著者
村松 英子
出版者
山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.67-78, 1998-03-25

桃山期の美術作品の中に,南蛮屏風がある。異国の風俗,文化を垣間見ることができるこの美術作品は,特異な服装の異国人の姿が見られる。当時世界的に,圧倒的な力を誇っていた貿易大国ポルトガルは,隣国のスペインがポルトガル王を兼ねていたという史実から,スペインの影響を受けていたということが推察できよう。さらにそのスペインは,イスラムの影響を受けていたのである。ヨーロッパにおいてこの地にだけ,実にエキゾチックな文化が花開いたことと,南蛮人の特異な服装は,イスラムの影響と複雑なイベリア半島情勢によって生まれたものであることが考察された。
著者
高砂 美樹
出版者
山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.79-87, 2001-02-25

本稿では,日本の近代心理学にとって祖というべき元良勇次郎の神経概念について論じた。まずこれまでの神経伝達理論の概略をまとめたが,その枠組においては元良勇次郎ならびにWilhelm Wundtの神経伝達の考え方はどちらも旧式なものであった。特に元良の波動の理論を応用した研究は,実験心理学の歴史においても特異なものであった。元良勇次郎が神経伝達の解明にこだわった理由と,神経の理解が心理学へ及ぼす影響についても論じた。
著者
高砂 美樹
出版者
山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.19-28, 1997-03-25

本稿では,19世紀後半に成し遂げられた心理学の独立という史実を,その当時にすでに普及していた生理学的知見との関係から論じた。資料として,当時,心理学の教科書の役割を果たしていたWundtの『生理学的心理学綱要(第2版)』(1880),Laddの『生理学的心理学要説』(1887),William Jamesの『心理学原論』(1890)の3冊の著書をとりあげ,生理学的心理学を産み出す背景となった生理学的事実について概観した。
著者
富田 知子 神山 資将 及川 麻衣子 木村 康一 永松 俊哉
出版者
学校法人 山野学苑 山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.11-18, 2022 (Released:2023-03-31)

美意識とは、「美」に対する感覚や判断力を意味するが、その概念は地域や風土、あるいは文化や歴史などによって、様相に違いがあると言われている。1)これまで富田らは日本での美容に関する「美意識」のあり方について調査を行い、年齢や立場によってその捉え方が違うことを示してきた。まず日常生活の中で自身の思う美意識と実生活の一致について、学生と高齢者を比較した場合、高齢者の「自身が思う美意識」と「実生活」との一致が強く示唆された。2)次に理美容師の「美意識」についての検討では、年代によってとらえ方に違いがみられた。このことから、教育や経験によって「美意識」を獲得していくことが推測できる。今回、山野美容芸術短期大学の美容教育の核となる授業「美道論」に注目し、その受講前後での「美意識」の捉え方を比較検討した。
著者
増子 博調
出版者
山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.27-38, 1998-03-25

歌舞伎狂言のなかで,舞踊によって構成される演目(だしもの)を「所作事」という。所作事成立の当初はもっぱら女形のレパートリーであったが,後に(宝暦以後)立役も舞踊劇を演じるようになる。所作事の原形は阿国以来の歌舞伎踊にあり,はじめは容色を売りものにする女たちによるエンターテイメントに過ぎなかった。幕府の相次ぐ禁止令で女かぶき(若衆かぶき)から野郎かぶきに移った歌舞伎踊は,女性の役がらを演じる女形に引継がれ,従来のように性の魅力で観客を集める代りに,所作事としての演技力-芸の力で人気を獲ちとる方向に進むのである。当時ようやく劇芸術の体裁を整えた元禄かぶきにおいて,所作事は「狂言の花」と謳われ,幾多の名手が現われて歌舞伎劇の中核を形成する華麗な舞踊劇に成長して行く。所作事の声価をこのように高めた女形の役者たちは,役がらの純粋性を保つために「女」に徹する生活と心構えを崩さず,かつての女かぶきを上回る「女の色気」を漂わせて観客を悩殺したのである。彼らのこうした努力によって所作事の振りに盛りこまれた工夫の跡を,『舞曲扇林』等の歌舞伎資料を手がかりにして,紙幅の許す範囲で模索し,検証した。
著者
新井 卓二
出版者
学校法人 山野学苑 山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.55-56, 2022 (Released:2023-03-31)

