著者
鳶島 修治
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.75-86, 2010-07-16 (Released:2014-02-07)
参考文献数
16

本論文では,Basil Bernsteinの〈教育〉言説論を援用し,教育評価と〈学力保障〉のポリティクスという観点から,「全国学力テストの悉皆実施はいかにして正当化されたのか」という問題について検討した.わが国で2007年度に開始された全国学力テストの実施方法をめぐっては,個々の児童生徒のテスト結果を日常的な教育実践の改善に活用することを通じて〈学力保障〉を達成することを目的とし、その悉皆実施を主張する立場があったが,これに対して,中教審義務教育特別部会の場では,学校間の序列化や得られるデータの歪みといった悉皆実施の弊害が指摘されていた.他方で,後に設置された全国学力テストに関する専門家検討会議における議論を通して,全国学力テストには,PISA型の「活用」問題の導入に象徴されるように,教育課程実施状況調査をはじめとする既存の学力調査とは性格の異なる調査内容が設けられることとなった.一面において,それは前述した立場から主張された全国学力テストの悉皆実施を正当化するための方策として理解されうる.このことはまた,全国学力テスト悉皆実施の主張を支えている「教育評価を通じた〈学力保障〉」という理念が調査内容を規定するという関係の存在を示している.
著者
鳶島 修治
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.374-389, 2014 (Released:2015-12-31)
参考文献数
33

本稿の目的は, 学業面の主観的能力を表す「学力に関する自己認知」 (以下, 学力自己認知) という媒介変数の役割に着目した検討をとおして, 現代日本における教育達成の男女間格差・階層間格差の因果的メカニズムの解明に貢献することである. この目的を達するため, 学力自己認知の指標として学業的自己概念と学業的自己効力感を使用し, 「高校生の教育期待に対する性別と出身階層の影響を学力自己認知が媒介する」という仮説の検証を行った. PISA2003の日本調査データを用いて固定効果モデルによる分析を行った結果, (1) 男子は女子よりも教育期待が高く, 出身階層が高いほど教育期待は高いこと, (2) 数学の学力を統制したうえでも男子は女子に比べて数学の自己概念・自己効力感が高いこと, (3) 出身階層が高いほど数学自己効力感は高いこと, (4) 数学自己効力感は教育期待に対して数学の学力とは独立した正の効果をもつことが示された. (5) また, Sobel testによる間接効果の検定を行ったところ, 数学自己効力感を媒介した性別と出身階層の間接効果はいずれも有意であり, 「教育期待に対する性別と出身階層の影響を学力自己認知が媒介する」という仮説は数学自己効力感に関して支持された. 現代日本における教育達成の男女間格差・階層間格差の生成メカニズムを考えるうえでは, 学力自己認知 (特に学業的自己効力感) という媒介変数の役割に注目する必要がある.
著者
鳶島 修治
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.374-389, 2014

本稿の目的は, 学業面の主観的能力を表す「学力に関する自己認知」 (以下, 学力自己認知) という媒介変数の役割に着目した検討をとおして, 現代日本における教育達成の男女間格差・階層間格差の因果的メカニズムの解明に貢献することである. この目的を達するため, 学力自己認知の指標として学業的自己概念と学業的自己効力感を使用し, 「高校生の教育期待に対する性別と出身階層の影響を学力自己認知が媒介する」という仮説の検証を行った. PISA2003の日本調査データを用いて固定効果モデルによる分析を行った結果, (1) 男子は女子よりも教育期待が高く, 出身階層が高いほど教育期待は高いこと, (2) 数学の学力を統制したうえでも男子は女子に比べて数学の自己概念・自己効力感が高いこと, (3) 出身階層が高いほど数学自己効力感は高いこと, (4) 数学自己効力感は教育期待に対して数学の学力とは独立した正の効果をもつことが示された. (5) また, Sobel testによる間接効果の検定を行ったところ, 数学自己効力感を媒介した性別と出身階層の間接効果はいずれも有意であり, 「教育期待に対する性別と出身階層の影響を学力自己認知が媒介する」という仮説は数学自己効力感に関して支持された. 現代日本における教育達成の男女間格差・階層間格差の生成メカニズムを考えるうえでは, 学力自己認知 (特に学業的自己効力感) という媒介変数の役割に注目する必要がある.
著者
鳶島 修治
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.104, pp.201-225, 2020-02-21 (Released:2021-09-24)
参考文献数
42

