著者
脇本 仁奈 松尾 浩一郎 河瀬 聡一朗 岡田 尚則 安東 信行 植松 紳一郎 藤井 航 馬場 尊 小笠原 正
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.11-16, 2010-04-30 (Released:2020-06-26)
参考文献数
12

【目的】頸部回旋法は,頭を麻痺側に回旋して嚥下することで,嚥下後の咽頭残留を軽減させる摂食・嚥下代償法のひとつである.しかし,頸部を回旋した状態で長い時間食事をとるという姿勢は,身体へ負担がかかる可能性がある.そのため,頸部回旋の有効性を残したままで,できる限り摂食しやすい姿勢が望まれる.今回われわれは,若年健常者において,どの程度の頸部回旋角度から咽頭嚥下時の食物通過側に変化があるか検討した.【対象と方法】摂食・嚥下障害のない健常若年成人30 名(平均26 歳)を対象とした.被験者がバリウムを嚥下するときの頸部回旋角度を,正面位と左右各15 度,30 度,45 度および最大回旋位の合計9 角度に設定した.被験者が3 ml の液体バリウムを嚥下するところをVF 正面像にて撮影,記録した.デジタル化されたVF 映像上で,下咽頭での回旋側のバリウム通過の有無を同定した.各頸部回旋角度で,回旋側下咽頭をバリウムが通過した人の割合を比較検討した.【結果】正面位では,全例で両側をバリウムが通過していたが,頸部回旋角度が増すと,回旋側通過の割合が減少した.30度頸部回旋でのバリウムの回旋側下咽頭通過の割合は,右側回旋23%(7名/ 30名),左側回旋40%(12 名/ 30 名)と有意な減少を認めた(p<0.01).最大まで頸部を回旋すると,右側回旋1 名,左側回旋4 名のみで,バリウムが回旋側を通過していた.【結論】今回の検討より,頸部回旋が30 度以上になると,バリウムが回旋側下咽頭を通過した人の割合が有意に減少することが明らかになった.摂食・嚥下障害者への姿勢代償法は,必要十分な安全性をもち,かつできるだけ楽な摂食姿勢が望ましい.頸部回旋法の有用性は,通常VF や経鼻内視鏡を用いて決定される.今回の検討より,頸部回旋の有用性を確認するときには,30 度程度の回旋からその有効性を確かめてみる価値があることが示唆された.
著者
小口 和代 才藤 栄一 水野 雅康 馬場 尊 奥井 美枝 鈴木 美保
出版者
The Japanese Association of Rehabilitation Medicine
雑誌
リハビリテーション医学 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.375-382, 2000-06-18 (Released:2009-10-28)
参考文献数
19
被引用文献数
67 117

機能的嚥下障害スクリーニング法として,「反復唾液嚥下テスト」(the Repetitive Saliva Swallowing Test: RSST)を考案した.30秒間の平均空嚥下回数は若年者(N=30)で7.4回,高齢者(N=30)で5.9回,30秒間の平均人工唾液嚥下回数は若年者で7.7回,高齢者で6.2回であった.空嚥下,人工唾液嚥下ともに高齢者は若年者より有意に嚥下回数が少なかった.一方,若年者,高齢者それぞれの空嚥下と人工唾液嚥下の嚥下回数には有意差を認めなかった.嚥下運動の確認は喉頭挙上の触診で可能であった.高齢者の積算嚥下時間(検査開始から嚥下完了時点までの時間)上限より,RSST 2回/30秒間以下が嚥下障害のスクリーニング値として設定できた.
著者
小口 和代 才藤 栄一 馬場 尊 楠戸 正子 田中 ともみ 小野木 啓子
出版者
社団法人日本リハビリテーション医学会
雑誌
リハビリテーション医学 : 日本リハビリテーション医学会誌 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.383-388, 2000-06-18
参考文献数
10
被引用文献数
36

