著者
阿部 勝征
出版者
東京大学地震研究所
雑誌
東京大学地震研究所彙報 (ISSN:00408972)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.289-303, 1988-12-23

日本周辺で1894年から1985年までの92年間に発生した地震津波について基礎データを見直し,前報のカタログにある津波マグニチュードMtや表面波マグニチュードMs気などの改訂と追加を行う.Mtは,計器観測による津波の最大振幅とその伝播距離から津波の大きさを表すスケールとして定義されたもので,かつ津波を起こした地震のモーメント・マグニチュードに関連づけられている.Mtからみて最大の津波はMt8.5の1918年ウルップ島沖の津波であり,次いでMt8.4の1963年エトロフ島沖の津波,Mt8.3の1933年岩手県沖の津波が続く.Mtが決定された104個の地震のうちの約1割はMsの割にMtが著しく大きな津波地震である.Mtから津波エネルギーEtを求める式はlogEt(erg)=2Mt+4.3で表される.これによれば,過去92年間の津波の総エネルギーは1.0×10-22ergである.これはMt=8.9の津波エネルギーに相当するが,1960年チリ津波の津波エネルギーの13分の1,同じ期間に環太平洋で発生した津波の総エネルギーの1/30に過ぎない.1年当りの平均の津波エネルギーは1.1×1020erg/年であり,Mt=7.9の津波エネルギーに相当する.
著者
阿部 勝征
出版者
東京大学地震研究所
雑誌
東京大學地震研究所彙報 = Bulletin of the Earthquake Research Institute, University of Tokyo (ISSN:00408972)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.289-303, 1988-12-23

日本周辺で1894年から1985年までの92年間に発生した地震津波について基礎データを見直し,前報のカタログにある津波マグニチュードMtや表面波マグニチュードMs気などの改訂と追加を行う.Mtは,計器観測による津波の最大振幅とその伝播距離から津波の大きさを表すスケールとして定義されたもので,かつ津波を起こした地震のモーメント・マグニチュードに関連づけられている.Mtからみて最大の津波はMt8.5の1918年ウルップ島沖の津波であり,次いでMt8.4の1963年エトロフ島沖の津波,Mt8.3の1933年岩手県沖の津波が続く.Mtが決定された104個の地震のうちの約1割はMsの割にMtが著しく大きな津波地震である.Mtから津波エネルギーEtを求める式はlogEt(erg)=2Mt+4.3で表される.これによれば,過去92年間の津波の総エネルギーは1.0×10-22ergである.これはMt=8.9の津波エネルギーに相当するが,1960年チリ津波の津波エネルギーの13分の1,同じ期間に環太平洋で発生した津波の総エネルギーの1/30に過ぎない.1年当りの平均の津波エネルギーは1.1×1020erg/年であり,Mt=7.9の津波エネルギーに相当する.
著者
阿部 勝征
出版者
公益社団法人 日本地震学会
雑誌
地震 第2輯 (ISSN:00371114)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.369-377, 1999-12-25 (Released:2010-03-11)
参考文献数
46
被引用文献数
13

A method for determining the tsunami magnitude Mt from tsunami run-up heights is developed by using the Abe's (1989) relation which has been employed for estimating run-up heights from earthquake magnitudes. The magnitude Mt is estimated from the relation, Mt=2logHm+6.6, where Hm is the maximum value of the local-mean run-up height in meters and the logarithmic mean of heights is taken over a distance of about 40km along a coast. Except for unusual events, the moment magnitude can be estimated from Mw=Mt-2C, where C=0 for tsunamis in the fore arc and C=0.2 for tsunamis in the back arc. For 12 large tsunamis that occurred around Japan from 1894 to 1998, Mw estimated from Mt is found to be essentially equivalent to that estimated from seismic waves. The present method is applied to determining Mt for 21 historical tsunamis that occurred around Japan on and after the 15th century. There are 13 large tsunamis with Mt=8 or over for the period from 1498 to 1893.
著者
阿部 邦昭 阿部 勝征 都司 嘉宣
出版者
東京大学
雑誌
東京大學地震研究所彙報 (ISSN:00408972)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.23-70, 1993

