著者
藤澤 隆史 クック ノーマン D.
出版者
関西大学
雑誌
情報研究 : 関西大学総合情報学部紀要 (ISSN:1341156X)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.35-51, 2006-07-12

和音(harmony)は,メロディ(melody),リズム(rhythm)とともに音楽を形作る重要な要素である.音楽の物理的な音響的特徴とその心理的な印象や感性との関連性について定量的に評価するために,和音性についての評価モデルを構築した.和音性は,(1)協和度(心地よい-わるい,澄んだ-濁った),(2)緊張度(緊張した-落ちついた),さらに長調か短調かといった性質を決定する,(3)モダリティ(明るい-暗い,うれしい-悲しい)から構成される.本資料では,Cook & Fujisawa (2006)において議論されている和音性知覚モデルの詳細について補足的な説明を行う.具体的には,それぞれの和音性曲線(不協和度,緊張度,モダリティ)を得るための心理数理モデルの詳細と,実際に曲線を描くための計算プログラム(C言語・MATLAB)について解説する.
著者
名取 良太
出版者
関西大学
雑誌
情報研究 : 関西大学総合情報学部紀要 (ISSN:1341156X)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.53-68, 2011-01-21

2009年東京都議会議員選挙では,民主党が大幅に議席を増やす一方で,自民・公明の与党は過半数の議席を獲得できなかった.そして,多くのメディアが,この選挙結果を“歴史的”と評した.しかし,都議選では,過去にも社会党や日本新党などが大きな勝利を収めた経験がある.そこで本稿では,選挙区レベルのデータ分析を通じて,2009年選挙における民主党勝利の構造を再検討した.その結果,定数の大きな選挙区における得票率に,過去とは異なる特徴が見いだされた.また別の分析では,過去から現在に至るまで,定数の大きな選挙区では所謂「M+ 1 ルール」が適用できないことも明らかにした. When the Democratic Party of Japan (DPJ) won 54 seats in the 2009 Tokyo metropolitan assembly election and became the first party in the Tokyo metropolitan assembly, the previous ruling coalition of the Liberal Democratic Party (LDP) and the Clean Government Party (CGP) lost the majority. The major media said that these electoral results are "historic," but a few parties (e.g., Japan Socialist Party in 1989, Japan New Party in 1993) already had huge electoral wins in recent elections.In this study, analyzing district level data, we reviewed the structure of DPJ's vote share in the 2009 election. The result, comparing recent elections, demonstrated that the features of the DPJ's electoral win are in the large magnitude. Additional analysis reveals that the "M+1 rule" is difficult to apply to the large magnitude.
著者
伊藤 俊秀 宮澤 樹 山本 恭輔
出版者
関西大学
雑誌
情報研究 : 関西大学総合情報学部紀要 (ISSN:1341156X)
巻号頁・発行日
vol.50, pp.1-10, 2020-01-30

二酸化炭素の排出が地球温暖化にどの程度影響しているかは議論の余地の残るところではあるが,現時点で商用化されている水素自動車(燃料電池車)は走行時に二酸化炭素を排出しないので,地球温暖化防止に有効であると広く認識されている.しかし,水素は,工業的には天然ガスから製造されているので製造時点で二酸化炭素が排出される.そこで,水素自動車が実質的に排出する二酸化炭素量を推計し,ガソリン車,ハイブリッド車,電気自動車が排出する二酸化炭素量と比較して考察した.ここで,電気自動車については発電時の排出量であるので,各国の電力ミックスに大きく依存する.比較考察した結果,日本の場合,水素自動車と電気自動車の二酸化炭素排出量は,現時点ではほぼ同量であるが,政府が2030年に目標としている電力ミックスで考えるとむしろ電気自動車の方が少なくなることがわかった.したがって,水素ステーションなどに膨大な設備投資を行って取り扱いが難しく非常に危険な水素で走行する水素自動車の普及を推進するより,現時点でもかなり普及している電気自動車の更なる普及を促進する方が合理的である.本稿では,最後に,水素の製造や発電の際に排出される二酸化炭素の地中への貯留手法であるCCSの現状と実現性についても言及した.
著者
岡本 哲和
出版者
関西大学
雑誌
情報研究 : 関西大学総合情報学部紀要 (ISSN:1341156X)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.11-35, 2007-01
被引用文献数
1

