著者
青木 慎也 初田 哲男 石井 理修 根村 英克
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.67, no.11, pp.745-753, 2012-11-05

最近提案され成功をおさめている格子QCDによる核力研究を紹介する.核力研究の科学的な重要性とその現状を述べた後で,なぜQCDを使って核力を研究するのが難しいか,そして我々はその困難をどのように解決していったか,などを紹介する.格子QCDによる核力ポテンシャルの世界初の結果を示し,その意義を議論する.また,この結果や我々の方法への様々な疑問や誤解に関しての理論的な考察も述べる.そして,核力ポテンシャルの計算法の拡張とそれを用いた最近の発展に関してもできる限り紹介していく.
著者
外村 彰
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.42, no.7, pp.616-624, 1987-07-05

アハラノフ-ボーム (Aharonov-Bohm) 効果は, ベクトル・ポテンシャルの実在性, 物理法則の局所性, 多重連結空間での波動関数の一価性といった量子力学における基本的な問題を内包しているため, 30年にもわたってさまざまな議論が展開されてきた. 最近のゲージ理論の登場によって, ベクトル・ポテンシャルがゲージ場として理解されるようになり, その重要性が増したこともあって, 議論は効果そのものの存否にまで及んだ. 検証実験も既にいくつか報告されているが, 電子線と磁場が重畳している可能性があるとして疑問が投げかけられていた. しかし, 最近の筆者らの実験によって, 論争は新たな局面をむかえた.
著者
臼田 知史 田中 雅臣
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.226-231, 2010-04-05

我々の銀河系では超新星の頻度が約50〜100年に一度と推定されているが,人類がこの約400年間に銀河系内の超新星を肉眼で確認した例はない.その間に望遠鏡や分光器が発明され,系外の超新星について詳細な観測研究が進んだが,系内の超新星に対してはこれら高度化した装置での観測機会はなかった.我々は日米独共同で,系内の超新星残骸ティコ(超新星爆発記録は1572年)とカシオペヤA(推定爆発年は1680年)の爆発当時の放射光の「こだま」(light echo)-光源の周囲にある塵やガスによって反射された光が遅れて届く現象-をすばる望遠鏡で分光観測し,新たな知見を得た.
著者
松井 浩明 高橋 隆
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.362-365, 2004-06-05
参考文献数
9

角度分解光電子分光(ARPES)の分解能はここ数年で大幅に向上し,強相関電子物理等の分野で多くの成果を上げている.しかし,フェルミ準位近傍(結合エネルギーE_B<数十meV)のARPESスペクトルを,理論的な一電子スペクトルとの比較から定量的に議論した例はまだ少ない.本稿では,高温超伝導体の高分解能ARPES実験から,BCS理論の予測するボゴリューボフ準粒子の直接観測に成功したので紹介する.
著者
駒宮 幸男
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.128-129, 2001-02-05
著者
海老沢 研
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.63, no.9, pp.670-677, 2008-09-05
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

人工衛星を用いた宇宙観測データは,一定の占有期間の後,解析ソフトウェアとともに無償で公開されることが世界的な標準となっている.データが長期間にわたってアーカイブズ化され,世界中の科学者によって広く共有されることにより,数多くの成果が生み出されるのである.それを目的とし,各国の公的機関が多くの予算とマンパワーを費やして構築した「宇宙科学データアーカイブズ」は,人類共通の貴重な知的財産と言えよう.また,宇宙科学データは,他の多くの分野の科学技術データとは異なり,その利用に金銭的な利害や倫理的な問題が絡まない,という特徴がある.その特徴を生かし,最先端の宇宙科学データを真っ先に取得して世界に公開することは,それによって国際社会からの信頼とリーダーシップを勝ち取るための貴重なソフトパワーになりうる.今後,各国が協力して科学データ共有を進め,国と国との間の信頼関係を高めていくことによって,「科学による安全保障」を実現できるようになるかもしれない.
著者
井上 太郎
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.55, no.11, pp.830-837, 2000-11-05
被引用文献数
2

我々は通常,宇宙は無限に拡がっているものと思い込んでいるが,実は有限の体積をもち,無限に繰り返している有限な周期構造を「無限」と錯覚しているのかもしれない.然らば,我々は如何にして,宇宙の多重連結性,即ち「有限性」を知ることが出来るのであろうか? 本稿では宇宙背景輻射の非等方性を用いた宇宙の多重連結性の観測的検証について解説する.
著者
広重 徹
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.26, no.6, pp.380-388, 1971-06-05

特殊相対性理論はMichelson-Morleyの実験から生まれたという, ほとんどだれもが当然のこととしている解釈はじつは根拠のない神話であることが, 最近の物理学史研究によって明らかとなる. なぜそれを神話と判断するのか. それが支持できないとすれば, 代わるべき解釈はいかなるものか. 歴史的背景とEinsteinの思考の発展との両面から考察してみよう.
著者
田中 彰則 田崎 晴明
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.66, no.6, pp.434-438, 2011-06-05

われわれは強磁性が生じる機構をミクロな量子多体系の問題にさかのぼって理解することを目指して研究を進めている.ここでは,「金属強磁性」つまり「同じ電子が強磁性と電気伝導の双方に寄与する」現象を,ハバード模型という理想化されたモデルから厳密に導く最近の研究について述べる.専門外の読者を想定し,モデルと結果の概要を中心に解説する.
著者
那須野 悟
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.53, no.10, pp.775-778, 1998-10-05

粉体の層に剪断応力を加えると何が起こるだろうか?この問題は, 通常の固体とも液体とも異なる奇妙な振舞を示す粉の科学にとって重要な研究課題であるばかりでなく, ミクロからマクロに及ぶ摩擦の基本原理を理解するための新たなアプローチを我々に提供してくれる.