著者
松崎 和孝
出版者
一般社団法人 数学教育学会
雑誌
数学教育学会誌 (ISSN:13497332)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3-4, pp.197-205, 2015 (Released:2020-04-21)

現行の学習指導要領から数学Aにトポロジーの内容であるオイラーの多面体定理が新たに加わった.このため,トポロジーの内容の中から12個の話題を選び,教員志望学生に対してオムニバス形式で講義を行った.この講義の結果,9個の話題について多くの学生が興味・関心を持った.さらに,多面体の模型やボールを使う話題,身近な現象に数学的解釈を与える話題に対して,生徒が興味・関心を持つ可能性が高いことを明らかにした.
著者
谷角 裕之 柳本 哲
出版者
一般社団法人 数学教育学会
雑誌
数学教育学会誌 (ISSN:13497332)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3-4, pp.99-106, 2013 (Released:2020-04-21)

中学生は,教師の思いほど数学の勉強に対して社会的重要性を認識していない。数学の社会的意義をより認識させることを目標に,「放射能と数学」と題し,身近な問題から指数関数の導入的な授業を3年生で実践した。事前・事後調査結果から次の4点が明らかになった。① 数学観の変容が見られた生徒がいた。②「いろいろな関数」として位置づけられる。③ 学力中位以上の公立中学生では基礎的な指数関数の導入が可能である。④ 2変量の抽出に課題がある。
著者
守屋 誠司 長田 紀美 丹 洋一 詫摩 京未
出版者
一般社団法人 数学教育学会
雑誌
数学教育学会誌 (ISSN:13497332)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1-2, pp.49-60, 2017 (Released:2020-04-21)

教科書に掲載された通りに「数の分解と合成」,ブロック操作を行いながらの1 位数同士による繰り上りや繰り下がりの無い足し算・引き算,20 までの数が指導され,実態として指を使って計算する児童も多く存在するクラスを対象に,「繰り下がりのある引き算」の指導改善を目指して,「繰り上がりのある足し算」から次の方針で連続した指導を試みた。方針Ⅰ:事前調査を丁寧に行い,児童の実態を明らかにする。その上で,指導方略を検討し授業実践する。方針Ⅱ:既習の1位同士の加法と減法の計算技能習得をまず徹底させる。方針Ⅲ:ブロック操作は採り入れず,具体物で導入して,それを図で表現させながら考えさせる。最後に図と具体物を対応させて振り返らせる。これは,具体と抽象との行き来を確実にさせる意味がある。方針Ⅳ:教師が,個人学習での様々な結果をi-Pad で撮り込み,全体解決の一斉授業では児童が電子黒板上でその画像を使って発表・説明し,皆で確認する授業形態を採る。これは,ICT 利用の効果的成果を確認するためである。 ブロック操作を行わず図表現のみで通した場合,集中して思考でき,多様な方法を考えだす機会になっていることが確認できた。ブロック操作は,むしろ思考を中断させてしまう可能性が示唆された。
著者
渡邉 伸樹
出版者
一般社団法人 数学教育学会
雑誌
数学教育学会誌 (ISSN:13497332)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3-4, pp.81-92, 2010 (Released:2020-04-21)

本研究は,小中連携を意識した,代数カリキュラムの開発を目指すものである。本稿では,「分数の乗除」に焦点をあて,小中連携の代数カリキュラムの中で,特に2nd stage(小学校第5・6 学年,中学校第1 学年)註1 の小学校高学年において有効であると考えられる一つの教育内容(代数的な分数の乗除) を開発し,実際に教育実践を通すことからその妥当性を検討した。その結果,「代数的な分数の乗除」の教育内容は,小学校第6 学年で十分に理解可能であることから,小中連携のカリキュラムの中で,特に2nd stage の小学校高学年における一つの教育内容として妥当性があることが示唆された。
著者
中村 朋子
出版者
一般社団法人 数学教育学会
雑誌
数学教育学会誌 (ISSN:13497332)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1-2, pp.37-55, 2007 (Released:2020-05-29)

