3 0 0 0 OA 龍涎香の香り

著者
駒木 亮一
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.141-148, 2013-03-25 (Released:2017-10-11)
参考文献数
6

アンバーグリス(龍涎香)は,フランス語の「灰色のアンバー」という言葉に由来する.昔から薬として香水の素材として利用されてきた.その由来は,近年になるまで不明であった.20世紀初頭に烏賊の嘴が含まれていたことが分かり,マッコウクジラPhyseter macrocephalusの体内に生じた病的なものであるらしいことが知られた.このアンバーグリスを分析すると,アンブレインとエピコプロステノールの成分が含有されていた.香水原料としは,エチルアルコールに溶解させ少なくとも6ヶ月以上熟成させ使用する.このアルコールチンキにはテトララブダンオキサイドやアンブレインという香気成分が生成している.
著者
柏柳 誠 長田 和実 宮園 貞治
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.112-118, 2016-03-25 (Released:2020-09-01)
参考文献数
21

ニホンオオカミが絶滅してから,100年以上が経過している.最後にニホンオオカミが目撃された場所は,紀伊半島であった.その後,福岡で目撃情報があったが,群れをつくるオオカミが単独で行動することが考えられないために野犬ではないかと結論づけられた.本小論は,絶滅以来100年を経過しているためにオオカミに対する怖さを体験していないエゾシカがオオカミ尿由来物質(P-mix)を忌避するとともに恐怖関連行動を示した研究成果を中心に紹介する.
著者
萬羽 郁子 東 賢一 東 実千代 谷川 真理 内山 巌雄
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.27-39, 2019-01-25 (Released:2021-11-03)
参考文献数
30
被引用文献数
2

本研究は,化学物質過敏症(MCS;Multiple Chemical Sensitivity)患者の嗅覚知覚特性を明らかにすることを目的とした.MCS患者群と対照群に,T&Tオルファクトメータの5臭(β-フェニルエチルアルコール[A],メチルシクロペンテノロン[B],イソ吉草酸[C],γ-ウンデカラクトン[D],スカトール[E])を用いた閾値検査,においスティックの4種(みかん,ひのき,香水,無臭)を用いた嗅覚同定能力検査,各においの強度および快・不快度評価を行った. MCS患者群は対照群に比べて,基準臭Dの検知閾値,5基準臭の平均検知閾値および認知閾値が有意に低かったが,同定能力に群間の有意差はなかった.また,一部のにおいに対する強度や不快度は,対照群よりMCS患者群の方が有意に高かった.本研究では被験者数やにおいの種類が限られており,今後さらにデータを蓄積して検討していく必要がある.
著者
山本 隆
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.200-205, 2007 (Released:2008-03-22)
参考文献数
17

おいしさが高じて特定の食べ物に対する嗜好性がとりわけ強くなった状態をやみつきという.代表的な脳内物質の面からみれば,おいしいと思うときβ-エンドルフィンが,もっと欲しいと思うときにはドーパミンが,そして実際に食べるときにはオレキシンが放出される.このとき,ドーパミンは脳内報酬系を賦活し,摂食欲を高める働きをする.より強力な摂取欲を示すコカインなどの薬物依存症の場合とそのしくみは共通である.やみつきとはある食べ物を想起したり,見たり,実際に口に入れたとき,これら脳内物質が容易にかつ過剰に分泌されるようになった状況とも考えられる.
著者
松元 美里 古賀 夕貴 樋口 汰樹 松本 英顕 西牟田 昂 龍田 典子 上野 大介
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.319-322, 2020
被引用文献数
3

<p>近年,残香性を高めることを目的としたマイクロカプセル化香料の使用が一般化している.本研究ではハウスダストから甘いにおいを感じることに着目し,におい嗅ぎガスクロマトグラフィー(GC-O)を利用した"におい物質"の検索を試みた.分析の結果,ハウスダストと柔軟剤から共通したにおい物質が検出され,香料がマイクロカプセル化されたことでハウスダストに比較的長期間残留する可能性が示された.</p>
著者
田中 結子
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.46, no.6, pp.374-381, 2015-11-25 (Released:2019-02-20)
参考文献数
8

近年の柔軟剤や衣料用洗剤などのファブリックケア製品には,香りの品揃えが多く見られ,これらが生活者の購買意欲を高める一因になっている.ファブリックケア製品において香りは重要な役割を占めるようになり,製品のイメージやコンセプトを伝えること,様々な使用場面での使い心地のよさを与えることやターゲット層の高い嗜好性に応えること等,付加価値を向上させる手段として進化してきた.本稿では,日本の柔軟剤と衣料用洗剤にフォーカスし,その香りの変遷と香りに対する生活者意識の変化について紹介する.
著者
直田 信一
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.39, no.6, pp.392-398, 2008-11-25 (Released:2010-10-13)
参考文献数
4
被引用文献数
2