131名の機能的嚥下障害患者の「反復唾液嚥下テスト」(the Repetitive Saliva Swallowing Test: RSST)と嚥下ビデオレントゲン造影(videofluorography : VF)所見を比較し,RSSTの妥当性を検討した.RSSTはVF所見と相関が高く,カットオフ値として3回/30秒間が妥当であると思われた.誤嚥の有無の判別に関する感度と特異度は,0.98,0.66と,感度が非常に高かった.摂食・嚥下障害の診断・評価としては,まずRSSTでスクリーニングを行い,3回/30秒間未満の場合はさらに詳細な病歴,身体所見をとり,必要と判断されればVFを行い,治療方針を決定するのが適当である.
著者
小口 和代 才藤 栄一 馬場 尊 楠戸 正子 田中 ともみ 小野木 啓子
出版者
The Japanese Association of Rehabilitation Medicine
雑誌
リハビリテーション医学 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.383-388, 2000-06-18 (Released:2009-10-28)
参考文献数
10
被引用文献数
55 115

131名の機能的嚥下障害患者の「反復唾液嚥下テスト」(the Repetitive Saliva Swallowing Test: RSST)と嚥下ビデオレントゲン造影(videofluorography:VF)所見を比較し,RSSTの妥当性を検討した.RSSTはVF所見と相関が高く,カットオフ値として3回/30秒間が妥当であると思われた.誤嚥の有無の判別に関する感度と特異度は,0.98,0.66と,感度が非常に高かった.摂食・嚥下障害の診断・評価としては,まずRSSTでスクリーニングを行い,3回/30秒間未満の場合はさらに詳細な病歴,身体所見をとり,必要と判断されればVFを行い,治療方針を決定するのが適当である.
著者
戸原 玄 才藤 栄一 馬場 尊 小野木 啓子 植松 宏
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.196-206, 2002-12-30 (Released:2020-08-20)
参考文献数
38
被引用文献数
1

現在,摂食・嚥下障害の評価法では嚥下ビデオレントゲン造影(Videofluorography;以後VF)が gold standardとして広く認知されている.VFは誤嚥の有無のみならず嚥下関連器官の形態・機能異常すなわち静的および動的異常を観察でき,信頼性の高い摂食・嚥下障害の診断を可能とする有用な検査法であり,設備を持つ施設においては摂食・嚥下障害が疑われる患者に対しほぼルーチンに行われている.しかし実際にはVFに必要な設備を持たない施設は多く,問題があれば経管栄養を選択せざるを得ず,摂食・嚥下障害の評価,対応が適切になされているとは言い難い.このため,医療,福祉の現場からはVFを用いない簡便な臨床的検査法を求める声が高かった.平成11年度厚生省長寿科学研究「摂食・嚥下障害の治療・対応に関する統合的研究(主任研究者:才藤栄一)」において,改訂水飲みテスト,食物テスト,および嚥下前・後レントゲン撮影といった臨床検査の規格化とそれらを組み合わせたフローチャート,および摂食・嚥下障害の重症度分類が作成された.何らかの摂食・嚥下障害を訴えた63名の患者に対し,VFと各臨床検査を行い,食物を用いた直接訓練開始レベルの判定が本フローチャートにより可能であるかについて,実際のVF結果との比較検討を行った.各臨床的検査のカットオフ値は妥当であり,フローチャートの感度,特異度,陰性反応的中度,一致率は極めて高かった.よって直接訓練開始可能レベルの判定において,フローチャートは有用であると考えられた.また安全性も高く特にVFを持たない施設において有用であると結論できた.
著者
脇本 仁奈 松尾 浩一郎 河瀬 聡一朗 隅田 佐知 植松 紳一郎 藤井 航 馬場 尊 小笠原 正
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.3-11, 2011 (Released:2011-12-14)
参考文献数
14
被引用文献数
1

