著者
海部 健三 竹野 遼馬 三田村 啓理 高木 淳一 市川 光太郎 脇谷 量子郎 板倉 光 石井 潤 荒井 修亮
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.73-82, 2019-07-28 (Released:2019-09-10)
参考文献数
28
被引用文献数
1

ニホンウナギは重要な水産資源だが,現在個体群は減少し,環境省および IUCN によって絶滅危惧種に区分されている.個体群を回復させるための対策が求められているが,その生育城である河川や沿岸域の環境をどのように回復すべきか,知見は限られている.本研究では成育場である河川や湖沼,沿岸域の環境の回復策に資することを目指し,福井県久々子湖において,超音波テレメトリー手法を利用して,ニホンウナギ 10 個体の行動を追跡した.超音波発信機を挿入した個体を放流した後,全ての個体が測位可能範囲内で測位された.明け方(4:00-6:00)および昼(6:00-18:00)に測位された個体は少なかったが,夕方(18:00-20:00)および夜(20:00-翌4:00)にはほぼ全ての個体が測位された.位置が確認された時間の長さは個体ごとに大きく異なり,最も短い個体で 0.3 時間,最も長い個体で 102.3 時間,平均は 16.5 時間であった.調査期間全体の湖岸エリア(水際から 50 m 以内)と沖エリア(水際から 50 m 以遠)の滞在時間比と面積比を個体ごとに比較した結果,6 個体で有意差が検出された.このうち 4 個体は湖岸エリアの滞在時間比が大きく,2 個体は沖エリアの滞在時間比が大きかった.湖岸エリアに滞在しなかった 1 個体を除き, 9 個体について湖岸を石積み護岸エリア,ヨシ帯エリア,コンクリート護岸エリアに分けて,各エリアの滞在時間 比と面積比を比較したところ,全ての個体で有意差が検出された.このうち 7 個体では石積み護岸エリアの滞在時間が最も長く,ヨシ帯エリアの滞在時間が最も長い個体と,コンクリート護岸エリアの滞在時間が最も長い個体が,それぞれ 1 個体ずつ見られた.湖岸を利用する個体については石積み護岸を選択する傾向が見られたが,沖および湖岸の利用は個体ごとにばらつきがあり,一定の傾向は確認されなかった.
著者
海部 健三 竹野 遼馬 高木 淳一 市川 光太郎 脇谷 量子郎 板倉 光 平江 多績 猪狩 忠光 三田村 啓理 荒井 修亮
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.83-92, 2019-07-28 (Released:2019-09-10)
参考文献数
27
被引用文献数
5

鹿児島県水産技術開発センターの所有する人工池(21.2 m × 36.0 m,水深1.1 m)において,間隙を持つ石積み,および,間隙が埋められた石積みを作成し,超音波テレメトリー技術を利用してニホンウナギ 8 個体の行動追跡を試みた.砂泥底の実験池内に直径約 1 m,高さ約 0.7 m の円錐型に,石積みを6 基設置した.石積みのうち 3 基に関しては,実験開始 9 日後に砂泥を用いて石材の間隙を塞ぎ,その 26 日後に砂泥を除去した.行動追跡実験の供試個体としてニホンウナギ 8 個体を用い,ピンガーを腹腔に挿入して実験池に放流した.8 台の受信機を用い,個体ごとに 1 時間単位で二次元カーネル密度推定を行い,実験期間中のニホンウナギの存在位置を推定した.間隙のある石積みに定位する個体が確認されたが,定位する環境は個体ごとに異なるだけではなく,同一個体であっても,利用環境は時間の経過と環境改変とともに変化しうることが確認された.また,石積みの間隙を砂泥で埋めることによって,定位環境としての石積みの利用は激減した.複数個体が同一の石積みを利用することは少なく,個体の侵入によって,別の個体の石積みの利用が制限される可能性が示唆された.さらに,実験中にニホンウナギが砂泥に潜る行動が観察され,実験期間中には巣穴と考えられる構造が確認された.既往研究によれば,石の間隙が砂泥で埋まる要因として,土砂供給の減少と流量の安定化が考えられる.ダムなどの河川横断構造物が土砂供給の減少と流量の安定化の要因の一つとされており,ニホンウナギの生息環境の改善のためには,これらの問題に対する適切な対処が必要と考えられる.
著者
平岡 修宜 荒井 修亮 中村 憲司 坂本 亘 三田村 啓理 光永 靖 米田 佳弘
出版者
公益社団法人日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.69, no.6, pp.910-916, 2003-11-15
被引用文献数
10 6

