著者
片山 伸彦
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.61, no.9, pp.658-665, 2006-09-05
被引用文献数
2

物質を支配する法則と反物質を支配する法則に違いがあれば,元々は物質と反物質が同量だけあった初期宇宙から出発して現在の宇宙に物質のみが残っている事実を説明できる可能性がある.一方,素粒子に働く弱い力が「物質と反物質の物理の対称性」を破っていることが1964年,中性Kメソンを使った実験で発見された.以来40年以上,素粒子物理学者は宇宙創成の謎を解く鍵ともいえるこの対称性の破れの起源を解明するべくさまざまな理論を提案し実験を行ってきたのである.茨城県っくば市にある高エネルギー加速器研究機構(KEK)では,世界最高の輝度を誇る電子・陽電子衝突型加速器(KEKB Bファクトリー)を用いて,2番目に重いクォークであるbクォークを大量に作り出し,bクォークを含む系における「物質と反物質の物理の非対称性」を発見した.これにより,物質と反物質の対称性の破れの起源として,1973年に6クォーク模型を提唱した小林-益川理論の予言が検証されたのである.本解説では,最近のBファクトリー実験の成果を中心に対称性の破れの研究の歴史を振り返り,この分野の将来計画についても概観する.
著者
久米 潔
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.360-365, 1994-05-05

磁気共鳴は誕生以来来年で50周年を迎える.この解説では,筆者のグループで実際に携わってきたいろいろな実験の中から,物理として面白そうな実例をあげて,磁気共鳴の物性研究に果たした役割について,考えてみることにしたい.
著者
竹内 繁樹
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.263-273, 1999-04-05
被引用文献数
2

「量子計算」という言葉を耳にした方も多くなってきたのではないでしょうか. しかし, 「重ねあわせ状態を維持して計算を行う」という説明には「重ねあわせ状態なんてすぐに壊れてしまう」という常識から, あるいは「観測によって波束を収縮させ」という言葉には怪しげな雰囲気を感じて, 今一つ疑念や近寄りかたさを感じていらっしゃるかもしれません. でも, ここで紹介するように, それらの問題への真正面からの取り組みがすでに始まっています. この稿では, 現時点でどのような実現の方法が考えられており, 実際どのような実験が行われているのかを紹介いたします. 今急速に立ち上がりつつあるこの分野の魅力を感じていただければ幸いです.
著者
小松 雅宏
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.189-192, 2012-03-05

ニュートリノ振動実験OPERAは2011年9月23日,ヨーロッパ合同原子核研究機構(CERN=セルン)にてニュートリノが光速よりも速いとする結果を公表した.CERNから照射されたニュートリノが730kmの距離にあるイタリアグランサッソ地下研究所(LNGS)に建設されたOPERA実験装置へ光速で予想されるよりも約60ナノ秒早く到達しているという結果を示すものであり,非常な驚きをもってむかえられた.本稿では2011年10月22日から11月6日まで行われたニュートリノ速度の測定に特化したビームによる結果も踏まえた概要を紹介する.
著者
堀川 直顕
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.54, no.8, pp.614-621, 1999-08-05
被引用文献数
1

1988年EMCグループが報告したCERNにおける実験結果はこれまでの単純なクォークモデルに基づく核子スピンの描像をうちこわし, QCD適用の是非まで議論を発展させる一大センセーションを巻き起こした. その後, 10年を経てCERNでのSMC実験, SLACでの一連の実験, およびDESYのHERMES実験によりクォークスピンの役割の輪郭がはっきりしてきた. また, この間得られたデータに対するQCD解析法の発展により信頼性の高い結論が導かれてきている. QCD的扱いの信憑性を検定する「Bjorken和則」も, 測定精度の向上から理論値との比較に信頼度が増した. ここでは, EMCが提起した「核子スピン問題」のおさらい, それを解き明かすため筆者らが実行したSMC実験の紹介, 得られた結果に対するQCD解析, それから導かれるクォータスピンの役割, 今後の研究の展望について紹介する.
著者
青木 亮三
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.45, no.9, pp.621-628, 1990-09-05

