著者
伊藤 雅之
出版者
独立行政法人農業環境技術研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

メタンの吸収源としてのみ評価されてきた森林土壌について、メタンを放出しうる湿潤な地点を含めてメタン吸収・放出能の評価を行った。その結果、比較的乾いた土壌では既往研究の報告と同様にメタン吸収が主だったが、斜面下部の湿潤な土壌では、特に夏期の高温時にはメタンの放出源として機能した。また、渓畔の湿地では夏期に非常に大きなメタン放出が観測され、メタンの生成過程が降雨条件等の水文条件に規定されることが示された。

1 0 0 0 OA 入信の社会学

著者
伊藤 雅之
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.158-176, 1997-09-30 (Released:2009-10-19)
参考文献数
37
被引用文献数
1

本稿の目的は, 新宗教に参加する個人に焦点をあてた社会学的諸研究を批判的に概観しながら, 入信プロセスの包括的な理解にむけての有効なアプローチを究明することである。筆者は, 社会的に規定されながらも意味探求をする存在としての信者像を前提とした上で, 多元的な諸要因を包括する入信モデルを構築する基礎固めを目指す。具体的には, 約30年前に提案された古典的入信モデルの再評価と批判的修正を行いながら, 今後入信研究を発達させていくための理論枠を確立し, また実証研究をする際の鳥瞰図を提示することを試みたい。本稿ではまず (1) 社会学的な入信研究の対象および入信に影響を与える諸要因を概観し, 次に, (2) 入信の主体である個人の捉え方をめぐる2つのアプローチ (社会・心理決定論と能動的行為者論) を批判的に検討する。以上の議論をふまえて, (3) 入信プロセスを総合的に理解する1つの手がかりを, ロフランド=スターク・モデルに求め, モデルの再評価を行う。最後に (4) このモデルに必要な修正点を検討しながら, 新しい入信モデルの可能性を探ることとする。
著者
山川 修 黒田 祐二 伊藤 雅之
出版者
福井県立大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

学習者の内部状態が,フレドリクソンのポジティビティとネガティビティの比率(P/N比)で測定をすることで,安定的に測定できることがわかった.そして,P/N比が高い(1を越える)学生と低い(1を越えない)学生の間で学習行動に違いが見られることがわかった.さらに,ポジティブ心理学が教えるポジティビティをあげる取組を学生に実行してもらったところ,ポジティビティがほとんど全員で向上していることがわかった.ただ,この結果は,この授業内の学習コミュニティがうまく機能していた結果とも考えられるので,取組とポジティビティ向上の因果関係は,今後のさらなる研究が必要である.
著者
大野原 良昌 佐藤 慎也 伊藤 雅之 皆川 幸久
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.235-238, 2005-02-10

はじめに 処女膜閉鎖症は比較的稀な疾患で,その発生頻度は0.03~0.1%とされている1).本症には完全に処女膜が閉鎖したいわゆる処女膜閉鎖(imperforate hymen)と処女膜に小孔を伴った小孔処女膜(microperforate hymen)2~7)が存在する.今回われわれは,小孔処女膜であったために初経から4年間周期的な月経が発来し,急性腹症発症を契機に診断された処女膜閉鎖症の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
著者
塩寺 さとみ 伊藤 雅之 甲山 治
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.15-29, 2020 (Released:2020-05-21)
参考文献数
124