本稿の目的は,2005年9月に行われた第42回衆議院選挙のデータを用いて,候補者によるウェブサイトの開設とその内容に影響を及ぼす要因を,数量分析によって検証することにある.ウェブサイトの内容については,インターネットの4つの機能,すなわち,(1)相互作用性(2)情報提供(3)プレゼンテーション(4)アクセスの容易性に基づいて,その洗練度を測る指標を作成した.サイトの洗練度を従属変数としたTobitによる分析によって,日本においてもいわゆる「通常化」の現象がサイバースペースにおいて進行していること,そして選挙制度が候補者による情報発信行動に影響を及ぼしていることを明らかにする.
著者
植原 亮
出版者
関西大学総合情報学部
雑誌
情報研究 = Journal of informatics : 関西大学総合情報学部紀要 (ISSN:1341156X)
巻号頁・発行日
no.44, pp.1-13, 2016-08

貨幣のような制度的対象はしばしば特別な存在であると見なされる.制度的対象についての有力な見解である集団的志向説によれば,それらは人々の集団的志向性なしには存在しえないがゆえに,他の通常の人工物とは存在論的に異なっており,またその存在論な固有性が認識論的・方法論的な独自性に反映されているという.本稿で目指すのは,制度的対象に対するこの種の哲学的態度のやめ方を描き出すことである.そのためにまず,集団的志向説を批判的に検討する.次いで,その代替的な見方として「ふるまい説」を提出し,その妥当性を示すことを試みる.そして最後に,ふるまい説について想定されるふたつの疑問に応答する.Institutional entities such as money are often perceived as "special" objects. According to a dominant view about them, called "collective intentionalism", institutional entities are ontologically distinct from other ordinary artifacts because they cannot exist without people's collective intentionality, and this ontological distinctiveness is reflected in their epistemological and methodological uniqueness. This study aims to show how to challenge such philosophical attitudes toward institutional entities. Firstly, it critically examines collective intentionalism. Secondly, it presents "behavior theory" as an alternative view to collective intentionalism and tries to show its plausibility. Finally, it addresses two possible questions about behavior theory.
著者
藤澤 隆史 ノーマン D クック
出版者
関西大学総合情報学部
雑誌
情報研究 : 関西大学総合情報学部紀要 (ISSN:1341156X)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.35-51, 2006-07-12

和音(harmony) は,メロディ(melody). リズム(rhythm) とともに音楽を形作る重要な要素である.音楽の物理的な音響的特徴とその心理的な印象や感性との関連性について定量的に評価するために,和音性についての評価モデルを構築した.和音性は. (1)協和度(心地よいーわるい,澄んだー濁った).(2)緊張度(緊張したー落ちついた).さらに長調か短調かといった性質を決定する. (3)モダリティ(明るい一暗い,うれしいー悲しい)から構成される.本資料では. Cook & Fujisawa (2006) において議論されている和音性知覚モデルの詳細について補足的な説明を行う.具体的には,それぞれの和音性曲線(不協和度,緊張度,モダリティ)を得るための心理数理モデルの詳細と,実際に曲線を描くための計算プログラム(C言語・MATLAB)について解説する.
著者
谷本 奈穂
出版者
関西大学
雑誌
情報研究 : 関西大学総合情報学部紀要 (ISSN:1341156X)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.57-67, 2007-07

社会学の領域において,「身体」というパースペクティブが注目されている。そこでまず本論では特にAデiddensによるボディプロジェクト(body projects)概念を検討した.次に,アンケート調査から,一般的な身体加工に関する意識を分析し,次のことを明らかにした.一つは身体加工において準拠されているのは,「自己自身」,「他者の視線」,「社会の視線」であること((1)自己系,(2)他者系(消極)系,(3)他者(積極系),(4)社会系と命名).もう一つは一般的な身体加工は,他者のため((2)(3)),社会への配慮のため((4))だけでなく,自己満足のため,自分らしくあるため((1))に行われることが多いことである.また,そこにはジェンダー差があり,同じ「他者の視線」を意識するのでも((3)他者(積極)系),男性は不特定多数な異性を,女性は自分の好きな特定の人だけを念頭においている.さらに女性は,自己満足や自分らしさといった「自己自身」を準拠することが多い.そして,外見の良し悪しでも差異が見いだせ,外見をほめられる経験の多い人は,(1)自己系,(3)他者(積極系)の理由を挙げ,ほめられる経験が少ない人は,(2)他者(消極系)の理由を挙げる.(1)自己系の理由を多く挙げるのは,女性であり,外見をよくほめられる人であった.このような一般的身体加工に関する意識は,他の身体における現代的現象と関連している.
著者
名取 良太 岡本 哲和 石橋 章市朗 坂本 治也 山田 凱
出版者
関西大学
雑誌
情報研究 : 関西大学総合情報学部紀要 (ISSN:1341156X)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.31-42, 2016-08-10

