- 著者
-
辰己 佳寿子
- 出版者
- 地域漁業学会
- 雑誌
- 地域漁業研究 (ISSN:13427857)
- 巻号頁・発行日
- vol.56, no.3, pp.85-103, 2016-06-01 (Released:2020-06-26)
- 参考文献数
- 28
本稿は,持続的な農山漁村の発展のあり方を検討するために,山口県の定置網漁業を生業とする漁村集落が新しい挑戦するまでの過程を分析した。事例集落の大敷網組合は,2004年に台風の影響で一時期活動を停止したが,2006年に定置網組合として再出発し,再開に取組むなかで組合活動を活発化し,Iターン者を受け入れる下地をつくってきた。新鮮な魚介類が道の駅の人気商品となり,集落外の地域の活性化にも貢献するようになったこともあり,2015年に法人化し,2016年には改革事業計画に乗り出した。これらの一連の取組は,地域の消滅や地方創生が話題になるなか,一時的に背伸びしてがんばるよりも,個々人が自身の領分で役を担いながら日々の暮らしを営むなかで,ある選択に辿り着いた過程であった。すなわち,「村張り」的な要素と地域の主体性を強く維持しながらも,外部との連携をもった機能組織として,生業を軸とした目的指向的な戦略をとることであり,これがコミュニティのエンパワーメントをもたらしたのである。