著者
小川 藍
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.9-17, 2017-01-25 (Released:2021-04-24)
参考文献数
31

加熱中のサツマイモ香気の変化,および,加熱中最も嗜好性が高まる時間帯の香気について調査した.加熱温度を200℃とした場合,最も焼き芋らしく好ましいと評価されたのは,加熱開始から75~90分の間の香気だった.この香気のAEDAより,16成分が香気寄与成分として示された.これらはいずれも加熱反応による生成物であるが,加熱中の増加の仕方は一様ではなく,アミノ-カルボニル反応,ストレッカー分解,カロテノイドやフェルラ酸の熱分解といった生成経路ごとに異なる増加パターンを示した.
著者
三輪 高喜
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.363-369, 2018-11-25 (Released:2021-08-13)
参考文献数
22
被引用文献数
1 1

パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患では,早期に嗅覚障害が出現することが知られている.したがって,嗅覚検査は,これらの疾患の早期発見のためのバイオマーカーとなりうる.本項では国内外で行われている嗅覚検査について,その方法と特徴について解説した.神経変性疾患による嗅覚障害では,嗅覚同定能の低下が特徴的である.わが国で行われている嗅覚検査の中で,T&Tオルファクトメーターを用いる基準嗅力検査における検知域値と認知域値との解離の増大は,同定能力の低下を示し,神経変性疾患による嗅覚障害の検出に有用である.また,新たに開発された嗅覚同定能検査もこれらの発見に有用とされている.
著者
松本 英顕 江原 史雄 小山 玲音 笹川 智史 原口 智和 宮本 英揮 龍田 典子 上野 大介
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.233-239, 2021-07-25 (Released:2021-11-14)
参考文献数
23
被引用文献数
2 2

和牛(黒毛和種・繁殖雌牛)のストレス数値化技術として,皮膚ガスをマーカーとして利用する手法に着目した.本研究では基礎的検討として,皮膚ガスのサンプリング手法および分析技術の高度化に取り組んだ.サンプリング手法として,牛に特化したサンプリングデバイスを作製し,固相吸着剤を腰部に近い背部に装着させる手法を開発した.本手法で捕集された皮膚ガスをGC-MS分析に供試したが,特徴的なピークを検出することはできなかった.そこでにおい嗅ぎガスクロマトグラフ(GC-O),ガスクロマトグラフ分取システム(GC-F),およびガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)を用いて分析したところ,黒毛和種の皮膚ガスに特徴的なにおい物質として(E)-3-Octen-2-oneを同定した.本研究は大型畜産動物の皮膚ガスを同定した初めての報告である.将来的に本技術を活用して皮膚ガスとストレスの関係を検証し,パッチテストや嗅覚センサーを用いた非侵襲的なストレス数値化技術の実用化につながることが期待される.
著者
北村 壽朗
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.21-28, 2018-01-25 (Released:2021-08-13)
参考文献数
19

相模川水系を水源とする神奈川県営水道では,貯水池である相模湖(相模ダム)や津久井湖(城山ダム)で繁殖した藻類が,浄水処理や水質に悪影響を及ぼす「生物障害」が問題となっている.これらの生物障害のなかで最も深刻なのは,かび臭による異臭味障害である.近年このかび臭障害が,上流の水源湖沼だけでなく,相模川本川で発生する事例が観察されている.本報では,相模川水系における異臭味障害について概説し,さらに,相模川本川中流域における湖沼性障害生物の繁殖事例と河床着生・付着藻類の調査結果について報告する.
著者
小林 純子
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.92-105, 2017-03-25 (Released:2021-05-21)

この30年,公共トイレの進化がめざましい.その内容は,利用者の要望に即した基本機能や付加機能,デザインの向上である.課題は,一番大切な,安全とメンテナンスの取り組みがまだ不十分であること.都心と地方,建築用途(商業施設と学校),男女,障害者等への取り組みの格差があることである.表面的なデザイン等でイメージがトイレの印象を変えてしまった我国の公共トイレだが,地についた進化に展化するためには,内容の深さや継続性が必要だ.そのためにも設計からメンテナンスまで統括して取り組む組織や人材の育成が必要だと考える.
著者
宮崎 雅雄
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.327-335, 2022-11-25 (Released:2022-11-25)
参考文献数
16

