著者
荘 発盛
出版者
尚美学園大学総合政策学部総合政策学会
雑誌
尚美学園大学総合政策論集 (ISSN:13497049)
巻号頁・発行日
no.27, pp.95-103, 2018-12

蔡英文の政権樹立直後、「新南向政策」が打ち出され、東南アジアまたはアセアンとの経済連携及び貿易関係の強化を推進している。その結果として、対中国貿易の依存度は低下することは容易に想像される。しかし、これは直ちに「脱対中国貿易依存」とみるべきかどうか。蔡英文政権では、中国の「一帯一路」などとは代替的なものではなくて、むしろ「補完的な役割」を果たすことになると主張している。一方、20数年前の李登輝時代において「南向政策」が推進されていたが、当時の台湾を取り巻く国際環境はすでに大きく変わり、その点も注目しつつ、「新南向政策」の成功の道について考察するのが本論文の目的である。
著者
櫻井 準也
出版者
尚美学園大学総合政策学部総合政策学会
雑誌
尚美学園大学総合政策論集 (ISSN:13497049)
巻号頁・発行日
no.24, pp.37-47, 2017-06

本稿では7 世紀に築造され、18世紀初頭(江戸時代)に石室が修復された埼玉県坂戸市の浅羽野1 号墳(土屋神社古墳)の事例を紹介する。この古墳では天井石に残された銘文によって1707年に信州高遠の石工によって石室が修復されたことが判明している。古墳が過去に修復された事例はわが国に存在するが、本事例は極めて珍しい事例である。その理由は修復の時期や石工名が判明していること、そして石材が転用されて石像が製作されたことである。また、修復の契機となったのが当時頻発していた地震災害による古墳の被害であることも重要な点である。このように、本事例は古墳と江戸時代の人々の関係、さらには遺跡と自然災害の関係を知ることができる興味深い事例である。
著者
櫻井 準也
出版者
尚美学園大学総合政策学部総合政策学会
雑誌
尚美学園大学総合政策論集 = Shobi journal of policy studies, Shobi University (ISSN:13497049)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.1-36, 2019-06

本稿では、考古学の立場からわが国の日本史学習漫画の歴史とその特徴について検討した。その結果、子ども向けの日本史学習漫画シリーズは1960年代後半に登場し1980年代になってわが国に普及したこと、それらは1980年代頃までは説明・解説型が中心であったが1990年代頃からストーリー重視の作品が増え、1990年代中頃からは人気の漫画キャラクターを起用したシリーズが現れたことがわかった。その後、1980年代末頃から考古学者が原案を作成したり考古学者が監修するシリーズが増加し、新発見の遺跡や考古学の研究成果が学習漫画に取り入れられるようになった。しかし、その結果「旧石器捏造事件」の遺跡や遺物が紹介されるという弊害を生むことになった。
著者
宮脇 健
出版者
尚美学園大学総合政策学部総合政策学会
雑誌
尚美学園大学総合政策論集 (ISSN:13497049)
巻号頁・発行日
no.13, pp.55-71, 2011-12

本稿は日本において生じるリスクに関して、マスメディアがどのような報道を行ってきたのか検証することを目的としている。2009 年世界中で蔓延した、H1N1イフルエンザは日本においても猛威を振るい、社会に多大な影響を与えた。しかしながら、良く考えると、インフルエンザという感染症は毎年流行し、多くの人が罹患し、場合によっては死に至る極めて重要なリスクであるにもかかわらず、その研究は医学、科学などもっぱら理系の科学的知見に関する研究が多数を占め、そこからの政策に関する問題や総括が指摘されてきたと言える。むろん、リスクに関するマスメディアの影響や、人間の心理などの社会学、社会心理学に関する研究はあるものの、インフルエンザに関するマスメディア報道の検証に関して、ほとんど散見されていない。そこで、本稿はリスク、特に2009 年に発生したH1N1インフルエンザに関するマスメディア報道に関して分析を試みることにする。
著者
原子 純
雑誌
尚美学園大学総合政策論集 = Shobi journal of policy studies, Shobi University (ISSN:13497049)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.77-89, 2014-12-25

