著者
八尋 春海
出版者
西南女学院大学
雑誌
西南女学院大学紀要 (ISSN:13426354)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.129-134, 2003-03-29

本論は,岩井俊二が脚本と監督を担当した『Love Letter』の芸術的価値について,作品の技巧を分析することにより明らかにするものである。まず,この作品が影響を受けたテレビ番組,映画監督大林宣彦,作家オスカー・ワイルド,マルセル・プルーストなどについて先行研究に言及しながら,さらに新たに発見した影響関係を指摘する。次に,映画の価値を高めるものとして登場人物や舞台などの共通性がうまく機能していることを,過去へのこだわりというモチーフに焦点を絞り込んで明らかにしていく。最後に作品のプロット及びストーリーにおいて,その中に隠された仕掛けや意味について検討し,作品の主題ともなっている"Love Letter" が,実は,主人公が出したものではなく,彼女が受け取ったものであるという解釈を導く。
著者
須藤 秀夫
出版者
西南女学院大学
雑誌
西南女学院大学紀要 (ISSN:13426354)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.133-149, 2007-02-28

グローバリゼーションの担い手として、多国籍企業、マネー、国際経済機関、および移動する人々が挙げられる。このうち最も影響力のある多国籍企業を採り上げ、その功罪を考察する。多国籍企業がホスト国(進出先国)に与えるデメリットとして、資源・労働力・伝統的知識の「搾取」、地元企業へのダメージ、所得格差、地元文化の破壊といった問題が挙げられる。グローバルな問題としては、所得格差、環境悪化、高コストが挙げられる。一方、ホスト国に与えるメリットとして、雇用、輸出、資本、技術があり、グローバルなメリットとして、情報伝達への寄与が挙げられる。多国籍企業はまだいくつかの問題を生じさせているものの、改善の方向に向かっている部分もあり、また、多国籍企業の与えるメリットをうまく捉えて経済発展につなげているアジアの国々などが示す通り、メリットの実現がホスト国に大きなプラスのインパクトを与える。多くの国々の政府が多国籍企業を総合的にプラスと認識するようになっており、従来の警戒感から歓迎する姿勢に切り替わっている。
著者
山本 佳代子 稲木 光晴 山根 正夫
出版者
西南女学院大学
雑誌
西南女学院大学紀要 (ISSN:13426354)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.66-71, 2005-02-28
被引用文献数
1

人は動物から様々な恩恵を受けている。動物介在療法/活動はハンディキャップを持つ人に心理学的、身体的、社会的に望ましい効果を与える。我々の国では、動物介在療法/活動は高齢者や障害者の福祉施設において行われている。しかしながら、動物介在療法/活動が体系的に行われている施設は少なく、それ故に動物介在療法/活動の効果に関する研究も少ない。我々は動物介在療法/活動の一つである乗馬療法の効果について研究している。本稿において我々は、乗馬療法の歴史・目的・手順に加えて最近の研究で報告された乗馬療法の効果についてレビューする。
著者
加来 卯子 八尋 俊子
出版者
西南女学院大学
雑誌
西南女学院大学紀要 (ISSN:13426354)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.155-164, 2005-02-28

女子短大生のライフスタイルの実態を把握して、学生の日常生活に対する現状認識を深め、学生指導に資する知見を得ることを目的に本研究を行った。女子短大生の睡眠行動の実態および起床時の生活行動の実態に関する研究に続くものである。西南女学院短期大学家政科および生活創造学科の学生に対し、所定の期間における任意の金・土・日曜または土・日・月曜の連続する3日間を選んで、NHK国民生活時間調査の行動分類表に沿った1日24時間の生活行動および摂食行動の記入を依頼した。摂食行動の分析から、欠食や中食、外食の利用が日常的になっている実態が浮かび上がった。また欠食、中食は一人暮らしに多い傾向を示した。孤食を自宅通学生の摂食状況から見ると、朝食で約50%、夕食で20%を超えた。食事の開始時刻は、特に土・日曜の朝食では長い時間帯に2つのピークが表れて行為者は広く分布したが、この結果から起床時刻との対応が示唆された。アルバイト従事者の夕食開始時刻は22時以降が最も多く、50%前後の者が21時以降であった。以上より、学生の食習慣の変容が確実に進行していること、家庭における食習慣形成の指導性に大きな期待をかけることには無理があること、特に一人暮らしの学生については規則的な食習慣の形成を助長させる教育の機会が必要であることが問題点として明らかにされた。健康日本21が掲げる21世紀における国民の健康寿命の延長を実現するためには、様々な機会を捉えて食習慣が健康に及ぼす影響の重大さを啓蒙していくことの必要性を痛感させられた。
著者
竜口 和惠
出版者
西南女学院大学
雑誌
西南女学院大学紀要 (ISSN:13426354)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.104-111, 2005-02-28

