著者
末木 孝典
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.1_201-1_222, 2020 (Released:2021-06-16)

本稿は、明治期最初の議院規則における傍聴規定の成立過程を 「梧陰文庫井上毅文書」 所収の草案の順序を推定することにより、現行規定の傍聴席の細かい分類や傍聴人の服装などの規制が規定された経緯や、最終的に女性の傍聴禁止条項が廃止されるに至った経緯を考察するものである。 その結果、以下のことがわかった。第一に、傍聴席分類や傍聴人の服装などの規制は欧米諸国を調査した事務局グループが作成した草案に起源があり、議院秩序を最優先する発想から来ていること。第二に、議院規則を勅令で事前に制定する方式ではなく、憲法が保障する議院の自律性に配慮して草案の作成にとどめ、成案は議会が定める方式を採用したことが最終的に女性の傍聴禁止条項の削除を可能にしたこと。第三に、草案作成に際して事務局内に対立があり、総裁の井上毅は女性の傍聴禁止を明文化せずに運用で規制すればよく、傍聴席分類も厳しすぎると認識していたこと、海外調査組の金子堅太郎は秩序と事務処理を重視し、女性の傍聴禁止の明文化に反対ではなかったこと。最後に、現行の議院規則や傍聴規則が明治期から維持されてきた細かい規制をいまだに残したままであることである。
著者
鵜飼 健史
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.1_208-1_228, 2011 (Released:2016-02-24)
参考文献数
41

This article aims to make clear the reasons of the absence of “the sovereign” in the contemporary theory of sovereignty. This article sheds light on the ontology of the sovereign which has been composed in current political theory such as Negri=Hardt and Laclau in order to reveal conceptual features of the sovereign. This article argues that the concept of the sovereign contains the political instance which provides the concrete meanings of the sovereign and, therefore, is changeable through public processes. Section 1 analyzes some of typical theories of sovereignty and refers to a common feature that the theory of the sovereign is absent. Section 2 confirms that there is a gap between the universal people and the particular nation in terms of the sovereign's existence. Then, Section 3 considers the conceptual relationship between politics and the sovereign. “The sovereign” is not theoretically required because it is provided by real politics.
著者
山本 英弘
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.2_181-2_201, 2012 (Released:2016-02-24)
参考文献数
34

Interest groups combine various lobbying tactics. While some tactics may be used on one level, other tactics may be used additionally to enhance their claimson another higher level. In this paper, I attempt to clarify such a hierarchical structure of lobbying tactics. My findings are based on Japan Interest Group Study II data.   First, for sector groups and policy beneficiary groups close to the LDP government, lobbying tactics in terms of their targets in sequence are: 1) ministries and agencies; 2) the mass media; 3) the LDP or public assemblies. For value promotion groups, the sequence of lobbying is: 1) public assemblies; 2) the DPJ or mass media; 3) the mass media or DPJ; 4) ministries and agencies.   Second, interest groups tend to upgrade the level of lobbying when conflicts between interest groups exist or elite actors are accessible.   Third, the interest groups that lobby at the higher level tend to influence policy - making. But the sector groups and policy beneficiary groups that lobby the mass media in addition to ministries and agencies tend to have as much influence. The value promotion groups that use all the tactics including lobbying ministries and agencies also tend to influence policy - making.
著者
武居 寛史
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.2_318-2_335, 2017 (Released:2020-12-26)
参考文献数
33

合意形成は, 政治学において重要な課題であり, 近年では, 討議民主主義の観点からの検討が活発である。本稿では, 討議という個人間の相互作用と, それにより生じる合意形成という集団の性質の関係について, エージェント・ベース・モデルによって検討を行う。先行研究のシミュレーションでは, 2者間の相互作用による, 意見の変化の積み重ねに基づく合意形成が分析されてきた。しかし, 討議型世論調査のように, 集団での議論が行われる状況も, 合意形成の過程としては考えることができる。シミュレーションで, この2つの過程を比較した結果, 2者間相互作用の方が, 集団相互作用に比べて, 合意が達成されやすいことが示唆された。本稿の結果は, 討議の場を設けた場合に, より合意が生じやすい環境を発見することに貢献しうるものである。
著者
川中 豪
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.2_152-2_176, 2018 (Released:2021-12-26)
参考文献数
34

本稿はシンガポールの一党優位支配を支える選挙システムに対する人々の評価に影響を与える社会経済的な属性を探るものである。検証には, シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院の政策研究所が2011年と2015年に実施した選挙直後の世論調査を使用する。選挙システムに対する見方に関し, 世代間亀裂, 所得格差, 教育レベルの相違, エスニシティといった四つの社会的な亀裂が影響を与えているとの仮説に基づき, 年齢, 所得, 教育レベル, エスニシティの四つの変数を独立変数とし, 選挙システムの公平性評価および選挙システムの維持に対する選好を従属変数として回帰分析を行った。結果として, 世代間の亀裂, 教育レベルの違いが統計的に有意なレベルで選挙システムの公平性, 維持に対する選好に影響を与えていることが分かった。一方, 所得格差の影響は頑強ではなく, エスニシティの影響も限定的だった。
著者
岩崎 正洋
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.2_91-2_109, 2014 (Released:2018-02-01)
参考文献数
37