遊びによって、一人ひとりの子どもに期待される健康な心と身体、豊かな感情や社会性、積極的にものごとに取り組む意欲や態度などの発達は、日々の生活の中で、身近で具体的・直接的な遊びを通して、総合的に助長されていくものである。このように遊びは、子どもに開放感や楽しさや満足感を与えると同時に、子どもの心身の能力や態度を発達させ、子どもの人間形成(人格形成)にとって重要な役割を担っている。今日では、遊びを知らない子どもや遊べない子どもが増加しているといわれている。みんなと遊びたいという欲求は持っているけれども遊びの中に入っていけない子ども、年長児になっても基本的生活習慣の出来上がっていない子ども、自然に触れあう経験の乏しい子ども等、こうした子どもたちは社会の変化の中で生まれた子ども達の姿である。そういった中で、幼稚園教育要領や保育所保育指針にも述べられているが、幼稚園や保育所では、子どもたちを遊びの中で主体的に活動に取り組むよう、子どもを育てなければならないのである。本研究は、子どもの成長における遊びの意義について文献調査により整理する。そこから子どもの遊び環境の構成と創造について考察する。
著者
高田 順三
雑誌
尚美学園大学総合政策論集 = Shobi journal of policy studies, Shobi University (ISSN:13497049)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.59-84, 2015-12-25

会計参与は、取締役と共同して、計算書類(貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表)及びその附属明細書を作成する。この場合において、会計参与は、法務省令で定めるところにより、会計参与報告書を作成しなければならない。会計参与はその職務の権限として、いつでも、会計帳簿又はこれに関する資料が、書面をもって作成されているときは(又は電磁的によって記録されているときは)、当該書面(又は電磁的記録)の閲覧及び謄写をし、又は取締役及び支配人その他の使用人に対して会計に関する報告を求めることができる。会計参与の資格は、公認会計士若しくは監査法人又は税理士若しくは税理士法人でなければならないとされる。会社の計算書類の正確性を図ることを主たる目的として創設された会計参与の趣旨及びこの制度が普及しない原因を考察する。
著者
梅澤 昇平
雑誌
尚美学園大学総合政策論集 = Shobi journal of policy studies, Shobi University (ISSN:13497049)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.1-13, 2011-06-30

日本の社会主義者が皇室とどう向きあったかを考えるうえで、北一輝らのいわゆる国家社会主義者を埒外に置くことはできない。そこで北をはじめとする有力な国家社会主義者の思想と皇室観を概観し、その共通性と異質性を探る。
著者
伊藤 雅之 上村 博昭 Masayuki ITO Hiroaki KAMMURA 尚美学園大学総合政策学部 Shobi University
出版者
尚美学園大学総合政策学部総合政策学会
雑誌
尚美学園大学総合政策論集 (ISSN:13497049)
巻号頁・発行日
no.27, pp.1-26, 2018-12

本研究の目的は、組織農業経営体(集落営農団体や農業法人)を対象として、経営先進性に焦点を絞った経営実態と販売先に関する地方別特性を明らかにすることである。分析データを収集するため、組織農業経営体を対象として、2018年6 月に郵送配布郵送回収による記名式アンケートを実施した。配布数は1,072件、回収数は286件であった。このうち、無記入で返送されたのが3 件、回答団体が記入されていなのが9 件あり、地方別の分析対象件数は274件である。経営先進性の全体傾向をみたところ、常勤雇用者の確保は喫緊の課題である。特に、中部地方では緊急性が高く、要因の究明と解決方法の検討を要すると思われた。次に経営先進性を比較したところ、「関東地方と近畿地方」において、「生産・栽培技術や加工技術のレベルアップ」と「販路が着実に拡大」で有意な差が観察された。いずれの指標でも、関東地方のほうが近畿地方よりもあてはまり度合いが高かった(先進性が高かった)。このことから、関東地方の組織農業経営体では大都市圏に位置していることを活かした直営の直売所での、ならびに実需者への売上が順調に拡大している一方で、近畿地方の組織経営体では大都市圏に位置しているメリットを活かしきれていない組織経営体が相対的に多いのではないかと推測された。
著者
上村 博昭 Hiroaki KAMMURA 尚美学園大学総合政策学部 Shobi University
出版者
尚美学園大学総合政策学部総合政策学会
雑誌
尚美学園大学総合政策論集 = Shobi Journal Of Policy Studies,Shobi University (ISSN:13497049)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.33-53, 2017-12-25