地方議会は,民主主義において重要な役割を担う存在である.しかしながら,日本の地方議会は,多くの市民から信頼されず,その役割を十分に果たしていないと考えられている.ところが,「地方議会が十分に役割を果たしていない」と主張するための定量的な根拠は,ほとんど示されていない.その原因の一つは,地方議会に関する膨大な資料から,適切なデータを取得するのが困難なことにある.そこで我々は,会議の開催状況や議案の審議過程,各議員の属性・発言内容・議案への賛否態度などを,定量データとして格納した地方議会データベースを開発した.本論文では,会議録や広報紙などから,どのようにデータテーブルを作成したかを説明するとともに,データベースを活用してどのような分析が可能になるかを紹介していく.
著者
伊藤 俊秀 岡田 和也
出版者
関西大学
雑誌
情報研究 : 関西大学総合情報学部紀要 (ISSN:1341156X)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.1-11, 2021-07-30

現在の地球温暖化がCO₂ などの温室効果ガスによるものだとする仮説は一般には疑う余地のない真実であると信じられている.しかし,現在の地球温暖化の主な要因が温室効果ガスであるという直接的で具体的な証拠が示されたことはない.そこで,本稿では素朴な視点で改めて地球温暖化要因論について考察した.まず,地球史における気候変動の歴史を数十万年のスケールで振り返ると地球の気候は寒冷化と温暖化を繰り返しており現代の温暖化が決して特異な現象ではないことがわかる.そこで,気候変動の要因に関する主な仮説を改めて検証した.他方で1980年代以降,CO₂ の増加が温暖化の主要因であるという仮説が生まれ,CO₂ 削減に国際的なコンセンサスが得られた経緯を検証した.確かにCO₂ には温室効果が認められるが,その増加が現在の温暖化の直接的な主要因であるという確証に結びつく証拠はない.そこで過去100年間のCO₂ の増加と温暖化の進展について改めて比較検証した結果,戦後,指数関数的に増大したCO₂ と一貫して線形的に上昇している気候との間に明確な因果関係を見出せないことがわかった.すでにCO₂ 削減問題は政治的問題に発展しており,産業構造さえ変えようとしている.現況下で,今さらCO₂ 削減に懐疑的な提言を行ったところで何ら生産性がないことは心得ているが,CO₂ 削減に向けた世界の動向は一種の狂乱状態にも思え,敢えて提言することとした.
著者
名取 良太
出版者
関西大学総合情報学部
雑誌
情報研究 : 関西大学総合情報学部紀要 (ISSN:1341156X)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.71-84, 2014-08-08

小選挙区比例代表並立制導入の目的の一つは,「候補者本位」の選挙から,「政党本位」「政策本位」の選挙へと転換することであった.政党間競争を促す小選挙区制の下では,政党支持に基づく投票が中心となるため,個人単位の選挙区活動の有効性は低下する.結果として,政党本位・政策本位の選挙競争が生じるようになると考えられたためである.しかしながら,2012 年総選挙における有権者の投票行動を分析した結果,政党投票よりも候補者投票を行う有権者の比率が高かった.また,民主党支持者や,自民党と民主党による選挙戦が行われた選挙区の有権者ほど,政党投票よりも候補者投票を行う傾向があることから,民主党に対する評価の低下が候補者投票の増加をもたらせたと考えられる.すなわち,有権者が政党投票をするかどうかは,政党に対する評価が影響を及ぼすのであり,選挙制度の効果は限定的であることが示唆される.One of the aims of the electoral system reform conducted in 1994 was to increase party voting. While under the old system, multi-member districts with a single nontransferable vote promoted intra-party competition, the new system encouraged party competition. Thereafter, reformers expected that Japanese electoral politics would become party oriented.However, this study observed that Japanese voters preferred personal voting to party voting in the 2012 Lower House Election. In addition, the results of a logistic regression analysis clarified that the supporters of the Democratic Party of Japan and the constituencies of districts in which there is twoparty competition tend to conduct personal voting. Moreover, the study suggests that whether constituencies engage in personal voting is determined not by the electoral system, but constituencies’estimation of the parties.
著者
中河 伸俊
出版者
関西大学
雑誌
情報研究 : 関西大学総合情報学部紀要 (ISSN:1341156X)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.3-26, 2022-01-30

