著者
佐藤 和之 菅原 若奈 前田 理佳子 松田 陽子 水野 義道 米田 正人
出版者
日本語学会
雑誌
國語學 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.85-86, 2001-03-31

1995年1月の阪神・淡路大震災以来,私たちは被災した外国人や外国人対応機関からの聞き取りを行ってきた。一連の研究から明らかになったことは,(1)多言語での情報提供より,彼らにも理解できる程度の日本語で情報を伝える方が現実的ということであった。そしてまた,一人でも多くの外国人を情報弱者という立場から救うためには,(2)身の安全と当座の生活確保のための緊急性の高い情報をいかに厳選し,(3)いかにわかりやすい表現で伝えるかということであった。このような言語的対策の研究成果として,私たちは1999年3月に『災害時に使う外国人のための日本語案文-ラジオや掲示物などに使うやさしい日本語表現-』と『災害が起こったときに外国人を助けるためのマニュアル(弘前版)』を作成し,初・中級程度のやさしい日本語表現を使っての情報提供が有益であるとの提案を行った。やさしい日本語表現を用いて,外国人被験者(日本語能力が初級から中級程度)へ聴解実験を行ったところ,通常の文では約30%であった理解率が,やさしい日本語の文では90%以上になるなど,理解率は著しく向上した。発表では,72時間情報の意味(もっとも混乱した時間帯での情報とは何か),伝えるべき情報の種類と発信時間(災害発生時に外国人にも伝えるべき情報,緊急性の高い情報の種類と発信時間),やさしい日本語の構文(わかりやすく伝えるための構文の提案),使用できる語彙(買い物やバスの利用ができる程度の日本語語彙の選定と言い替えの方法),音声情報の読み方(ポーズの効用やスピード),使用すべき文字種(漢字仮名交じり文かローマ字文か),シンボルマークの使用(雑多な掲示物の中で外国人の目をひくための表現方法),コミュニティ版(弘前市を実例としたマニュアルの構成と内容)といったことについての試論を報告した。
著者
山田 俊雄
出版者
国語学会
雑誌
国語学 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
no.120, pp.p1-6, 1980-03
著者
池上 禎造
出版者
日本語学会
雑誌
国語学 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
no.23, 1955-12
著者
今野 真二
出版者
日本語学会
雑誌
國語學 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.59-73, 76, 2001-03-31

本稿では、西行を伝承筆者とする一〇文献に就き、これまで藤原定家の表記に関して指摘されてきたことがらが定家に先立つ藤末鎌初の仮名文献資料に看取されるのか否か、という観点を設定しながら、ひろく当該期の仮名文献を見渡して気づいたことがらの報告を行なう。これらの文献には後世のような、表語ひいては音韻と結びついた機能的な仮名文字遣はいまだみられないが、「行」に関わる仮名文字遣らしきものはみえており、書記の単位としては「行」が中心であったことを窺わせる。ただし、その一方で、〈ゆへ〉〈まいる〉〈なを〉〈ゆくゑ〉など、語によっては古典かなづかいに非ざるかたちが固定化し始めており、書記の意識は「行」から、「語」へと移行しつつあると思われる。藤原定家との関わりで言えば、行頭に同じ仮名が並んだ場合の「変字」は、当該期の資料にもみられ、また異体仮名〈地〉を音韻ヂに充てたと覚しき例も散見する。したがってこれまでに定家の書記に関して指摘されていることがらの多くは藤末鎌初の仮名資料にもみられ、定家はそれらを総合的にかつ意識的に行なったと考えるべきである。「定家以前」の状況が明らかになることによって、これまで定家に関して指摘されてきたことがらを史的展開の中で評価することができると考える。
著者
小倉 肇
出版者
日本語学会
雑誌
國語學 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.1-16, 2003-01-01

〈大為尓〉は,源順の「あめつちの歌四十八首」の冒頭2首および『万葉集』巻1の巻頭歌ならびに『三宝絵』序の冒頭に引く古人の「漢詩」を踏まえて作成された,「江」を含む48字の誦文で,作者は,『口遊』『三宝絵』の著者,源順の弟子の源為憲である。〈大為尓〉は,綿密かつ周到に計算された用語で構成されており,まさに「此誦為勝」と見なすことのできる内容の誦文(韻文)となっている。〈阿女都千〉から〈大為尓〉への改変は,源為憲の「ちゑのあそびの産物」であり,「此誦為勝」という注記は,音韻史の問題(ア行「衣」とヤ行「江」の区別)とは全く関係のないもので,そのまま文字通りの意味で理解することができる。また,五音と誦文との相互補完的な結びつきは,〈以呂波〉が成立してから後のことであることも改めて確認する。
著者
豊島 正之
出版者
国語学会
雑誌
国語学 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
no.136, pp.p152-140, 1984-03
著者
京極 興一
出版者
日本語学会
雑誌
國語學 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.160, pp.26-39,113-112, 1990
著者
釘貫 亨
出版者
日本語学会
雑誌
國語學 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.76-88, 2002-04-01

