著者
佐藤 琢三
出版者
日本語学会
雑誌
国語学 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
no.192, pp.118-107, 1998-03
著者
大西 拓一郎
出版者
日本語学会
雑誌
國語學 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.31-43, 2003-10-01

方言におけるコソ〜已然形型の係り結びの用法には,中央古典語と同様に条件表現・文末表現が認められる。このうち,文末の表現には,比較的ニュートラルな言い切り表現のほか,反語や安堵といった特定のモダリティに傾いた用法が認められる。また,条件表現的な文中の用法には用言の実質的意味が希薄なとりたて詞的用法が認められる。これらの発生・変化の過程を考える場合,係りのコソの対比性の変化と結びの用言の変化を考慮する必要がある。コソが対比性を希薄化することで結びの用法は対比的逆接条件表現から文末言い切り表現に変化した。一方,結びは,用言一般から補助動詞「ある」に限定される中で,「ある」が存在詞とは異なる実質的意味を持ち,ここにコソの対比性が関与することで反語用法を生み出し,対比性の希薄化が安堵用法を生み出した。さらに「ある」が文法性を強化することでコソ〜已然形は,全体としてとりたて助詞に回帰したりコピュラ化することになった。以上の変遷は分布でも裏付けられる。
著者
秋山 英治
出版者
日本語学会
雑誌
國語學 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.79-80, 2001-03-31

四国北部諸方言アクセントの成立については,金田一春彦氏に代表される従来の研究では,『類聚名義抄』の体系を祖体系とし,そこから諸方言が成立したと考えられてきた。この従来の説に対して,上野善道氏は,第1類が有核型の方言の変化をうまく説明することができないことなどの問題点を指摘し,従来高平調といわれてきた高起系列の〈式〉を〈下降式〉と置きかえるという祖体系案を立てた。これらの説とは別に,ダウンステップという現象を導入し,『類聚名義抄』より一段階前の祖体系を再構したのが松森晶子氏である。しかし,松森晶子氏の説には,祖体系として一つの型に山が二つある型を認めていること,接触によって変化が起きたと考えられる方言が取りあげられていることなどの問題点がある。そこで,これらの問題点を解決するために,四国北部において〈式〉を有する代表的な地点の調査を行った結果と従来の報告をあわせてみたところ,類別体系としては4タイプに分けられる四国北部諸方言が〈式〉としては五つのタイプに分けられること,従来観音寺型といわれていた地域に向かって丸亀型が西に広がってきていること,松森晶子氏が指摘しているように「讃岐式」諸方言で3拍名詞第5類が二つの型に分かれていることなどが明らかになった。そして,これらの特徴をふまえ,『類聚名義抄』で「平平」「平平平」と注記された音調型を〈下降式〉無核型とし,そこに〈平進式/下降式/上昇式〉の三つの〈式〉を想定するという祖体系私案を立て,諸方言の成立過程を述べた。三つの〈式〉を想定することによって種々のタイプの〈式〉の変化を,また「讃岐式」諸方言の3拍名詞第5類の二つの型について高松市方言の状況をふまえることによって,語音環境の違いによって分かれたと考えられる。さらに,従来「低平調」と推定されてきた音調型を〈下降式〉と想定することによって,中世京都方言で起きた変化を説明することができると考えられる。このことは,この祖体系私案が,四国北部諸方言のみならず近畿諸方言,そして日本語諸方言の祖体系となる可能性を秘めていることを示唆する。
著者
間淵 洋子
出版者
日本語学会
雑誌
国語学 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.15-30,154, 2000-06