1992年9月2日に中米ニカラグア国太平洋側沖合い海域に発生したニカラグア地震と津波の野外調査を行い,ニカラグアの太平洋海岸での震度と津波浸水高の分布図などを得た.沿岸の各集落での改正メルカリ震度階では震度2または3であって,まったく地震動による被害も生じず,揺れは気がつかない人も多数いるほど小さかった.これに対して,津波の浸水高は,南部海岸で100kmの長さにわたって,平均海水面上6~7mにも達したことが明らかとなり,今回の地震が1896年の明治三陸津波の地震と同様の,地震動が小さかった割に津波規模が異常に大きな「津波地震」であることが判明した.本震発生の直後の余震分布から判断すると,震源の広がりは,ニカラグアの太平洋側海岸線に平行に西北西.東南東に走る海溝軸にそった長さ約200km,幅約100kmの海域と判断される.津波の被害を生じたのもほぼこの震源域と相応した海岸区域であった.また地震波の解析からこの地震は,ココスプレートがニカラグア本土を載せたカリブプレートに沈み込む際の,両プレートの境界面でのずれのよって生じた低角の逆断層型の地震であることが判明しているが,ニカラグアの2ヵ所で得られた検潮記録,および引き波から始まったと各地で証言されている津波初動の傾向はこの地震メカニズムと調和的である.検潮記録,証言,および津波伝播の数値計算結果によると,津波は地震が発生して44~70分後に,まず小さな引き波が来て,その直後に大きな押し波が押し寄せるという形で海岸を襲った.沿岸各地では15分周期で2ないし3波継続したと証言されている.また津波の被害に関しては,浸水高が4mを越すと急激に人的被害が増加すること,津波による建築物の被害の割に死者数が少なかったこと,死者数のうち子どもの占める割合が大きいことが今回の津波被害の特徴であった.A survey study of the Nicaragua Earthquake and Tsunami on September 2, 1992 was carried out on the Pacific coast of Nicaragua. Interviews of the residents and measurements of tsunami trace height revealed only a small seismic intensity in a sharp contrast with a large tsunami. Tsunami height of 2-10 meters above mean sea level was obtained along the whole Nicaraguan coast, although the seismic intensity was only 2 or 3 in the modified Mercalli scale. The small seismic intensity suggests that the present event was a tsunami earthquake characterized by small excitation of short period seismic wave in comparison with large excitation of the tsunami.
著者
阿部 勝征
出版者
東京大学地震研究所
雑誌
東京大学地震研究所彙報 (ISSN:00408972)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.851-873, 1991-03-29 (Released:2008-05-30)

フィリピンのルソン島中部で1990年7月16日に発生した大地震(Mw7.6)について現地調査や波形解析を実施し,地震の発生機構を調べた.この地震はルソン島の地表に最大水平変位6mの地震断層を出現させた.それは島弧中央断層であるフィリピン断層系の一部である.地震断層の現地調査ではBongabonからRizar, Digdigを経てCapintalanまで実地踏査し,これらの地域を含めてDingalan湾よりImugan北方までを100km以上にわたってヘリコプターで上空より調査した.現地調査,地震波解析,余震データから得られたフィリピン地震の全体像は長大な左横ずれ断層運動である.断層面の走向は154°NE,傾斜角は76°Wであり,断層の長さは120km,幅は20km,断層面上での平均変位量は5.0mである.地震による横ずれ断層としては世界有数の規模である. TSKにおけるP波初動部分の変位記録は,震源での継続時間が約50秒あり,約10秒間の小さな立ち上がりに続いて2個の大きなサブイペントが約20秒の間隔で発生したことを示唆する.ラ・ウニオン州のルナで約2mの高さの津波が発生したが,局地的なもので,液状化に伴って生じたとみられる. 17日に発生した最大余震(Mw6.4)は逆断層運動によるもので,主断層運動の東側のブロックが断層の北端付近を圧縮したために起きたと考えられる. The Luzon, Philippines earthquake of July 16, 1990, with Ms=7.8, was generated by left-lateral slippage in central Luzon Island. We surveyed surface breakage over the area from Bongabon to Capintalan through Rizar, Puncan and Digdig by vehicles, and also made an aerial survey by helicopter from Dingalan Bay to north of Imugan. Ground breakage was observed and mapped for a distance of 110km along the Philippine fault system and its splay known as the Digdig fault. Maximum horizontal offset as measured on the fault at Imugan is 6m. It is one of the largest strike-slip earthquake ever recorded in the world.
著者
纐纈 一起 鷹野 澄 坪井 誠司 宮武 隆 阿部 勝征 萩原 幸男
出版者
東京大学地震研究所
雑誌
東京大學地震研究所彙報 = Bulletin of the Earthquake Research Institute, University of Tokyo (ISSN:00408972)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.517-532, 1990-03-30