In this article, we focus on a relationship between presidentialization and party politics. Especially, we pay attention to the governance of party politics. According to Thomas Poguntke and Paul Webb, phenomenon of presidentialization “denominates a process by which regimes are becoming more presidential in their actual practice without, in most cases, changing their formal structure, that is, their regime type.” They refer to as three faces of presidentialization, that is, (1) the executive face, (2) the party face, and (3) the electoral face. These faces are complementary in the democratic governance. In this paper, the phenomenon of presidentialization means the governance of party politics. There are two types of governance by political parties. One is “governance in the party” and another one is “governance among the parties.” It is useful for us to understand the changes of party politics by using the concepts of “governance in the party” and “governance among the parties.”
著者
善教 将大
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.1_127-1_148, 2010 (Released:2016-02-24)
参考文献数
66

The purpose of this article is to examine the effect of trust in government on voter turnout in Japan, based on the analysis of large-scale panel survey datasets. In previous works, on static approach, it had been argued by many scholars trust hardly influences on voter turnout. This approach, however, is so inadequate for an examination the effect of trust could have been estimated only to partial. In this article, I argue that not only perception in present but also in the past must be necessary for it, and, on dynamic approach, there is “continuing” and “reflected” effect in trust. The results of logit estimation and post-estimated simulation show (1) the effect of trust in the people whose perception in the past and present is same is stronger than different, and (2) even if the perception in present differs, that difference is not effective when the perception in the past also differs.
著者
池谷 知明
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.2_59-2_79, 2015 (Released:2018-12-15)
参考文献数
34
被引用文献数
1

イタリアの共和体制は政党によってつくられた。「政党の共和国」, 政党支配体制といった表現に示されるように, 政党は政治の中心に位置していた。1990年代半ばの選挙制度の変更と政党の交代によって第2共和制に移行したと言われるが, そこで現出したのは「政党の第2共和国」ではなく第1共和制において政党の陰に隠れていた大統領であり, 第2共和制は「大統領の共和国」と称されたりもする。第2共和制において左右の2極化と政権交代は実現したが, 安定した政党システムは確立されなかった。左右の対決政治が先鋭化したことによって, また, 多数決型政治と合意形成型制度の齟齬の中で大統領は政治過程に積極的に関与するようになった。公式の権限に加え, チャンピ, ナポリターノの二人の大統領は, 非公式の権限としてのコミュニケーション・パワーを行使し, その存在感を高め, 世論の支持を受けた。不安定な政治状況の下で, 大統領は「国の統一を代表する」 (憲法第87条1項) 役割を果たしている。
著者
大庭 大
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.2_312-2_335, 2019 (Released:2020-12-21)
参考文献数
35

本稿は、純粋手続き的正義の理論に焦点を当て、その理論的意義を明らかにするとともに、制度的考察までを射程に含む分配的正義の有力なアプローチとしてこれを提示することを目指す。純粋手続き的正義のアプローチがロールズ理論の体系において一貫性をもつことの論証を通じて、その理論的擁護可能性を示したのち、純粋手続き的正義のアプローチが制度・政策のパタン指定性について独自の視点を提供し、制度的構想を導く指針ともなりうることを示す。より細かくは、まず1 ~ 2節で、純粋手続き的正義について、ロールズの議論を分析・整理することでその特徴の精確な見取り図を提示する。純粋手続き的正義の異なる類型をみたのち、原理適用段階における正義の指令を統べるアプローチとして、準純粋手続き的正義の社会過程説を特定する。そのうえで3節では、パタン指定という論点を中心にロールズ的な純粋手続き的正義の分配制度上の含意を論じる。4節では純粋手続き的正義の非ロールズ的構想について検討する。
著者
板山 真弓
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.2_186-2_207, 2019 (Released:2020-12-21)
参考文献数
19

1978年の 「日米防衛協力のための指針」 策定は、従来、秘密裡になされていた共同計画策定が公式化された、日米安全保障関係史上、画期的な出来事だと位置づけられる。本論文では、この 「指針」 策定をもたらす契機となった米国側のイニシアチブ、すなわち公式化要請の背景には、従来見逃されてきた、米国の国内政治要因があったのではないかとの仮説を提示する。具体的には、米=タイ間の秘密裡の共同計画が米軍の越権により策定された等と議会で問題視されたことを受け、日本との同様のそれについても批判を受けるのではないかと危惧されたことが背景にあったとする。他方、 「指針」 策定作業においては、この米国側の要請を受けた日本側が 「指針」 の基礎となる文書を起草する等、イニシアチブを取ることとなった。これは、日本の国内政治上の理由より、共同計画策定が秘密裡に実施されるようになったとの歴史的経緯より、公式化を実現する上では、日本側が自らの問題を解決すること、すなわち、日本国内において共同計画策定に関する政治的なコンセンサスを形成することが最も重要な課題であったことに由来する。
著者
石間 英雄
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.1_134-1_158, 2017 (Released:2020-07-01)
参考文献数
52

本論文は, オーストラリア労働党の事例を調査することによって, 政党の一体性に関する理論に対する貢献を行なうことを目的とする。オーストラリア労働党は, 凝集性が低く, かつ規律の執行が難しいにも関わらず, 極めて一体性が高く, 既存の理論によっては説明することが難しい事例である。本論文は, 政党内部組織に注目し, 党内における調整メカニズムがオーストラリア労働党の一体性を導くメカニズムであると主張する。 オーストラリア労働党の内部にはコーカスと呼ばれる組織が存在し, 下位組織としてコーカス政策委員会が存在している。コーカスは, 政策決定過程に埋め込まれており, 事前調整のメカニズムとして機能していた。意思決定過程を観察したところ, コーカス内の議論において, 一般議員が大臣提出法案に対し影響力を発揮していたことが明らかとなった。この党内の調整メカニズムによって, 議会提出前に, 執行部と一般議員の間で合意が成立していたため, 議会内での一体性が観察されたと考えられる。