著者
木本 浩一 アルン ダス 辰己 佳寿子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2011年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.170, 2011 (Released:2011-05-24)

1.はじめに インド環境森林省は、2010年8月31日、ゾウの保護に関する包括的な報告書Gajah-Securing the Future for Elephants in Indiaを発表した。この報告書は、ゾウに「国家遺産動物 National heritage animal」としての地位を与えるもので、国際地理学連合(IGU)でも最新ニュースとして取り上げられた(2010年11月7日、HPにアップ)。 インドにおける森林経営が大きな転機を迎えたのは、1990年代のことであった(木本:2008)。いわゆる住民参加型森林経営の一種として導入された「共同森林経営Joint Forest Management (JFM)」は、本格導入から10年を迎えようとしている地域が多く、ようやく実際に住民と森林局とがどのように利益配分を行うのかといった「成果」についての議論や活動が始まろうとしている。 現在、インドの森林地域では、以上の他に、都市化や農民のよる入植、ホットスポットの指定など、さまざまな事象がみられる。ただし、ここで注意しなければならないことは、個々のイシューや事象を「地域」という枠組みでみていかない限り、その評価が難しいということである。つまり、先に触れたゾウ問題は、森林をゾウに特化・純化した地域として認定してしまうために、そのことに付随する多くの問題を現象させてきた。また、各種の線引きが為される中で、そもそも森林とは何か、という基本的な問題が喫緊の課題として噴出してくることになった。 2.研究の目的と方法 以上を踏まえ、本報告では、植民地化や独立後の工業政策のもとで実施された森林伐採とは異なる、農民による森林開発の実際について、カルナータカ州マイソール県フンスール郡周辺地域を対象として、検討したい。 農民の入植、開発には2つのタイプがあり、まず遠方から富裕な農民が入植する場合と、次に周辺的な貧しい農民が開拓する場合とにわけられる。
著者
氷見山 幸夫 春山 成子 土居 晴洋 木本 浩一 元木 靖 季 増民 季 増民
出版者
北海道教育大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2009-05-11

アジアにおける持続可能な土地利用の形成に向け、日本、中国、インド、極東ロシア、フィリピン、タイ、インドネシア、ミャンマーで広域の土地利用変化データファイル(オリジナル電子地図、多数の現地写真等)を作成し、土地利用の現況と変化及び関連する諸問題を明らかにした。その成果はSLUAS英文成果報告他多くの雑誌・文献等で公刊した。また国際地理学連合、日本学術会議、日本地球惑星科学連合などと連携してアジア各地と国内で多くのシンポジウム等を主催・共催・後援し、研究成果を発信し、持続可能な土地利用に関する理解の向上に貢献した。東日本大震災発災後は土地利用持続可能性の観点から深く関わり、学術会議提言に寄与した。
著者
木本 浩一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理要旨集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.100043, 2011

中国に次ぐ経済発展によって注目されるインドではあるが、ホットスポットや生物多様性など環境面での懸念や、人口圧力や人権、地域間格差など多くの複雑に絡み合う構造的な諸問題を抱えていることは言うまでもない。 これら諸問題を検討する際に、個々の諸問題や要因を単に「その関連においてみる」ということではなく、それらを「地域的文脈においてみる」ということの重要性を強調したい。例えば、近年注目されつつある経済特区(SEZ)の場合でもその経済効果や影響という側面のみならず、多層的な地域的文脈のなかに位置づけて検討することが可能である。ここで言う「地域的文脈」とは、多様なスケールによって構成されるという(客観的な)側面と、「行為者にとっての地域」が(主観的に)構成されるという側面、という両面によってなる方法的枠組みのことである。その際、抽象的に構成される(と考えられる)「地域的文脈」が具体的「地域」に投錨する形で具体的な土地に関するコンフリクトが生じる。 以上を踏まえ、本研究では、インドにおける土地利用をめぐる正当性と合法性の相克について、いくつかの事例を取り上げながら検討してみたい。 もちろん、正当性の根拠としての合法性という観点からすれば、「相克」は次元を無視した問題設定であるかもしれないが、法的根拠に基づいた各アクターの行為が地域的文脈のなかで衝突しているという現実からすれば、合法性によらない秩序はいかにして可能かという課題に直面することになる。このことは同時に、「方法としての土地利用」という観点の可能性を示唆することにもなる。 本研究で取り上げる事例は、以下のとおりである。1)高規格高速道路建設の事例(図1)、2)都市郊外における反都市化の事例、3)「違法」建築物撤去問題、4)指定部族(ST)に対する再定住集落に関わる問題、などである。いずれもカルナータカ州(南インド)南部の事例である。
著者
土居 晴洋 山崎 健 香川 貴志 木本 浩一
出版者
大分大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究は,現代中国において改革開放政策導入以後,急速に展開されている住宅改革の実態と都市地域構造の変化における意味を明らかにすることを目的としていた。本研究の具体的な研究テーマは,中国における住宅改革の特質を明らかにすること,中国国内における都市の住宅の市場化の地域的特質を明らかにすること,北京と上海における住宅開発のタイプとその開発の地域的特質を明らかにすること,住宅建材を含めた中国独特の住宅供給構造を明らかにすることの4点である。これらのテーマに関して,代表者と各研究分担者は海外共同研究者の協力を得て,中国現地において不動産企業や行政機関などへの聞き取り調査や統計・文献資料の収集と整理を行った。土居は住宅改革およびその市場化に関して,文献・統計資料を用いて全国的な動向を把握して北京市と上海市の全国的な位置づけを確認するとともに,北京市における不動産企業への聞き取り調査を進めて,住宅開発が行われるメカニズムを明らかにした。山崎は北京市における住宅開発の地域的動向を統計資料と開き取り調査によって明らかにし,住宅開発が北京市の都市地域構造の変化に持つ意味について考察した。香川は上海市における住宅開発の地域的動向を分析するとともに,インターネットを通じた住宅物件情報の整備状況を調査した。木本は建設業者や内装設備等の関連業者への聞き取り調査を進め,日本とは異なる中国独自の住宅開発プロセスおよび住宅産業の特質を明らかにした。なお,香川と木本は共同で北京市,上海市において,住宅入居者に対するアンケート調査を用い,住宅購入の動機や住宅選択の要因などを考察した。以上の研究成果を通じて,経済成長が急速に進む中国の大都市において,居住環境の改善を求めて住宅を購入する市民,中国独自の土地・住宅制度のもとで住宅開発を行う住宅開発企業,さらに社会主義的特質の維持にも努力する政府・行政機関それぞれの特質と3者の相互関係が明らかになるとともに,このような住宅市場の形成によって都市地域構造が急速に変容していることが確認された。