本居宣長と上田秋成の間で交わされた古代日本語音韻に関する『呵刈葭』論争において、上田秋成はその学問的根拠の大半を友人礪波今道に依拠したことを表明している。今道の名は宣長の裁断によって学説史から消滅したが、彼の著書『喉音用字考』(静嘉堂文庫蔵)を検討すると次の諸点において没却し得ない内容を持っている。(1)「近世仮名遣い論の要諦「喉音三行弁」を『韻鏡』開合、声母、等位を組み合わせた説明に成功した。」(2)「古代日本語に存したア行の「衣」とヤ行の「延」の区別を予見した。」(3)「上代漢字音に存した唇内撥韻尾mと舌内撥韻尾nの区別を発見、論証した。これは従来その創見を言われる東条義門『男信』に数十年先行する。」しかし、上田秋成は今道の画期的な業績を正しく理解せず、宣長が言う半濁音pをいわゆるハ行転呼音と誤解して宣長説を論い、さらに今道が上代の漢字音だけに絞ったmn韻尾の区別を当時の大和言葉に拡大解釈して主張した。宣長は秋成との論争を通じて今道説を知るに過ぎなかったので、秋成もろともに今道を葬り去る結果となった。
著者
福島 邦道
出版者
国語学会
雑誌
国語学 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
no.139, pp.p108-110, 1984-12
著者
石黒 順哉
出版者
日本語学会
雑誌
國語學 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.95-96, 2001-03-31

本発表は,これまでの「ところで」の研究の問題点をふまえ,「ところで」の用法を整理し,その基本的機能を解明することを目的とする。考察は,「ところで」によって接続できる段落には制限があるという事実から,文章・談話において何に依存し何を承けているのかという接続的な観点と,川越(1995)を参考にして「話題レベルのシフト」「次元のシフト」というディスコース的な観点の両側面から行う。「ところで」の用法としては「既出要素の話題への拡張」「現場事物の持ち込み」「スクリプトの実行」という三つの用法が挙げられる。これらの用法間の共通性から「ところで」の基本的機能を導き出すと,「ところで」は依存対象の中の一部に注目して,そこから次の話題を形成する何らかの要素を取り出し,それを当該の文章・談話に持ち込むことによって話題をシフトすると結論づけられる。依存対象が言語的文脈であれば,言語的要素が取り出され,それが新たな話題へと拡張される。この場合,前後の話題間には関連が認められ,全く別の話題に移行するという従来の説明は不十分であるといえる。先行するテクストとの関連を示す語や表現の存在や寺村(1984)のトコロの意味,そして後続文に疑問文が来やすいという現象からもこの用法の性格が示唆される。一方,依存対象が非言語的文脈中のものであれば非言語的要素が取り出され,それまでの話題と関連のない話題へと突然変更することになる。この時「ところで」は「場面に存在する話題」「話し手の観念に存在する話題」へと話題内容だけでなく次元をもシフトする。言語的文脈だけでなく非言語的文脈までも依存の対象にできるという点は,他の接続詞と大きく違う点であり,「ところ」という形態の意味が非常に抽象的な概念であることと関係していると思われる。
著者
藤本 雅子
出版者
日本語学会
雑誌
国語学 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.2-15, 2004-01
被引用文献数
3

日本語の母音の無声化は東京方言では多く近畿方言では少ないとされる。それは東京方言では子音が,近畿方言では母音が丁寧に発音されるためであるという説がある。本稿では東京方言話者と大阪方言話者の発話資料を用い,1)典型的無声化環境での無声化の頻度,2)非典型的無声化環境での母音長の2点を検討した。その結果,1)については,アクセント条件を揃えると東京方言話者と同程度に無声化する大阪方言話者が多いこと,一方でアクセント条件を揃えても有意に無声化が少ない大阪方言話者がいることが明らかになった。2)については,母音が無声化しない大阪方言話者の母音は東京方言話者より有意に長いこと,無声化する大阪方言話者は東京方言話者と同程度(/e/)か東京方言話者より短くなる場合がある(/i/)ことが明らかになった。さらに,東京方言話者の/i/は発話速度に関わらず一定して短いが/e/ではその特徴が見られないことから,東京方言話者は無声化しやすい母音では特殊な制御をしている可能性があると思われる。