頸部回旋法の液体嚥下時の有効性についての報告はあるが, 食物咀嚼時の嚥下前の食物通過への影響は明らかになっていない。また, どの程度の頸部回旋角度が代償手技として有効であるかは不明である。今回われわれは, 咀嚼嚥下時に頸部回旋角度を変化させ, 嚥下までの咽頭での食物通過側の変化について検討した。若年健常者22名が頸部回旋し, 液体バリウム5 mlとコンビーフ4 gを同時に摂食した時の咽頭での食物の流れを経鼻内視鏡にて記録した。頸部回旋角度は, 正中, 左右各30度, 最大回旋位の5角度とした。嚥下までの舌根部, 喉頭蓋谷部, 下咽頭部での食物先端の流入側および嚥下咽頭期直前の咽頭での食物の分布を同定し, 食物通過の優位側について解析した。喉頭蓋谷部では, 頸部回旋側の食物通過の割合が増加する傾向がみられた一方で, 下咽頭部では非回旋側での食物通過の割合が増加する傾向を示した。嚥下開始直前でも, 食物は, 喉頭蓋谷部では回旋側と正中部に多く存在していたが, 下咽頭では非回旋側に多く認めた。頸部回旋角度は30度と最大回旋で, 食物通過経路に有意差はなかった。食物咀嚼中, 頸部回旋すると喉頭蓋谷までは回旋側へ優位に流入するが, 頸部回旋による物理的な下咽頭閉鎖により, 食物が下咽頭へと侵入するときには反対側へと経路を変えることが示唆された。さらに, 姿勢代償法として頸部回旋法は, 最大回旋位まで頸部を回旋する必要性がない可能性が示された。
著者
小口 和代 才藤 栄一 水野 雅康 馬場 尊 奥井 美枝 鈴木 美保
出版者
社団法人日本リハビリテーション医学会
雑誌
リハビリテーション医学 : 日本リハビリテーション医学会誌 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.375-382, 2000-06-18
被引用文献数
51

機能的嚥下障害スクリーニング法として,「反復唾液嚥下テスト」(the Repetitive Saliva Swallowing Test: RSST)を考案した.30秒間の平均空嚥下回数は若年者(N=30)で7.4回,高齢者(N=30)で5.9回,30秒間の平均人工唾液嚥下回数は若年者で7.7回,高齢者で6.2回であった.空嚥下,人工唾液嚥下ともに高齢者は若年者より有意に嚥下回数が少なかった.一方,若年者,高齢者それぞれの空嚥下と人工唾液嚥下の嚥下回数には有意差を認めなかった.嚥下運動の確認は喉頭挙上の触診で可能であった.高齢者の積算嚥下時間(検査開始から嚥下完了時点までの時間)上限より,RSST 2回/30秒間以下が嚥下障害のスクリーニング値として設定できた.
著者
岡田 澄子 才藤 栄一 飯泉 智子 重田 律子 九里 葉子 馬場 尊 松尾 浩一郎 横山 通夫 Jeffrey B PALMER
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.148-158, 2005-08-31 (Released:2020-12-26)
参考文献数
15

嚥下肢位として広く使用されているChin downを機能解剖学的肢位と関連づけることを目的に,摂食・嚥下障害を扱っている日本の言語聴覚士34名を対象に郵送と電子メールでアンケート調査した.回収率は88% (30名).1)Chin downの日本語名称は「顎引き」57%,「頚部前屈位」20%など様々で5通りの呼称があった.回答者の臨床経験年数,取り扱い患者数による傾向の違いはなかった.2)Chin downとして5つの頭頚部の機能解剖学的肢位像からの選択では,頭屈位53%,頚屈位30%,複合屈曲位17%の3肢位像が選択された.3)5つの頭頚部肢位像の呼称としては,肢位像おのおのが複数の名称で呼ばれ,逆に同じ呼称が複数の肢位像に対して重複して用いられ,1対1に対応させることが困難であった.4)Chin downに比べChin tuckという名称は知られていなかった.5)回答者のコメントとして「名称や肢位の違いは意識していなかった」などの感想があった.これらの結果は,Chin down肢位が機能解剖学的肢位としては極めて不明瞭に認識され,かつ,多数の異なった解釈が存在していることを意味した.Chin downをめぐっては,実際,その効果についていくつかの矛盾した結果が争点となっている.以上のアンケート結果は,その背景として様々な呼称と種々の定義が存在し,多くの混乱が存在する現状をよく反映していた.混乱の原因として,1)肢位が専ら俗称による呼称を用いて論じられ,また,具体的操作として定義されてきた,2)頭頚部肢位の運動が主に頭部と頚部の2通りの運動で構成されているという概念が欠如していた,3)訳語を選択する際に多様な解釈が介在した,などが重要と考えられた.今後,Chin downを機能解剖学的に明確に定義したうえで,その効果を明らかにしていく重要性が結論された.
著者
寺本 洋一 馬場 尊 才藤 栄一 太田 喜久夫
出版者
社団法人日本リハビリテーション医学会
雑誌
リハビリテーション医学 : 日本リハビリテーション医学会誌 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, 2003-03-18

