- 著者
-
髙
- 出版者
- 日本政治学会
- 雑誌
- 年報政治学 (ISSN:05494192)
- 巻号頁・発行日
- vol.71, no.2, pp.2_213-2_236, 2020 (Released:2021-12-15)
- 参考文献数
- 38
グローバル化の進展とは相反するように、今世紀に入り各国で国家安全保障が政策領域として台頭してきた。国家安全保障は脅威やリスクに対する能力の強化という観点から主に議論されてきたが、それは国民 (Nationals) や国内社会との関係を含み、国民に如何に政策を提示し支持を得るかという国内関係から切り離すことができない。冷戦初期の米国におけるウォルファースとラスウェルの論稿は、国家安全保障が初めて政策名に冠された時代の目撃者ともいうべき論稿であるが、国家安全保障政策の必要性は認めつつも、それに伴う絶対性への警戒感を共有し、その国内関係へ重要な分析の視点を与えてくれる。ウォルファースは価値、規範性、主観と客観の齟齬、ラスウェルは市民的自由との対峙、民主的政治過程の担保、包括性から絶対的な国家安全保障の限界を指摘するが、それは冷戦初期の米国の国家安全保障政策への批判を越え、テロ、疫病など非伝統的安全保障の脅威が増す現代で、国民が政府に必要な保護を求めつつも、その政策を厳しく監視し評価するための議論の必要性を示唆する。そこには国民の不安や恐怖を軽減し、政府と国民との関係において如何に信用を確保するかという国家安全保障の隠れた課題が提示されているのである。