著者
鶴田 燃海 石川 啓明 加藤 珠理 向井 譲
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.94, no.5, pp.229-235, 2012-10-01 (Released:2012-11-22)
参考文献数
24
被引用文献数
2 4

ソメイヨシノはサクラを代表する園芸品種の一つで, 日本で古くから親しまれてきた。近年, 植樹を行う際には周りの野生種の集団の遺伝的多様性に配慮することが求められるようになり, ソメイヨシノにおいても適切な植栽のために野生種との交雑範囲の特定が望まれる。本研究は分子マーカーを用い, ソメイヨシノとサクラ属の野生種との花粉を介した遺伝子流動の実態を明らかにするとともに, 交雑に影響する要因の推定を行った。ソメイヨシノを結実させた花粉親の95%は, 母樹からおよそ300 m以内の野生種個体に同定された。このとき, 交雑には距離や個体サイズに加え, 開花の重なる日数が重要な要因であると一般化線形モデルから判断された。一方, 野生のサクラから採取した種子において検出された, 最も長いソメイヨシノからの花粉散布は約190 mであった。野生種個体がソメイヨシノと交雑する割合は, 周りのソメイヨシノの密度に加えて開花の重なる期間が影響することが示された。ただし, ソメイヨシノとの開花の重なる期間は種・年によって異なり, それによって交雑範囲も変動すると考察された。
著者
鶴田 燃海 王 成 加藤 珠理 向井 譲
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.99, no.5, pp.210-213, 2017-10-01 (Released:2017-12-01)
参考文献数
28
被引用文献数
1

‘染井吉野’ は日本で最も親しまれているサクラの品種で,エドヒガンとオオシマザクラとの雑種といわれている。本研究はエドヒガン,オオシマザクラそれぞれ3 集団で ‘染井吉野’ の連鎖地図に座乗するSSR マーカー 27 座の遺伝子型を決定し,この野生種における対立遺伝子頻度を基に ‘染井吉野’ のそれぞれの対立遺伝子の起源を推定した。54 個の ‘染井吉野’ 対立遺伝子のうち,44.4% がエドヒガン由来,33.3% がオオシマザクラ由来と推定された。残りの22.2% は,どちらの種でも頻繁にみられるまたは両種ともに稀な対立遺伝子のため,由来は不明とした。染色体ごとにみると,複数の染色体でエドヒガンとオオシマザクラに由来する領域とが混在していた。この結果は, ‘染井吉野’ の染色体が乗り換えを経て形成されたことを意味し, ‘染井吉野’ が1回の種間交雑による雑種ではなく,より複雑な交雑に由来することが示唆された。
著者
島村 咲衣 安藤 正規 鶴田 燃海 永田 純子 淺野 玄 大橋 正孝 鈴木 正嗣 小泉 透
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.55-65, 2020 (Released:2020-02-14)
参考文献数
47

近年,日本各地でニホンジカ(Cervus nippon)による林業被害や森林生態系への影響が報告されている.狩猟者の減少や高齢化によって捕獲努力量が伸び悩む中でも森林への被害を軽減させるために,例えば北米において考案されている,オジロジカ(Odocoileus virginianus)母系集団の強い定住性を利用したLocalized Management法のような,被害防除に効果的な個体数調整手法の適用を検討していく必要がある.しかし,ニホンジカ地域集団内の母系集団の規模がオジロジカと同様であるかは不明であり,本手法の適用の可否は不明である.さらに,既存のマイクロサテライトマーカーによってニホンジカの母系集団を検出できるか否かも明らかになっていない.そこで本研究では,ニホンジカ母系集団の検出を目指してマイクロサテライトマーカーの解析能力を検討し,空間的な遺伝構造の検出可能スケールについて検討した.国内4地域(北海道,静岡,岐阜,宮崎)で捕獲された計251個体(胎子63個体を含む)を解析に用い,マイクロサテライトマーカー17座の遺伝子型を決定した.遺伝子座ごとの対立遺伝子数(Na)は3~18となり,オジロジカの値と比較して少ない傾向にあった.個体識別能力の指標PID-siblingを算出した結果,本研究では多型性の高い上位4座を用いて個体識別が可能であった.地域集団間および地域集団内の遺伝的多様性を評価するため,全集団平均の遺伝子分化係数(G’ST),各集団のNa,対立遺伝子数の期待値およびヘテロ接合度の期待値を算出した.地域集団間および地域集団内の遺伝的多様性はどちらも低い傾向がみられた.地域集団間および地域集団内において,STRUCTUREを用いた遺伝構造解析では,北海道および宮崎の集団は明瞭にそれぞれ独立のクラスターが構成されるものの,中部(静岡・岐阜間)の遺伝構造は不明瞭になるケースが確認された.一方で,地域集団内の遺伝構造(母系集団)は検出されなかった.胎子63個体を使っておこなった母性解析では,胎子を妊娠していた真の母親を推定できた確率は約20%にとどまった.本研究では,北海道,中部および宮崎の地域集団間の遺伝構造を明瞭に検出できたが,地域集団内の母系集団は検出できなかった.そのため,サンプル数のもっとも多かった静岡集団においても,Localized Managementの適用が可能な個体群であるとは断定できなかった.それは,各マイクロサテライトマーカーの多型が少ないことが原因であり,日本国内のニホンジカが過去に経験した個体数の減少によるボトルネック効果を反映していると考えられた.
著者
鶴田 燃海 向井 譲
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.125, 2014