1997年春から2001年春にかけて、北九州市内で販売されているホウレンソウについて、そのシュウ酸含量、硝酸含量を酵素法により測定した。シュウ酸含量は生ホウレンソウ100g中に約600〜1000mg含まれるという従来から報告されてきた値よりも低く、100g中約200〜600mgであった。硝酸含量は生ホウレンソウ100g中約80〜800mgと一番含量の低い試料と高い試料との間に10倍の差があった。ホウレンソウを葉部と葉柄部とに分けて測定すると、ほとんどの試料について葉にはシュウ酸が多く、逆に葉柄部には硝酸が多く含まれていた。重量の5倍の水で2.5分間ゆでるとシュウ酸含量は40〜80%、硝酸含量は30〜80%の減少が認められ、残存量はシュウ酸よりも硝酸で大きい傾向にあった。栽培時期や産地の違いによるホウレンソウのシュウ酸含量、硝酸含量に一定の傾向は認められなかった。
著者
友原 嘉彦
出版者
西南女学院大学
雑誌
西南女学院大学紀要 (ISSN:13426354)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.93-101, 2021

本研究はさくらももこの代表作「ちびまる子ちゃん」を通して、女性クリエイターの観光に対する行動と捉え方を考察したものである。さくらの幼少期を投影したキャラクターであるまる子がタイの南の島に滞在した話を掘り下げて確認することで、さくらが観光活動においてどのように振る舞い、また、観光をどのように捉えているのかが明らかになった。まる子はプサディーという地元の子と懇意になることでタイの南の島が自分と密接に関係する地域となり、継続的に関わっていきたい対象である「サードエリア」となった。女性クリエイターさくらももこの観光は第一義的に「『サードエリア』の構築活動」であることが示された。
著者
大庭 正美
出版者
西南女学院大学
雑誌
西南女学院大学紀要 = Bulletin of Seinan Jo Gakuin University (ISSN:13426354)
巻号頁・発行日
no.25, pp.1-11, 2021-03-31

今回の学習指導要領改訂のキーワードの一つにカリキュラム・マネジメントがある。その中核的な役割を総合的な学習の時間が担うと明示された。創設以来20年が経つ総合的な学習の時間の実践課題を踏まえ、あらためて生徒が主体的に取り組む学習とするための指導の改善が求められている。本稿では、カリキュラム・マネジメントの考えを踏まえ、具体的な実践事例を基に、特別活動との関連を中心に考えていくこととする。主に学校行事やキャリア教育との関連について考察・評価しながら、さらなる充実に向けての考え方や指導の工夫についても提案する。生徒にとって意味のある総合的な学習の時間を生み出すには、その基盤としての特別活動の充実が欠かせない。教育課程全体の力を高め、将来「予測が困難な時代」を生きる生徒に必要な資質能力を育成する上で、総合的な学習の時間と特別活動との関連は今後も一層重視すべきと考える。
著者
金谷 めぐみ
出版者
西南女学院大学
雑誌
西南女学院大学紀要 (ISSN:13426354)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.33-38, 2021

モーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart, 1756-1791)の《ソルフェージュと声楽練習Solfeggien und Gesangsübungen K.-V.393》(以下《ソルフェージュ》)に収められている全5曲(Solfeggio 1,-2,-3,-Fragment, およびEsercizio per il canto)と、アスパージア(《ポントの王ミトリダーテ Mitridate, re di Ponto K.87(74a)》)のアリアの中に類似する旋律を見出すことを目的に、読譜および音源聴取を行った。 アスパージアのアリア「迫り来る運命から Al destin, che la minaccia」と「ソルフェージュ1」の一節に類似する旋律を見出した。アスパージアのアリアは、オペラ《ポントの王ミトリダーテ Mitridate, re di Ponto K.87(74a)》の初演で歌唱したベルナスコーニ(Antonia Bernasconi, 1738-1816)の要望に添って調性および旋律に修正が施され、アリアの一節は、妻コンスタンツェの歌唱訓練を想定して作曲した「ソルフェージュ 1」に書かれたと推察した。 本稿において「ソルフェージュ1」とアスパージアのアリアに類似する旋律について解析を行い、声楽上の共通点について記し、アリアの背景を調査し、報告した。
著者
焼山 和憲 伊藤 直子 石井 美紀代 脇崎 裕子 谷川 弘活
出版者
西南女学院大学
雑誌
西南女学院大学紀要 (ISSN:13426354)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.7-18, 2003
被引用文献数
1

本研究の目的は,精神障害者が地域社会で生活していくために必要な地域住民の社会的距離を分析し,地域ケアに必要な支援対策を検討することである。調査対象は,北九州市近郊に居住する生活者211名である。内訳は,男性163名(年齢41歳〜80歳,平均60.7歳)及び女性47名(年齢45歳〜77歳,平均65.2歳)である。調査方法及び内容は,アンケートによる精神障害者の地域ケア,社会的距離及びイメージの意識調査である。精神障害者が地域で生活していくために阻害となる要因は,地域住民の気持ち・考えに「精神障害者が退院後も継続して精神病院でケアをうけることに希望する」が最も多く(77名,36.48%),「地域に居住し訪問看護や地域のサポートを受けながら在宅ケアを受けることに希望する」が少ない(8名,3.78%)ことである。また,社会的距離に影響する要因は,結婚や借家といった個人のプライバシーに関することには影響せず,雇用,奉仕活動,職場の同僚及び近隣関係になるといった近接関係に強く影響している。性差及び年齢格差別では,男性より女性に社会的距離への影響が強く,それも年齢が高くなるほど強い傾向が見られた。今回の調査は,池田小学校殺傷事件があった後の調査であり,回答にバイアスがあることは否定できない。精神障害者の社会復帰は,家族,専門病院,行政,地域ぐるみでのケアが重要である。そのためにも,退院前から間接的に接触体験の機会や教育が必要と思われる。
著者
金谷 めぐみ 植田 浩司
出版者
西南女学院大学
雑誌
西南女学院大学紀要 (ISSN:13426354)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.59-70, 2018-03-01

キリシタン音楽、カトリックの讃美の歌声が日本から消えて200 有余年(鎖国・禁教時代)、ペリーの来航(1853)を機に、幕末・明治の開国の時代を迎えた。明治新政府は、キリスト教禁止の幕府政策を継承したが、明治6年に禁教令を廃止し、信教の自由を認めた。来日したカトリック教会と正教会、そしてプロテスタント教会の宣教師たちは、西洋文明を伝え、キリスト教の伝道と教育活動を展開し、日本の社会はキリスト教とその音楽に再会した。 日本における礼拝を執り行うために、また日本人が讃美するために、各教会は聖歌集および讃美歌集を出版した。とくにプロテスタント教会の讃美歌の編集では、日本語と英語の性質の異なる言語において、五線譜の曲に英語を翻訳した日本語の歌詞をつけて、曲と歌詞とのフレージングとアクセントを合わせることに努力が払われた。 本総説において、著者らは、明治時代に日本で歌われたカトリックの聖歌と正教会の聖歌、そしてプロテスタント教会の讃美歌について楽譜付讃美歌が出版された経緯を記し、文献的考察を行った。