脳は人間存在の根元に関わるものとして究極の興味ある対象であるが, まるで分かっていない. 高度の判断を司る神経線維の絡み合いは余りに複雑で, 実体の解析を拒否している. ところがその脳が全体として電気信号を発している, しかも, それが驚くほど単純な波形で観測されている. 多数の構成要素からなる系の単純な集団振動, これこそは相関の強い多体系として, 物理学研究者にとって好個の対象と考えられる. いままで生体については, ともすれば性急に物理的概念を当てはめようとしたり, 手近の解析的手法をそのまま応用することが試みられてきたが, この解説から対象に即した新しい観方やアプローチが触発されれば幸いである.
著者
江沢 洋
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.467-471, 1994-06-05

468ページの写真は,小谷先生の若き日のノートの第2〜3ページである.表紙には量子力学論文輪講原稿第二集と筆で几帳面な楷書で書かれている.高校時代から親友だった犬井鉄郎が「かわいい,小学生が使うようなノート,表紙に赤い屋根がついた…」と語ったのは第一集のことか?この第二集には「赤い屋根」でなく「赤い花」がついている.横14.3cm,縦19.4cmの94ページ.罫線はない.小谷は,勝木のインタヴュー(1977年6月15日)において「大学の2年のころに,かなり量子力学の論文,といってもそう論文があるわけでもないけれど,何か学生の仲間で,論文を読んだりしていた」と言い,同席した犬井は「小谷さんはSchrodingerをやった」と応じて「とにかく,やたらに,めちゃめちゃに読んだ」と言っている.小谷ノートは,そのとき作られたのである.「原稿」とあるから,輪講の準備ということだろう.
著者
永宮 正治
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, 2011-05-05
被引用文献数
2
著者
吉田 善章
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.74-81, 2013-02-05

プラズマの運動や構造を理解するために大きな課題となっているのが<渦>である.プラズマとは,物体と場(通常のプラズマの場合は電磁場)が共変動する系のことである.物体と場の「圧縮運動」に関する研究(衝撃波やソリトンなど)は成熟の域に達しているといってよいだろう.しかし渦(回転運動やせん断運動)の問題は(プラズマならずとも中性流体においてすら)未だ極めて難しい.本稿では,プラズマの運動が生起する空間の幾何を渦論的に構築し,そのトポロジカルな性質,階層的な構造を解明する試みについて解説する.また具体的な事象として,宇宙論的種磁場の問題や,磁気圏プラズマの自己組織化を,渦=空間の歪みとして理解する最近の成果を紹介する.
著者
國仲 寛人 小林 奈央樹 松下 貢
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.66, no.9, pp.658-665, 2011-09-05

正規分布は,数学や物理学において最も基本的で,重要な分布関数と考えられている.例えば,実験観測の測定誤差が正規分布に従うというのは,よく知られた事実である.だが実際には,自然界や人間社会に見られる「複雑系」とも称される系においては,べき分布や対数正規分布などの裾の長い分布関数が観測されることが多い.本稿では,対数正規分布が出現する数理的なメカニズムを紹介し,対数正規分布を基本としてべき分布や正規分布が出現し得るということを紹介する.また,自然現象や社会現象に見られる対数正規分布と,その出現メカニズムについて考察する.
著者
戸田 英雄 小野 令美
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.37, no.8, pp.655-663, 1982-08-05

Rabinowitzの提出した数値積分についての難問を紹介する. この問題は普通の数値積分公式では, IMT公式を除けば8桁だすのはまず無理であろう. 積分区間の端点に特異性のある積分のための高橋・森の数値積分公式(DE公式)を用いた所, 全く機械的に答が求められた. この難問も含めて各種の例題を中心にしてDE公式の紹介をする. なお使用に際して, 有限桁で計算するために起こる誤差の防止等, 数値計算上の注意も述べる.
著者
吉澤 能政
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.36, no.12, pp.870-876, 1981-12-05

低温は, 流体力学の分野でも有用な実験手段を提供することが明らかとなり, 低温にした風洞が作られ始めている. 気体の範囲で低温であるほど都合がよいので, 10K程度のヘリウム風洞が作れると, 理想的な風洞ができることになる. 現実には経費も含めて多くの制約があり, 窒素ガスによる低温風洞で妥協せざるを得ないが, それでも高圧化を併用することにより, マッハ数とレイノルズ数の可変範囲が大幅に拡大し, 力学的相似則をみたした模型実験が可能になろうとしている. ここでは低温高レイノルズ数風洞の必要性, 原理, 特色などを, 国際的な動向も含めて, わかり易く説明した.