本稿の目的は,アーヴィング・ゴフマンの『スティグマ』を参照しながら,カテゴリー化という観点に軸足を置いて,日常のやりとり(相互行為)の中での参与者の自己(self)の立ち現われ方をめぐるいくつかの課題を検討することである.そのためにまず,そうした作業の方法論上の前提について述べたあと,ゴフマンの自己呈示論とサックスの成員カテゴリー化論を踏み台にしながら,そこに欠けていた,個別固有なものとみなされているパーソナルなアイデンティティをめぐる考察を『スティグマ』から抽出し,それがもたらすいくつかの課題を検討した.その帰結として,役割―パースン複合体という新たな概念を提示し,それを補助線に,ジェンダー論の分野での論争点である性別のオムニレリヴァンスとパラレルな形でゴフマンが主張する,スティグマのオムニレリヴァンスについて若干の試論を提示した.
著者
谷本 奈穂
出版者
関西大学
雑誌
情報研究 : 関西大学総合情報学部紀要 (ISSN:1341156X)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.37-59, 2012-09-20

本論文は,美容整形や美容医療(プチ整形)が普及する現代社会において,それらの施術を受けたいと思う人々の①属性,②身体意識を明らかにする.また,以前行った調査で,美容整形を希望する理由に「自己満足のため」が最も多かったという結果をうけ,③美容実践が,身体を自分の所有物と感じてアイデンティティを再定義するような主体的な経験なのかも明らかにする.25~65 歳の男女800 人に調査票調査を行い,分析した結果は次の通り.①美容施術を望むのは男性よりも女性である.性別以外の,年代,世帯年収,学歴,既婚・未婚といった属性では有意差が見られなかった.②美容実践はあくまでも第一義的に「自分の心地よさ」(=自己満足)のために行われる.自分の心地よさという理由は,美容実践でない行為においても,美容実践を望む人が,望まない人より使用している.ただし,美容実践を望む人ほど「他者」の評価も求める傾向ももつ.③美容実践は,性別と世帯年収に規定される.また自己アイデンティティの再構築を目指すような主体的な行為というより,むしろ「外見の老化を感じる」こと,「身体に関する社会の常識を守るべきという考えを持たない」ことに規定される行為でもある.したがって,美容実践は,第一に「自分」という位相で語られる行為である.ただし,自分の心地よさの背後には「他者」の評価期待が含まれる.そして身体に関わる常識という意味での「社会」的影響は後景に退いている行為である.\nThis paper analyses people intending to undergo cosmetic surgery or cosmetic medical care in contemporary Japan. It aim to explore (1) their attributes, and (2) their body consciousness. The study found that the most popular motivation for cosmetic surgery was “self-satisfaction”. ーFollowing this, the study investigated (3) whether cosmetic practices can be regarded as subjective experiences, which promote the re-definition of identities. The results of this later survey (involving 800 informants) as follows.First, more women want to have cosmetic interventions than men. Other attributes, including age, academic background, income, and marital-status, did not show any significant influence on motivations. Second, some people want to have cosmetic interventions because of a sense of self-satisfaction, however, they tend to want positive evaluations from “others” too. Third, “awareness of aging” and “lack of a conviction to maintain common sense in relation to one’s body” are more likely to inderpin a desire to undergo cosmetic intervention than “the intention to reform self-identity.”Therefore, cosmetic interventions should be understood in terms of “the self,” positive evaluations by “the other,” and “self-comfort.” Although cosmetic practices are social practices, they are not significantly influenced by “the social.”
著者
加藤 敏幸
出版者
関西大学
雑誌
情報研究 : 関西大学総合情報学部紀要 (ISSN:1341156X)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.1-22, 2012-09-20

サイバーポルノの取り締まりに関して,昨年(平成23 年6 月17 日),刑法175 条が改正された.改正法は従来の客体に加えて,「電磁的記録に係る記録媒体」をもわいせつ物として例示列挙に加え,さらに,「電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布」する行為をも新たに処罰の対象にした.そしてこれに伴い,有償頒布目的でのわいせつ物の所持およびわいせつ電磁的記録の保管も処罰に加えられた.しかし,この改正法の適用にあたっては様々な問題点が指摘されている.そこで,この改正法について,今回の改正に至った背景と改正法の新たな内容,そしてその問題点について検討したい.\nRecently, the law on criminal obscenity was revised in relation to cyberporn. This law extended definitions of the act of criminal obscenity to bring cyberporn under stringent control. However, there are issues that arise in terms of the application of this law in relation to cyberporn. This paper examines these issues in relation to the revision of the law.
著者
加藤 敏幸
出版者
関西大学総合情報学部
雑誌
情報研究 : 関西大学総合情報学部紀要 (ISSN:1341156X)
巻号頁・発行日
no.37, pp.1-22, 2012-09