SSRマーカーを用い、日本のサクラを代表する園芸品種ソメイヨシノの連鎖地図を構築した。Mapping pedigreeにはソメイヨシノ(CY)を種子親、野生種のエドヒガン(E750)を花粉親としたF<sub>1</sub>の実生178個体を用いた。Pseudo-testcross法により、50のSSRが座乗した、期待される8連鎖群からなる384.8cMのCY mapおよび、SSR11座からなる130.3cMのE750の部分地図が構築された。<br>このソメイヨシノとエドヒガンとの交雑による実生のうち101個体は、生育不全により本葉の展開から数ヶ月以内に枯死した。実生でみられた生育不全は雑種不和合の一つと考えられ、構築した地図にこの生育不全(HIs: Hybrid inviability of seedlings)のマッピングを試みた。<br>HIsと関与する遺伝子領域を、健全な実生と生育不全の実生とでマーカー分離比の歪みの比較を行うことにより、また遺伝子型と形質との関連解析および、QTL/MTLマッピングにより探索した。これらの結果はすべて、HIsがCY mapの第4連鎖群、BPPCT005およびBPPCT010マーカー間の12.3cMの領域に位置することを示した。
著者
鶴田 燃海 向井 譲
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.129, 2018

<p>染井吉野(ソメイヨシノ)は、日本で最も親しまれているサクラ(バラ科サクラ属)の園芸品種で、エドヒガンとオオシマザクラとの雑種であるといわれている。本研究は連鎖地図を利用することで、ゲノム全体にわたりかつ染色体ごとに、染井吉野の由来を推定した。染井吉野の交雑家系を用いた連鎖解析により、SSRマーカー27座の対立遺伝子が、どちらの染色体に座乗していたかを決定した。これと同時に、対立遺伝子がエドヒガン、オオシマザクラそれぞれ3集団にどれほど保持されているかを調べた。この対立遺伝子頻度から、54個の染井吉野の対立遺伝子のうち、44.4%がエドヒガン由来、33.3%がオオシマザクラ由来と推定された。残りの22.2%は、どちらの種でも頻繁に見られるまたは両種ともに稀な対立遺伝子のため、由来は不明であった。染色体ごとにみると、複数の染色体でエドヒガンとオオシマザクラに由来する領域とが混在していた。この結果は、染井吉野の染色体が乗り換えを経て形成されたことを意味し、染井吉野がエドヒガンとオオシマザクラ間の一回の種間交雑による雑種ではなく、より複雑な交雑に由来することが示唆された。</p>
著者
鶴田 燃海 王 成 加藤 珠理 向井 譲
出版者
日本森林学会
巻号頁・発行日
vol.99, no.5, pp.210-213, 2017 (Released:2018-04-20)

