- 著者
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大隅 尚広
- 出版者
- 名古屋大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2008
これまでの研究において,他者からの不公正な金銭の分配を受け入れて利得を得るか,それとも拒絶して互いの利得をゼロにするかという意思決定場面(最後通牒ゲーム)におけるサイコパシー特性の影響を検討した結果,サイコパシーの利己性が高い個人は不公正を受諾する傾向が高いことが示された。この課題における不公正の拒絶は非合理的であるが,公正規範を犯した他者への罰,あるいは公正性の回復(不平等への嫌悪反応)としての意味があると考えられる。そこで,他者への罰の動機を検討するため,他者が意図的に不平等な分配を行った条件と,他者が意図せずに分配金額が不平等になってしまった条件における意思決定を比較した。その結果,実験参加者の拒否率は意図の有無という要因では変わらず,サイコパシーの影響のみが見られた。つまり,これまでの実験における拒否行動には罰の動機は含まれず,不平等への嫌悪反応を基盤としている可能性が示唆された。そして,このことから,サイコパシーによる拒否率の低下は嫌悪反応の低下であるということが推測される。また,この結果は,脳神経イメージングを行った前年の実験の結果,すなわち,嫌悪感情の脳表象であると考えられている前部島皮質が拒否率と相関すること,そしてサイコパシーによって前部島皮質の活動が低下することと整合性をもつ。また,イメージングの結果をさらに解析すると,サイコパシー傾向による前部島皮質の活動の低下が扁桃体の活動の低下と機能的に関連することが明らかになった。つまり,サイコパシーによって不公正が受諾される背景には扁桃体の機能低下の関与が示唆され,サイコパシーの扁桃体の機能低下説を支持した。この結果は,日本パーソナリティ心理学会第19回大会にてポスター発表された。また,国際学術雑誌に投稿予定となっている。