本稿では、食品加工事業者の育成における政策の役割を検討している。本稿の対象は、比較的小規模で、国内の生産地と結びつきの強い事業者である。近年、食品産業の内部、あるいは農林漁業との関係について、フードシステム論で多く検討されているほか、ショートフードサプライチェーンなど、いくつかの論点で採りあげられてきた。他方で、こうした事業者は、地域の産業振興における担い手として期待され、事業規模の拡大に向けて、いかにマーケティング活動を展開するのか、という点が論じられている。本稿で、竹田市の事例を検討したところ、生産・加工・流通に至るまで、幅広く政策的に支援したにもかかわらず、マーケティングの課題は残った。この背景には、経営者が副業と位置づけて、事業規模の拡大に消極的なことがある。確かに、本稿の対象とする食品加工事業者は、産業振興へ明瞭な効果をもたらさないが、食品の多様性や食文化の醸成に寄与することから、こうした事業者への政策的支援も求められる。その際に、直売所の整備、商談会の開催、テスト販売などの機会を提供して、食品加工事業者の経営方針と整合的な支援を図ることも、政策の在り方として求められよう。This paper discusses the role of policies for developing the food processing businesses in the peripheral area. Although there are many type of businesses in the food industry,such as manufacturers, wholesalers, retailers, and restaurants, we focus on the small type of food processing businesses. These businesses often link directly to local agricultural producers, and this type is analyzed in a discussion of Short Food Supply Chain, Alternative Food System, or Regional Specialty Food Products. These businesses are also discussed from the view of promoting the regional economies in peripheral areas. But, these businesses are relatively small, and they face some challenges of marketing. To clarify how this occurs, we analyze a case of Taketa-shi, and discuss how the policies support them. In Taketa-shi, about 30 food processing businesses join the policies, and develop new food products or businesses. However, they manage the food processing businesses as a side business or hobbies, and some of them evaluate the size is proper, because the small size fits their management (craft) policies. To this situation, the role of policies is to provide the chance of sales, by setting direct sales stores or business meetings, or conduct some test marketing activities.
著者
小林 正英 Masahide KOBAYASHI 尚美学園大学総合政策学部 Shobi University
出版者
尚美学園大学総合政策学部総合政策学会
雑誌
尚美学園大学総合政策論集 = Shobi Journal Of Policy Studies,Shobi University (ISSN:13497049)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.19-32, 2017-12-25

EU-NATO関係は「死に体」と化していると言われる。そうであるとするならば、いつ、どのようにしてそうなったのだろうか。冷戦後、EUが安全保障政策分野に乗り出したことで、NATOとの競合の種は蒔かれていた。しかしながら、ベルリン・プラス合意策定によって競合は回避され、分業と協調の欧州・大西洋安全保障ガバナンスの枠組みが構築されるかに見えた。本論は、ソマリア沖海賊対策作戦に焦点を当てながら2008-2012年のEU-NATO関係の転機について分析するものである。
著者
日野 勝吾
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学総合政策論集 (ISSN:13497049)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.95-106, 2016-06-30

本稿は、世間の耳目を集めた大王製紙事件東京地裁判決をもとにしながら、内部告発に関する事実を記した告発状の真実相当性の判断、及び内部告発の目的・手段における妥当性判断について具体的に論及するものである。上記の争点に係る論及にあたって、公益通報者保護制度の意義と限界について触れつつ、消費者と労働者における生活を連環的に捉えて、生活者法の提起もしている。
著者
高田 順三 Junzou TAKADA 尚美学園大学大学院総合政策研究科
雑誌
尚美学園大学総合政策論集 = Shobi journal of policy studies, Shobi University (ISSN:13497049)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.1-22, 2016-06-30

国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)は、パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」から流出した新情報の一部を公開した。今回のパナマ文書の最初の報道は2016年4月3日になされた。この文書はオフショア金融取引文書の機密文書で、アイスランドのグンロイグソン首相を含む多数の政治家周辺・著名人・企業幹部・スポーツ選手などが、タックスヘイブン(租税回避地)を利用していることがわかった。彼らは、アンフェアだか、法を犯しているわけではない。彼らにしてみれば、それを行使することは自由で、何のやましいことがあろうかと思っている。事実それを利用することは法律違反ではないのだか、税の源泉国である彼らの母国に納税すべきところを回避したモラルは問われるのではなかろうか。そして、いまも現実に多くの企業や富裕者がタックスヘイブンの有利さを享受している。これは世界的レベルで悪用されており、今回のパナマ文書はほんの氷山の一角と言えよう。問題は、世界の税秩序を規律するシステムが壊れており、現行の一国一法主義の税制では対応できなくなっていることだ。そこで、この投げかけられたパナマ文書の問題について考えることにする。
著者
中橋 友子 Tomoko NAKAHASHI 尚美学園大学総合政策学部非常勤 Shobi University
出版者
尚美学園大学総合政策学部総合政策学会
雑誌
尚美学園大学総合政策論集 = Shobi journal of policy studies, Shobi University (ISSN:13497049)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.75-94, 2016-12-25