‘染井吉野’は日本で最も親しまれているサクラの品種で,エドヒガンとオオシマザクラとの雑種といわれている。本研究はエドヒガン,オオシマザクラそれぞれ3集団で‘染井吉野’の連鎖地図に座乗するSSRマーカー27座の遺伝子型を決定し,この野生種における対立遺伝子頻度を基に‘染井吉野’のそれぞれの対立遺伝子の起源を推定した。54個の‘染井吉野’対立遺伝子のうち,44.4%がエドヒガン由来,33.3%がオオシマザクラ由来と推定された。残りの22.2%は,どちらの種でも頻繁にみられるまたは両種ともに稀な対立遺伝子のため,由来は不明とした。染色体ごとにみると,複数の染色体でエドヒガンとオオシマザクラに由来する領域とが混在していた。この結果は,‘染井吉野’の染色体が乗り換えを経て形成されたことを意味し,‘染井吉野’が1回の種間交雑による雑種ではなく,より複雑な交雑に由来することが示唆された。
著者
鶴田 燃海 王 成 加藤 珠理 向井 譲
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.99, no.5, pp.210-213, 2017
被引用文献数
1

<p> '染井吉野' は日本で最も親しまれているサクラの品種で,エドヒガンとオオシマザクラとの雑種といわれている。本研究はエドヒガン,オオシマザクラそれぞれ3 集団で '染井吉野' の連鎖地図に座乗するSSR マーカー 27 座の遺伝子型を決定し,この野生種における対立遺伝子頻度を基に '染井吉野' のそれぞれの対立遺伝子の起源を推定した。54 個の '染井吉野' 対立遺伝子のうち,44.4% がエドヒガン由来,33.3% がオオシマザクラ由来と推定された。残りの22.2% は,どちらの種でも頻繁にみられるまたは両種ともに稀な対立遺伝子のため,由来は不明とした。染色体ごとにみると,複数の染色体でエドヒガンとオオシマザクラに由来する領域とが混在していた。この結果は, '染井吉野' の染色体が乗り換えを経て形成されたことを意味し, '染井吉野' が1回の種間交雑による雑種ではなく,より複雑な交雑に由来することが示唆された。</p>
著者
鶴田 燃海 王 成 向井 譲
出版者
園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.321-325, 2012
被引用文献数
4

ソメイヨシノは日本のサクラを代表する園芸品種の一つで,自家不和合を示すことが知られている.本研究は,自家不和合性や花粉親による交雑親和性の違いがどの時期に起こるのかを明らかにすることを目的とし,ソメイヨシノを種子親とした人工交配実験を行い,花粉管伸長および結実の特性を交配処理ごとに調べた.自家花粉管は,授粉から10日経っても花柱の基部に到達しておらず,ソメイヨシノにおいて見られる自家不和合性は,花柱での花粉管伸長抑制による結果であることが確認された.このとき自家授粉処理による果実は,授粉から20日後までにすべて落下した.一方他家花粉管は,授粉後3日にはほとんどが花柱の基部まで達しており,また授粉から10日後における花粉管が花柱基部に到達している花柱の割合には,花粉親による違いは見られなかった.花粉親の違いが見られたのは,授粉からおよそ20日後の,生存果実の割合においてであった.授粉から20日以降,他家授粉による果実はほとんど落下せず,授粉からおよそ50日の6月上旬にほぼすべての果実が黒く成熟した.<br>
著者
鶴田 燃海 王 成 向井 譲
出版者
園芸学会
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.321-325, 2012 (Released:2013-10-08)

ソメイヨシノは日本のサクラを代表する園芸品種の一つで,自家不和合を示すことが知られている。本研究は,自家不和合性や花粉親による交雑親和性の違いがどの時期に起こるのかを明らかにすることを目的とし,ソメイヨシノを種子親とした人工交配実験を行い,花粉管伸長および結実の特性を交配処理ごとに調べた。自家花粉管は,授粉から10日経っても花柱の基部に到達しておらず,ソメイヨシノにおいて見られる自家不和合性は,花柱での花粉管伸長抑制による結果であることが確認された。このとき自家授粉処理による果実は,授粉から20日後までにすべて落下した。一方他家花粉管は,授粉後3日にはほとんどが花柱の基部まで達しており,また授粉から10日後における花粉管が花柱基部に到達している花柱の割合には,花粉親による違いは見られなかった。花粉親の違いが見られたのは,授粉からおよそ20日後の,生存果実の割合においてであった。授粉から20日以降,他家授粉による果実はほとんど落下せず,授粉からおよそ50日の6月上旬にほぼすべての果実が黒く成熟した。