著者
樹田 行弘 出口 充康 志村 拓也
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 通信ソサイエティマガジン (ISSN:21860661)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.271-283, 2022 (Released:2022-03-01)
参考文献数
33

近年,海洋科学調査にとどまらず,海洋資源開発・インフラ開発や国家安全保障など多くの分野で水中無人ロボットや水中センサを活用した技術体系の構築が進められている.海中機器と海上のプラットホーム間で通信ネットワークを構築するために,多くの有線・無線の通信技術が研究開発されてきた.海中の電波伝搬特性などにより数十m以下程度の近距離通信環境を除いて,水中音響通信技術は唯一の無線通信手段として発展してきた. 本稿では,水中音響通信技術について主に物理層における技術的アプローチを紹介することを目的とする.初めに水中音響通信伝搬路の特徴について物理パラメータを基に概説し,続いて通信距離と周波数特性の関係から必然的に狭帯域特性となることを明かす.また,水中音響通信伝搬路の送受波ジオメトリによる特徴を概説する.水中音響通信に特徴的な伝搬特性に対して有効とされる技術の解説を行って,幾つかの実海域データにおける適用例を紹介する.これから水中音響通信を始める技術者・研究者の助けとなれば幸いである.
著者
山下 宙人
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 通信ソサイエティマガジン (ISSN:21860661)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.326-337, 2023 (Released:2023-03-01)
参考文献数
26

脳の複雑で柔軟な情報処理の仕組みを理解するためには,処理を担う脳部位を特定するだけでなく,脳部位間のダイナミックな情報のやり取りを解明することが必要不可欠です.しかし,ヒトを対象にした脳研究では,現在の脳計測法の限界から,このようなダイナミックな脳情報の可視化は困難です.我々の研究室では,複数のデータをソフトウェア的に統合して,一つの計測では達成できない脳情報の可視化を目指した研究開発を15 年以上進めてきました.本稿では,空間解像度に優れたfMRI データと時間解像度に優れた脳波・脳磁図を組み合わせて,高い時間・空間解像度での脳情報の可視化を目指す電流源推定法とその応用技術である電流信号伝達マッピング法について紹介します.
著者
吉田 弘
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 通信ソサイエティマガジン (ISSN:21860661)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.262-270, 2022 (Released:2022-03-01)
参考文献数
35
被引用文献数
1

水中無線技術の歴史は古く,音波による測深技術や潜水艦の長波通信は,1900 年代前半に既に利用されていた.世界においては現在も積極的に石油・ガス産業や防衛・軍事産業で水中無線技術が多用されているが,我が国では,海洋産業の衰退もあり,市場の縮小とともに技術者も減ってきている.しかしながら,我が国は世界で6 番目の広さの海洋面積(領海+排他的経済水域)を有する国であり,そこには多くの資源があり,また,国家としても海洋立国をうたっている.国内の海洋市場が縮小しているならば,市場を創るという行動をするべきだ.また,普段,空気を媒質として研究を進めている多くの研究者にとって,液体導電性媒質の海水は非常に面白い研究ターゲットである.市場形成を迎える前に,基礎研究を進め,いつでも応用が利くようにしておくべきだ.本稿では水中無線技術の総論として,研究内容だけでなく,心構えや市場性,将来性について紹介する.
著者
奥村 幸彦 増野 淳 南田 智昭 須山 聡 岡田 隆
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 通信ソサイエティマガジン (ISSN:21860661)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.186-199, 2020 (Released:2020-12-01)
参考文献数
14

第5 世代移動通信システム(5G)の特長を生かした医療分野の新しいソリューション実現に向け,NTTドコモが推進してきた5G を医師対医師の遠隔診療に活用する事例の検討及びその実証試験の実施結果を紹介する.2017 〜 2019 年度に総務省の5G 総合実証試験として医療機関を含むパートナーとともに推進した実証試験は,地域医療・救急医療の充実に向け,5G の超高速通信を生かして複数の医療機器から出力される高精細診断映像とテレビ会議の映像をリアルタイムに同時伝送する試験用のシステムを構築し,それらを用いて複数の診療科を対象とした試験・評価を通して5G を活用する遠隔診療システムの有効性を確認した.地域医療分野における実証試験では,和歌山県において,山間部診療所での遠隔診療,遠隔訪問診療,遠隔教育,遠隔移動診療の各事例について,また,救急医療分野における実証試験では,群馬県前橋市において,救急搬送の高度化ソリューションとして,3 または4 拠点間で救急搬送情報を共有する形式の遠隔診療について,それぞれ実験用5G 無線通信装置を用いた試験を行い,各試験に参画した医療従事者及び関係者から多角的な評価結果を得た.
著者
長手 厚史 太田 喜元 星野 兼次
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 通信ソサイエティマガジン (ISSN:21860661)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.211-218, 2021 (Released:2021-12-01)
参考文献数
18

高度約20 km の成層圏から超広域のエリアをカバーする成層圏プラットフォーム(HAPS: HighAltitude Platform Station)への期待が高まっている.最大で半径100 km のエリアに無線区間1 ms以下の低遅延で通信サービスを提供可能であり,また今後急速な普及が予想されるドローンや空飛ぶクルマが飛行する上空エリアへの通信プラットフォームとしても有望である.このため,我が国のBeyond 5G 戦略の一環としても期待されている.また,上空を飛行するソーラープレーン等に搭載される無線中継局から普段使用するスマートフォンと直接通信可能である.災害時にもその影響を受けることなく,ユーザも特別な端末を持ち歩くことなく普段使用しているスマートフォンで即座に通信可能であることから,究極の災害対策プラットフォームとしても位置付けられる.本稿では,成層圏プラットフォーム及びHAPS 移動通信システムの概要を述べるとともに,更なる発展に向けた研究開発動向を解説する.
著者
鈴木 謙一 高橋 成五
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 通信ソサイエティマガジン (ISSN:21860661)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.307-313, 2022 (Released:2022-03-01)
参考文献数
17

日本を取り巻く広大な海洋及びその資源の有効活用,老朽化する水中インフラや新たな水中インフラの増加に伴う効率的な水中構造物点検,スマート漁業の進展など,今後水中へのICT/IoT 技術の積極的な導入が期待されている.そのため,我々は地上並みの高速ネットワークを水中に実現し,水中の3D データを取得するため,水中ライダの検討を行ってきた.本論文では,特に水中の測距データを取得する水中ライダの開発に向けた取組みについて紹介する.まずライダについて紹介するとともに,可視光ライダ化が水中の物体の測距が可能であることを示す.次に可視光ライダを耐圧容器に収容することにより開発した水中ライダを用いて,実際に水中で物体の3D スキャンを行った結果を示す.今後,実験で明らかになった問題点への対策及び再実験による評価を重ね水中ライダの完成度を向上させる予定である.