活性炭吸着装置は,有機溶剤の臭気対策や回収装置として,多くの分野での実績がある.しかし,活性炭の吸着できる量は有限であるため,頻繁に交換しなければならないという問題がある.これらの問題を解決するため,活性炭の交換が容易にできる方法や活性炭を再生—再利用(リサイクル)するシステムを構築することで,極めて簡便でCO2を殆ど発生しないVOCの処理装置を実現することができる.
著者
溝口 忠 高橋 誠 小野 大介 堀 雅宏 谷口 眞
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 = Journal of Japan Association on Odor Environment (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.11-17, 2009-01-25
参考文献数
14

賃貸集合住宅で居住者退去後に問題となる前居住者の生活残留臭の除去方法を実験により検討した.処理法としては3種の植物性オイルミスト,グラフト重合高分子塗膜剤処理,オゾン処理を取り上げた.ペット臭・煙草臭・芳香臭を着臭させたペーパータオルについてスクリーニング試験を行い,比較的効果の高い方法を実住宅に適用して評価した.塗膜処理はスクリーニング試験では有効であったが,実住宅では大きな効果は見られなかった.オゾン処理は10ppm 14時間処理で臭気強度4から2に低下することができた.これらの検討を通して残留臭気の除去ついての知見が得られた.
著者
石田 洋史
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.411-420, 2016-11-25 (Released:2020-09-01)
参考文献数
18

料理の基礎となる鶏出汁(チキンスープ)は清湯と白湯の二種類ある.これらは混ぜる事で,それぞれ単独では得る事の出来なかった美味しさを得られる事が知られている.その相乗効果について検証する為,それぞれのスープをGC/MS,GC/O,AEDAの手法を用いて香気成分解析を行い,そこで得られた化合物からエンハンス効果に寄与する香気成分を探索,解明した.さらに,食品のおいしさに関わる表現「コク」について理解するため,消費者調査と官能評価を実施した取り組みについて紹介する.
著者
植田 秀雄 小橋 恭一
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.270-274, 2005 (Released:2005-11-25)
参考文献数
6

呼気には,多くの成分が含まれていることは意外に知られていない.一説には400種類以上ともいわれ,いずれも生体代謝産物である.呼気中の成分はそれぞれ意味のある生体情報を持っている.つまり,ガス濃度の変化と疾病との関係が明らかにされれば,呼気という“非侵襲”生体試料が大きな意味を持つことになる.近年,わが国ではガス測定技術の進展とともに,さまざまな専用ガス測定器の開発とその臨床研究が盛んになってきている.他方,先ごろ「国際呼気研究学会」(International Association of Breath Research)が旗揚げされ,呼気研究の機運が世界的にも高まってきた.呼気ガス測定の実用化研究の結果,臨床活用範囲が広がることにより,医療面のみならず非侵襲であるため,日常の健康管理にも役立てられることになると考えられる.呼気(におい)測定の実用化は,将来的,社会的にまことに大きい意義がある.
著者
根来 宏明
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.46, no.5, pp.350-356, 2015-09-25 (Released:2019-02-20)
参考文献数
7

アルコール飲料の摂取により呼気が“酒臭く”なるのは,飲酒を経験した多くの人が体験することであろう.中には,清酒,焼酎,ビールなど酒類によってにおいの質が異なると感じる人もいる.我々は,飲酒後の呼気を分析することで,“酒臭さ”に寄与する成分の同定を行い,さらにアルコール飲料の種類による呼気成分の差異を明らかにすることを試みた.得られたいくつかの知見について紹介する.
著者
大野 敦子 鈴木 萌人 矢田 幸博
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.50-59, 2022-01-25 (Released:2022-02-10)
参考文献数
37