関西国際空港護岸域において採捕したスズキに超音波発信機を装着し,2001年8月に9個体,11月に11個体を放流した。護岸域に設置した受信機で行動を連続測定した結果,受信が記録され続ける個体と放流直後から記録されない個体が確認された。記録が続いた個体でも,1日以上記録の途切れる期間があり,受信範囲(約350m)を越える沖合へと移動したと考えられる。産卵期以前は小潮時に,産卵盛期は寒波・低気圧の到来時に多くの個体で記録が途切れた。スズキの沖合への移動はこれら生息環境の変化に対応していると推察された。
著者
戸嶋 孝 荒井 修亮
出版者
公益社団法人日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.25-32, 2000-01-15
参考文献数
18
被引用文献数
1

対馬暖流域5漁場におけるマダイ1歳魚の耳石断面のストロンチウム濃度を, 波長分散型EPMAで分析した。その結果, 耳石断面のストロンチウムの相対的な濃度の変動には, 変動幅が小さくほぼ一定の値で推移する場合と, 耳石の成長過程において一時的に顕著な増加を示す場合の概ね2つのパターンが確認された。長崎県沿岸では, 前者の変動パターンを持つマダイのみが確認されたが, 秋田県沿岸のマダイでは, 両方の変動パターンがそれぞれ同数出現した。さらに後者の変動パターンについては, 秋田県沿岸だけでなく, 京都府沿岸や石川県沿岸で漁獲されたマダイでも確認された。
著者
山本 宗一郎 三田村 啓理 黒川 皓平 國森 拓也 堀 正和 荒井 修亮
出版者
公益社団法人 日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.88, no.5, pp.355-364, 2022-09-15 (Released:2022-09-29)
参考文献数
31

マコガレイ成魚30個体に水温・深度ロガーを装着し,2017年7月3日に周防灘姫島地先で放流して2個体から12-1月までのデータを得た。高水温となる9月の2個体の経験水温の最頻値は24-25℃(53.9-57.6%)であった。最高経験水温は27℃に達したが26℃以上の頻度は3.9-4.5%と低かった。深度データからは離底行動が観測され,連続した離底行動後に生息水深,生息水温,分布域等が変化した。よって,天然海域では26℃未満の水温帯で生息可能であり,離底行動は移動に関連していたと考えられた。
著者
山下 洋 望岡 典隆 笠井 亮秀 木村 伸吾 杉本 亮 荒井 修亮
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

大分県、和歌山県、福島県の河川において、ニホンウナギの生産を支える環境と生態系を流域レベルで調べ、ウナギの資源生産の観点から河川再生方策を検討した。ウナギの食性は、サイズ、季節、地域で変化したが、基本的に広食性で柔軟な摂餌生態を有した。全長200mm未満の小型魚と200mm以上の大型魚では、好適な生息環境特性が異なった。ウナギの河口から河川上流への移動・拡散は堰により阻害された。本種は水質の許容範囲が広く、清流から都市型河川まで生息した。ウナギの河川内及び河川と沿岸間の移動、隠れ場、餌生物の生産を可能にする一定の環境条件整備により、本種資源の保全と培養が可能であると考えられた。
著者
古川 元希 澤田 英樹 三田村 啓理 益田 玲爾 荒井 修亮 山下 洋
出版者
日本水産増殖学会
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.179-182, 2019-06-20 (Released:2020-06-20)
参考文献数
25

Japanese common sea cucumber Apostichopus japonicus is one of the most important fisheries species of the world, while the natural resources are declining recently. We examined the retention rate of single spaghetti tags applied to A. japonicus to use future mark-recapture studies for estimating their stocks and/or their ethology. Eight of 10 individuals retained the tags for 76 days under 12°C. The retention rate is high compared to the other studies using spaghetti tags on Aspidochirotida, and that is practical levels to utilize for ecological and/or conservation studies in the active and reproductive season of A. japonicus.
著者
堤 千華 市川 光太郎 赤松 友成 荒井 修亮 新家 富雄 原 武史 カンジャナ アドゥンヤヌコソン
出版者
海洋理工学会
雑誌
Journal of Advanced Marine Science and Technology Society = 海洋理工学会誌 (ISSN:13412752)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.77-80, 2005-10-30
参考文献数
6

