著者
宇野 雄博 湯本 哲夫 片桐 麻紀子 金刺 祐一朗 藤田 桂一 山村 穂積 佐藤 常男 酒井 健夫
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.401-404, 2005-06-20 (Released:2011-06-17)
参考文献数
13

市販フードを主食とする平均年齢10.5カ月齢 (6カ月~1歳4カ月齢) の猫4例に, 黄色脂肪症を認めたので, 給与食餌との関連について検討した.発症猫2例に給与されていた2種類の市販フードの分析では, 推奨量のビタミンEが含有されていたが, 療法食メーカーの成猫用フードに比べて, リノール酸の含有率が低く, ドコサヘキサエン酸の含有率が高く, ω3系の比率はω6系に比べて高かった.次に, 健康な成猫2頭に, 発症猫に給与していたフードを70日間給与したところ, 血中のアラキドン酸, エイコサペンタエン酸, ドコサヘキサエン酸の濃度が著しく高く, ω3系の比率はω6系に比べて高くなった.以上, 推奨量のビタミンEが含有されていても, リノール酸含有率が低く, 高度不飽和脂肪酸含有率が高く, ω3系の比率がω6系に比べて高い飼料を継続給与すると, 黄色脂肪症を発症する可能性があると考えられた.
著者
酒井 健夫 伊藤 琢也 鈴木 由紀
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

南米では吸血コウモリが狂犬病ウイルス(RABV)を家畜やヒトに伝播している。しかし、分子進化学的な解析から、吸血コウモリは、食虫コウモリであるTadarida brasiliensisからRABVが伝播され、その後、南米に生息する吸血コウモリの集団間で感染が拡大した可能性が示唆されている。本研究は吸血コウモリ由来RABVの詳細な疫学に用いるRABVゲノムの全長塩基配列の決定を、次世代シーケンサー(NGS)を用いて進めている。しかし、NGSによる解析の過程で全長の塩基配列を決定することができない検体も存在したため、サンガー法によりシークエンスを行い、今年度は新たに4検体の全長配列を決定した。さらに、吸血コウモリ由来RABVと遺伝的に近縁な食果コウモリ由来RABVゲノムの全長配列の決定も行った。また、これまで9組のプライマーペアを用いたマルチプレックスPCRのアンプリコンシークエンスを行っていたが、より簡易に塩基配列を決定する為にプレイマーペアの再検討を行い、4組のプライマーペアを用いたアンプリコンシークエンスに切り替えて、ブラジルの広範囲の地域で採取された吸血コウモリ由来RABVのライブラリ調整を進めた。さらに、吸血コウモリおよびTadarida brasiliensisから分離されたRABVのN遺伝子領域を用いて分子系統樹解析を行った。その結果、Tadarida brasiliensisは北米から南米にかけて広範に分布しているが、吸血コウモリは、北米と中南米に分布する2つのT. brasiliensisの集団からRABVが伝播され、その後、RABVは中米から南米にかけて南下しながら吸血コウモリに拡散し、その過程で食果コウモリ(Artibeus属)にもRABVが伝播したことが明らかになった。
著者
佐藤 豪 伊藤 琢也 庄司 洋子 三浦 康男 見上 彪 伊藤 美佳子 倉根 一郎 SAMARA Samir I. CARVALHO Adolorata A. B. NOCITI Darci P. ITO Fumio H. 酒井 健夫
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.66, no.7, pp.747-753, s-ix-s-x, 2004-07-25
被引用文献数
2 37

