著者
須藤 英一 前島 一郎
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.84-85, 2011 (Released:2011-03-03)
参考文献数
5

目的:高齢者の肺炎に関連する口腔内乾燥は日常介護でしばしば直面する問題である.この点で,保湿ジェルを用いた口腔ケアの効果を老人ホーム入所中の脳血管障害後遺症患者でみた成績を以前に報告したが,これを他の施設に広げて検討した.方法:対象は脳血管障害後遺症患者11例(男性4例,女性7例,平均年齢84.5±1.3歳).老人ホームの入居者を対象に,口腔ケア用品として,口腔内乾燥予防目的に保湿ジェルを用い,使用前年の6カ月間と使用中の6カ月間に於いて発熱を生じた日数,抗菌薬投与日数,抗菌薬投与回数,補液日数,補液回数を比較した.結果:使用前,使用中の6カ月間の発熱日数を比較検討すると使用前平均5.4±2.8日から使用中3.5±2.9日まで有意に(p<0.01)減少した.抗菌薬投与日数,抗菌薬投与回数,補液日数,補液回数はそれぞれ,使用前平均3.3±3.4日から使用中1.1±1.8日,使用前平均6.2±6.7回から使用中2.0±3.6回,使用前平均2.4±3.4日から使用中1.2±1.8日,使用前平均4.2±6.8回から使用中1.4±2.2回と全て減じたが有意差は認めなかった.結論:保湿ジェルを用いた口腔ケアは脳血管障害後遺症患者に生じる口腔内汚染を誘因とする気道感染や脱水予防に寄与できる可能性が示唆された.
著者
中原 賢一 松下 哲 山之内 博 大川 真一郎 江崎 行芳 小澤 利男
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.285-291, 1997-04-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
7
被引用文献数
2

剖検例において, 生前には狭心症状を認めなかったにも関わらず, 著しい冠動脈硬化所見を認めることがある. この無症候性の原因として, 高齢者では心病変のみならず, 脳血管障害をはじめ多くの因子の関与が推測される. 本研究では剖検例を用いて高齢者の無症候性に関わる因子, 予後, 診断について検討した.770例の高齢者連続剖検例を母集団とし, 冠狭窄指数 (冠狭窄度は100%もしくは95%を5, 90%を4.5, 75%を4, 50%を3, 25%を2, 狭窄のない石灰化を1, 正常を0. 冠狭窄指数=3枝の合計) を用い, 次の検討を行った. まず心筋虚血をおこすに充分な冠動脈狭窄の条件を決定する目的で, 冠狭窄指数が10以上かつ狭心症のある症例を分析した. 次に心筋虚血をおこすに充分な条件を満たした症例を狭心症の有無で2群に分け, 1) 予後, 2) 心筋病変の差, 3) 脳血管障害の影響, 4) ADL (Activity of daily living) の差, 5) コミュニケーション障害の有無, 6) 糖尿病の有無, 7) 安静時心電図診断を分析した. またコントロール群として冠狭窄指数10未満の例86例を用いた.狭心症を有した31例を検討し, 最大狭窄度は5かつ冠狭窄指数13以上を心筋虚血を起こすに充分な条件と考え, 770例中二つの条件を満たす症例を選出した. その結果狭心症群24例, 無症候群92例が該当し,この2群を比較した. 1) 心筋梗塞が直接死因となったのは狭心症群67%, 無症候群27%で共に死因中最も多かったが, 頻度には差が見られた (p<0.01). 2) 心筋梗塞の発症率および心内膜下梗塞は狭心症群に多く, 下壁梗塞および小梗塞 (2cm未満) は無症候群に多かった. 3) 無症候群には脳血管障害の合併率が高く, 大きさでは中型病変が多かった。4) 無症候群には, ADLの低い症例, コミュニケーション障害例が多かった. 5) 糖尿病の合併率は狭心症群に高かった. 6) 安静時心電図の比較では, 陳旧性心筋梗塞の所見は, 狭心症群に最も多く, 次いで無症候群で, 共にコントロール群に比し多かった. 虚血性ST低下は3群間に差は認められなかった. むしろ無症候群および狭心症群を含めた重症冠動脈疾患群に左室肥大の診断が有意に多かった. 心房細動が無症候群に多い傾向にあった.高齢者においては心病変と共に, 脳血管障害, ADL, コミュニケーション障害が心筋虚血の無症候性に重要な意味を持つことが明らかになった. 高齢者では冠動脈病変はむしろ存在することが普通であり, 特に脳血管障害のある症例では狭心症状の有無に関わらず, 心筋虚血を探知する努力が必要である.
著者
浅井 幹一 佐藤 労 天野 瑞枝
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.391-394, 2008 (Released:2008-08-28)
参考文献数
3
被引用文献数
1 1