Dugongs {Dugong dugon) are herbivorous marine mammals and endangered species. Unfortunately, the lack of basic research especially on use of seagrass patches by dugongs prevents us from taking any effective countermeasures for the conservation.In this study, to monitor feeding behavior of dugongs in the seagrass bed of a tidal flat, we propose a visual-acoustic combined observation method which is comprised of the visual observation and the acoustic observation using a digital camera and automatic underwater sound monitoring systems for dugong (AUSOMS-D). This new observation method was tested in Thai waters. The increase in the number of dugong feeding trails was observed during nighttime by the visual observation. Dugong calls and feeding sounds were recorded by the acoustic observation. The increase of the dugong feeding trails coincided with the feeding sounds. Therefore, the visual-acoustic combined observation method is effective in monitoring feeding behavior of dugongs. This method has technical benefits not to impact both on the dugongs and the seagrass beds.
著者
松尾 侑紀 市川 光太郎 溝端 紀子 荒井 修亮
出版者
海洋理工学会
雑誌
海洋理工学会誌 (ISSN:13412752)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.1-4, 2013

We examined relationship between vocal behavior of dugongs (<i>Dugong dugon</i>) and (1) time of day and (2) tide around Talibong Island, using passive acoustical observation. Also, we compared the results of several data and investigate whether the same behavior can be observed over different time of year. We used underwater sound data recorded in February and March 2004, November 2006 and January 2008 off southeast of Talibong Island and analyzed the number of calls detected in unit time in relation to time and tide. We also compared the result of the analysis among three months and investigated whether there was any difference. In terms of the effects of time, more calls were detected in nighttime than in daytime (p<0.05). In terms of the effects of tide, there were significant correlation between maximum tidal range and many calls were detected when tidal range was narrow. Our findings suggest that vocalization pattern of the dugongs is influenced by such external factors as time and tidal range.
著者
新家 富雄 鴨志田 隆 市川 光太郎 三田村 啓理 荒井 修亮
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. US, 超音波 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.111, no.191, pp.11-16, 2011-08-23
被引用文献数
1

目視調査が難しい魚類の行動を知る手法として,魚に取り付けた超音波ピンガーが発信する信号からその存在や位置を求めるバイオテレメトリーがある.これまでのバイオテレメトリーシステムは異なる周波数のピンガーを連続的に追跡できなかった.本稿では複数台のステレオ式自動水中音録音装置(AUSOMS version 3.0)用いたバイオテレメトリーシステムを提案する.システムを構成するAUSOMS version 3.0は,超音波ピンガー信号の帯域(60〜84kHz)を低周波帯域(0〜24kHz)に変換し,14.4日間の連続録音ができる.2011年5月,広島県生野島において,提案するシステムを用いて10尾のアカメバルを同時に連続7日間,高精度にモニターすることに成功した.
著者
荒井 修亮 光永 靖 坂本 亘
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2001

世界に生息するウミガメ類は亜熱帯域から熱帯域を中心に、摂餌・産卵回遊を行っている。現在、ウミガメ類の全種において、その生息頭数が減少していると言われている。特に東南アジアにおけるアオウミガメ、タイマイ、オサガメ、ヒメウミガメについては絶滅の危機に瀕しているとされているが、その生態については全く未解明であった。このため本研究において、これらのウミガメ類の内、特にアオウミガメについてその回遊経路を解明すべく研究を開始した。具体的にはアオウミガメの回遊経路を人工衛星送信機(アルゴス送信機)を甲羅に装着することによって追跡を行った。平成13年度に12台、平成14年度に12台の合計24台のアルゴス送信機をタイ国のタイ湾側とアンダマン海側、並びにマレーシアのタイ湾側で産卵のために上陸したアオウミガメの雌成体に装着して追跡した。その結果、タイ湾側においては湾奥に位置する産卵場から放流したアオウミガメは大きく次の回遊経路を辿った。1.タイ湾を東へ海岸沿いに回遊し、カンボジアないしはベトナム沿岸へ行く経路。2.タイ湾を東へ沖合を横切り、南シナ海へと辿る経路。3.沿岸を回遊する個体。アンダマン海においては、産卵場であるシミラン諸島フーヨン島からの放流個体の殆どがアンダマン海を横切り、インド領であるアンダマン諸島沿岸へと回遊した。このようにタイ湾およびアンダマン海ではそれぞれ摂餌を行う海域が異なっていることが明らかとなった。これらの海域の個体が遺伝的に隔離されているか、あるいは交流があるのかについて、DNAによる解析を行った。この結果、両者には殆ど差違がないことが分かった。本研究期間中、タイ国を中心にアセアン諸国のウミガメ研究者を招き、SEASTAR2000ワークショップを3回(平成13年度プーケット、平成14年度及び15年度バンコク)開催し、プロシーディングスを出版した。更に本研究の成果を下に平成16年3月、タイ側共同研究者1名に京都大学学位が授与された。