著者
荒井 秀典 長尾 能雅 森本 剛 坪山 直生
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.36-38, 2011 (Released:2011-03-03)
参考文献数
4

入院中の転倒・転落により骨折や重大な外傷を生じたり,転倒への恐れから活動性の低下を招いたりすることは高齢者,特に虚弱高齢者で多く発生するため,対策が必要である.京大病院においては平成18年4月に転倒転落事故防止委員会を発足し,院内の転倒・転落事故に対する分析及び対策を行ってきた.また,院内環境・病棟対策班,データ収集・分析・アセスメントスコアシート評価班,院内広報班,事例調査班を作ることにより,転倒・転落原因の調査・分析,およびその対策を講じるとともに,患者への啓発活動を行ってきた.また,入院患者の転倒リスク評価を行い,低・中・高リスクに分類し,その実際の院内転倒・転落事故との関連を分析した.本稿においては本委員会の活動内容を示すとともに,大学病院など急性期病院における転倒予防について述べたい.

1 0 0 0 OA 転倒の要因

著者
土田 隆政 真野 行生
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.231-233, 2003-05-25 (Released:2011-02-24)
参考文献数
3
被引用文献数
1 1

パーキンソン病通院患者のアンケート調査および療養型医療施設入所者における転倒調査を踏まえ, 転倒の要因について検討した.パーキンソン病患者ではその重症度の進行に伴い日常生活での歩行頻度は減少していたが, 転倒回数はむしろ増加し, 骨折に至る頻度も増していた. 転倒予防には環境整備による対策が重要であるが, 実際に家屋調整を行っていた患者は半数に至っておらず, とくに転倒頻度の最も多い居間に関する調整不足が示唆された. パーキンソン病患者の転倒予防には従来から行っていたトイレ, 廊下・階段, 浴室, 玄関などの環境整備以外に, 1日の大半を過ごす場所にも関心を向け生活指導することが必要である.療養型医療施設入所者の転倒, 重傷例の発生率に大きな変化はなく, 環境要因のうち対策が可能と思われる因子が散見され, 引続き転倒予防の介入が必要と思われた. 看護サイドの予防対策により夜間帯から午前中の転倒頻度が減少していた. 転倒報告例, 重傷例とも痴呆症の割合が高くなっていたが, 痴呆症の転倒予防は今後の課題と考える.転倒の要因は身体的要因を主とする内的要因と, 生活環境要因を主とする外的要因の二つに分けられ, 内的要因はさらに感覚要因, 高次要因, 運動要因に分けられる. 高齢者ではこれら一つ一つの障害が直接転倒を引き起こすこともあるが, 慢性疾患の罹患や加齢, 薬物服用などによって, それぞれの障害が著明でなくても幾つかの要因が併さることで転倒に結び付くことが特徴とされている. 転倒の要因が主に環境要因のみのことも決して少なくはなく, 対応が可能ならば大きな介入効果が期待される. したがって常に外的要因の関与に気を配ることが重要である.
著者
重本 和宏
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.42-43, 2011 (Released:2011-03-03)
参考文献数
7

サルコペニア(加齢性筋肉減少症)は高齢者のADL(activity of daily living)とQOL(quality of life)を損なう主要な原因である.サルコペニアの早期発見,運動機能障害者に対するリハビリの効果の判定を可能にする,客観的かつ有効なバイオマーカーが介護予防対策に必要である.加齢による筋の老化促進の要因は,体内環境全体の変化,幹細胞(サテライト細胞)の老化,筋と運動神経細胞の相互作用維持システムの老化の三種類に分類することができる.それらのメカニズムに関する新しい知見をもとに,サルコペニアに対して真に有効なバイオマーカーが開発されるかもしれない.
著者
藤正 巖
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.14-26, 2012 (Released:2012-03-29)
参考文献数
12