本稿では、二〇一五年に実施された「国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)」の日本調査データを用いて、小学四年生の子どもをもつ母親の教育期待の規定要因について検討した。その際、教育期待形成における「準拠集団」としての学校の影響に注目し、学校平均学力と学校SEC(保護者の大卒割合)の効果を検証した。母親の教育期待(子どもに大学進学を期待しているかどうか)を従属変数とするマルチレベル分析の結果として、子どもの学力が高いほど母親は大学進学を期待しやすいこと、母親は子どもが女子の場合よりも男子の場合に大学進学を期待しやすいこと、母親または父親の学歴や職業的地位が高いほど母親は子どもに大学進学を期待しやすいことが確認された。また、母親の教育期待に対する学校平均学力の効果については明確な結果が得られなかったものの、学校SECの効果に関しては、子どもが女子の場合には学校単位でみた母親の大卒割合が、子どもが男子の場合には学校単位でみた父親の大卒割合がそれぞれ有意な正の効果をもっていた。この結果は、子どもと同じ学校に通う児童の保護者たちが母親の教育期待形成における準拠集団としての役割を担っていること、同時に、母親の教育期待形成における準拠集団の選択が子どもの性別という要因に依存していることを示唆するものである。
著者
鳶島 修治
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.374-389, 2014

本稿の目的は, 学業面の主観的能力を表す「学力に関する自己認知」 (以下, 学力自己認知) という媒介変数の役割に着目した検討をとおして, 現代日本における教育達成の男女間格差・階層間格差の因果的メカニズムの解明に貢献することである. この目的を達するため, 学力自己認知の指標として学業的自己概念と学業的自己効力感を使用し, 「高校生の教育期待に対する性別と出身階層の影響を学力自己認知が媒介する」という仮説の検証を行った. PISA2003の日本調査データを用いて固定効果モデルによる分析を行った結果, (1) 男子は女子よりも教育期待が高く, 出身階層が高いほど教育期待は高いこと, (2) 数学の学力を統制したうえでも男子は女子に比べて数学の自己概念・自己効力感が高いこと, (3) 出身階層が高いほど数学自己効力感は高いこと, (4) 数学自己効力感は教育期待に対して数学の学力とは独立した正の効果をもつことが示された. (5) また, Sobel testによる間接効果の検定を行ったところ, 数学自己効力感を媒介した性別と出身階層の間接効果はいずれも有意であり, 「教育期待に対する性別と出身階層の影響を学力自己認知が媒介する」という仮説は数学自己効力感に関して支持された. 現代日本における教育達成の男女間格差・階層間格差の生成メカニズムを考えるうえでは, 学力自己認知 (特に学業的自己効力感) という媒介変数の役割に注目する必要がある.
著者
鳶島 修治
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.75-85, 2016-12-26 (Released:2018-09-25)
参考文献数
22

本稿では,2006年にベネッセコーポレーションが実施した「学習に関する意識・実態調査」と「学力実態調査」のマッチングデータを用いて,中学2年生の進学期待に対する出身階層の影響が「学力自己評価」という主観的要因によって媒介されているかどうかを検討した.成績自己評価と「がんばればとれると思う成績」という2つの指標に着目して「学力自己評価」を測定し,「出身階層→学力自己評価→進学期待」という媒介メカニズムについて検討した結果,以下の知見が得られた.第1に,ペーパーテストで測定された学力を一定とした上でも,大卒の父親をもつ生徒は成績自己評価が高い傾向がある.第2に,学力と成績自己評価を一定とした上でも,大卒の母親をもつ生徒は「がんばればとれると思う成績」が高い傾向がある.第3に,進学期待に対して成績自己評価や「がんばればとれると思う成績」が(学力とは独立に)影響を与えている.第4に,進学期待に対する出身階層(父親と母親の学歴)の効果の一部が成績自己評価と「がんばればとれると思う成績」という主観的な要因によって媒介されている.この結果から,現代日本において「出身階層→学力自己評価→進学期待」という媒介メカニズムが存在していることが示唆される.ただし,学力に加えて「学力自己評価」による媒介を考慮した上でも,進学期待に対する出身階層(父親と母親の学歴)の(直接)効果は残ることが確認された.
著者
鳶島 修治
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.91-101, 2012-07-14 (Released:2014-03-26)
参考文献数
25
被引用文献数
1

本論文では,現代日本における教育期待の形成メカニズムの特徴を明らかにすることを目的として,中等教育段階における選抜と差異化の面で日本とは性格の異なる教育システムをもつアメリカおよびオランダとの比較検討を行う.日本では高校進学時に異なるタイプ・ランクの学校への進路分化が生じるが,本論文で対象とする中学2年生はこの選抜と進路分化をまだ経験しておらず,それゆえに国際比較の視点から見た日本の位置づけは明確でない.TIMSS2003のデータを用いた分析から,教育期待に対する学力の効果には日本とオランダの間に差が見られず,アメリカではこれら二カ国に比べて弱いこと,他方で,教育期待への出身階層の影響力は三カ国間でほぼ同程度であることが明らかになった.教育期待に対する学力の影響という面では,開放的な中等教育システムをもつアメリカよりも,むしろ「高度に差異化された教育システム」をもつオランダとの間に日本との共通性が見出される.近年のわが国では学力面での大学進学の制約が弱まりつつあるという見方もあるが,国際的に見ると,日本における教育期待の形成は現在でも学力の影響の大きさによって特徴づけられる.
著者
鳶島 修治
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.95, pp.1-23, 2015-01-30 (Released:2022-02-06)
参考文献数
20