熱帯泥炭湿地林は東南アジア、中南米、アフリカの低緯度地域にみられる森林である。その内訳はインドネシアでもっとも多く、全体の47%を占める。定期的、もしくは季節的な冠水によって落葉落枝の分解が抑制されることにより、林床に厚く泥炭と呼ばれる未分解の有機物が蓄積されており、貧栄養かつ低pHという特徴で知られている。泥炭湿地林には固有種や希少種が多くみられると同時に、その過酷な環境に適応した特殊な構造や機能を持つ植物が多くみられる。また、種組成や種特性は泥炭の深さやピートドーム内の場所によって大きく異なる。泥炭は15 mの深さに達することもあるため、泥炭湿地林は巨大な炭素と水の貯蔵庫という意味でもこれまで重要な役割を果たしてきた。このように、泥炭湿地林は、気候条件・水文環境や、泥炭、水、植生のあいだの微妙なバランスの下、長い年月をかけて成立し維持されてきた。人為的な撹乱がこのバランスに与える影響は著しく、その意味で泥炭湿地林は他の生態系よりも脆弱であるといえる。 泥炭湿地林の環境は農業や様々な土地利用には不向きであるため、これまで長年の間、開発の手を免れてきた。しかし、東南アジア地域では、1980年代頃より泥炭湿地林の排水をともなう大規模な農地開発等により急速にその面積の減少や森林の劣化が進み、正常な生態系機能は急速に失われつつある。泥炭湿地林の排水によって開発が行われる際には、これまで維持されてきたバランスが大きくくずれ、泥炭の分解や地中火、人為火災延焼による大気中への温室効果ガスの放出やこれに付随する地盤沈下が生じる。さらに火災による煙害は地域社会のみならず近隣諸国にも影響を与える国際的な環境問題となっている。大規模な排水、および火災の被害を受けた泥炭湿地林ではその回復は非常に難しい。さらにインドネシアでは、土地開発と経済発展、土地所有権や移民問題など様々な問題が複雑に絡み合う状況が泥炭湿地林の保全や回復を一層困難にしている。そこで本稿では、東南アジア地域の熱帯泥炭湿地林に焦点を当て、人為的撹乱が泥炭湿地林に与える影響とその回復の可能性、そして泥炭湿地林の将来について議論する。
著者
伊藤 雅之 上村 博昭 Masayuki ITO Hiroaki KAMMURA 尚美学園大学総合政策学部 Shobi University
出版者
尚美学園大学総合政策学部総合政策学会
雑誌
尚美学園大学総合政策論集 (ISSN:13497049)
巻号頁・発行日
no.27, pp.1-26, 2018-12

本研究の目的は、組織農業経営体(集落営農団体や農業法人)を対象として、経営先進性に焦点を絞った経営実態と販売先に関する地方別特性を明らかにすることである。分析データを収集するため、組織農業経営体を対象として、2018年6 月に郵送配布郵送回収による記名式アンケートを実施した。配布数は1,072件、回収数は286件であった。このうち、無記入で返送されたのが3 件、回答団体が記入されていなのが9 件あり、地方別の分析対象件数は274件である。経営先進性の全体傾向をみたところ、常勤雇用者の確保は喫緊の課題である。特に、中部地方では緊急性が高く、要因の究明と解決方法の検討を要すると思われた。次に経営先進性を比較したところ、「関東地方と近畿地方」において、「生産・栽培技術や加工技術のレベルアップ」と「販路が着実に拡大」で有意な差が観察された。いずれの指標でも、関東地方のほうが近畿地方よりもあてはまり度合いが高かった(先進性が高かった)。このことから、関東地方の組織農業経営体では大都市圏に位置していることを活かした直営の直売所での、ならびに実需者への売上が順調に拡大している一方で、近畿地方の組織経営体では大都市圏に位置しているメリットを活かしきれていない組織経営体が相対的に多いのではないかと推測された。
著者
伊藤 雅之
出版者
公益財団法人 史学会
雑誌
史学雑誌 (ISSN:00182478)
巻号頁・発行日
vol.127, no.2, pp.42-70, 2018 (Released:2019-02-20)

本稿は、紀元前三世紀から同二世紀にかけてのローマにおける外国使節への贈与を取り上げ、こうした行為が同国の地中海世界全域における覇権の獲得に及ぼした影響と、またそこからうかがえる前三世紀末頃からのローマ人たちの外交手法の変容を論じる。第一節ではまず、前一七〇年頃、ローマを訪れた数か国の使節たち個々人に対して行われた、元老院による公式交渉の中での金銭贈与を一つのモデル・ケースとして取り上げる。そしてこの検討から、ローマ側が巧みにそれぞれの国のエリートたる使節たちに贈物を受領させ、地中海世界各地で広く見られる互酬の通念を活かし、彼らをローマに対し恩義があり、それ故、以後、親ローマ的に振舞わざるを得ず、またそう振舞うであろうと周囲からも認識されるという状況を作り出したということを示す。第二節では、多数の類似の事例を取り上げ、こうした外国使節個人への贈与が、史料の示す限り、ローマにおいては前二〇五年に始まり、かつ少なくとも同国のギリシア世界への急速な進出の時期に継続的・意識的に行われたことを明らかにする。そして第三節では、今度は、前三世紀前半に確認されている、外部勢力の側がローマ人たちに金銭贈与を試みた事例に注目する。この中で、同世紀末からの相手側に贈物を受け取らせる中で見せるようになっていく巧妙さとは対照的に、ローマの人々がそれ以前にはこうした行為への対応に不慣れであったことを示し、そこから、ローマが前二〇〇年代より以前には外交の文脈での贈物のメカニズムを理解しておらず、また当然これを対外関係の中で利用もしていなかったということを論じる。そしてこれらの結果から本稿は、ローマは前三世紀末にこうした正規のものとは異なるチャンネルからの外部へのアプローチの有用性を認識・活用し始め、それがこの時期から始まる同国の急速な対外進出を実現させた重要な要素の一つになっていったという結論を導く。
著者
水口 雅 山内 秀雄 伊藤 雅之 高嶋 幸男 岡 明 齋藤 真木子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

