著者
丸山 直樹
出版者
「野生生物と社会」学会
雑誌
ワイルドライフ・フォーラム (ISSN:13418785)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.17-32, 1999-12-28

1999年6月中・下旬, 大興安嶺西麓, 森林 / 草原エコトーンに位置する内蒙古呼倫貝爾(フールンベイル)盟巴日図(バイント)林場(150, 000ha)でハイイロオオカミ(Canis lupus)の生息状況調査を行った。草原に障子松(Pinus sylvestris)とシラカンバ(Betula platyphila), ヤマナラシ(Populus davidiana)の孤立林が大小の島を成して分布する地域である。森林と周辺草原では, ノロジカ(Capreolus capreolus)とイノシシ(Sus scrofa)の密度濃い生息が認められ, 丘陵地帯のシラカンバ林では数少ないがヘラジカの生息も確認された。ハイイロオオカミの生息痕跡は森林とその周辺草原に普通に観察され, その生息密度が高いことが推定された。日本人調査ボランティアと中国及び現地調査協力者の間の野生動物観の大きなギャップを示す事例も得られた。
著者
金城 道男 池田 啓 柳生 博 敷田 麻実
出版者
「野生生物と社会」学会
雑誌
ワイルドライフ・フォーラム (ISSN:13418785)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.8-9, 2007-05-10

大宜味村の嘉如加という集落にある山は、四十年ほど前まではてっぺんまでが段々畑で、林は伐採され、奥に入っても炭焼き小屋があるなど、人間の手がかなり加えられていました。そこにはまさしく、柳生さんがお話しになっていた「里山」がありました。このような人里でも現代まで生き抜いてきたのが、「飛べない鳥・ヤンバルクイナ」です。ところがマングースなどが入ってくると、地上の雛も簡単に見つかってしまい、餌食になってしまう。もともと、やんばるの森には肉食獣が存在しないため、人間が持ち込んだマングースや捨てネコなどに、ヤンバルクイナは対処する力がありません。この状態を放置しておけば、ヤンバルクイナは絶滅してしまいます。ヤンバルクイナを守ることができれば、やんばるの森全体の生物が守れる、ともいわれています。対策として、マングースの侵入防止柵を設置し、ヤンバルクイナの保護のための救命センターを開設して活動しています。くやしいことにマングースの進出を食い止めることはできていません。とうとう人間の力でコントロールできないところまで来てしまいました。ヤンバルクイナの棲息区域は北上の一途を辿っており、これはマングースの進出規模と比例しています。現在の大宜味村では、ヤンバルクイナをめったに見ることがなくなりました。それでも、私には夢があります。名護の豊かな森でもヤンバルクイナが見られるようになることです。
著者
丸山 直樹
出版者
「野生生物と社会」学会
雑誌
ワイルドライフ・フォーラム (ISSN:13418785)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.73-84, 2000-06-19
被引用文献数
1

尾瀬地区に侵入して, 成長中のニホンジカ個体群を放置することは, 環境収容力を低下させ, その過程で尾瀬の生物群集に種の絶滅, 減少, 地域外種の侵入促進などが起こり, 自然生態系を退行に導くことが予想される。それゆえに何らかの人為的干渉が必要とされる。しかし, シカの完全駆除は容認されない。最近の本種の非生息はシカ排除の根拠にならない。少なくとも縄文海進期以降の気温などの環境変化からかつての尾瀬地区でのシカの生息の有無を検討しなければならない。駆除は緊急策として容認されるだろう。植生保護を目的とする人工構築物の設置も一時的には容認されるだろうが, 群集への影響評価が緊急に必要である。尾瀬地区が自然生態系保護地区であるという性格を第一に重視するならばこれらの人為的干渉の恒常化は認められない。生態系生態学的にみた系の復元を前提にした自然放置, すなわち自然過程を尊重した生態系管理への移行を目標にするべきである。尾瀬は国民の関心を集める日本の代表的な湿原地帯であることから, 社会的な合意形成に向けて, 研究調査, 行政的審議過程および結果などの情報公開, 自然生態系保護の普及, 直接的利害関係者だけではない, より広範囲の国民の意思決定への参加システムの完成が必要である。
著者
水野 昭憲
出版者
「野生生物と社会」学会
雑誌
ワイルドライフ・フォーラム (ISSN:13418785)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.11-17, 1995-08
被引用文献数
2

白山山中では, 1960年代に出作り, 焼き畑, 炭焼きが行われなくなって以来ニホンザルによる農作物被害の発生はみられなかったが, 1980年代以降再び猿害の発生が始まり年々拡大しつつある.その原因として, (1)戦前には普通に行われていたニホンザルの捕獲が禁止され, ニホンザルの個体数が増加し, 集落周辺まで生息するようになったこと, (2)過疎によって山村の人口構成が変化し, 森林への人の入り込みが減少し, ニホンザルが人を恐れなくなったこと, (3)観光業への期待と動物愛護思想の普及によってニホンザル駆除に反対する風潮が支配的となり, ニホンザルの人慣れが進んだこと, (4)1960年代以降それまでニホンザルを里から駆逐していた野犬の駆除と飼い犬の放飼の禁止が徹底し, ニホンオオカミ絶滅以降, ニホンザルが恐れる捕食種がいなくなったこと, が指摘できる.なかでも犬による影響は重要であったことを強調したい.