高齢者終末期医療の決定プロセスについては,患者の意思を最重要として,患者,家族,医療·ケアチームで最善の医療を話し合うことが必要とされる.医療·ケアチームのなかで職種により終末期医療に対する認識が異なると,合意形成に影響が出る可能性があるので,職種別に終末期医療についてのアンケート調査を行い比較検討した. 1)延命治療に関しては医師が最も否定的であるが,終末期医療における説明については医師は十分であると感じても,他職種からみると不十分と感じられることが少なくない. 2)リビングウィルの取り扱いについては,法律を制定すべきとする考えが多い. 3)看取りについては,施設での終末期の看取りに賛成するものが多いが,介護職では施設の方針や体制によるとする意見が多く見られた.在宅終末期医療については,かつて在宅で看取りを行った経験や,在宅療養支援診療所の届出をしていることが促進する因子として挙げられた. 4)介護職については,終末期医療に対する意識が他職種と少し異なっている可能性に留意する必要がある. 以上,職種間の認識の違いに留意して,終末期医療·ケアの現場では情報の共有化と他職種との連携をはかる必要があると思われた.
著者
佐久間 一基 石川 崇広 藤本 昌紀 竹本 稔 横手 幸太郎
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.617-621, 2012 (Released:2013-03-04)
参考文献数
7
被引用文献数
1

健康食品,新五浄心の長期摂取により偽性アルドステロン症をきたした高齢者の1例を経験した. 症例は67歳の男性.高血圧症,脂質異常症,高尿酸血症に対し近医にて内服加療中であった.2007年4月に低カリウム血症(3.0 mEq/l),下腿浮腫が出現したため,スピロノラクトン,L-アスパラギン酸カリウム内服を開始するも,血清カリウムは低値(2.8~3.2 mEq/l)で推移した.その後,動悸,こむら返りも頻繁に出現するようになり,2009年12月低カリウム血症の精査目的に当科紹介となった.当科受診時の血清カリウム2.4 mEq/l,血漿レニン活性0.1 ng/ml/hr以下,血中アルドステロン濃度34 pg/mlと低下を認めた.外来における病歴聴取では甘草,グリチルリチンを含有する医薬品の摂取歴はなく,偽性アルドステロン症が疑われ,精査目的に2010年2月当科に入院となった.入院時の詳細な病歴聴取により2007年2月より健康食品である新五浄心を摂取していることが判明した.入院後,新五浄心を中止し,カリウム製剤の補充を継続したところ,低カリウム血症は改善し,カリウム製剤補充も中止した.精査の結果,他に偽性アルドステロン症をきたす疾患は否定的であり,新五浄心による,偽性アルドステロン症と考えられた.これまで新五浄心による偽性アルドステロン症の報告はない.さらに高齢者の偽性アルドステロン症では,甘草,グリチルリチンを含有する医薬品だけではなく,一般市販薬,健康食品を含めた詳細な服薬歴の問診も大切であると思われ報告する.
著者
牧迫 飛雄馬 阿部 勉 阿部 恵一郎 小林 聖美 小口 理恵 大沼 剛 島田 裕之 中村 好男
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.59-67, 2008 (Released:2008-03-10)
参考文献数
27
被引用文献数
4 7