室町期から現代に至る口語的資料を対象とした調査によって,格助詞「で」の用法とその発達について以下の3点を主張する。(1) デ格の基幹的用法は,分布状況や出現度から場所格・手段格・様態格であると考えられ,これらは「動詞が表わす事態への消極的参与」及び「状況の限定」を主に表わす「で」の基幹的意味特性による。(2) 現代語に見られる動作主格や原因格は,室町期には例が少なく,近世以降に発達した用法である。これらは通時的に見ると(1)にあげた基幹的用法から派生的に出現した用法である。このデ格の発達は,文構造における周辺的・付加的な要素から中心的・必須的な要素への参入という方向の変化であると位置付けられる。(3) (2)の変化要因は「一定条件下の文脈における基幹的意味の背景化」と捉えられ,デ格を構成する名詞のバリエーションの増加や,文脈内で注目される意味特性の変化がそれに関与すると考えられる。
著者
榎木 久薫
出版者
日本語学会
雑誌
國語學 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, 2001-03-31

(典型的な)間接受身文「太郎は次郎に学校へ行かれた」は,補文「次郎が学校へ行った」で描かれる出来事に直接に関与しない語が主語に置かれる文である。このような文が成立するためには,主語が補文(で描かれる出来事)に何等かの間接的関与をするという意味補給がなされる必要がある。一方,使役文「太郎は次郎に学校へ行かせた」も同様に,主語は補文に直接に関与しないものであるが,指示や命令といった間接的・能動的関与がなされる(誘発使役文の場合)。このような使役文においては,補文は主語にとって好ましいことと解釈される。これに対して間接受身文では,補文は主語にとって好ましくないことと解釈される。この「迷惑」という心理的影響を受けるという解釈が,間接受身文における間接的関与の意味補給である。このような「迷惑」の意味は,間接受身文主語が補文に対して,使役文主語のような能動的関与の出来る立場にありながら,受動的に関与せざるを得ないことによって生じるものと考えられる。このことは,間接受身文と同様に,補文の心理的影響が主語に及ぶが,その影響が「恩恵」である受益文「太郎は次郎に学校へ行ってもらった」が,依頼や懇願という使役文と同様の能動的関与の意味を含むものであることと対比することによっても確認される。(典型的な)間接受身文の,主語の補文に対する関与は,使役文の成立を背景とした意味補給によるものと考えられるが,このことは間接受身文の述語動詞が非能格動詞(動作主を主語とする動詞)であることの理由ともなる。(典型的な)使役文は,主語が指示や命令という間接的関与によって補文の出来事を生じさせることを描く文であって,補文の主語はそれ自体動詞の動作をなす性質(動作主性)を持つことが必要である(述語動詞は非能格動詞である)。このような使役文を背景として間接受身文が成立することから,間接受身文の述語動詞も非能格動詞となるのである。
著者
郡 史郎
出版者
日本語学会
雑誌
國語學 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.16-31, 2004-04-01
被引用文献数
1 2

東京方言において, ソバヤ(そば屋)やサ<カナ>^^^-(魚)などの単語単独発話に現れる第1モーラから第2モーラへの上昇については, ア<ノソバ>^^^-ヤ, ウマ^^-イソバヤ__-, コ<ノアカイサカナ>^^^-, ニガ^^-シタサカナのように文中ではなくなるという観察から, 上昇はアクセントの特徴ではなく, 「句」の特徴であるという上野善道氏, 川上蓁氏らの考え方が現在有力である。本稿では話者10名の読み上げ資料の音響分析により, ニガシタサカナに類する「南禅寺のみやげ」の「みやげ」などには上昇作用が安定的に存在していることを示し, これは上昇が「みやげ」の韻律的特徴としてもともと備わっているためと考えるべきであること, すなわち上昇はアクセント単位が持つ特徴の一部, すなわち本稿で言う「アクセント」の一部であり, 「句」そのものの特徴ではないと考える方が音声的実態に即していることを示した。ただし, この上昇はアクセント(型)の区別には役立たず, 環境によっては顕在化しないと考えるべきである。その環境とは, 前文節から意味的な限定を受ける場合, しかも前文節が無核か, 核位置が文節末に近い場合, あるいは前文節以前にフォーカスがある場合である。
著者
工藤 力男
出版者
日本語学会
雑誌
國語學 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.56-58, 2001-03-31