目的:日本の社会の現実を眺めると,現在と未来のシステムとの間に大きな溝が見られる.その溝の一つは将来の社会構造の確定的な部分の誤認である.社会構造は,通常の人の集団とそれを取り巻く生存空間という三次元世界の上に,社会構造を意図的に変動させるための政策的な次元である時間が加わり,四次元の世界を作り出している.ここでは,そのような四次元空間を解析する手法を開発するのを目的としている.経済学的立場では,それを「構造派の経済学理論」と名付ける.方法:ここでは自己開発の社会構造推計エンジンを用い,3種の出生関数(1990年~2008年モデル,出生率1.4固定モデル,2004年~2008年モデル)を用いたモデルを作成し,日本の2100年までの社会構造を推計した.結果:日本総人口は2005年に極大値に達した後,継続的に人口減少が起こり,働き盛りの人口である25歳から54歳の人口と55歳から84歳の人口がほぼ同数で推移する.1950年ころから1970年ころにかけての20年間の経済成長は,国民所得の実質で年10%を超え,丁度それは25歳から54歳の人口が年2.5%以上も増加し続けた期間と一致している.将来の経済推計では,これから世紀末の間の90年間で,実質国民所得の推移は総人口の減少割合とほぼ一致している.しかし,一人当たりの国民所得は殆ど減少しない.考察:人口は25~54歳と55~84歳が今後同数になっているにもかかわらず,加齢はしたが,ほとんどが健康者で占められる高齢グループは労働力ではないのかという疑問がある.知識と経験を備え,多少生産性は低くなるが,総合的な生産能力のあるこの膨大な人口を,社会運営から除外しておくことはできない.ここでは社会時間設計により,生産年齢の年齢幅を十歳高齢にする提案を行った.
著者
池上 博司 藤澤 智巳 楽木 宏実 熊原 雄一 荻原 俊男
出版者
日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.365-368, 1997-05-25
参考文献数
8
被引用文献数
3
著者
石川 和信
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.489-493, 2011 (Released:2012-02-09)
被引用文献数
3 3

福島の大震災の特異性は,壊滅的な地震や津波による浜通りの市町村へのダメージに加えて,危険度とその範囲が判然としないままに避難や生活の糧を破棄するよう指示が追加されていった広域な放射線汚染,被曝への恐怖から惹起されたであろう国内外からの被災地・福島を回避する心理が膨らませた経済的損失や精神的重圧にあるように思う. 小雪の舞う早春に突然起こった未曾有の体験に対して,地方行政,地域の医療機関は懸命な対応を続けた.急性期には水道,電気,ガス,通信,移動手段(ガソリン)が整っていることが職務の前提であったことを痛感した.DMAT,被曝医療チームが地域の医療チームに加わり活動した.深刻化していく原発復旧作業の中,県内避難所2万5千人への巡回,20~30 kmの屋内退避地域の在宅患者への支援などを行った. 専門職には想定外などあり得ないこと,日々の有機的な組織・人と人との連携が変化への対応力となること,分かりやすい説明能力が安心感を生むことを皆が学んだように思う.医療と原子力事業の根幹に横たわる安全管理には共通する要素が多い.プロフェッショナルとしての使命の省察が個人・組織のレベルで予断なくなされてきたか,厳しく点検されることは,長年に及ぶ放射線汚染という重荷を背負いながら生きていかなければならない被災地域への大きな責務であるように思う.
著者
鄭 雄一
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.69-71, 2007 (Released:2007-03-03)
参考文献数
3
被引用文献数
1 1
著者
権 哲峰 ト蔵 浩和 飯島 献一 小黒 浩明 山口 修平
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.175-181, 2008 (Released:2008-04-25)
参考文献数
20
被引用文献数
1 2

目的:脳萎縮およびその進行に関する,無症候性脳梗塞(以下SBIと略す)や高血圧の影響について検討した.方法:脳ドックを受診した神経学的に異常のない健常成人109名(平均58.6±5.8歳)を対象とし,MRI-T1強調画像水平断で頭蓋内腔に占める脳実質の割合をBrain atrophy index(以下BAIと略す),脳断面積に占める脳室の割合をVentricular area index(以下VAIと略す)とし,それぞれ基底核と側脳室体部レベルで測定した.そして平均4.9年後に同様の測定を行い,危険因子やSBIの有無により脳萎縮の進行に差があるかを検討した.結果:年齢,性,脂質異常,肥満,喫煙歴,アルコール多飲の頻度はSBI(+)群とSBI(-)群,および高血圧群と非高血圧群で差はなかった.SBI(+)群では,基底核レベル,側脳室体部レベルともにBAIが有意に低下し(基底核レベル:p=0.02,側脳室体部レベルp=0.05),また側脳室体部レベルでのVAIも,SBI群で有意に増加していた(p=0.03).高血圧群では,基底核レベルでの初回測定時BAIは有意に低下していたが(p=0.007),側脳室体部レベルのBAI,両レベルでのVAIは非高血圧群と有意差は認められなかった.SBIや高血圧の有無による,年間のBAI, VAIの変化については有意な差がなかった.結論:無症候性脳梗塞や高血圧は,脳萎縮や脳室拡大と関連することが示唆されたが,その影響は無症候性脳梗塞の方が強いことが示唆された.