目的:要介護者の在宅生活継続には,主介護者の身体的および精神的な負担にも配慮が必要である.本研究では,在宅要介護者の主介護者における介護負担感に関与する要因を検証した.方法:在宅で理学療法士または作業療法士の訪問によるリハビリテーションを実施していた要介護者78名(男性40名,女性38名,年齢77.8歳)とその主介護者78名(男性20名,女性58名,年齢66.8歳)の78組156名を分析対象とした.要介護者の基本情報,日常生活動作能力,居室内動作能力を評価した.また,主介護者からは基本情報,介護期間,介護協力者・介護相談者の有無,介護負担感(短縮版Zarit介護負担尺度:J-ZBI_8),視覚的アナログスケールによる日常生活動作における介助負担度,主観的幸福感,簡易体力評価を構造化質問紙で聴取した.J-ZBI_8から介護負担感の低負担群(10点未満:5.0±3.0点)41組と高負担群(10点以上:15.9±5.9点)37組の2群間で比較した.結果:低負担群の要介護者では,高負担群の要介護者に比べ,高い基本動作能力,日常生活動作能力を有していた.また,低負担群の主介護者では,高負担群に比べて,介護を手伝ってくれる人(低負担群65.9%,高負担群40.5%),介護相談ができる人(低負担群95.1%,高負担群75.7%)を有する割合が有意に多く,主観的幸福感(低負担群9.6±3.5,高負担群6.3±3.7)も有意に高かった.また,高負担群では,すべてのADL項目における介助負担も大きかった.結論:要介護者の日常生活動作能力や基本動作能力は介護負担感に影響を与える一因であることが示唆された.また,介護協力者や介護相談者の有無も介護負担感と関係し,介護負担感が高い主介護者では主観的幸福感が低いことが示された.
著者
武久 洋三
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.209-212, 2010 (Released:2010-07-05)
参考文献数
9

平成20年10月23日,社会保障国民会議において発表された「将来の医療提供体制・介護提供体制の現状と将来像」から一般病床という病床区分が消え,近い将来には急性期,慢性期(急性期後期),介護期に分類されると考えられる.日本慢性期医療協会は,急性期病院を峻別化し,高度急性期病床以外を病院病床として統一した上で,平均在院日数・人的資源・病床面積の3要素で診療報酬を評価すべきと考える.各施設に求められる機能や理念を今一度見つめ直し,対象領域を明確にする必要があるだろう. 厚生労働省の描く「改革シナリオ」では,高齢化の進展や有病率の増加,年間死亡推定数を加味し,医療・介護サービスの対象人数を現状よりも約300万人多く設定している.医療・介護体制は川上である高度急性期病院の定義から始まる.平均在院日数の短縮化に伴い,退院患者数と慢性期医療の必要性も倍増する.各施設に患者を当て込み,残りは居住系施設や在宅と考えなければ,事はシナリオ通りには運ばないだろう. 療養病床の再編は急性期医療にも思わぬ歪みを生んだ.慢性期医療の縮小は急性期病院の崩壊を加速させる危険性を孕んでいる.高度急性期病院と慢性期病院は相補関係にあり,互いに連携の強化を求めている.実際に連携ネットワークが機能している地域では,着実にその実績を上げている.各医療機関が機能に合った患者の治療に当たることで医療費は適正化され,その機能を補完し合うことで今後激増する地域ニーズを受け止めることが可能と考える. 時代は利益優先・経済優先主義の社会から国民が安心して暮らせる社会の構築へと移り変わっていく.国の施策が目指すべき方向は,子供たちや高齢者の尊厳を守り,将来の不安を感じることのない未来を築くことである.国民にとって必要な医療施策の提言とその実現を目指し,すべての医療福祉施設は「国民の命と健康を守る」との立場から一致協力する必要を強く感じている.
著者
塩路 直子 饗庭 三代治 津田 裕士 礒沼 弘
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.250-256, 2010 (Released:2010-07-05)
参考文献数
14

