著者
小川 勤
出版者
山口大学大学教育機構
雑誌
大学教育 (ISSN:13494163)
巻号頁・発行日
no.15, pp.25-35, 2018-03

本論文は,発達障害学生がその障害特性ゆえに,他の障害者に比べて就職が難しい現状に着目し,大学から社会への移行をスムーズに行うために,従来の対処療法的な支援にプラスした支援をどのように行っていくのかについて山口大学における実践を踏まえて論じたものである。発達障害学生の移行支援については,本人の自己理解力を高めるとともに,仕事理解力を高める必要がある。自己理解力を高めるためには発達障害学生本人が自分の障害を受容し,自分でできる対処や支援方法を理解するとともに,他の支援者に適切に配慮を要請するスキル,すなわち,「セルフ・アドボカシー・スキル(自己権利擁護力,以下,SAS)」を身に付ける必要がある。また,仕事理解では単に職種・仕事内容を理解するだけではなく,本人の障害状況とのマッチングを意識した支援を行う必要がある。さらに,本論文では,学内支援組織や学外の就労支援機関と連携・協力を行いながらどのようにSASを育成していくのかについて,山口大学における実践事例を交えて解説する。また,学外の就労支援機関と連携していく際に留意するべきことを明らかにする。
著者
飯吉 弘子
出版者
大阪市立大学大学教育研究センター
雑誌
大学教育 (ISSN:13492152)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.1-11, 2019-10

本稿では、日本経団連の、主に2000年代後半以降2011年までの、大学卒・大学院修了の企業内高度ICT人材に対する(1)要求内容と(2)高度ICT人材という文脈からの要求が2011年の提言以降見られなくなった理由および、(3)高度ICT人材へと将来成長し活躍できる人材に向けた大学(院)での産学連携での実践や教育要求を確認するとともに、(4)今後の大学(院)教育のあり方を考察した。(1)日本経団連は、2011年の提言で、高度ICT人材を2類型(ICTゼネラリストとICTスペシャリスト)に分けて論じ、それまでに比してより幅広く明確に具体的に、求める人材像や能力・スキルを示すようになった。とくにゼネラリストには、ICT分野に限らない幅広い業種・分野でICTのスキル・知識を用いつつ、より高次の能力・資質・視野等を備え、課題を解決していくことが求められている。(2)なお、2011年の提言以降高度ICT人材に特化した要求は行われていないが、これは、産業界の要求が、ICTゼネラリストの議論や「グローバル・クリエイティブリーダー」育成プログラムへの期待に見られるような、2010年代後半以降活発化するSociety5.0に向けた議論等へと発展・変質していったためと考えられる。(3)一方、人材育成実践においては、大学院修士課程では、2000年代後半以降現在に至るまで産学連携で高度ICT人材育プログラムが展開されている。大学(院)新卒者へは、ICT分野の基礎知識・理解等の他に、幅広い分野の基礎知識や、汎用性のあるより高次の能力・スキル等の基礎を獲得させるための、産学連携による実践的教育の実施拡大とともに、他大学学生や社会人の受入れ等も提案されていた。 (4)高度ICT人材や今後の知識基盤社会や第4次産業革命時代に活躍出来る人間育成のためには、大学の本来的教育目標・学修成果達成の重要性の再認識と、多様な他者が多様な学問・視野・文脈を持ち寄り学び合う「学びの協働体」としての大学(教養)教育の場の可能性があると考えられる。
著者
長畑 実
出版者
山口大学大学教育機構
雑誌
大学教育 (ISSN:13494163)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.79-94, 2013-03

大学における博物館学芸員養成課程の改編により,必須科目「博物館教育論」が新設されるなど博物館の教育活動への関心が高まっている。また,学習指導要領の改訂により各学校段階において博物館等と積極的に連携,協力,活用を図ることがさらに強調される等,学校教育における博物館利用が注目されている。しかし,学校による博物館の教育的利用は進んでいないのが実態である。その要因には,博物館への距離や活用時間の確保、博物館側の受入体制等の問題もあるが,教員の博物館活用の意義や活用方法の理解が進んでいないことが大きな課題であると考えられる。本研究では,筆者が教員免許状更新講習の選択科目として実施した「ミュージアム・リテラシー」の講義実践を踏まえ,ミュージアム・リテラシー教育に関する理論構築を考察した。
著者
田 梅
出版者
山口大学大学教育機構
雑誌
大学教育 (ISSN:13494163)
巻号頁・発行日
no.9, pp.65-78, 2012-03

流行語は社会の意識を反映し、価値観の変化を伝え、世相を生き生きと映した言葉であると思う。広辞苑には「流行語はある期間、興味を持たれて多くの人に盛んに使用される語」と記されている。近年、中国では人生の大きなイベントである結婚、結婚式などについての流行語が多種多彩である。その中で、「…婚族」という流行語も生まれた。2010年日中韓三大学交流のディベートテーマは「私の結婚観」である。三カ国・15名の在学生が、結婚に対する自分の考えと将来の理想像について討論した。本稿は、日中韓各大学に在学中の15名の学生の結婚観を参考しながら、現在、中国で結婚に関する流行語となっている「…婚族」を分析して、中国での結婚の現実について述べた。
著者
西垣 順子
出版者
大阪市立大学大学教育研究センター
雑誌
大学教育 (ISSN:13492152)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.10-14, 2017-10

