著者
渡辺 博明
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.2_80-2_99, 2015 (Released:2018-12-15)
参考文献数
26

本稿は, スウェーデンの民主政治における代表と統合の変容を, 政党政治の変化から論じるものである。従来の同国政治の特徴は, 議院内閣制の中でも特に 「委任―責任」 関係が単純化された制度設計になっていることと, 多党制でありながら 「ブロック政治」 や 「消極的議院内閣制」 の慣行により少数派政権でも意思決定を進めやすいことにあった。そして, それらを結びつけて機能させていたのが, 職能的ないし思想的に社会集団を代表しつつ, 議会内では合意形成を目指して合理的に行動しうる諸政党であった。しかし, 高度経済成長を経て有権者の政党支持が流動化するとともに, 予算編成方式の変更を機に政党側の多数派形成志向が強まり, ついには左右の選挙連合が対決するに至った。そこでは各党の政策距離が縮小する中, 有権者が政権選択のみを迫られる傾向が強まった。その一方で, 移民政策をめぐる既成政党の対応を批判する右翼ポピュリスト政党が台頭し, 議会政治に大きな影響を与えるまでになっている。今日のスウェーデンは, 選挙制度を含む諸制度への支持の安定という点で直ちに統合の危機に陥る恐れはないものの, 政党による代表と調整の機能が問い直される局面を迎えている。
著者
安井 宏樹
出版者
JAPANESE POLITICAL SCIENCE ASSOCIATION
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.1_303-1_321, 2009 (Released:2013-02-07)
参考文献数
36

Federal Republic of Germany has been governed by the unified governments only for 17 years of its 59 years history. The upper house of German legislative body (Bundesrat) has no power to dismiss the cabinet, but has a de facto veto power in the legislation process. Such setting of governing system makes it difficult to keep the unified government in Germany.   However, the period of “certain divided government”, in which the opposition parties have a clear majority in the Bundesrat, is shorter: about 13 years. Voting behavior of a “mixed state” that has a coalition government of federal ruling parties and federal opposition parties tends to be dependent on the negotiations among the parties. Therefore, for around half of the period, Germany experienced the “uncertain divided governments”, under which neither the ruling parties nor the opposition parties could have controlled the solid majority in the Bundesrat.   While negotiations and compromises are the basic mode under the “certain divided governments”, federal cabinets in the time of “uncertain divided government” have a room for maneuver to arrange the legislative proceedings in a unilateral manner.
著者
河崎 健
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.2_11-2_34, 2015 (Released:2018-12-15)
参考文献数
42

過去の反省や戦後の冷戦体制の影響などから戦後西ドイツの政党制には左右の過激勢力の台頭を抑制すべく厳格な制度的枠組みが構築され, 国家の側からの代表制度の規制が正当化されていた。しかし60年代以降の左派陣営の分裂から新党が定着し, 3党制では十分な代表機能が果たせなくなった。他方, 多党制ながら左右陣営間の政権選択の選挙が定着していた西ドイツだが, 統一後, 左右の過激勢力が旧東独の地域利益 (左) や反ユーロ (右) というイッシューを前面に, 過激性を潜めることで既成政党に影響を及ぼすようになってきた。その結果, 左派陣営の諸勢力の分裂と相互の共闘の不備, 右派陣営の政党間による多数派確保の難局化により, 選挙を通した政権選択の可能性が不透明になってきたのである。現在のドイツでは連立の選択肢を拡げて首班政党としての多数派獲得をめざす二大政党間の競争と, 自党の生き残りと政権入りをめざす小政党間の競争が特徴的になっている。
著者
矢田 俊隆
出版者
JAPANESE POLITICAL SCIENCE ASSOCIATION
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.61-76,en4, 1964-12-21 (Released:2009-12-21)

The object of this article is to illustrate the particular process of dynamic development which the German liberalist movements showed during the Revolution 1848/49. It is as follows.The intellectual liberals sought to realize their pre-March mission of drawing government and people together as the real agents of their ideals, were progressively isolated from both of these powers and were subsequently themselves torn apart into their three generic divisions as they fell into dependence upon divergent real interests or remained impotently suspended about them. The dissolution of intellectual liberalism under the solvent of conscious self-interest in its agents meant the beginning of the end for the philosophical approach to politics, and introduced the general reorientation toward the frank and direct appreciation of interests and power which the Revolution had shown to be decisive in German society and politics. Such fundamental reorientation led to a political positivism, which meant the intellectual decline of German liberalism, because it undermined the comprehensive appeal of the liberal political ethic and, in consequence, diminished the force of assault upon the prevailing state-system in Germany.
著者
松井 陽征
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.1_225-1_247, 2019 (Released:2020-06-21)
参考文献数
44

保守主義政治思想について、日本の政治思想史家半澤孝麿と英国の政治哲学者マイケル・オークショットそれぞれの保守主義論を比較検討する。両者の議論の共通項として注目すべき事柄は、通常は保守主義の代表とは全く考えられていないモンテーニュ、パスカル、ホッブズの三者こそが保守主義の典型とされていることである。その三者は、二つの根拠から保守主義とされる。その一つは、半澤の保守主義類型化論における 「懐疑主義的保守主義」 概念によって答えられる。懐疑主義的保守主義は、秩序の正しさを判定する正義への徹底した懐疑を重要な特徴とする保守主義であり、その重要な含意は、「伝統」 を共同体秩序の基礎として積極的に保守するのではなく、きわめて消極的にのみ保守する、そして場合によっては 「伝統」 をも懐疑の対象とすることだ。根拠のもう一つは、人間の生にとっては 「政治」 は二義的な重要性しかもたず、「非政治」 の領域にこそ最終的な救済が求められるという 「非政治主義」 思想によって答えられる。それは、可死性と救済の問題が現世的秩序とどのように関係するのかを考察したオークショットのホッブズ論を検討することで、明らかとなる。