健常成人8人(平均35.6歳)を対象に,息こらえによる酸素分圧の低下が酸素飽和度に反映されるかを検証した.実測値の測定は最大吸気から約1,2,3l/呼気し息こらえを開始し,パルスオキシメーターにて安静時,20,40,60秒後,最低の酸素飽和度を測定,息止め時間も記録した.理論値の測定は,Borenの残気量予測式等を用い,肺胞内空気の酸素消費に着目し算出した.実測値と理論値の比較で最高(R=0.85)の相関を認めた.実測値と予測値には10〜20秒のタイムラグがあり,約10〜20秒後の実測値において,予測値とほぼ同値の酸素飽和度が認められた.肺胞壁内毛細血管から上肢末梢血管まで血液が循環するのに必要な時間を考慮する必要があった.予測値と20秒後の実測値の相関をみると最高R=0.81の相関を認めた.各症例の酸素飽和度低下度と各パラメーターとの相関では高年齢,肥満,低肺活量,低活動性,smoking index高値の症例において酸素飽和度低下の傾向が著しいことが示唆された.
著者
尾﨑 研一郎 馬場 尊 中村 智之 稲葉 貴恵 川島 広明 中島 明日佳 福井 友美 間々田 浩明 黒後 祐美 中里 圭佑 堀越 悦代 寺中 智 加藤 敦子 亀山 登代子 川﨑 つま子 水口 俊介
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.225-236, 2018-12-31 (Released:2019-04-30)
参考文献数
37

【目的】今回,病棟専属の常勤歯科医師,歯科衛生士が急性期病棟の看護師とリハビリテーション科が参加する肺炎予防システムを構築した.本研究では,急性期脳卒中患者に対する本システムの効果について,入院中の肺炎発症と退院時の経口摂取不能の観点から調査した.【方法】肺炎予防システムは病棟の全患者に対する看護師による口腔アセスメントと口腔衛生管理の標準化,歯科依頼手順,リハビリテーション科による摂食嚥下評価の情報共有からなる.対象は,当院に入院した脳卒中患者のうち,肺炎予防システム導入前の2012年4月から2013年3月に関わった234人(男性127人,女性107人,平均年齢72±13歳)と肺炎予防システム定着後の2014年4月から2015年3月に関わった203人(男性107人,女性96人,平均年齢74±11歳)とした . 診療録とThe Japanese Diagnosis Procedure Combinationデータベース,リハビリテーション科と歯科内で運用している患者臨床データベースより入院時の属性と帰結について調査し,導入前と定着後について解析を行った.【結果】定着後群は,導入前群よりも重度な症例が多かった.肺炎発症は,導入前群15%,定着後群8%であった.ロジスティック回帰分析において,導入前群の肺炎発症は定着後群の肺炎発症と比較してオッズ比2.70(95% CI 1.17―6.21, p=0.020)であった.肺炎予防システムのほかに肺炎発症と有意に関連したのは,入院時の意識レベルと,初回評価時の摂食嚥下障害の重症度であった.退院時の経口摂取可能例の割合については導入前群と定着後群の間で変化を認めなかったが,導入前群より重度であった定着後群に対し経口摂取の割合を減らさなかった.【結論】肺炎予防システムは,肺炎予防と経口摂取維持に効果が認められた.これは,急性期病棟の看護師,歯科,リハビリテーション科が,患者の状態を共有したうえで専門的介入ができたことによる結果と考えられる.
著者
前島 伸一郎 種村 純 重野 幸次 長谷川 恒雄 馬場 尊 今津 有美子 梶原 敏夫 土肥 信之
出版者
社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
リハビリテーション医学 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.123-130, 1992-02-18 (Released:2009-10-28)
参考文献数
22
被引用文献数
3 2 5

言語訓練をうけることができなかった脳血管障害による失語症患者30例を対象に,失語症状の自然経過を経時的に評価し,年齢,性,原因疾患,失語症タイプ等との関係を検討した,言語理解は,健忘型で3ヵ月まで改善を認め,他のタイプでは6ヵ月以降にも改善を認めた.発話は,健忘型で3ヵ月まで,表出型,受容型では6ヵ月以降にも改善を認めた.表出-受容型は初期よりほとんど改善を認めなかった.書字は表出-受容型を除くすべてのタイプで3~6ヵ月以降にも改善を認めたが,表出-受容型では初期より改善を認めなかった.重度の失語症では,非訓練例は訓練例のような改善を認めないため,体系的な言語訓練が必要と思われた.