目的:認知症病棟への専従配置が義務づけられている精神保健福祉士(PSW)の退院援助が,認知症症例の退院の状況とどのように関係しているかを明らかにするために検討を行った.方法:認知症病棟から退院した症例について,PSWの退院援助と入院期間,退院先機関,栄養摂取方法,服用薬剤などとの関係を検討した.結果:検討対象の要件を満たした症例は192例であり,アルツハイマー型認知症が94例(49.0%)と約半数を占めていた.在宅療養への移行例では,当院外来への通院例が45例,他院への通院例が17例の計52例(32.3%)であった.他院への転入院例は34例(17.7%)であった.その他の96例(50.0%)は,約半数が介護老人保健施設(老健)に入所し,介護老人福祉施設(特養),有料老人ホーム(有老),グループホーム(GH)の順に減少した.1症例当たりの平均援助回数および時間(平均援助頻度)は,施設では有老が最も多く,回数で50回,時間で800分を超え,特養,老健,GHの順に減少した.他院への通院例は,入院期間が最も短いにも係わらず,当院への通院例よりも多くの援助を必要とした.栄養摂取方法と平均援助頻度との関係では,経口摂取で援助頻度が最も少なく,経鼻経管,胃瘻の順に多く,経口摂取と胃瘻との間には有意差(P<0.01)を認めた.服用薬剤と平均援助頻度との関係では,老健の場合においてのみ,塩酸ドネペジル服用例でその他の薬剤服用例よりも有意(P<0.003)に多くの援助を必要とした.結論:認知症病棟からの退院においては,PSWの退院援助が不可欠であり,かつ多くの時間を必要とすることが判明した.また,在宅療養の場合よりも,医療機関への入院または施設への入所において,退院援助の必要度が高いことも示された.さらに,療養型医療機関への入院および老健への入所では,服用薬剤によりその調整に頻回の援助を必要としていた.
著者
下方 浩史
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.174-176, 2001-03-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

長寿者となるための生理的条件としては遺伝素因が重要である. しかし, 長寿を修飾する因子として栄養, 運動, 休養, 喫煙, 飲酒などの生活・環境要因も重要である. 肥満は健康や寿命と大きな関係を持つ. ラットなどでは食餌制限で寿命が延びることが知られているが, ヒトでは肥満とともに痩せすぎも寿命短縮のリスクとなる. 特に予備力の低下している高齢者では痩せには要注意である. 喫煙や糖尿病, 高血圧などは老化を促進する. 一方, スポーツの習慣や適量の飲酒は老化を遅らせる. 予防対策・健康支援も健康な長寿を目指すためには欠かせない. 遺伝素因やリスク評価に基づいたオーダーメイド・サポートなど長寿のための健康支援の新しい戦略の成果も, 今後は期待できる. しかし, こうした予防医療・健康支援を実践していくためには, 基盤となる研究データの蓄積が欠かせない. そのためには老化に関する長期の大規模な縦断的研究が必要である.
著者
岩本 俊彦 赤沢 麻美 阿美 宗伯 清水 武志 馬原 孝彦 高崎 優
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.36, no.8, pp.565-571, 1999-08-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
15
被引用文献数
2 3

暑熱による脱水症が誘因と考えられた高齢者脳梗塞例を通して暑熱, 脱水症と脳梗塞との関係を検討した. 対象は最高気温が連日概ね30度を越えていた2週間に当病院を受診した65歳以上の急性期脳卒中 (高齢猛暑群n=5) である. 対照にはその前後4週間に脳卒中で受診した高齢者の前群 (n=5), 後群 (n=3) を, また65歳未満の若年猛暑群 (n=1), 若年前群 (n=5), 若年後群 (n=2) を各々高齢対照群, 若年群として用い, 臨床所見, 画像所見を後方視的に検討した. 高齢猛暑群は全て脳梗塞で, その頻度は高く, いずれも活動した日の正午までに発症したのが特徴的であった. 1例 (78歳) は橋梗塞例で, 既往に多発性ラクナ梗塞があり, 嚥下障害がみられていた. 2例 (73,89歳) はラクナ梗塞例で, このうち1例は前立腺肥大症による頻尿を恐れて飲水制限をしていた. 他の2例 (76,83歳) は心原塞栓性梗塞例 (1例は再発例) であった. 高齢猛暑群では皮膚緊張度の低下, 舌の乾燥が全例に, BUN/Cr比≧25も透析患者を除く4例中3例に, フィブリノゲン上昇も3例中2例にみられ, 特にBUN/Cr比は若年群より有意に高かった. ヘマトクリット値の上昇はなかったが, 発症時の状況や臨床所見から脱水症が疑われ, 補液したところ, 皮膚緊張度は改善し, 3例の非塞栓性脳梗塞には抗血栓療法を施行して2例は軽快した. 以上より, 猛暑下での過剰発汗が高齢者の脱水症を助長し, 脳梗塞を惹起したものと考えられた. 高齢者は暑熱で脱水症をきたし易く, また脳梗塞が午前中に多かったことから, その予防には起床時の十分な飲水が重要であることが示唆された.
著者
小川 貴志子 藤原 佳典 吉田 裕人 西 真理子 深谷 太郎 金 美芝 天野 秀紀 李 相侖 渡辺 直紀 新開 省二
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.545-552, 2011 (Released:2012-02-09)
参考文献数
17
被引用文献数
19 36

