- 著者
-
小塚 洋司
- 出版者
- 公益社団法人日本磁気学会
- 雑誌
- 日本応用磁気学会誌 (ISSN:18804004)
- 巻号頁・発行日
- vol.28, no.11, pp.1096-1102, 2004-11-01
- 参考文献数
- 13
- 被引用文献数
-
3
-色即是空.空即是色.-629年,秋八月,唐の玄奘三蔵は,長安を発ち仏法を求めて天竺(インド)に赴く.空に飛ぶ鳥なく,地に走獣,水草もなし.熱砂のタクラマカン砂漠を徒行し,氷雪春夏にも解けずといわれる標高七千メートルに迫る天山山脈を踏破して,天竺に至る苦行は想像を絶するものであったという.玄奘三蔵ときに29歳であった.16年の歳月を経て長安に戻った玄奘は,般若心経をインド語の原典から中国語に翻訳する.上記はその一仏説である.さて,磁性電波吸収体の主材料であるフェライトは,加藤与五郎,武井武雨博士によって,我が国で発明された誇るべき電気電子材料である.銅一亜鉛系のソフトフェライトが初めて作製されたのは,昭和5年のことであった.しかし,当時の未発達なエレクトロニクス技術環境下では,その実用化への道のりは,苦難の旅立ちにも似た険しいものがあったと伝えられている.本橋では,ソフトフェライトを中心とする電波吸収体技術について,基礎事項から説き起こし,電波吸収材としてのフェライト,電波吸収特性を支配する透磁率特性などについて述べた後,新しい電波吸収体の考え方として,筆者が提案している材料定数等価変換法について紹介する.とくに,電波吸収原理について,上記仏教哲理を踏まえての解説を試みている.