健康経営は、日経平均採用225銘柄のうち8割の企業が健康経営度調査票に回答し、上場企業全体では30%弱が回答しており、大企業を中心に普及している。そうした状況を踏まえつつ、本書は、健康経営を経営戦略の一つと位置づけ、他の様々な経営戦略とも比較し、健康経営の取り組みの現状、健康経営の考え方とイノベーションまでを見据えた効果、効果を得るための具体的な手法についてわかりやすく解説する。また、地域への影響や健康経営を通した新しいビジネスモデルまで紹介し、健康経営に取り組むことで生まれる企業競争力とサステナビリティについて考察する。出版社は同友館、発売日は2022年6月20日、言語は日本語、形式は単行本で225ページである。ISBN-10:4496056003‎、ISBN-13‏:‎978-4496056000
著者
青木 和子
出版者
学校法人 山野学苑 山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.28.29, pp.1-13, 2022 (Released:2022-05-03)

現在の和服姿における帯の代表的な容(かたち)である「お太鼓結び」について、その結び方の歴史とその構造がどのように現在に至るまで変化してきたのかを明らかにする。そしてなぜ、長い年月を経た今もなお「お太鼓結び」が帯結びの典型で継続しているのかについて、江戸時代末期と現在の帯型の類型を比較し実際に帯を締める実践研究を行うことにより、その社会的・機能的要因を論じる。
著者
松陰 宏 近藤 陽一 松陰 崇 松陰 金子
出版者
学校法人 山野学苑 山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.51-61, 2009 (Released:2019-11-10)
参考文献数
12

明治 9 (1876 )年 1 月に,大阪で発行された,オランダ医師エルメレンス(Christian Jacob Ermerins:亞爾蔑聯斯または越尓蔑嗹斯と記す,1841-1879)による講義録,『日講記聞 原病學各論 巻十一』の原文の一部を紹介し,その全現代語訳文と術語(語句)の解説を加え,また,一部では,歴史的および時代背景についても言及した.本編では,『原病學各論 巻十一』の「泌尿器病編」の最終部分である「第三 腎盂輸尿管及膀胱諸病」の中の「膀胱結石」,「遺尿」,「膀胱麻痺」,「膀胱痙攣」と,追加されている「男子生殖器病(遺精,交接無力)」との部分を取り上げる.各疾患の病態生理や症候論の部分は詳細に記されているが,病因論は明瞭でなく,また,治療法は内科的対症療法がその主流であり,使用されている薬剤も限られている.しかし,この書物は,わが国近代医学のあけぼのの時代の医学の教科書である.
著者
村松 英子
出版者
学校法人 山野学苑 山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.89-95, 1994-03-25 (Released:2019-06-10)

帯(紐)は,呪術性を秘めたものとして,『万葉集』の時代より実に多くの描写をみることができる。呪術性をもった帯が次第に装飾性をおび,歌舞伎役者などによって流行は変遷していくが,その根底には古代よりの"魂結び"の心が生き続けていて,現代(いま)に残る"縁結び"のそれと同じものであると考えられる。今回,帯を結ぶ行為が人を結び,さらには心をうつし出す手段として大きい意味をもつという積極的服飾表現を,近松門左衛門の『曽根崎心中』より見出だした。
著者
原 千恵子
出版者
山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.73-79, 2000-02-25

青年期における自我の発達について検討し,青年期の発達課題であるアイデンティティ確立について実際に尺度を使って調査した。対象とした青年たちは,社会福祉施設職員の養成校生である。ここでは人格形成に重点をおくが,目的は人格形成と仕事の関わりを検討することである。就職を仕事と人とのマッチングと安易に考えがちであるが,職業を選択することで青年は大人になる。つまり職業選択は青年期の最後の仕事であり,人格形成と密接な関係にある。社会福祉領域の仕事は社会情勢などの変化により,かなり一般的になってきたとは言え,誰でもができる仕事ではない。つまり施設の利用者は大方弱者であり,種々のハンディをもっている。その人々の立場にたち,人権をまもりつつ援助を続けることは,根気のいる仕事である。全体として社会福祉領域の仕事につこうとしている学生たちの人格形成と職業選択の実際を検討した。
著者
鈴木 昌子
出版者
学校法人 山野学苑 山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.13-23, 1996

古代より日本の女性の美は垂髪にありと,いわれてきた。桃山時代から江戸時代にかけて結髪が流行していたが,あの絢爛豪華な元禄時代を迎えようとしていた貞享年間(1684〜1688)に結髪が発展せず,菱川師宣の「見返り美人」図に見られる「玉結び」が流行していた。当代随一といわれた有職故実の学者である高橋宗恒が,工人に種々の形の笄(当時に笄と簪との区別がない)を作らせた。また,この宗直が簪を発案したともいわれ曖昧になっている。一本脚の簪を宗恒が,二本脚の簪を宗直が紹介した。宗恒は笄の発案者と囃したてられたが,彼はそれを紹介した人である。古代において高髻から垂髪へと移行した過程と同じような傾向にあった垂髪を喰い止め,日本髪の基をつくった彼と,当時の社会情勢を踏まえながら考察したい。
著者
鷲野 佐知子
出版者
学校法人 山野学苑 山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.31-37, 2009 (Released:2019-11-10)
参考文献数
3