近年のネコブームで,ネコの行動や生理に関する様々な情報が書籍やインターネット上にあふれている.しかしこれらのネコに関する情報は,すべてが根拠に基づかれて書かれているものばかりではない.他の動物の知見がそのままネコでの知見のように書かれているものや,ネコで推測されたことがいつの間にか事実のように書かれてしまっているものもある.ネコが生活環境に尿をマーキングして縄張りを作ることは,一般にも知られている.別のネコが他のネコのマーキング尿に出会うと,におい情報から縄張り主の種や性,個体情報を入手していると考えられてきた.しかし時々刻々と変化するにおい情報から本当にネコがこれらの情報を識別できているのか,その真偽はほとんど検証されていなかった.そこで筆者らは,ネコの排泄物の揮発成分をガスクロマトグラフ質量分析計などで分析し,ネコの尿や糞,肛門嚢分泌物の中にどのような揮発性物質が存在するか網羅的に調べ,種や性,年齢,個体に特有なにおい物質を見出すことで,ネコの縄張り行動の理解を深めてきた.本稿では,これまで筆者らが明らかにしてきたネコの排泄物のにおいを介した嗅覚コミュニケーションについて解説する.
著者
吉浪 讓
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.21-26, 2019-01-25 (Released:2021-11-03)
参考文献数
1

自動車室内での香り付与技術についてまとめた.車室内で感じられるにおいのメカニズムとそれを制御する空調装置,香りを付与する技術とメカニズム,香りを付与に当って必要な注意点についてまとめている.車室内で香りを付与するに当たっては,濃度と放出量の管理が重要であり,より薄い放出濃度の制御と間欠運転をするにあたっては空調装置に支流を追加した強制対流式のディフューザを紹介している.
著者
遠藤 普克 龍山 恭 徳田 皓平 田島 岳留
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.240-243, 2021-07-25 (Released:2021-11-14)
参考文献数
9

国内でペットとしてイヌを飼う環境は室内が主流のため,イヌの持つ動物的な臭気と接する機会は増加しているものの,成分に関する報告はほとんどない.特徴的な臭気を有する,コーギー種犬の飼育に使ったシートや抜け毛の入ったクリーナーパックなどに対して,ダイナミックヘッドスペース法による捕集と,におい嗅ぎ分析を含む臭気分析を行った.それらの結果,3-methylbutyric acidと2-acetyl-1-pyrrolineがこの特徴臭気の要因と推測され,さらにGC/MS法により確認された.
著者
龍口 巌 松岡 龍雄 泉 玲子 伊地智 節 柴田 浩志
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.43, no.5, pp.362-366, 2012-09-25 (Released:2016-04-01)
参考文献数
11

本研究では,ウーロン茶エキス,甜茶エキス,緑茶エキス,柿渋エキスの4種のポリフェノールを組み合わせたポリフェノール混合エキス(抗ノネナールPolyphenol Complex,以下抗ノネナールPCと記載)に,加齢臭の主な原因である2-ノネナールへの高い消臭効果があることを見出した.更に,加齢臭が気になるあるいは加齢臭を指摘された事がある43歳〜75歳の日本人男性を対象に,抗ノネナールPCを配合した石鹸を4週間継続使用させる“加齢臭低減効果確認試験”を実施した.結果,使用前に比べて,使用2週間後,使用4週間後に,2-ノネナール量,臭気判定士による臭気強度および被験者の体感(主観評価)を表すVisual analogue scale (VAS)値が有意に改善され,抗ノネナールPCを配合した石鹸の加齢臭低減効果が確認された.
著者
丸山 奈保 安部 茂
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.199-210, 2012-05-25 (Released:2016-04-01)
参考文献数
43

かおりのある植物精油を用いたアロマセラピーは,近年,代替医療のーつとして感染症に対する効果に大きな注目が集まっている.精油は,既存の抗真菌剤にはない特徴を有しているが,その代表的なものに揮発性がある.精油は,真菌に直接接触できなくても,揮発成分の拡散により,抗真菌効果を示すことが可能である.また,感染症で臨床的に問題となる炎症症状をも抑制することができる.これらより,表在性真感染症に対する新たな治療法としての精油の有効性が期待される.
著者
磯谷 敦子
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.46, no.5, pp.340-345, 2015-09-25 (Released:2019-02-20)
参考文献数
13
被引用文献数
1

全国新酒鑑評会出品酒にみられる地域性について検討した.原料米は大部分が山田錦であることから顕著な地域性はみられなかったが,地元の品種など山田錦以外の原料米を使用した出品酒が15%程度あり,金賞を受賞したものもある.酵母はきょうかい1801が全国的に使用されているが,地域で開発された酵母の使用割合も高かった.吟醸香成分(酢酸イソアミルおよびカプロン酸エチル)の濃度は地域による違いがみられ,主に使用酵母の違いに起因すると考えられた.また,オフフレーバーについても,地域間で発生頻度に違いのみられるものがあった.
著者
菅原 良
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.2-13, 2015-01-25 (Released:2019-02-20)
参考文献数
11

地域資源であるバイオマスの活用は,農林水産業を含む地域活性化に貢献し,そのカーボンニュートラルという特性から,循環型社会の構築や地球温暖化防止対策としても,国の施策として多様な活用が進められている.しかし,特に廃棄物系のバイオマスを取扱う施設は悪臭問題の原因となる場合があることから,施設の設計や建設,運転管理に十分に注意する必要がある.
著者
綾部 早穂
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.68-70, 2004 (Released:2005-02-04)
参考文献数
19
被引用文献数
1 3
著者
高野 光雄 佐々木 勝考 武藤 猛 杉本 岩雄 三田地 成幸
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.345-355, 2005 (Released:2005-12-29)
参考文献数
21
被引用文献数
2 3