急性壊死性脳症(ANE)と痙攣重積型急性脳症(AESD)の病因を解明するため、遺伝子解析を行った。全国的な共同研究により日本人患者の末梢血検体を集積し、候補遺伝子の変異・多型を調べた。AESD の発症にミトコンドリア酵素 CPT2 多型とアデノシン受容体 ADORA2A 多型、ANE の発症に HLA 型が関与することが明らかになり、病態の鍵となる分子が同定された。日本人の孤発性 ANE は、欧米の家族性 ANE と異なり、RANBP2 遺伝子変異が病因でないことが判った。
著者
伊藤 雅之
出版者
国立精神・神経センター
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

研究は研究実施計画に沿って行い、ヒト中枢神経系の発達異常におけるアポトーシス発現を検索した。検索した対象は、周産期に多くみられる低酸素性虚血性脳症(HIE)と橋鈎状回壊死(PSN)とし、標本材料は我々の施設にある脳バンクを利用した。HIEあるいはPSNと診断された在胎21週から生後3ヶ月の小脳および脳幹部を用い、ヘマトキシリン・エオシン染色、in situ tailing reaction法により、アポトーシスの組織形態学的評価を行った。また、Bcl-2、Bcl-x、Bak、CPP32、GFAPの各抗体による組織学的検索およびWestern blotによる評価を行った。その結果、HIEでは、アポトーシスの変化は在胎21週から30週の未熟かつ重症仮死例かつ受傷後1日から2日の症例に多く観察された。また、Bcl-2とCPP32の過剰発現が観察された。PSNでは、アポトーシスの変化は在胎21週から25週の未熟児出生で、生存期間が1日から4日以内の症例に多く観察された。また、Bcl-xとBak、CPP32の過剰発現をみとめたが、BCl-2の発現には変化がなかった。これらの結果から以下のことが考察された。1.HIEやPSNの病態形成にアポトーシスが関与し、bcl-2familyやcaspaseがその役割を担っていること。2.未熟脳ほどアポトーシスに陥りやすいこと。3.病態の違いによってアポトーシスに関わる因子が異なっていること。前年度の研究から、ヒト脳の発達過程においてアポトーシスが関与していることがわかっている。発達期脳循環障害においてもアポトーシスが関与をしていることが推察された。今後、これらの違いを明らかにし、分子遺伝学的解析を加え、周産期脳循環障害におけるアポトーシスの機構を明らかにすることが、病態解明とその予防に重要である。
著者
伊藤 雅之
出版者
国立精神・神経センター
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

脳形成過程において、周産期にうける物理的あるいは循環動態的変化は、その後の発達に重要な影響を与える。本研究では、周産期脳循環障害におけるアポトーシスの関与を調べ、その病態解明を検討し、その予防および治療の可能性を探ることを目的とした。昨年度の結果から、周産期脳循環障害にアポトーシスがみられたが、caspase3(CPP32)のmRNAの発現には対照群と差がなかった。今年度では、成熟児と未熟児の7ポトーシスのメカニズムの違いを調べた。周産期脳循環障害に多くみられる橋鈎状回壊死(PSN)について、成熟児と未熟児とに分けて分子病理学的に検討した。1.臨床病理学的検索:神経病理学的にPSNと診断された症例と正常対照を、臨床的に低血糖を伴う群と在胎21週から30週の未熟児群、31週から40週の成熟児群にわけて、ヘマトキシリン・エオシン染色、in situ taillng reaction(TUNEL)法により、アポトーシスの形態学的および量的評価を臨床病理学的に調べた。その結果、未熟児群で優位にアポトーシス細胞が多く観察された。未熟神経細胞ほどアポトーシスによる変化をきたしやすいものと思われた。2.遺伝子病理学的検索:PSNの未熟児群と成熟児群および正常対照の橋核のサンプルを用いてcDNAを合成し、RT-PCR法により細胞内シグナルトランスダクションに働く遺伝子群の発現を比較検討した。その結果、PSN症例ではFADD(FASassociateddeathdomainprotein)が優位に高発現していた。特に、未熟児群で高発現であり、Fasを介するシグナルが発達期の神経細胞死に重要な役割をしている。これらの結果から、ヒト発達期の脳障害にFasを介したアポトーシス発現が関与し、脳の未熟性が危険因子であることがわかった。