版画には主に木版画、銅版画、リトグラフ、シルクスクリーンなどの技法があり、それぞれ違った方法論と考え方を持っている。その中でも、木版画は、版木、和紙、顔料、刷毛、バレンなどの素材に於いても、日本の風土に適した表現である。その木版画でインク、和紙、彫り、摺り方に於いて研究を重ね、求める表現とモチーフに最も適した方法と素材について追求した。
著者
近内 トク子
出版者
学校法人 山野学苑 山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.53-65, 1998-03-25 (Released:2019-06-10)

1992年2月に私は「シルフェ」誌上に,「愛の奇跡」-The Phoenix and the Turtle-と題する論文を発表した。当時はまだこの作品に対する本格的論評が少なく,資料も手にすることが難しかった。最近になって,この作品に対する関心が高まり,本格的な批評も見られるようになって来た。これら新しい批評を手に入れることができるようになった今,もう一度The Phoenix and the Turtleを読み直し,作品に新しい光を当ててみたい。
著者
澤村 英子
出版者
学校法人 山野学苑 山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.25-32, 2005-03-25 (Released:2019-06-10)

今回はこれまでの人形という狭義を超えて、玩具という広い括りの中からとりわけ地方色が強い郷土玩具を取り上げ、その玩具の真髄ともいわれる「祈りと造形表現」を中心に私論を試みた。日本各地に伝わる郷土玩具には、さまざまな素材が用いられ、人々の日常的な願いが込められて作られた数多くの玩具がある。特にそれらには色彩表現によって、祈りの種類が表出されているものが少なくない。このように郷土玩具には、祈りを造形表現した玩具の長い歴史があり、本稿では特にそうした玩具の色彩と呪術性が深く関わっているということをテーマに考察した。
著者
富田 知子
出版者
学校法人 山野学苑 山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.9-18, 1997

ヘアスタイルは,毛髪を素材にして創りあげられた造形作品である。毛髪は人体の一部でありながら,時代の流れと共にさまざまに変化し続けてきた。人々は,変化する時代の美意識を表現するために,容易に変形することのできない人体の代わりに,衣装とヘアスタイルを最大限に利用してきた。そして時代の美意識は個性の奥底に大きく滲み込み,それを大きく時の色に染め上げて行く。それはまた時折加速度をつけることがある。1789年はヨーロッパにおいて,非常に重要な年であり,ファッションの分野でも,鮮やかな変化を見せる年であった。ひとつの時代の中で,様式-スタイル-が明瞭になりはじめると,そこにはルールと制限が生まれる。その中でも,美しさは個人によって表現され,さらには,美の表現の変化を生み,次の美式へあゆみ始めるのを見ることができる。今回は,その制約の中での美意識の変化と,その表現の方法について考察する。
著者
五十嵐 靖博
出版者
山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.27-31, 2008

本論文では第12回国際理論心理学会(ISTP)大会において発表された諸研究を紹介し、現在の理論心理学の動向を考察する。第12回大会では国境の壁や個別学問領域間の没交渉など、心に関する研究の発展を妨げるさまざまな「境界を越える」という公式標語のもとで、心理学史や心理学の哲学、批判心理学など、多様なアプローチからなされた心理学のメタサイエンス的研究が報告された。
著者
白 成美 山本 將 澤村 英子 齋藤 經生
出版者
山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.33-47, 2008

