著者
白水 貴 稲葉 重樹 牛島 秀爾 奥田 康仁 長澤 栄史
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会会報 (ISSN:00290289)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.jjom.H30-02, 2018-05-01 (Released:2018-06-09)
参考文献数
25

日本においてキクラゲ Auricularia auricula-judae またはアラゲキクラゲ A. polytricha とされていた標本および菌株を用いて分子系統解析と形態比較に基づく分類学的検討を行った.Auricularia auricula-judae とされていた標本を含む26 サンプルは A. heimuer,A. minutissima,A. thailandica,A. villosula の4 種に同定され,A. auricula-judae s. str. は見られなかった.Auricularia polytrichaとされていた標本を含む26 サンプルは A. cornea と同定され,A. polytricha s.str やA. nigricans は見られなかった.この結果は,従来日本において A. polytricha として認識されてきた菌の中に A. cornea が含まれていることを示している.
著者
工藤 伸一 長澤 栄史
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第55回大会
巻号頁・発行日
pp.4, 2011 (Released:2012-02-23)

青森県内のブナ林および草地で採集された3種類のきのこを調査した結果,それぞれヌメリガサ科のヌメリガサ属(Hygrophorus)およびアカヤマタケ属(Hygrocybe)に所属する新種と考えられたのでここに報告する. 1)Hygrophorus albovenustus (sp. nov., nom. prov.)-オシロイヌメリガサ(新称):子実体は10月にブナ林内に群生.やや小型で全体白色.傘および柄は粘液で覆われる.ひだは白色、古くなると褐変する.胞子は倒卵形~長楕円形,6.5-8.8(-9.5)×3.8-5.2(-6.5)μm,無色,平滑,非アミロイド. 担子器は4胞子性,26-35×6-7.5μm.ひだ実質は散開型.傘表皮は粘毛被.ヨーロッパのH. discoxanthus (Fr.) Rea に類似するが,同種は子実体がより大形で,古くなると傘の縁が赤褐色に変色すること,担子胞子が多少大形であることなどの特徴において異なる. 2)Hygrocybe pallidicarnea (sp. nov., nom. prov.)-ウスハダイロガサ(新称):子実体は10月に草地に群生.やや小型で,傘は中高の平たい丸山形,表面は粘性なく内生繊維状,肌色で乾燥すると淡紅色.ひだおよび柄は白色.胞子は広楕円形~楕円形,6-7.5×4-4.8μm,無色,平滑,非アミロイド.担子器は4胞子性,44-54×5.8-7μm.ひだ実質は錯綜型.傘表皮は平行菌糸被.Cuphohyllus亜属に所属する.H. pratensis (Pers.: Fr.) Murrill に類似するが,同種は傘の色がより濃色で淡紅色とならず,胞子がより大形であることで異なる. 3)Hygrocybe atroviridis (sp. nov., nom. prov.)-フカミドリヤマタケ(新称):子実体は8月に草地に少数群生.小型で,傘は平たい丸山形,表面は濃緑色,粘性はなく多少ささくれる.胞子は卵形~楕円形,7-10×(5-)5.5-6.8(-7.4)×(3.5-)4.5-6(-7)μm,無色,平滑,非アミロイド.担子器は4または2胞子性,30-52×6-12μm.ひだ実質は並列型,菌糸は長さ-500μm,幅10-35μm.傘表皮は平行菌糸被.Hygrocybe亜属に所属する.子実体が緑色で粘性がない特徴において,インドに分布するH. smaragdina Leelav., Manim. & Arnolds,ブラジルで発生が知られているH. viridis Capelari & Maziero およびカリブ海域の小アンチル諸島から報告のあるH. chloochlora Pegler & Fiardなどに類似するが,それらとは胞子の形状および大きさなどの点で異なる.
著者
岡 久美子 西田 麻理奈 長澤 栄史 牛島 秀爾 石原 亨 前川 二太郎
出版者
日本きのこ学会
雑誌
日本きのこ学会誌 (ISSN:13487388)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.147-152, 2015-01-31 (Released:2018-03-15)

モエギタケ科に所属するHypholoma fasciculare(ニガクリタケ)は毒きのこであり,主要な毒成分としてファシキュロールEを生産する.これまでに本種以外のきのこ種子実体にもファシキュロールEが含まれていることが報告されているが,詳細な調査は行われていなかった.そこで本研究では,H. fasciculareおよびモエギタケ科属種子実体におけるファシキュロールEの含有量を調査した.その結果,供試したHypholoma属種の子実体すべてよりファシキュロールEが検出され,本属の近縁属であるPholiota属やStropharia属種のいくつかの子実体中においても極めて少量であるが検出された.検出された子実体には食用きのこ種も含まれていた.さらに,分子系統解析の結果,ファシキュロールE生産性はモエギタケ科内のHypholoma属との系統的類縁性と密接に関係していることが示唆された.
著者
牛島 秀爾 霜村 典宏 長澤 栄史 前川 二太郎
出版者
日本きのこ学会
雑誌
日本きのこ学会誌 : mushroom science and biotechnology (ISSN:13487388)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.22-30, 2012-04-25
被引用文献数
1