地震予知計画の下で国立大学により運営されてきた地震予知観測情報ネットワークでは,各構成機関により維持・管理されている約160点の地震観測点の波形データが,全国7箇所の地域センター等に集められ,そこでそれぞれ独自に開発された自動処理システムにより,地震波到着時刻の読み取り・震源位置の決定などがリアルタイムで行なわれている.この処理結果はオンラインで地震研究所の地震予知観測情報センター(EPDCに転送され,リアルタイム地震データとしてデータベースに保存されている.EPDCではこのデータを統合し,TSSにより表示できるようにしたシステムを開発した.統合処理は2つのジョブが前処理と本処理を担当する.前処理ではデータを震源時順に並べ替えることと,震源時と震央座標が近い地震を同一地震と仮判定することが行なわれる.この結果がさらに本処理に送られ,親子法による同一地震の本判定と震源再決定が実行される.震源再決定で得られた統合処理結果は,ユーザのTSSごとに起動される検索プログラムで表示させることができる.1ヵ月間の処理結果を気象庁の震源速報と比較したところ,海の地震の深さが異なるのが目立つ程度で,マグニチュード3半ばより大きい地震はよく一致した.それより小さな地震では全般的に気象庁より検知能力が高いが,観測網が粗い中国・四国地方やまったく観測点がない九州地方は気象庁が優れている.本システムの今後の課題は,現在大きな地震のデータ統合を優先しているため,小さい地震の分離能力が弱い点を改善することである.また,現在情報不足で困難となっているマグニチュードの独自決定も課題であろう.
著者
阿部 勝征
出版者
東京大学地震研究所
雑誌
東京大學地震研究所彙報 = Bulletin of the Earthquake Research Institute, University of Tokyo (ISSN:00408972)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.851-873, 1991-03-29

フィリピンのルソン島中部で1990年7月16日に発生した大地震(Mw7.6)について現地調査や波形解析を実施し,地震の発生機構を調べた.この地震はルソン島の地表に最大水平変位6mの地震断層を出現させた.それは島弧中央断層であるフィリピン断層系の一部である.地震断層の現地調査ではBongabonからRizar, Digdigを経てCapintalanまで実地踏査し,これらの地域を含めてDingalan湾よりImugan北方までを100km以上にわたってヘリコプターで上空より調査した.現地調査,地震波解析,余震データから得られたフィリピン地震の全体像は長大な左横ずれ断層運動である.断層面の走向は154°NE,傾斜角は76°Wであり,断層の長さは120km,幅は20km,断層面上での平均変位量は5.0mである.地震による横ずれ断層としては世界有数の規模である. TSKにおけるP波初動部分の変位記録は,震源での継続時間が約50秒あり,約10秒間の小さな立ち上がりに続いて2個の大きなサブイペントが約20秒の間隔で発生したことを示唆する.ラ・ウニオン州のルナで約2mの高さの津波が発生したが,局地的なもので,液状化に伴って生じたとみられる. 17日に発生した最大余震(Mw6.4)は逆断層運動によるもので,主断層運動の東側のブロックが断層の北端付近を圧縮したために起きたと考えられる.
著者
阿部 勝征
出版者
東京大学地震研究所
雑誌
東京大學地震研究所彙報 = Bulletin of the Earthquake Research Institute, University of Tokyo (ISSN:00408972)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.51-69, 1989-06-30

津波マグニチュードMtの決定式と地震断層パラメターの相似則に基づいて,地震のマグニチュードから津波の高さを予測する方法を導く.その際にマグニチュードや津波高の基本的性質および津波励起の地域性を適当に考慮することによって予測の精度を高める.特異な津波地震を除いて,関係式log Ht=Mw-log Δ-5.55+Cから得られる予測高Ht(m)は津波の伝播距離Δ(km)付近での区間平均高を近似し,2Htはその付近での最高値を近似する.区間平均高の最大値は簡単な関係式logHr=0.5Mw-3.3+Cから得られる予測高Hr(m)で見積られる.ここにMwは地震のモーメント・マグニチュード,Cは定数であり,太平洋側の津波にはC=0,日本海側の津波にはC=0.2がそれぞれ適用される.適切な考慮のもとではMwの代わりに表面波マグニチュードや気象庁マグニチュードを利用することができる.地震直後の迅速な予測に利用できるようにこれらの関係式を一枚の予測ダイアグラムにまとめることができる.一方,遠地津波に対する予測式はlog Ht=Mw-Bによって与えられる.定数Bの値として,南米からの津波にはB=8.8,アラスカやアリューシャンからの津波にはB=9.1,カムチャッカや千島からの津波にはB=8.6がそれぞれ適用される.予測法の信頼性を検討するために,過去の津波について実測高と推定値とを統計的に比較してみると,大局的にみる限り,両者間のばらつきの程度は津波数値シミュレーションの場合とそれほど違わない.
著者
阿部 勝征
出版者
東京大学地震研究所
雑誌
東京大学地震研究所彙報 (ISSN:00408972)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.p51-69, 1989-06
被引用文献数
3

