- 著者
-
金森 修
- 出版者
- 東京水産大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1995
最近のクローン羊の事例などにおいても明らかなように、医学、生物学などの生命科学は専門内部での議論にとどまることなく、その成果が社会的、思想的に外挿されることで社会的波及性をもつ。本研究は、科学内在的に当時の科学の実質的内容を追いかけると同時に、それらの成果が当時の社会の思想的側面にどのように波及していったのかを具体的に調査することを目的とする。この問題設定の霊感源は、筆者が長く研究を続けてきたフランスのエピステモロジーに根ざすものである。この研究が始まる時点で予定していた進化論思想史の一端としてのル・ダンテク論や、19世紀生理学史を彩るクロード・ベルナール論などはすでに完了した。ただしベルナール論については、共著者まちの状態で、刊行にはまだしばらく時間がかかる。平成9年度は黎明期細菌学と黎明期免疫学の研究を主に予定していたが、その後者の研究はすでに開始されたが、前者は依然未完了に留まっている。ただ資料収拾は完了した。その代わり、昭和期に活躍した特異な生理学者、橋田邦彦の調査が進み、専門雑誌にその研究成果を発表することができた。また、今世紀の代表的文芸理論家であるバフチンが若い頃、精神分析にどのような対応を示したのかをめぐる論考、さらにヘッケルの生物発生原則が精神分析や解剖学など、周辺領域にどのように受容されてそれぞれの領域で独自の論考の霊感源となっていたのかをめぐる論考を完成することができた。総体的にみて、三年間続いた本研究は、一九世紀後半から二十世紀初頭という比較的限られた時代状況のなかにおいてさえ、実に多様なアプローチが可能であることを改めて私に確認させてくれた。研究成果としては、進化論思想史、薬理学思想史、免疫学思想史、生理学思想史、現代の実験室研究、生物発生原則という単一概念の外挿研究など、いろいろな場面での多角的な研究ができたと思う。