日本産ヌメリツバタケ(Japanese M. mucida)として知られている菌は,形態的特徴および核rDNAのITS領域を用いた分子系統解析の結果,M. mucida var. asiaticaと同定された.本変種は,ひだに皺を持つ日本固有種のヌメリツバタケモドキ(M. mucida var. venosolamellata)とは,肉眼的特徴に基づいて区別されてきた.しかし,両菌は交配可能であり,両菌の中間的な形態的特徴を示す捻性な子実体を形成した.さらに,ITS領域に基づく分子系統樹において,両菌は1つのクレード内に混在した.これらの結果は,両菌をM. mucidaの種内分類群として分割すべきでないことを強く示唆する.また,日本産ヌメリツバタケ(ヌメリツバタケモドキを含む)は,担子胞子の大きさ,傘表皮組織の構造およびITS領域を用いた分子系統解析結果において,M. mucida var. mucidaとは明らかに種レベルで異なった.
著者
工藤 伸一 長澤 栄史
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第53回大会
巻号頁・発行日
pp.51, 2009 (Released:2009-10-30)

青森県内のブナ林および草地で採集された2種類のきのこを調査した結果, いずれもヌメリガサ科アカヤマタケ属(Hygrocybe)に所属する新種と分かったのでここに報告する. 1)Hygrocybe aurantiaca (sp. nov., nom. prov.)-ダイダイヤマタケ(新種,新称):子実体はブナの樹下に少数群生する. 全体橙色をし, 傘は中央が深くくぼみ, 表面は湿っているとき多少粘性あるが乾くとフェルト状. 胞子は楕円形~涙滴形, 9-11×6.5-7μm, 平滑, 非アミロイド. 担子器は棍棒形, 51-67×7-10μm, 2胞子性. ひだ実質は錯綜型で, 菌糸はクランプを欠き, 幅約5μm. 傘表皮は毛状被, 菌糸は幅4-5μm. 本種は森林生で, 生態的にブナとの関係が推察される. Arnolds(1990)らの分類ではCuphohyllus亜属に所属し, 子実体が全体に橙色, 担子器が2胞子性, 胞子が大形などの特徴をもつ. 色彩的にはハダイロガサHygrocybe pratensis(= Camarophyllus pratensis)に類似するが, 同種は草原生で子実体がより淡色である. また, 担子器が4胞子性で, 胞子が小形である. 2)Hygrocybe violaceolamellata (sp. nov., nom. prov.)-ウラムラサキヤマタケ(新種,新称):子実体は草地に多数群生する. 傘は中央が深くくぼみ, はじめ橙赤色であるが成熟すると退色して黄土褐色となり, 表面は微細な毛に被われる. ひだは紫色を帯びる. 胞子は卵形~楕円形, 8.5-11(-12.5)×5.2-6.5(-7)μm. 担子器は棍棒形, 35-60×6-10μm, 4胞子性. ひだ実質は類並列型, 菌糸は短い細胞(30-90×6-35μm)からなり, クランプをもつ. 傘表皮の菌糸は匍匐状, 褐色, 幅10-18μm. Arnolds(1990)らの分類ではPseudohygrocybe亜属に所属する. 傘が中央で深くくぼみ, 橙赤色から退色して黄土褐色となり, ひだが紫色を帯びることが特徴. 北アメリカのHygrocybe purpureofolia(= Hygrophorus purpureofolius)に類似するが, 同種では傘が中央で深くくぼまず, 退色しても黄土褐色にならない. また, 胞子の大きさが7-11×4-4.5μmとより狭幅である.
著者
長澤 栄史 中西 玉子
出版者
日本きのこセンター菌蕈研究所
巻号頁・発行日
no.47, pp.1-6, 2017 (Released:2019-04-11)

京都府船井郡京丹波町のスギ林内で採集された標本(4月~5月にかけて林内の落枝および腐植上に発生)に基づいて,Plectania melastoma(Sowerby:Fr.)Fuckel(チャワンタケ目,クロチャワンタケ科)の日本における発生を報告した。本菌は,小型(径1-1.5cm位)でお椀状の,比較的丈夫な肉質の子嚢盤を落枝および腐植上に群生するが,子実層面が黒色であるのに対して子嚢盤の外表面が鮮やかな赤橙色~赤褐色を帯び,粉状を呈するのを著しい特徴とする。また,紡錘状楕円形の比較的大きな胞子(19.2-25.8×9.6-12.6μm,長さ/幅値(Q)=1.8-2.4)をもち,子嚢盤外表面の菌糸をKOH水溶液で処理するとワイン色の色素を溶出する特徴をもつ。日本では外観的特徴におい類似するKorfiella karnika D. C. Pant and V. P. Tewari(コフキクロチャワンタケ)と混同され易いが,同菌は子嚢盤が1側面で基部付近まで裂けることや竹の古い切り株に発生することなどで区別される。P. melastomaはPlectania属の基準種で,文献によれば世界,主に北半球に広く分布するが,発生はまれで局地的のようである。日本においては従来本学名における報告はないが,アメリカの北太平洋探検調査隊(1853-1856)によって日本(徳之島、1855年4月30日,根上)で採集され,英国のM. J. Berkeley and M. A. Curtisによって1860年に新種記載されたPeziza japonica Berk. and M. A. Cutis(=Plectania japonica(Berk. and M. A. Cutis)Sacc.)は,そのタイプを調査したPfister(1997)によれば,P. melastomaと同一種であるといわれている。本種にはまだ和名が無いので新たにアカサビクロチャワンタケと命名した。