著者
金山 範明 大隅 尚広 大平 英樹 飯高 哲也 開 一夫
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.50-63, 2011 (Released:2011-09-07)
参考文献数
31

Intact face perception is an important function for individual identification in highly socialized human community. Recent studies revealed that there are hereditary individual differences on the cognitive skills related to face identification, named congenital⁄hereditary prosopagnosia. The investigation on the congenital⁄hereditary prosopagnosia would advance our understanding of the face identification mechanism, however, has not been conducted with Japanese samples. The development of the Japanese version of the congenital⁄hereditary prosopagnosia screening scale is the first step of the congenital⁄hereditary prosopagnosia study in Japan. In this study, we attempted the translation of the original screening scale into Japanese, and also investigated the relationship between the score of scale and behavioral⁄physiological responses on face stimuli. As a result, we found highly internal consistency and test-retest reliability for the Japanese version of the congenital⁄hereditary prosopagnosia screening scale. Also we have revealed the score was related to some behavioral performances and ERP responses related to the self-face perception.
著者
飯高 哲也 中井 敏晴 定藤 規弘 二橋 尚志
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

社会的コミュニケ-ション機能の低下などを含む自閉性傾向は、健常者と疾患の間で連続性があることが知られている。このようなこころの働きの脳機能および脳形態的基盤を研究することは、自閉性障害の理解に貢献するものである。このために機能的磁気共鳴画像(fMRI)と拡散テンソル画像(DTI)を30名の被験者で行い、同時に自閉性尺度であるAutism-Spectrum Quotient(AQ)も施行した。顔認知に特異的な扁桃体と上側頭回の領域をfMRIで同定し、それらの領域を結ぶ神経線維をDTIで描出した。この神経線維の体積は被験者のAQ得点と有意な正の相関(Spearman rank order correlation,ρ=0. 38, p<0. 05)があった。この結果は健常者の中でも自閉性傾向の強い者は、顔認知に関わる脳領域間の結合性が高まっている可能性を示唆している。
著者
飯高 哲也
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.737-742, 2012-07-01

はじめに 本総説では顔認知に関わる脳領域を,機能的磁気共鳴画像(functional magnetic resonance imaging:fMRI)による脳賦活検査で調べた研究について述べる。fMRIは脳血流の変化をblood-oxygen-level-dependent(BOLD)コントラストとして計測し画像化する手法で,1990年にOgawaら1)が世界で最初に報告した技術である。この手法を用いた脳賦活検査により,脳機能を非侵襲的かつボクセル単位で計測することが可能になった。また,計測された脳画像を扱う解析ソフトウェアの技術的進歩も目覚ましいものがある。脳賦活検査の基本的手法は,認知的差分法(cognitive subtraction)といわれるものである。これはある精神状態とほかの精神状態でそれぞれ脳画像を取った場合,2枚の差分画像には2つの精神状態の差異が反映されているという理論である。この方法は神経細胞の応答を直接測定しているものではないが,非侵襲性という点において現在の神経科学領域では欠かせない実験方法となっている2)。 顔認知に関わる脳機能は,顔自体に対する反応,表情の認識に関わる反応,顔の動きに対する反応,顔の記憶や有名人顔に対する反応など広範囲にわたっている。最近では顔の印象や信頼できるかどうかなど,顔認知の社会的側面への興味も広がっている。研究対象となる脳領域も後頭葉,側頭葉,前頭葉,辺縁系などにわたっている。したがって,脳全体の活動を比較的自由に計測することができるfMRIは,このような研究目的には最適な手法といえる。本稿では顔に対する脳内の反応を,主に側頭葉外側面に位置する上側頭溝(superior temporal sulcus:STS)の活動として計測した研究について代表的なものを取り上げる。この領域は顔認知の中でも,視線の向きや表情の変化などに関係していることが知られている3)。またfMRIが普及する以前からサルの実験では,顔に対するSTS領域の神経応答が積極的に調べられていた4)。STSの働きを多面的に論じた総説では,この領域が運動知覚,言語処理,心の理論,聴覚視覚統合,顔認知のそれぞれに関係していると述べられている5)。STSを左右半球と前半・後半の4領域に分けて認知機能との関係を調べた結果では,左前半は言語処理に,左後半は顔認知と聴覚視覚統合に,右前半は言語処理に,右後半は顔認知と運動知覚にそれぞれ関係していた。 このようなSTSの多機能性は,STSと同時に活動が亢進する脳領域が広範囲にわたることと関連している5)。すなわち,STS後半部は同時に紡錘状回などの賦活を伴うことで顔認知処理を遂行し,一方MT/V5領域の活動を伴うことで運動知覚処理を遂行するということである。最近では心の理論に関わるミラー・ニューロン・システムへの情報入力が,STSを通じて行われていると考えられている6)。本総説ではSTSの機能を顔認知に限って論考し,STSの前部・後部による機能差についても検討する。本総説が医学,心理学,教育学など広い領域の読者において,顔認知研究に対する理解を深めることに役立てば幸いである。また本論文はメタ解析の手法を用いたものではなく,必ずしも該当するすべての研究報告を網羅してはいない。紡錘状回(fusiform face area:FFA)や扁桃体(amygdala)などの活動も顔認知には重要であるが本総説では触れないこととする。
著者
金山 範明 大隅 尚広 大平 英樹 飯高 哲也 開 一夫
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 = Cognitive studies : bulletin of the Japanese Cognitive Science Society (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.50-63, 2011-03-01
参考文献数
31