目的:介護保険制度で用いられている基本チェックリストによる虚弱判定のcut-off pointをFriedらの定義に照らして検討した.さらに,同チェックリストで虚弱と判定された高齢者の血液生化学及び炎症マーカーの特徴を明らかにすることを目的とした.方法:1)群馬県草津町に在住する65歳以上の住民を対象に実施されている高齢者健診を2007年と2008年の2年とも受診した420人を対象に,Friedらの基準による虚弱判定と基本チェックリスト(1~20項目)得点との関係を分析し,その併存的妥当性を検討した.2)その結果得られた基本チェックリストのcut-off pointを利用し,2008年同町の高齢者健診受診者(665人)の虚弱判定を行った.さらに,虚弱群と非虚弱群の血液生化学及び炎症マーカーを比較した.結果:1)Friedらの判定に対する基本チェックリスト(1~20項目)のYouden Indexはcut-off point 4/5点であったが,虚弱判定は特異度を重視し,cut-off point 5/6点に設定した.この時,感度,特異度はそれぞれ60.0%,86.4%であった.2)男性34名(12.3%)女性74名(19.0%)が虚弱と判定された.性,年齢を調整した虚弱に対するIL-6のリスク比(第1三分位に対する第3三分位)は2.05[95%信頼区間(CI):1.15-3.64],握力の同リスク比は0.19[95%CI:0.07-0.46],歩行速度の同リスク比は0.23[95%CI:0.12-0.45]であった.炎症マーカーのうちIL-6第3三分位かつβ2-ミクログロブリン(MG)第3三分位群の虚弱に対するリスク比は5.61[95%CI:2.40-13.11]であった.結論:基本チェックリストを用い「虚弱」を判定することは可能であり,IL-6とβ2-MGの両方を組み合わせた指標は,虚弱マーカーとして有用であることが示唆された.
著者
加藤 智香子 猪田 邦雄 原田 敦
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.46, no.5, pp.428-435, 2009 (Released:2009-11-17)
参考文献数
24
被引用文献数
4 5

目的:介護老人保健施設の女性高齢者を対象に,日常生活活動(activities of daily living:ADL)と乖離した高い転倒自己効力感が転倒発生に与える影響について検討した.方法:介護老人保健施設に入所中である70歳以上の女性のうち,Mini-Mental State Examination(MMSE)18点以上で,6カ月間転倒観察が可能であった72名を対象とした.Functional Independence Measure(FIM)運動項目と転倒自己効力感尺度(Falls Efficacy Scale:FES)の散布図からADLと転倒自己効力感の関係を3群に分類した[I群(ADLに比して転倒自己効力感が高い25名),II群(ADLに比して転倒自己効力感が低い30名),III群(ADLと転倒自己効力感に95%信頼区間内で相関関係あり17名)].そして,3群での6カ月後の転倒発生者の割合と転倒回数を比較検討した.さらに,多重ロジスティック回帰分析を用いて転倒発生に関連する要因について検討した.結果:3群において,6カ月後の転倒割合(56.0%vs 26.7%vs 17.7%,p=0.02),転倒回数(1.44 vs 0.47 vs 0.35,p=0.03)に有意な差がみられた.各群間での比較では,I群とIII群間の転倒割合に有意な差が認められた(p=0.02).6カ月後の転倒の有無とは,過去1年間の転倒歴,FESとともにADLに比して転倒自己効力感が高いI群(オッズ比13.20(1.34∼130.12),p=0.027)が有意な関連を示した.結論:日常生活活動と乖離した過度な転倒自己効力感を有する場合には,身体能力に応じた「用心深さ」が失われて注意が散漫になり,転倒リスクが高くなると考えられた.
著者
西川 恵三
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.314-317, 2012 (Released:2012-12-26)
参考文献数
7