野外に咲く20種類のバラの香りを,応答特性が異なる6つの水晶振動子型においセンサアレイにより測定した.花弁部分に捕集袋を被せることにより気体のまま捕集した香りを,純空気に対する応答パターンを基準とした変化量として測定した.濃度によらず芳香の種類で区別するための特徴量を定義し,この特徴量を主成分分析法とk-平均クラスタリング法で分析した結果,品種との関連からバラの香りを複数個に分類できる可能性を示した.また,バラの香りを大気と揮発物質の混合体(におい成分)として考えると,バラの香りの分類には,水晶振動子上の吸着膜の化学的な応答特性が反映されている可能性を示した.
著者
今西 二郎
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.221-230, 2008-07-25 (Released:2010-10-13)
参考文献数
6
被引用文献数
1 1

香りの効果を積極的に利用して,病気の予防・治療や症状の軽減を図ろうとするのが,メディカル・アロマセラピーである.すなわち,メディカル・アロマセラピーは,エッセンシャルオイルを用いて,疾患の治療や症状の緩和を図る治療法の一つである.エッセンシャルオイルは蒸気蒸留法や圧搾法などで抽出し,多くの成分を含んでいる.エッセンシャルオイルには,抗菌作用,抗ウイルス作用,抗炎症作用,鎮痛作用,抗不安作用,抗うつ作用,リラクセーション誘導作用などさまざまな薬理作用があるので,メディカル・アロマセラピーは産婦人科疾患,皮膚疾患,上気道感染症,心身症,疼痛管理,ストレス管理などにおいて,有用である.アロマセラピーの方法としては,吸入,内服,アロマバス,マッサージ塗布などがある.このうち,アロママッサージは,もっとも効果が高い.アロママッサージにより,効率よくレラクセーションを誘導することができる.しかし,メディカル・アロマセラピーは,あくまでも補完的であり,他の療法と組み合わせることで,理想的な医療の実現に貢献できる.
著者
樺島 文恵
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.107-115, 2020-03-25 (Released:2021-11-14)

私達の身の回りには40万種の化学物質からなる「におい」が存在しており,人の敏感な嗅覚は極微量であってもにおいの元となる成分を感知することが可能である.またにおい物質は,単独で嗅いだ場合と複合で嗅いだ場合では相互作用や相殺作用により,その質や強度が大きく変化するため,においの質の評価は機器分析では容易ではなく官能評価による判定が主流となっている.筆者らは,におい分析における包括的かつ詳細な機器分析手法として高感度フルスペクトル取得が可能なGC-TOFMSを用いた生活に関わるさまざまなにおいの網羅的解析手法について検討を行った.
著者
森 一郎 矢吹 雅之 石田 浩彦 柏木 光義
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.222-229, 2016-05-25 (Released:2020-09-01)
参考文献数
16

ヒト尿の腐敗に伴い生成する臭気成分の一つとしてフェノール化合物があるが,これらは排尿直後の尿中においては大部分がグルクロン酸もしくは硫酸が結合した無臭の抱合体として存在することが知られている.今回,腐敗尿中の抱合体をLC-MS/MSにより分析したところ,グルクロン酸抱合体のみが分解していることが確認された.これよりグルクロン酸抱合体の分解抑制により尿臭気の生成を抑制できるものと考え,抱合体分解酵素(β-グルクロニダーゼ)の阻害剤を探索した.香料化合物約200種よりスクリーニングを実施した結果,8-シクロヘキサデセン-1-オンをはじめとする大環状化合物が優れた阻害効果を有し,フェノール化合物等の尿臭気の生成抑制に有効であることを見出した.
著者
角田 正健
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.250-260, 2005 (Released:2005-11-25)
参考文献数
7
被引用文献数
2 1

口臭とは原因が何であろうと,呼気の不快なにおいを意味する.特に,口腔内に起因する悪臭が口臭と言われる.口臭は長い間悩みの種であった.口臭の最も多くの原因が,プラークが関与する歯肉炎と歯周炎であるにもかかわらず,つい最近まで,口臭が歯周病学であまり問題視されなかったことは,驚くべきことである. 口臭の大部分の原因は口腔に関連するものであり,歯肉炎,歯周炎および舌苔が圧倒的な要因であることを,多くの研究結果が示している.口腔内の嫌気性細菌が,L-システインあるいはメチオニンなどの含硫アミノ酸などのタンパク質分解により,硫化水素とメチルメルカプタンを産生する.ガスクロマトグラフによる分析結果から,硫化水素,メチルメルカプタンおよびジメチルスルフィドの揮発性硫黄化合物が明らかになっている.