仏像の中でも、とりわけその彫像表現が顕著に異様な仁王像(執金剛神像)について研究を行った。とくに筋肉美は、西洋の彫像からどのような影響を受け、どのような過程を経て仏像の形態表現に影響してきたかに注目した。インドで成立した仁王像はバジュラパーニとよばれた。その姿はヘレニズムの影響を受けており、西洋のヘラクレス神像に原型が求められるようである。その後中国に移入され、仏法の守護神としての威容を表わすうえに装飾品や天衣などの中国的要素が加わって、中国独自の仁王像として完成された。それは中国に伝来以来、時代と共に次第に変化し、北魏時代からは仏法の守護神としての威容を表わすために髻、憤怒の顔、威嚇するポーズなどの表現がみられるようになる。北魏のスリム形仁王像が六朝時代を経て、徐々に筋肉隆々とした逞しい姿になっていくが、唐時代ではその表現が誇張・装飾化された形となり、より一層の力強い写実的表現となった。唐代の影響を強く受けた韓国や日本でも、中国の仁王像のリアルな人間の美的表現の影響がみられる。韓国では、石窟庵の仁王像にみられるように、筋肉の形や天衣などに韓国独自の表現がされている。日本では、天平時代の仁王像には唐の影響がよく反映されているが、それ以上にはげしいポーズや表情などもみられ、体型やプロポーションにおいて、より充実した表現が認められた。鎌倉時代には、天平への復古を目指しながらも新たな中国(宋)の影響によって、生身に近い、生きているかのような仁王像が造られるようになった。この仁王権には、人体解剖学的に理解しにくい表現も散見されるにも係わらず、仏の守護神としての力強さや美しさが感じられる。それは美術解剖学的には成功した表現によると考えられる。日本でみられる仁王像は、ある日突然成り立ったものではない。長い年月、各国で造られた仁王像の影響を受けながら、信仰心を持って常に自然な姿、写実的な姿を追い求めた結果なのである。
著者
原 千恵子 杉浦 ゆり 平尾 良雄 秋元 弘子 佐藤 美加子
出版者
山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.77-86, 2002-02-25

平成12年4月,学生の心身の健康の維持増進を目的に保健管理室が設置された。そこで学生の健康状態を把握するために,新学期に行われた健康診断時に健康調査と質問紙による心理検査を実施した。それらより,本学学生の生活や心身の状況についてまとめたので報告する。
著者
武藤 祐子 平田 昌義 秋田 留美 山本 將
出版者
山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.67-75, 2008

ある企業より、セラミックプレートを施術面に装着したヘア・アイロンの効果について、他社の機種も含めた市販の他機種と比較したときの、その使用法の相違や利便性、優れた点や欠点についての意見を求められた。そこでこのストレートヘア・アイロンの機能や利便性について、他機種との比較研究を行った。この装置は毛髪との接触面に厚いセラミックプレートが装着してあり、表面はきわめて平滑に調整されている。その施術における効果は、水や薬剤で事前処理した毛髪に適用するとき、一般の機種と同様で差はない。しかしこの機種が他社の機種と根本的に相違して優れている点は、いかなる事前処理も行うことなく、ヘアアイロンのみで毛髪にストレートヘア施術を行うことが出来るところにある。そしてその仕上がりも優れて良好で、キューティクルもきれいに整うことが走査電子顕微鏡像で明らかであった。この効果がいかなるメカニズムで達成されるかについて、さらに研究を進めている。
著者
近内 トク子
出版者
山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.37-48, 1996-03-25

Shakespeareは,劇作家としてデビューした直後に若い貴族をパトロンとして仰ぐ幸運に恵まれた。二人の間には身分の違いを越えた交友関係が生まれたようである。ルネッサンス期における男性同士の友人愛は,彼の初期喜劇The Two Gentlemen of Veronaにも描かれているように,一切の価値に優先する聖なる絆であった。Shakespeare's Sonnetsは謎の多い作品である。作品が誰に捧げられ,歌われているライバル詩人が誰か,また詩人が愛した黒髪の婦人は誰か,という疑問が解決に到っていないからである。作品の構成は,6分の5が友人である美貌の貴公子を歌ったソネットで,残りの6分の1が上に述べた黒髪の婦人を歌ったソネットである。1番から17番ソネットでは,貴公子の美貌とその若さが讃美され,美と青春を失なう前に結婚し,子孫を儲けなさいという,結婚の薦めになっている。二人の交友が深まっていく間に,詩人が全く予想しなかった事が起こる。黒髪の婦人が貴公子を誘惑したのである。この事件が元で二人の交友関係にひびが入り,やがて二人は別れる。美貌の友人は,詩人にとってライバル関係にある文人達とつき合うようになる。だが二人の関係は後に修復され,交友関係は甦る。作品の前半は友人讃美が中心であるが,その裏には当時猛威をふるっていたペストの流行から来る「破滅の時」への警告と,「時の猛威」にも勝利する「ペンの力」が歌われている。作品の後半は友人と別れた詩人の嘆きと怨みが歌われている。しかし作品の最後では,友人と和解した詩人が,貴公子から得たものの大きさを見直し,友人の大きな愛を認め,変わらない愛こそ永遠に生きると,愛の絶唱を歌う。