一九九〇年代前後の教育改革を主導する理念として提起された「新学力観」のもとでは、児童・生徒の「個性」や「主体性」、「創造性」の伸長が目標とされた。そこでは知識を「教え込む」従来の授業方法が否定的に捉えられ、教師には「支援者」として児童・生徒の主体的な学習に関与することが要請されるようになった。本論文では、こうした新学力観にもとづく授業方法の転換が中学生の学力や学力の階層差とどのように関連しているのかを検討する。二〇〇三年に実施された「国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)」の日本調査データを用いてマルチレベル分析による検討を行った結果、生徒の学力水準や学力の階層差の大きさと学級レベルでの授業方法との間には明確な関連が見られないこと、先行研究で指摘されていた学力と授業方法の関連は、同じ学級に所属している生徒間での各タイプの授業の頻度に関する認識の相違に起因するものであることが示された。これまで、新学力観にもとづく教育改革によって学力の階層差の拡大がもたらされる可能性がたびたび指摘されてきたが、本論文の分析結果はこのような見方が必ずしも妥当でないことを示唆するものである。
著者
鳶島 修治
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.115-128, 2020-07-01 (Released:2020-08-27)
参考文献数
34

本稿では,日工組社会安全研究財団が2014年に実施した「第5回社会生活における不安感に関するアンケート(犯罪に対する不安感に関する調査)」のデータを用いて,インターネットでのニュース接触が犯罪不安に与える影響について検討する。犯罪不安の規定要因に関する研究では以前からメディア接触の影響に関心が向けられてきたが,従来の研究はマスメディア(新聞,テレビ,ラジオ)に焦点をあてており,インターネットでのニュース接触が犯罪不安に影響するのかどうか(また,どのように影響するのか)は明らかにされていない。近年ではスマートフォンをはじめとしたモバイル端末の急速な普及によってインターネット上でニュースを読む機会が多くなっており,インターネットでのニュース接触が犯罪不安に与える影響を実証的に検討することは重要な課題である。犯罪不安の規定要因に関する重回帰分析の結果,インターネットでのニュース接触の頻度は本人犯罪不安および同居家族犯罪不安を高めることが示された。また,年齢層別の分析から,インターネットでのニュース接触が本人犯罪不安を高める効果をもっているのは20~39歳の若年層だけであること,40~59歳の年齢層ではテレビでのニュース接触が本人犯罪不安および同居家族犯罪不安を高める効果をもっていることが示された。他方で,60歳以上の高齢層に関しては,新聞・テレビ・インターネットでのニュース接触と本人犯罪不安の間に明確な関連が見られなかった。
著者
鳶島 修治
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.98, pp.219-239, 2016-05-31 (Released:2017-06-01)
参考文献数
37
被引用文献数
2

本稿では,経済協力開発機構(OECD)が2009年に実施した国際学力調査PISA(Programme for International Student Assessment)の日本調査データを用いて,高校1年生の「読解リテラシー」に対する出身階層の影響について検討した。PISAの読解リテラシーを構成する「情報へのアクセス・取り出し」,「テキストの統合・解釈」,「テキストの熟考・評価」という3つの側面を区別し,これら3つの側面の得点が個人(生徒)にネストされた形の階層的データをもとにマルチレベル分析を行った結果,いずれの側面の得点に対しても出身階層が正の効果をもっていることが確認された。また,国語科で従来から重要視されてきた「読解力」に近い性格をもつ「情報へのアクセス・取り出し」に比べて,「テキストの統合・解釈」や「テキストの熟考・評価」の得点に対する出身階層の効果は相対的に大きいという知見が得られた。読解リテラシーに対する出身階層の影響を説明するため,「文化資本」の一種とみなされる生徒の読書習慣(学校外での趣味としての読書時間)に着目して媒介関係の検討を行ったところ,読解リテラシーに対する出身階層の効果の約10~12%が読書時間によって媒介されていた。ただし,読解リテラシーの3つの側面の得点に対する読書時間の効果はほぼ同程度であり,「テキストの統合・解釈」や「テキストの熟考・評価」の側面において出身階層の効果が相対的に大きい傾向は読書時間という要因によっては説明されなかった。