著者
金森 修
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

フーコーが1970年代に模索的に使用した生政治・生権力という概念は、その後生物学・医学の急速な進展による日常生活の変化に伴い、新たな含意を獲得するに至った。本研究はその事実を背景に、アメリカ的な生命倫理学をメタ的に対象化して現代的な特質や偏向を探るという目標を掲げた。当初は比較的理論的な問題設定、クローンや臓器移植などの問題群への注視を想定していた。だがこの研究期間中思いがけずに福島第一原発の大事故が勃発したので、放射線障害の多寡や、それを巡る日本社会の多様な政治的・思想的発言の分析に思いの他重点が置かれることになった。人間の生命をどうしても二次的に捉えがちな我が国の政治風土の剔抉ができた。
著者
金森 修
出版者
東京大学大学院教育学研究科附属学校教育高度化センター
雑誌
年報
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.41-48, 2012-03-31

学校教育高度化センター主催シンポジウム 社会に生きる学力形成をめざしたカリキュラム・イノベーション : 理念と方向性
著者
金森 修
出版者
東京水産大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

最近のクローン羊の事例などにおいても明らかなように、医学、生物学などの生命科学は専門内部での議論にとどまることなく、その成果が社会的、思想的に外挿されることで社会的波及性をもつ。本研究は、科学内在的に当時の科学の実質的内容を追いかけると同時に、それらの成果が当時の社会の思想的側面にどのように波及していったのかを具体的に調査することを目的とする。この問題設定の霊感源は、筆者が長く研究を続けてきたフランスのエピステモロジーに根ざすものである。この研究が始まる時点で予定していた進化論思想史の一端としてのル・ダンテク論や、19世紀生理学史を彩るクロード・ベルナール論などはすでに完了した。ただしベルナール論については、共著者まちの状態で、刊行にはまだしばらく時間がかかる。平成9年度は黎明期細菌学と黎明期免疫学の研究を主に予定していたが、その後者の研究はすでに開始されたが、前者は依然未完了に留まっている。ただ資料収拾は完了した。その代わり、昭和期に活躍した特異な生理学者、橋田邦彦の調査が進み、専門雑誌にその研究成果を発表することができた。また、今世紀の代表的文芸理論家であるバフチンが若い頃、精神分析にどのような対応を示したのかをめぐる論考、さらにヘッケルの生物発生原則が精神分析や解剖学など、周辺領域にどのように受容されてそれぞれの領域で独自の論考の霊感源となっていたのかをめぐる論考を完成することができた。総体的にみて、三年間続いた本研究は、一九世紀後半から二十世紀初頭という比較的限られた時代状況のなかにおいてさえ、実に多様なアプローチが可能であることを改めて私に確認させてくれた。研究成果としては、進化論思想史、薬理学思想史、免疫学思想史、生理学思想史、現代の実験室研究、生物発生原則という単一概念の外挿研究など、いろいろな場面での多角的な研究ができたと思う。
著者
金森 修 杉山 滋郎 杉山 滋郎 小林 傳司 金森 修
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

金森修は、コンディヤックの『動物論』を分析する過程で、人間と動物との関係を巡る認識的議論にその調査対象が拡大した。その過程で、金森はフランスの重要な科学史家ジョルジュ・カンギレムの仕事に注目するようになった。そして結果としては、コンディヤックの『動物論』自体の分析は、擬人主義論の中ででてくることはでてくるが、副次的なものになり、より射程の広い擬人主義論、そしてカンギレム自体のさまざまな業績を扱った四つの論文、計5篇の論文の形で、その成果をまとめることができた。まず「擬人主義論」では、心理学が擬人主義を放擲かくするに及んで、もともとの研究プログラムを喪失していく過程の分析、比較心理学や動物行動学に伏在する擬人主義の剔抉などを中心に扱った。次の「主体性の環境理論」では、一八世紀から一九世紀初頭にかけて、環境という概念がどのようにその意味あいを変えていくかを巡る史的な分析を行い、それが一九世紀から二○世紀にかけて、主体を環境によって規定された受動的なものとしてではなく、それなりに環境を構成する能動的なものとして把握するという思潮がどのようにでてきたのか、またその考え方の環境倫理学的な意味あいについて分析した。次の「生命と機械」論では、古来からの生物機械論と生気論とが、現代的なバイオメカニックスや人間工学においては、対立ではなく、融合を起こしていること、そのため、人間がどこまで機械として説明できるのか、という問い自身がもはや成立しえないことを論証した。次の「生命論的技術論」では、技術的制作一般を巡る主知主義的な把握を破壊し、技術制作と創造者との間の相即的で相互誘発的な関係を分析した。 次の「美的創造理論」では、アランの美学をカンギレムが分析している文章を精密に分析する過程で、創造行為一般における創発性、規範の存在の重要性などを分析した。杉山滋郎は、平成2年度から4年度に収集した文献資料をもとに、当初の研究目的にそって考察を進めてきた。その結果、「生命観」の概念規定を明確にすることに努めつつ、わが国における「生命観」の時代的変化ならびにその特質について、概念が把握されつつある。現在のところまだ具体的な論考には結晶していないが、必要な資料をさらに収集して、今後しばらく検討を続けたうえで、すみやかに成果を公表する予定である。
著者
廣野 喜幸 石井 則久 市野川 容孝 金森 修 森 修一 山邉 昭則 渡邊 日日 関谷 翔 高野 弘之 花岡 龍毅
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

国際比較の観点から、公衆衛生・医学研究に関する日本の医療政策の形成過程の特徴を明らかにするため、医学専門雑誌、審議会の議事録や裁判記録等の資料分析を中心に調査し、その成果を論文・口頭で発表した。また各年度、医学・医療行政の専門家に対してインタビュー形式の調査を実施した。調査を通じて積極的な意見交換を行いながら、日本の医療行政の仕組みやワクチン・インフルエンザ等の政策の歴史の把握、最新情報の収集に努めた。
著者
鈴木 晶子 小田 伸午 西平 直 金森 修 今井 康雄 生田 久美子 加藤 守通 清水 禎文
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

スポーツや音楽演奏や伝統芸能における「わざ」の修練・継承においては、(1)目習いと手習いの連動、(2)修練と継承の一体化が軸となっていた。(1)目習いにおいては単に視覚のみでなく様々な運動感覚が統合的に働くこと、また手習いにおいても自己の身体動作の実際と身体イメージとの間を繋ぐために表象・言語の力が大きく関与していること、(2)修練における経験の内在化が常に継承行為の一部となっていること、創造的模倣(ミメーシス)が、経験の再構成において広義の制作的行為(ポイエーシス)へと移行していく機構が認められることが解明された。