津波マグニチュードMtの決定式と地震断層パラメターの相似則に基づいて,地震のマグニチュードから津波の高さを予測する方法を導く.その際にマグニチュードや津波高の基本的性質および津波励起の地域性を適当に考慮することによって予測の精度を高める.特異な津波地震を除いて,関係式log Ht=Mw-log Δ-5.55+Cから得られる予測高Ht(m)は津波の伝播距離Δ(km)付近での区間平均高を近似し,2Htはその付近での最高値を近似する.区間平均高の最大値は簡単な関係式logHr=0.5Mw-3.3+Cから得られる予測高Hr(m)で見積られる.ここにMwは地震のモーメント・マグニチュード,Cは定数であり,太平洋側の津波にはC=0,日本海側の津波にはC=0.2がそれぞれ適用される.適切な考慮のもとではMwの代わりに表面波マグニチュードや気象庁マグニチュードを利用することができる.地震直後の迅速な予測に利用できるようにこれらの関係式を一枚の予測ダイアグラムにまとめることができる.一方,遠地津波に対する予測式はlog Ht=Mw-Bによって与えられる.定数Bの値として,南米からの津波にはB=8.8,アラスカやアリューシャンからの津波にはB=9.1,カムチャッカや千島からの津波にはB=8.6がそれぞれ適用される.予測法の信頼性を検討するために,過去の津波について実測高と推定値とを統計的に比較してみると,大局的にみる限り,両者間のばらつきの程度は津波数値シミュレーションの場合とそれほど違わない.A method for estimating tsunami run-up heights from earthquake magnitudes is developed by taking account of the definition of the tsunami magnitude Mt and the scaling relation of earthquake fault parameters. Except for unusual tsunami earthquakes, the local-mean height Ht(m) can be estimated from the relation log Ht=Mw-log Δ-5.55+C, and the maximum local-mean height Hr(m) for large tsunamis can be estimated from the relation logHr=0.5Mw-3.30+C, where Mw is the moment magnitude, Δ(km) is the distance along the shortest oceanic path from the epicenter to an observation point, and C is the constant. This constant is taken to be C=0 for tsunamis in the Pacific and C=0.2 for tsunamis in the Japan Sea. The locally maximum run-up height is estimated to be as high as 2Ht. For earthquakes around Japan, it is practically convenient to use Ms or local magnitude instead of Mw with caution. The local-mean height from distant tsunamis can be estimated from the relation logHt=Mw-B, where B=8.8 for tsunamis from Peru and Chile, B=9.1 for tsunamis from Alaska and Aleutians, and B=8.6 for tsunamis from Kamchatka and Kurile Islands. The results from the present method are consistent with a number of data available for previous tsunamis. For near-field tsunami warning purposes, the relationships discussed here are summarized into a simple diagram that might be useful for the rapid estimate of tsunami run-up heights from earthquake magnitudes.
著者
阿部 勝征
出版者
岩波書店
雑誌
科学 (ISSN:00227625)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.139-145, 1974-03
著者
坪井 誠司 纐纈 一起 鷹野 澄 宮武 隆 阿部 勝征 萩原 幸男
出版者
公益社団法人 日本地震学会
雑誌
地震 第2輯 (ISSN:00371114)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.277-284, 1989-09-24 (Released:2010-03-11)
参考文献数
14
被引用文献数
2

The Earthquake Prediction Data Center (EPDC) of the Earthquake Research Institute, University of Tokyo, has been receiving the hypocentral parameters and arrival time data acquired through the University Information System for Earthquake Prediction Research, which is operated by Japanese national universities under the national program for earthquake prediction. Through the cooperation of these universities, the data and hypocenters were compiled and stored in the database system of the EPDC. There are two types of database; one is the real-time database and the other is the revised database which is sent by magnetic tapes from each regional center. EPDC has prepared to open these database for every seismologists to use and now the real-time database can be used by the real-time monitoring system and the revised database is open to be public as the Japan University Network Earthquake Catalog. The hypocentral coordinates and orgin times listed in the catalog are redetermined by EPDC using the arrival time data of the revised database. Although, the minimun magnitude of the earthquakes listed in the catalog is 2.0, the earthquakes listed in the catalog covers the microearthquake activities in Japan. In the present paper, we discuss the hypocenter determination procedure of the catalog and also the characteristics of the hypocenters listed in the catalog.
著者
纐纈 一起 鷹野 澄 坪井 誠司 宮武 隆 阿部 勝征 萩原 幸男
出版者
東京大学地震研究所
雑誌
東京大学地震研究所彙報 (ISSN:00408972)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.517-532, 1990-03-30