紅茶の香りが自律神経活動に及ぼす効果について検討した結果,ダージリン紅茶セカンドフラッシュの香り吸入後に縮瞳率および指尖皮膚温は有意に上昇した.その効果は,アッサム紅茶とウバ紅茶の香りの効果より大きかったことから,交感神経活動を抑制し,副交感神経活動を優位にする鎮静作用が高いことが示唆された.香気成分分析によりダージリン紅茶セカンドフラッシュに特徴的な香気成分;ゲラニオール,ホトリエノール,2,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-3(2H)-フラノン,2-フェニルエチルアルコールを選定し,紅茶飲用時の規定濃度でそれぞれ吸入した結果,ホトリエノールのみが縮瞳率を有意に上昇させた.濃度依存性を検討した結果,ホトリエノールは5 ppm以下の低濃度において縮瞳率は有意に上昇した.さらに,ホトリエノール50 ppm吸入後に縮瞳率ばかりでなく,指尖皮膚温も有意に上昇したことから,ホトリエノールはダージリン紅茶セカンドフラッシュと同様の鎮静作用を有することが示された.以上の結果から,ホトリエノールはダージリン紅茶セカンドフラッシュの香りによる鎮静作用の発現に寄与する最も重要な成分であることが示唆された.
著者
水上 裕造
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.110-120, 2015-03-25 (Released:2019-02-20)
参考文献数
37
被引用文献数
2 2

緑茶の嗜好性は香りにあると言っていいほど,香りは緑茶の嗜好を左右する重要な要素である.緑茶の香りは実に多様性に富み,品種,地域,栽培,加工で全く異なる.ここでは,近年発展した茶の香りの分析から,中国緑茶,煎茶,釜炒り茶の香りの特徴,さらに,香りに特徴ある品種,地域で異なる香り,チャの生葉の香り,そして最後に焙煎で変化する煎茶の香りについて紹介する.2015年現在,分析技術を駆使して研究者が明らかにしたことは,緑茶の多様性から見るとほんの一握りである.今後も分析を通じて,五千年の歴史を持つ茶の本来の魅力が解明されれば,より身近に茶を感じるようになるだろう.
著者
大平 辰朗
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.34-44, 2012-01-25 (Released:2016-04-01)
参考文献数
63
被引用文献数
1 1

我々の生活環境に様々な害虫(衛生害虫,貯蔵害虫,農林業害虫等)が存在する.それらは人の衛生面や食物等の品質等の劣化を招き,大きな問題となる.対策としては優れた防除作用を有する合成された化学物質が数多く開発されているが,残留性,安全性等の問題があり,環境に優しい天然物,例えば香り物質を用いる方法が注目されている.植物は一旦,大地に根を張ると身動きがとれない.そのため周辺の微生物,昆虫等による攻撃に対応するための方法として,防除効果や安全性の高い化学物質を生成してきた.ここでは,それらの利用を考慮する為に,植物が作り出した害虫防除機能の高い化学物質に焦点をあて,概説することにする.
著者
小河 孝夫
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.287-297, 2014-07-25 (Released:2018-02-13)
参考文献数
56
被引用文献数
1 2

老年性嗅覚障害は60歳代以降でみられ,加齢とともに徐々に悪化し,嗅覚障害により日常生活の質は大きく低下してしまう.身体能力が低下し,栄養摂取が不良となりやすい高齢者にとって,こうした問題は特に重要になってくる.先天性嗅覚障害は生来嗅覚がないというまれな疾患である.嗅覚障害のみを臨床症候として呈する非症候性とKallmann症候群などの症候性がある.MRI検査により嗅球などの嗅覚系構造が検出できるようになり診断精度が向上している.嗅覚障害に伴うハンディキャップについての理解と性腺機能不全など嗅覚障害以外の他の全身合併症についても精査する必要がある.
著者
飯島 陽子
出版者
公益社団法人におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.132-142, 2014-03-25 (Released:2018-02-13)
参考文献数
38
被引用文献数
1 2

香料やハーブの品質を決めるうえで,香りの質やバランスは大きな要素である.その素材となるそれぞれの香辛植物は,ほかの植物に比べて特徴的な香気成分を大量に作り出し,ため込む能力を特化させた植物といえる.近年,植物代謝研究の立場から香辛植物を対象にした香気生成の分子メカニズムが徐々に明らかになってきた.さらに,代謝工学,バイオテクノロジーへの応用に関する研究も盛んになってきている.ここでは,特に香辛植物の香りの生成に着目して,最近までに明らかになった知見について概説する.
著者
角田 正健 喜多 成价 久保 伸夫 角田 博之 福田 光男 本田 俊一
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.230-237, 2013-11-25 (Released:2017-10-11)
参考文献数
26
被引用文献数
2 4

口臭は古くから人々の悩みの種となっている.誰であっても“におい”のない口(呼気)はあり得ないにもかかわらず,他人の反応が気になる.生理的なにおいであっても,時には体調の変化・ストレス・緊張などで強くなることもある.あるいは,自覚症状のないまま進行した疾病が原因で,強い口臭が認められることもある.しかし嗅覚の特殊性から,自分自身でその臭気レベルを知ることは困難である.したがって思い悩むことになる.このような臭気である口臭への対応と,心の病である口臭症に関する日本口臭学会の治療指針を紹介する.