暴言王トランプの当選に世界は驚いた。しかしアメリカの有権者の多くが置かれている状況を考えれば、それは驚くに値しない。ここではアメリカがどのような文化・社会的問題を抱え、人々が何を彼に期待して投票したのかを論じる。
著者
真下 英二 Eiji MASHITA 尚美学園大学総合政策学部 Shobi University
出版者
尚美学園大学総合政策学部総合政策学会
雑誌
尚美学園大学総合政策論集 (ISSN:13497049)
巻号頁・発行日
no.23, pp.1-23, 2016-12

地方分権の進展とともに普及が広がった自治基本条例であるが、その制定要因について詳細な分析が行われてきたわけではない。自治基本条例の制定要因について、地方分権に伴う制度的変化から考察したところ、市町村合併に伴う面積の広域化が自治基本条例の制定要因として考えられうることが明らかとなった。さらに、自治基本条例を制定した自治体は、特に非合併の自治体では非自民・非公明の傾向が強いことが明らかとなった。つまり、合併した自治体においては面積の広域化と政治的影響が、非合併の自治体においては政治的影響が大きな意味を持つことになる。これらのことは、合併による面積の広域化により、住民自治を強化する必要性が生じたこと、その一方で自治基本条例を制定するためには、政治的背景が備わっていなければならないことを示唆するものとなっている。The basic ordinance of local governance has been established in many municipalities in Japan along with decentralization. But the factor of establishment has not been analyzed in detail. Through a consideration from the change of the institution of local system, it was found that broadening of municipality's area along with municipals mergers caused establishment of the ordinances.And the electorate living in local governments that established basic ordinance of local governance tends not to vote LDP or New Komeito. So, in the merged municipalities, broadening effect and political factors cause establishment of the basic ordinance of local governance, and in the non- merged municipalities, political factors have meaningful effect for it.These suggest that, broadening of municipalities area caused the necessity to strengthen resident's self-governance, and establishment of basic ordinances of local government needs political factors.
著者
越智 信仁
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学総合政策論集 (ISSN:13497049)
巻号頁・発行日
no.22, pp.43-56, 2016-06

近年、わが国では会計上の見積りを巡る不正会計事例が目立っており、公正価値測定を含む会計上の見積りにおける不確実性は、国際的にも監査における重要論点と識別されるようになってきている。本稿では、国際財務報告基準(IFRS)の下、経営者裁量が比較的大きく不確実性の高い会計領域(レベル3 公正価値等)が拡大していく中で、経営トップが主導する会計不祥事に対する防波堤として、公正価値等見積り情報への監査が実効的に機能していくうえでの方策を考察する。そこでは、不正リスク対応基準の下、とりわけ会計上の見積りに不正の疑義ありと判断した後において、職業的懐疑心発揮の具体的態様である反証的立証活動の重要性を強調するほか、監査実務指針等で明示的に記述することの必要性にも論及する。従来、そうした監査プロセスの深度はブラックボックスであったが、監査人のアカウンタビリティの観点から、監査報告書での見積り情報等に関する「監査上の主要な事項(Key Audit Matters:KAM)」の開示が求められるとともに、KAMは監査品質に係るシグナル(情報)として機能していくことも期待される。
著者
高橋 幸裕
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学総合政策論集 (ISSN:13497049)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.85-102, 2015-12-25

高齢者介護では利用者のQOL(Quality of life:生活の質)が重視されている。しかし、政策的には人生の最後のあり方(死の迎え方)について十分に検討されてこなかった。その背景に、かつて日本では日常生活と死は密接したものであったが、医学の進歩に伴って延命治療が重視された結果、家庭から遠ざかってしまったことにある。1976年には在宅死よりも病院死の割合が上回って以降、日常生活の中で死を経験する機会が失われてしまうことになった。他方、介護職の養成テキストをみると、死が差し迫った利用者と家族への支援方法やその後の対応については僅かな記述しかなく、十分に意識されたものとはなっていない。このような実態を踏まえて、在宅介護現場では看取りに対してどのような課題があるのかを整理した。その結果、在宅介護現場では看取りを希望する利用者・家族に対し、どのような実態と課題があるのかを検討するために聞き取り調査を実施した。ホームヘルパーは利用者が生き続けることを前提とした介護サービスを提供していることから、利用者や家族から看取り支援を依頼された際に看取りに関する経験不足だけでなく医学的知識がないことを理由に戸惑いや不安を感じていることが明らかとなった。