ブラジルで採取された狂犬病ウイルス株14検体を用いて,病原性および抗原性状に関連するG蛋白遺伝子およびG-L間領域(シュートジーン)について遺伝子および系統学的解析を行った.分離株は,ヌクレオ(N)蛋白の解析によって犬型狂犬病ウイルス(DRRV)または吸血コウモリ型狂犬病ウイルス(VRRV)の2系統に分類された.これらのG蛋白コード領域とジュードジーンの塩基相同性およびアミノ酸(AA)相同性は総じてエクトドメインのものよりも低かった.両領域において,VRRVの塩基およびAA相同性はDRRVに比べて低かった.また,DRRVとVRRVの推定AA配列においては,3箇所の抗原認識部位およびエピトープ(サイトIla,サイトWB+およびサイトIII)に相違があり,両系統が抗原性状により区別できることが示唆された.シュードジーンおよびG蛋白コード領域の系統樹とエクトドメインの系統樹を比較すると,翼手類および肉食類由来株グループの分岐は異なっていた.一方,DRRVまたはVRRVのグループ内において分岐は明らかに類似していた.また,VRRV分離株はブラジルのDRRVよりも近隣中南米諸国の翼手類分離株により近縁であった.これらの結果は,N遺伝子と同様,G遺伝子およびG-L間領域の解析においても,ブラジルの狂犬病分離株がDRRVまたはVRRVに分類できることを示した.
著者
酒井 健夫 早川 徹 長尾 壮七 小倉 喜八郎 三浦 道三郎 矢部 光広 児玉 幸夫 渡辺 文男
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.38, no.9, pp.576-580, 1985-09-20 (Released:2011-06-17)
参考文献数
46
被引用文献数
2 2

搾乳牛13頭を4群に分けて, 50%ブドウ糖注射液500mlを通常注射および点滴注射し, あるいは25%キシリトール注射液1,000mlを同様に注射して, 負荷後の内分泌応答について観察した.ブドウ糖の通常注射群は, 負荷直後に血糖は直前値の6.9倍に (T1/2=30分, k=2.2%/分), インスリンは5.6倍に増加し, いずれも120分後に回復した. 点滴注射群は, 負荷直後に血糖は直前値の2.0倍に, インスリンは4.4倍に増加し, いずれも45分後に回復した. 負荷後のグルカゴンは, 通常負荷, 点滴負荷ともに大きく変動しなかった.キシリトールの通常注射群は, 負荷直後に血中キシリトール濃度は最高値228mg/100ml (T1/2=11分, k=6.35%/分) に達し, 120分後に検出限界以下となった. 血糖は120分後に直前値の2.1倍, インスリンは15分後に16.8倍, グルカゴンは45分後に3.6倍にそれぞれ増加した. 点滴注射負荷群では, 血中キシリトールは負荷直後軽度の増加, 血糖も直前値の1.3倍にやや増加したが, グルカゴンは変動が小さく, インスリンも2.3倍の増加を示したにすぎなかった.
著者
遠藤 秀紀 大村 文乃 酒井 健夫 伊藤 琢也 鯉江 洋 岩田 雅光 安部 義孝
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.79-86, 2012 (Released:2012-08-29)
参考文献数
31
被引用文献数
1

現生シーラカンスの第一および第二背鰭を三次元復構画像を用いて検討し,軸上筋と軸下筋,第一背鰭に関連する筋肉,第二背鰭固有の筋肉の断面積を画像解析手法により計測した。第一背鰭に関連する筋肉は体幹の背側端を超えて鱗状鰭条まで伸長することはなかった。しかし,鱗状鰭条からなる放射した鰭は体幹部の骨性の板によって支持されていた。第二背鰭では,体幹部の2つの骨が鰭の4つの骨格要素を支持し,その4つの骨の周囲には,体幹部から固有の筋層が発達していた。第一背鰭は,体幹部の骨質の板から伸びる比較的小さな筋肉と,体幹部の骨質の板と鱗状鰭条の間の機械的な関節によって制御される,受動的な安定板として機能していると推察された。対照的に第二背鰭は,速度の遅い運動時に積極的な推進力を生み出す装置となっていることが示唆された。第一背鰭が位置する体幹前方と比べて軸上筋と軸下筋が減少する体幹後方においては,肉鰭類の鰭による推進力の発生は,第二背鰭に要求される機能であることが推測された。
著者
後藤 仁 明石 博臣 酒井 健夫 高島 郁夫 橋本 信夫 品川 森一
出版者
帯広畜産大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1985

