. The Institute for Ecological Economy Research in Berlin has developed a local value added calculation model for Germany by using value chain analysis. In this paper, we first explain how we adopted this value chain approach to Japan. Secondly, we demonstrate how this Japanese model has been verified through actual projects case studies. Thirdly, we apply this model to the renewable energy project in Iida city, Nagano prefecture that is a pioneer of "Local Energy Governance" and provide a forecast for the effects until 2030. It is shown that renewable energy projects yield a higher value added in the operating stage than in the investment stage. The largest part of value added is after-tax profits of participating enterprises. If the enterprise is not located in the municipality, value added will be generated outside the region. Local ownership through an increase of the local investment ratio is, therefore, the most important factor for regional value added creation and regional sustainable development. Our research proofs that this model is robust and delivers convincing results. It is a useful tool to support the development of energy and climate policies at municipality and prefecture level, and to support the communication with stakeholders and to build local consensus.
著者
諸富 徹
出版者
京都大學經濟學會
雑誌
經濟論叢 (ISSN:00130273)
巻号頁・発行日
vol.157, no.5-6, pp.16-34, 1996-05