サイバーポルノの取り締まりに関して,昨年(平成23 年6 月17 日),刑法175 条が改正された.改正法は従来の客体に加えて,「電磁的記録に係る記録媒体」をもわいせつ物として例示列挙に加え,さらに,「電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布」する行為をも新たに処罰の対象にした.そしてこれに伴い,有償頒布目的でのわいせつ物の所持およびわいせつ電磁的記録の保管も処罰に加えられた.しかし,この改正法の適用にあたっては様々な問題点が指摘されている.そこで,この改正法について,今回の改正に至った背景と改正法の新たな内容,そしてその問題点について検討したい.\nRecently, the law on criminal obscenity was revised in relation to cyberporn. This law extended definitions of the act of criminal obscenity to bring cyberporn under stringent control. However, there are issues that arise in terms of the application of this law in relation to cyberporn. This paper examines these issues in relation to the revision of the law.
著者
谷本 奈穂
出版者
関西大学総合情報学部
雑誌
情報研究 : 関西大学総合情報学部紀要 (ISSN:1341156X)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.37-59, 2012-09-20

本論文は,美容整形や美容医療(プチ整形)が普及する現代社会において,それらの施術を受けたいと思う人々の①属性,②身体意識を明らかにする.また,以前行った調査で,美容整形を希望する理由に「自己満足のため」が最も多かったという結果をうけ,③美容実践が,身体を自分の所有物と感じてアイデンティティを再定義するような主体的な経験なのかも明らかにする.25~65 歳の男女800 人に調査票調査を行い,分析した結果は次の通り.①美容施術を望むのは男性よりも女性である.性別以外の,年代,世帯年収,学歴,既婚・未婚といった属性では有意差が見られなかった.②美容実践はあくまでも第一義的に「自分の心地よさ」(=自己満足)のために行われる.自分の心地よさという理由は,美容実践でない行為においても,美容実践を望む人が,望まない人より使用している.ただし,美容実践を望む人ほど「他者」の評価も求める傾向ももつ.③美容実践は,性別と世帯年収に規定される.また自己アイデンティティの再構築を目指すような主体的な行為というより,むしろ「外見の老化を感じる」こと,「身体に関する社会の常識を守るべきという考えを持たない」ことに規定される行為でもある.したがって,美容実践は,第一に「自分」という位相で語られる行為である.ただし,自分の心地よさの背後には「他者」の評価期待が含まれる.そして身体に関わる常識という意味での「社会」的影響は後景に退いている行為である. This paper analyses people intending to undergo cosmetic surgery or cosmetic medical care in contemporary Japan. It aim to explore (1) their attributes, and (2) their body consciousness. The study found that the most popular motivation for cosmetic surgery was “self-satisfaction”. ーFollowing this, the study investigated (3) whether cosmetic practices can be regarded as subjective experiences, which promote the re-definition of identities. The results of this later survey (involving 800 informants) as follows. First, more women want to have cosmetic interventions than men. Other attributes, including age, academic background, income, and marital-status, did not show any significant influence on motivations. Second, some people want to have cosmetic interventions because of a sense of self-satisfaction, however, they tend to want positive evaluations from “others” too. Third, “awareness of aging” and “lack of a conviction to maintain common sense in relation to one’s body” are more likely to inderpin a desire to undergo cosmetic intervention than “the intention to reform self-identity.” Therefore, cosmetic interventions should be understood in terms of “the self,” positive evaluations by “the other,” and “self-comfort.” Although cosmetic practices are social practices, they are not significantly influenced by “the social.”
著者
谷本 奈穂
出版者
関西大学総合情報学部
雑誌
情報研究 : 関西大学総合情報学部紀要 (ISSN:1341156X)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.47-55, 2015-02-28