我が国で分離されている代表的なアルボウイルスとして、日本脳炎ウイルス(JEV),ゲタウイルス(GTV),アカバネウイルス(ABV)があげられる。日本脳炎の発生は近年日本では激減しているが、東南アジアではしばしば流行して多数の患者が出ている。GTVは馬に発疹,浮腫を伴う熱性疾患を起こし、ABVは牛の死、流産の原因となり,ともに周期的に流行している。またダニ脳炎ウイルスも分離されているが、その生態学的意義は不明である。本研究では、日本各地の家畜についてウイルス抗体の変動,ウイルス分離,抗原分析などからこれらウイルスの動物間での動向を明らかにしようと試みた。その結果、北海道で収集した馬血清のGTV抗体は道南と道北で抗体保有率が高く、7月〜11月間に本ウイルスの伝播のあったことを明らかにした。一方、1985年6月札幌近郊で豚のJEVによる異常産の発生と媒介蚊の収集成績から自然界におけるJEVの基本的な存続様式に新たな問題を提起した。JEVの全国的動態では、牛の血中抗体を指標とした場合、南部の鹿児島県から北部の岩手県に、4月から9月にかけて抗体陽性牛が漸次北上する傾向を明らかにした。ABV日本分離株10株とオーストラリア分離株2株のフィガプリント法によるRNAの解析では、両国分離株間はもちろん、日本分離株間でも相違がみられ、本ウイルスの変異がかなりの頻度で起こっていることが推定された。このことは単クローン抗体によるウイルス抗原蛋白の分析でも確認され、ABV感染の疫学を解明する上に極めて重要である。次にダニ脳炎ウイルスの根岸株の単クローン抗体による中和反応の機序に関する基礎的研究では、多種類の抗体を混和したとき、本ウイルスの中和活性が著しく増強され、この反応系はmulti-hit modelとなることが示唆され、今後のアルボウイルスの基礎的研究に大いに寄与するものと考えられる。
著者
門平 睦代 織田 銑一 酒井 健夫
出版者
帯広畜産大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

2年間の研究期間中の研究対象地域は、1)愛知県(名古屋大学農学部付属農場周辺)、2)千葉県(農業共済家畜診療部門管轄地域、3)北海道(十勝支庁周辺)の3箇所であった。研究最終目的は、生産から販売までの「食の安全」の輪を、農家(生産者)レベルで確実なものとするための家畜飼養管理基準の構築である。しかし、農家毎に問題の種類も程度も異なるので、一律な家畜飼養管理基準での現場への対応は実践的ではない。そこで、この課題では、パイロット研究として、生産者のニーズを的確に把握し、その解決策を家畜保健所などの公共機関の職員(外部者)と農家が一緒になって探る過程が、問題の解決、ひいては生産性の向上へとつながることを提示することが重要な役割を持つ。共同研究者である堀北氏が所属する千葉県農業共済家畜診療部門との連携が十分に機能し、数々の事例を分析することができた。具体的には、2年目の後半に取り組んだ家畜保健所・コンサルタント事業を利用した活動では、参加型手法を使い、従業員全員で問題点を明確にし、解決策を提案し実践したところ、2ヶ月間という短期間に、搾乳頭数が増加し乳量が目的に達成したのに搾乳時間,は短くなり、乳房炎などの疾病発生数が減少し、仕事の連携が改善したという事例を生み出した。薬などの有害物質や資金を使わずに、農場内のコミュニケーション不足、獣医学的知見の一方的な指導、関係機関間の不十分な連携という問題点を改善したことによる成果である。つまり、「食の安全」に関連した健康的な管理飼養問題の解決方法の一例が提示できたわけである。千葉農業共済では上記の活動を平成18年度より正式な業務と認めた。今後は、堀北氏を中心にさらなる事例研究を全国レベルに拡大する。「ポジテイブ制度」など規制が増える昨今、生産者との協力関係を軸とした飼養管理基準の構築が急がれる。