数学教育では,既成の数学的知識を単に移植するのではなく,生徒たち一人一人のなかに各自の数学を造り上げていくことが大切と考える。そのためには,数学の成立過程や背景を知ることは意義深いであろうし,ましてや教える側がそういった認識をもつことの必要性は大きいのではないだろうか。本稿は,ヨーロッパにおける人体比例論の系譜を数学的知の展開から考察し,数学のいわば"具体的な顔"を提示することによって,その一助となることを目指すものである。数学は,その歴史の端緒から今日のごとき「普遍性」を備えていたのであろうか。数学の形成過程を振り返ると,その抽象化・普遍化はいくつかの段階を経て果されてきたことが窺われる。そのような段階的変化はなぜもたらされたのであろうか。その原因を探るには,数学の理論的展開のみならず,その知を育んできた人間営為の歴史全体に眼を向ける必要があろう。なぜならば,数学ーあるいは数学的知ーは,一つにはまさにその「普遍性」のゆえに,他のさまざまな人間営為にとっても決定的な意義を担ってきたと考えられるからである。こうした意味で数学と深い関わりを持つ営為の一つに,人体比例論がある。人体比例論はヨーロッパにおいては古代から論じられてきた伝統的な美術理論の一つであり,その目的は人体の理想の美を決定付けることにある。「理想の美は普遍性を有する」―そこで,その美を把握するために数学が用いられるのである。本稿では数学的知の展開に照らしつつ,古代からルネサンスヘと至る人体比例論の系譜をたどり,各時代における数学的方法―「分数方式」(古代ギリシア), 「モデュール方式」(中世ビザンティン/アラビア), 「図形方式」(中世ヨーロッパ), 「擬似小数方式」(ルネサンス)―に言及する。これら4つの方法とその展開の意味を考察することによって,数学的知が一つの人間営為として,他の人間の諸活動との相互関係の中で展開してきたこと,またそれゆえにこそ豊かな文化的諸相を持つことが示唆される。
著者
河崎 雅人 藤井 涼太 小池 守 梅澤 実
出版者
一般社団法人 数学教育学会
雑誌
数学教育学会誌 (ISSN:13497332)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1-2, pp.11-18, 2018 (Released:2019-10-16)

本研究は,かけ算九九の習熟を図るための3つの教材を用いた学習後の習熟状況により, 児童の習熟度に応じた適切な教材を明らかにしようとしたものである.本調査では,ゲーム 教材,ドリル教材,パズル教材を対象とした.乗法の学習終了後に,6回の朝学習の時間を 利用して,学級ごとに,それぞれ一つの教材を用いて学習した.朝学習前,6回の朝学習の 終了直後に調査を実施し,3学級の習熟状況を比較した.その結果,次の示唆を得た. ・ゲーム教材は,学習直後には正しく答えられない九九がわずかな児童には適しているが, 正しく答えられない九九が多い児童には適していない ・ドリル教材は,習熟度の高い子どもには効果が少なく,習熟度の低い児童は逆に習熟度を 低下させる可能性をもつ ・パズル教材は,習熟が不十分な児童には習熟度の向上に有効であるが,記憶を確実にする ことには適していない 以上のように,3つの教材の持つ特性が明らかになり,習熟状況や目的に応じた教材を選 択する上での示唆を得ることができた.
著者
成瀬 政光
出版者
一般社団法人 数学教育学会
雑誌
数学教育学会誌 (ISSN:13497332)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1-2, pp.39-47, 2017 (Released:2020-04-21)

近年では,生徒の「深い学び」を実現するための活動が求められている.本研究では高校数学において「深い学び」を促すための授業実践の1 つとして,指数・対数関数の微分公式の証明を題材とした実践をする.本研究では,この実践をジグソー法によって行うことを通じて,微分公式間の証明についての関係性を検討したり,自分なりの問をもったりするという,「深い学び」が促されることが確認された.
著者
橘 貞雄
出版者
一般社団法人 数学教育学会
雑誌
数学教育学会誌 (ISSN:13497332)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3-4, pp.39-48, 2008 (Released:2020-04-21)

フィンランドが2000,2003,2006年と三度のPISAで高い学力を示した要因の1つに「教師 の質の高さ」があると言われている。フィンランドの教師養成教育を知り,そこから何らかの示唆 と教訓を得て,日本の理数教育に善く反映させることが望まれる。筆者は2008年フィンランドの Turku大学を訪問して教育学部教師養成学科のカリキュラムを調査し,実習訓練校での教育実習を 見学した。本稿はフィンランドの教育制度を概観しつつ,同国の教師養成教育を記述した。