地震予知計画の下で国立大学により運営されてきた地震予知観測情報ネットワークでは,各構成機関により維持・管理されている約160点の地震観測点の波形データが,全国7箇所の地域センター等に集められ,そこでそれぞれ独自に開発された自動処理システムにより,地震波到着時刻の読み取り・震源位置の決定などがリアルタイムで行なわれている.この処理結果はオンラインで地震研究所の地震予知観測情報センター(EPDCに転送され,リアルタイム地震データとしてデータベースに保存されている.EPDCではこのデータを統合し,TSSにより表示できるようにしたシステムを開発した.統合処理は2つのジョブが前処理と本処理を担当する.前処理ではデータを震源時順に並べ替えることと,震源時と震央座標が近い地震を同一地震と仮判定することが行なわれる.この結果がさらに本処理に送られ,親子法による同一地震の本判定と震源再決定が実行される.震源再決定で得られた統合処理結果は,ユーザのTSSごとに起動される検索プログラムで表示させることができる.1ヵ月間の処理結果を気象庁の震源速報と比較したところ,海の地震の深さが異なるのが目立つ程度で,マグニチュード3半ばより大きい地震はよく一致した.それより小さな地震では全般的に気象庁より検知能力が高いが,観測網が粗い中国・四国地方やまったく観測点がない九州地方は気象庁が優れている.本システムの今後の課題は,現在大きな地震のデータ統合を優先しているため,小さい地震の分離能力が弱い点を改善することである.また,現在情報不足で困難となっているマグニチュードの独自決定も課題であろう.
著者
首藤 伸夫 渡辺 晃 酒井 哲郎 宇多 高明 阿部 勝征 平沢 朋郎
出版者
東北大学
雑誌
自然災害特別研究
巻号頁・発行日
1985

1)地震断層運動の特性:強震動継続時間の方位依存性から、断層長さと破壊の伝播方向を推定する新方法を開発した。日本海中部地震時の比較的大きな余震震源を、遠地での中周期P波及び長周期SH波から精密に決定した。これらの手法は他の地震にも適用され、良い結果を与えた。2)海底地盤変動と津波初期波形:南北2断層運動間の休止時間が津波分布に及ぼす影響を検討した。この休止が原因で、最高で10%程度の波高差が生ずる。津波記録を歪ませうる験潮井戸特性を14箇所について調査し、補正曲線を作製した。いくつかの井戸では、水位差1mを回復するのに10分以上かかり、日本海中部地震津波の記録に大きな影響を与えた事が立証された。3)エッジボアの理論と実験:大型水槽での実験から、津波進行方向にほぼ沿った斜面境界上で渦が発生し、海岸線に平行に津波と共に走っていく事を発見した。実験水槽奥部に置かれた川の内部での津波変形を追跡した。4)津波数値シミュレーション:高次近似の非線形分散波方程式を誘導し、1より大きいアーセル数に対する、摂動パラメタ(相対水深)の4次近似迄入れた式が他式に比べ精度が良い。非線形問題での数値解析誤差評価に、疑似微分方程式の解を使用する方法を開発した。空間格子寸法の決定に海底地形を考虜に入れる方法を示した。5)津波先端部形状の決定法:砕波段波の波形から最大衝撃圧を推定する手法を開発した。波状段波の変形過程を適当な渦動粘性係数の導入で追跡できる事を示した。巻き波型砕波の数値計算を行い、波頂から飛び出た水塊の運動及びそれにより引き起こされる運動についての知識を得た。6)津波先端部の破壊力:ブロックが完全に水没し最大水平波力が作用する瞬間、最も不安定になる。被災規模が大きくなるのは、津波先端に生じたソリトン列の連続性が原因である。
著者
武尾 実 阿部 勝征 辻 秀昭
出版者
公益社団法人 日本地震学会
雑誌
地震 第2輯 (ISSN:00371114)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.423-434, 1979-12-25 (Released:2010-03-11)
参考文献数
33
被引用文献数
1 3