本論の目的は,美魔女を批判する言説を分析し,外見に関わる「常識」や「規範」を明らかにすることである.結果,女性には「若く美しくあれ」と「若作りの禁忌」という相反する二重の規範が課されていることが分かった.そこに,性差別とエイジズムの結託が見られる.The purpose of this study is to determine ‘the premise’ or ‘the norm’ that is related to appearance, analyzing the critical discourse about ‘bimajo’(middle‒aged women who look young). The results of the study state that there are double standards that operate in the critical discourse, ‘women should be beautiful and young’ and ‘women must not wear make up to look younger’; furthermore, the concepts of sexism and ageism seem to collide with each other.
著者
植原 亮
出版者
関西大学総合情報学部
雑誌
情報研究 : 関西大学総合情報学部紀要 (ISSN:1341156X)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.57-76, 2014-02-10

道徳心理学をめぐる最近の議論において,人間の道徳を生得的と見る道徳生得説が力を増しつつある.パトリシア・S・チャーチランドは『脳がつくる倫理』においてその批判を試みているが,彼女の批判は十分には明確なものではない.そこで本稿では,彼女の道徳生得説批判を検討し,その射程と課題を明らかにすることを目指す.そのために,まずは準備として道徳生得説をめぐる議論を概観する.次にその概観の中に,チャーチランドの議論を再構成して位置づける.最後に,そうして再構成された議論に対して突きつけられることが想定される反論を検討することで,チャーチランドが今後取り組まねばならない課題は何かを探る.Recent discussions on moral psychology have increasingly focused on moral nativism, which is the perspective that human morality is innate. Although Patricia Churchland argued against this viewpoint in her book, Braintrust, her overall argument was unclear. Therefore, this paper examines her argument and clarifi es its scope and issues in a three-step process. First, it provides a general overview of the debates on the innateness of morality. Next, it reconstructs Churchland’s argument within this overview. Finally, it investigates the possible objections to the reconstructed argument and related argumentative issues.
著者
矢島 脩三
出版者
関西大学
雑誌
情報研究 : 関西大学総合情報学部紀要 (ISSN:1341156X)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.3-30, 2005-03-15

二十世紀の半ばに誕生した電子計算機であるコンピュータは,半世紀経過した二十一世紀の現在までに,まるで超新星爆発のような凄さをもって進歩発展を遂げ,世の中に情報革命を引き起こしている.このITすなわち情報技術の進展はさらに驚異的で,サイバースペースも誕生し,情報メディア革命やディジタル革命は,実はこれからが本番であるのかもしれない.コンピュータ誕生の時代に筆者は学生であったが,このときより始まったIT進展の大波に飲み込まれて,その真只中を過ごし古稀を迎えた世代の一人として,ここでは,コンピュータ誕生やITの進展を振り返ってみる.これはまた,筆者のライフワークの研究「コンピュータ開発と論理回路理論」を包括しかつそのバックグランドでもある.内容は平成15年12月18日の筆者の関西大学退職最終記念講義を基にして加筆したものである.第1章は関西大学の最初のコンピュータとその時代について,以下,第2章コンピュータの誕生,第3章国産コンピュータの誕生,第4章トランジスタコンピュータの誕生について記す。第5章では,筆者が設計開発し1960年に完成したKDC-Iについて述べ,当時の世界最高峰の真空管式コンピュータIBM704についてもふれる.さらに,第6章ITの進歩発展,第7章コンピュータ以前,第8章おわりにと続く.
著者
谷本 奈穂 東 園子 猪俣 紀子 増田 のぞみ 山中 千恵
出版者
関西大学総合情報学部
雑誌
情報研究 : 関西大学総合情報学部紀要 (ISSN:1341156X)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.37-50, 2013-08-10

本論は,日本アニメが海外でどのようにして読み取られるかについて,キャラクターの図像に焦点を当てながら考察するものである.具体的にはフランスの学生に対し,キャラクターを10種類提示して出身地を予測させた.その結果,出身地をキャラクターの外見に基づいて判断する場合と,マンガ・アニメに関する知識に基づいて判断する場合があると分かった.日本では「自然主義的リアリズム」と「まんが・アニメ的リアリズム」の二つがあり,その二つが作品の消費形態を規定するとされるが,フランスでも二つの読み取りが行われている(二つのリテラシーがある)ことが確認できた.This paper examines and investigates how Japanese animation is being interpreted in France. To this end, we focus on character iconography interpretation. We presented French students with ten types of characters and asked them to predict the fictional birth places of these characters. The results showed that the students came to their conclusions based on either the appearance of the characters or their knowledge of manga and anime. In Japan, “naturalistic realism” and “manga or anime-istic realism” are thought to define how works of art are consumed, and we identified these two forms of interpretation (literacies) in France.