2017年1月に開催されたAAC&Uの年次大会で展示・配布されていた4つの資料をもとに、AAC&Uの活動のキーワードとして浮上していると「公正」について、その意味と注目されるに至る背景を調査した。LEAPプロジェクトが遂行される中で、「インクルーシブな卓越性」の実現が課題となった。人種や家庭の所得格差によって、大学教育の学修成果の達成に困難をきたす学生がいることが明らかになってきた。このような不均衡は、学生個人の責任に帰すことはできないものであるとの認識から、キャンパスをすべての学生が公正な条件で学ぶことができるようにし、本当の意味での教育機会の均等を実現するためのガイドラインの提案が行われている。
著者
阿濱 志保里 平尾 元彦 吉村 誠
出版者
山口大学大学教育機構
雑誌
大学教育 (ISSN:13494163)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.30-35, 2012-03

本報告では4大学間教育・研究交流連絡協議会主催の4大学間(島根大学・山口大学・高知大学・愛媛大学)共同事業「学生リーダーズ・サマースクール」の実施報告を行う。また、事業終了後,サマースクール参加者によって山口大学で実践・実施された「新・山口明倫館~山口大学版リーダーズ・サマースクール~」の実践報告を行う。
著者
杉原 道子 内山 浩道 家根橋 伸子 石口 智堂 徳永 慎太郎
出版者
山口大学大学教育機構
雑誌
大学教育 (ISSN:13494163)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.65-77, 2011-03

山口大学が開催した日本語・日本文化サマープログラムに参加した44名の受講生は日本語学習と日本文化体験を連動させたプログラムによって飛躍的にコミュニケーション能力を向上させることができた。猛暑の中、厳しい研修内容にも関わらず、受講生の多くは将来日本と関係のある仕事がしたいという強い目的意識を持っていたため、意欲的に勉学に励んだものと思われる。研修後、山口大学のシラバスが評価され、受講生のいくつかの在籍大学において単位が認定された。各国の大学においてシラバス内容を検討し、1か月というような短い期間であっても相互に単位認定を行うことによって、受講生のモティベーションを高め、相互交流が活発に行われるものと思われる。
著者
小川 勤
出版者
山口大学大学教育機構
雑誌
大学教育 (ISSN:13494163)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.1-9, 2017-03

本論文ではALは何のために導入するのかをテーマにALの本質に迫る。アクティブ・ラーニング(Active Learning:以下,AL)は今や大学教育では一般化しているが,ALには「イベント(形式知)的なAL」と批判的思考力や物事に対する多面的な見方を育成する,「深い学び(または,社会につながる学び)に結び付くAL」とがあることを明らかにする。また,深い学びや社会につながるALとなるためには協調学習等のAL的な手法を用いただけでは授業の満足度や理解度は上昇しないことを授業アンケートの結果等から明らかにする。さらに,ALの手法を利用する際の重要な観点は,ある時点の学習が「今できること」でなく,「将来の学習をどのように準備するのか」という観点が重要なこと。また,発見学習や協調学習などの形式知であるAL手法に講義という教員の経験知を必要なタイミングでブレンドすることにより,その場のリソースを使える力や自ら学習する力等を強化することができることを明らかにする。また,AL授業の増加に伴う発達障害学生への支援の必要性について論じる。
著者
赤木 彌生 今井 新悟
出版者
山口大学大学教育機構
雑誌
大学教育 (ISSN:13494163)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.46-52, 2011-03
被引用文献数
1

J-CAT 日本語テストは、インターネットで世界中だれでもどこからでもいつでも受験できる日本語テストであることから、渡日前受験として世界規模で利用されつつある。しかし、受験者の中には、まだインターネットでのテストに不慣れな受験者もいることから、J-CATを体験できるJ-CATmini日本語テストをネット体験版としてアップロードし、いつでも体験できるツールにした。この体験版を活用することによって、受験者のコンピュータ受験に対する不安も解消することができ、J-CAT 日本語テストがより受験しやすくなったと考える。
著者
椙村 知美 林 伸一
出版者
山口大学大学教育機構
雑誌
大学教育 (ISSN:13494163)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.127-142, 2009

かつて1970年前後の全共闘運動の中からは「連帯を求めて孤立を恐れず」という言葉が出てきたが、現代の大学生を見ていると「連帯を求めず孤立を恐れる」学生が多いように思われる。1983年に任天堂からファミコンが発売され、現代の大学生は生まれた時からゲームやビデオなどで一人ででも楽しく遊べる環境の中で育ってきている。最近は、インターネットや携帯電話の急速な普及で、言語や友人環境にも影響を及ぼしている。「仲間外れ」を表わす言葉として「ハミ」類、「ハブ」類、「ハネ」類がどのような地域で使用されているかを調査した。その量的なデータに関連して、大学生をとりまく日本社会はどのような言語環境・人間環境となっているかを考察した。