Intact face perception is an important function for individual identification in highly socialized human community. Recent studies revealed that there are hereditary individual differences on the cognitive skills related to face identification, named congenital&frasl;hereditary prosopagnosia. The investigation on the congenital&frasl;hereditary prosopagnosia would advance our understanding of the face identification mechanism, however, has not been conducted with Japanese samples. The development of the Japanese version of the congenital&frasl;hereditary prosopagnosia screening scale is the first step of the congenital&frasl;hereditary prosopagnosia study in Japan. In this study, we attempted the translation of the original screening scale into Japanese, and also investigated the relationship between the score of scale and behavioral&frasl;physiological responses on face stimuli. As a result, we found highly internal consistency and test-retest reliability for the Japanese version of the congenital&frasl;hereditary prosopagnosia screening scale. Also we have revealed the score was related to some behavioral performances and ERP responses related to the self-face perception.
著者
飯高 哲也 定藤 規弘
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

健常者におけるストレス刺激への反応性を、機能的磁気共鳴画像(fMRI)と脳賦活検査を用いて研究した。顔刺激と不快な音声刺激を組み合わせ、新奇な嫌悪条件づけ課題を作成してfMRI実験を行った。学習に伴う扁桃体の反応が、一過性に上昇することが分かった。この結果は日常的な視覚と聴覚刺激によって、扁桃体を介した嫌悪条件づけが行われることを示している。日本人が日本人の笑顔を見ている時の脳活動を計測し、後部帯状回が同じ人種の表情認知に関わっていることを発表した。その他にMRIによって計測された扁桃体の体積と、気質の1つである損害回避傾向が関連していることを示した。
著者
定藤 規弘 岡沢 秀彦 小坂 浩隆 飯高 哲也 板倉 昭二 小枝 達也
出版者
生理学研究所
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2009-05-11

「向社会行動は、自他相同性を出発点として発達し、広義の心の理論を中心とした認知的社会能力を基盤として、共感による情動変化ならびに、社会的報酬により誘導される」との仮説のもと、他者行為を自己の運動表象に写像することにより他者行為理解に至るという直接照合仮説を証明し、2個体同時計測fMRIシステムを用いて間主観性の神経基盤を明らかにした。自己認知と自己意識情動の神経基盤並びに自閉症群での変異を描出したうえで、向社会行動が他者からの承認という社会報酬によって動機づけられる一方、援助行動に起因する満足感(温情効果)共感を介して援助行動の動因として働きうることを機能的MRI実験により示した。
著者
飯高 哲也 定藤 規弘
出版者
名古屋大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

情動写真や表情に反応する扁桃体の活動が、遺伝子多型や文化的背景により影響を受けるかどうかを調べた。日本人、日系アメリカ人、白人系アメリカ人の3群を被験者としてfMRI実験を行った。同時に遺伝子解析のための血液採取と、性格傾向質問紙(NEO)調査も行った。NEOによる神経症傾向は、白人系アメリカ人と比較して日本人で有意に値が高かった。扁桃体の活動は、日本人で日系アメリカ人及び白人系アメリカ人と比較して有意に高い活動を示した。現在はセロトニントランスポーター(5-HTTLPR)多型を米国において調べており、その多型に基づいて結果を再解析している。社会感情神経科学研究会と題した講演会を主催し、その中で本研究結果が発表された。情動の生成に関わる扁桃体と前頭前野の関係を、顔と声を用いた嫌悪条件づけ課題とfMRIを用いて研究した。24名の日本人被験者のデータを解析した結果、扁桃体の活動は開始早期に一過性に上昇するが前頭前野は実験を通して賦活されていた。米国の共同研究先で5-HTTLPR多型を調べ、その多型に基づいてfMRIデータを再解析した。ストレスに脆弱性があるとされるs/s型被験者では、条件づけに伴う前頭葉の活性が有意に低下していることを示した。社会性に関わる認知機能として、自分が成育した環境と類似した風景に対する学習・記憶の実験を行った。ここでは日本と米国(国籍)、都市と田舎(場所)という2要因を含んだ風景写真のfMRI記憶実験を行った。米国のNortbwestern大学では白人被験者を対象とした実験が終了しており、当方では16人の日本人被験者を対象としたデータ収集を行った。同時に被験者から得られた血液サンプルからDNAを抽出し、BDNF多型を調べている。白人被験者のデータ解析では、海馬および海馬傍回の活動が認められている。今後は国籍やBDNF多型の脳活動に与える影響を検討する予定である!