The source parameters of the Shizuoka earthquake (M=6.3) of July 11, 1935, are determined mainly on the basis of the close-in long-period seismograms. The epicenter and focal depth are redetermined at 35.0°N, 138.4°E and 27km. This earthquake represents a left-lateral strike-slip faulting on a plane dipping 70° toward 15°SE with a dimension of 11km(length)×6km(width). The average dislocation, rise time and stress drop are determined to be 1m, 1sec and 70 bars, respectively. The faulting at the depth of about 20km is very rare in Japan; because most of the major strike-slip events in Japan occurred near the ground surface. The theoretical ground motions expected from the above dislocation parameters are consistent with the leveling data and with the field data on the collapsed structures in the epicentral area.
著者
阿部 邦昭 阿部 勝征 都司 嘉宣 今村 文彦 片尾 浩 飯尾 能久 佐竹 健治 BOURGEOIS J. NOGUERA E. ESTRADA F.
出版者
東京大学地震研究所
雑誌
東京大学地震研究所彙報 (ISSN:00408972)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.23-70, 1993-06-30

1992年9月2日に中米ニカラグア国太平洋側沖合い海域に発生したニカラグア地震と津波の野外調査を行い,ニカラグアの太平洋海岸での震度と津波浸水高の分布図などを得た.沿岸の各集落での改正メルカリ震度階では震度2または3であって,まったく地震動による被害も生じず,揺れは気がつかない人も多数いるほど小さかった.これに対して,津波の浸水高は,南部海岸で100kmの長さにわたって,平均海水面上6~7mにも達したことが明らかとなり,今回の地震が1896年の明治三陸津波の地震と同様の,地震動が小さかった割に津波規模が異常に大きな「津波地震」であることが判明した.本震発生の直後の余震分布から判断すると,震源の広がりは,ニカラグアの太平洋側海岸線に平行に西北西.東南東に走る海溝軸にそった長さ約200km,幅約100kmの海域と判断される.津波の被害を生じたのもほぼこの震源域と相応した海岸区域であった.また地震波の解析からこの地震は,ココスプレートがニカラグア本土を載せたカリブプレートに沈み込む際の,両プレートの境界面でのずれのよって生じた低角の逆断層型の地震であることが判明しているが,ニカラグアの2ヵ所で得られた検潮記録,および引き波から始まったと各地で証言されている津波初動の傾向はこの地震メカニズムと調和的である.検潮記録,証言,および津波伝播の数値計算結果によると,津波は地震が発生して44~70分後に,まず小さな引き波が来て,その直後に大きな押し波が押し寄せるという形で海岸を襲った.沿岸各地では15分周期で2ないし3波継続したと証言されている.また津波の被害に関しては,浸水高が4mを越すと急激に人的被害が増加すること,津波による建築物の被害の割に死者数が少なかったこと,死者数のうち子どもの占める割合が大きいことが今回の津波被害の特徴であった.
著者
阿部 勝征
出版者
東京大学地震研究所
雑誌
東京大学地震研究所彙報 (ISSN:00408972)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.851-873, 1991-03-29

フィリピンのルソン島中部で1990年7月16日に発生した大地震(Mw7.6)について現地調査や波形解析を実施し,地震の発生機構を調べた.この地震はルソン島の地表に最大水平変位6mの地震断層を出現させた.それは島弧中央断層であるフィリピン断層系の一部である.地震断層の現地調査ではBongabonからRizar, Digdigを経てCapintalanまで実地踏査し,これらの地域を含めてDingalan湾よりImugan北方までを100km以上にわたってヘリコプターで上空より調査した.現地調査,地震波解析,余震データから得られたフィリピン地震の全体像は長大な左横ずれ断層運動である.断層面の走向は154°NE,傾斜角は76°Wであり,断層の長さは120km,幅は20km,断層面上での平均変位量は5.0mである.地震による横ずれ断層としては世界有数の規模である. TSKにおけるP波初動部分の変位記録は,震源での継続時間が約50秒あり,約10秒間の小さな立ち上がりに続いて2個の大きなサブイペントが約20秒の間隔で発生したことを示唆する.ラ・ウニオン州のルナで約2mの高さの津波が発生したが,局地的なもので,液状化に伴って生じたとみられる. 17日に発生した最大余震(Mw6.4)は逆断層運動によるもので,主断層運動の東側のブロックが断層の北端付近を圧縮したために起きたと考えられる.