骨粗鬆症は,骨塩量の減少に伴い,骨折リスクが高まる全身性疾患であり,日常の生活動作(ADL)や生活の質(QOL)の低下に直結する.近年の高齢化社会を背景に,我が国での患者数は一千万人を軽く超えると推定されており,重大な社会問題となりつつある.加齢により生じる成長ホルモンや性ホルモンなどのホルモン系の機能低下は,骨粗鬆症を引き起こす大きな要因とされている1).近年,エストロゲン欠乏による骨代謝異常のメカニズムの理解は大きく進歩したが,老人性骨粗鬆症の分子機構はほとんど不明である.今回,筆者らの研究によって,間葉系細胞の分化を制御する転写因子Mafが加齢に伴い発現低下することが明らかとなったことから,老人性骨粗鬆症の発症機序には,Mafによる制御機構の破綻が関与することが考えられる.本総説では,筆者らの研究成果と最新の知見を合わせて,老人性骨粗鬆症の発症に関与する分子メカニズムを解説したい.
著者
大野 博司
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.451-456, 2011 (Released:2012-02-09)
参考文献数
7

高齢者(在宅,介護施設入所)での経口抗菌薬について臨床データは限られているが,キノロン系経口抗菌薬については尿路感染症,肺炎,皮膚軟部組織感染症においては静注薬と少なくとも同等の結果が報告されている.ここではキノロン系経口抗菌薬も含め,高齢者の感染症―とくに頻度の高い下気道感染症(肺炎,誤嚥性肺炎,COPD急性増悪),尿路感染症,皮膚軟部組織感染症―で経口抗菌薬を上手に使いこなすためにはどうしたらよいか考えてみたい.
著者
稲田 満夫
出版者
The Japan Geriatrics Society
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.513-516, 2007-07-25
被引用文献数
3

87歳の女性.四肢筋力低下のため,起立歩行は不可能,食事に介助が必要となり入院した.高血圧,低K血症(2.7mEq/<i>l</i>),代謝性アルカローシスを認め,一方,尿中K排泄量は20mEq/日以上で,鉱質コルチコイド過剰症と考えられた.甘草配合漢方薬の服用中止約3カ月後も低K血症は持続し,血漿レニン活性0.2ng/m<i>l</i>/時以下,アルドステロン32pg/m<i>l</i>,尿中アルドステロン1.1μg/日と著明に低下していた.甲状腺機能及びACTH―糖質コルチコイド系の機能は,いずれも正常であった.デキサメサゾン1.5mg/日を投与後コルチゾールは2.2μg/d<i>l</i>に抑制され,血清Kは3.9mEq/<i>l</i>,血圧も正常化した.スピロノラクトン50mg/日を併用し,血清Kは4.7mEq/<i>l</i>に上昇,以後スピロノラクトン50∼75mg/日のみで血清K及び血圧は正常に推移し,レニン活性6.9ng/m<i>l</i>/時,アルドステロン186pg/m<i>l</i>まで上昇した.また,食事の介助は不要となった.本症例は,デキサメサゾン及びスピロノラクトンが有効であり,11β-hydroxysteroid dehydrogenase type 2(以下11β-HSD2と略す)活性阻害が考えられ,血清コルチゾール/コルチゾン比は0.95で,80歳代の5例の女性対照群(0.28∼0.72)より高値であった.従来,本症は,甘草に含まれるグリチルリチン酸の慢性的服用による偽性アルドステロン症として知られ,また,その効果は長期間持続するとされる.しかし,今回の症例では,服用中止約1年以上経過後でも,スピロノラクトンを中断すると,低K,低レニン·低アルドステロン,代謝性アルカローシスが出現し,スピロノラクトン再投与で正常化した.最近,本症の高齢発症例がしばしば報告され,グリチルリチン酸以外の11β-HSD2抑制因子として加齢の関与を検討する必要がある.<br>