著者
新堀 多賀子 初鹿 静江 髙波 嘉一 明渡 陽子
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2013, no.23, pp.147-151, 2013 (Released:2013-06-14)
参考文献数
10

内臓脂肪過多は様々なサイトカインを介して動脈硬化性疾患を発生させる.BMIが標準でも体脂肪率が高い「隠れ肥満」学生への保健指導を行うため,内臓脂肪量を推定できるInBody装置を用いて「隠れ肥満」の背景にある生活因子を見出す事を目的とした.食物学科学生41名を対象に,InBody装置で体脂肪率,腹囲,BMI,内蔵肥満レベル等の測定とライフスタイルに関するアンケート調査を行った.体脂肪率により肥満,隠れ肥満,標準,痩せの4群に分け分析した.その結果,隠れ肥満はBMI標準範囲内の29%に認められた.隠れ肥満群は標準群より内臓脂肪レベル,腹囲,BMIで有意に高く,筋肉量が少ない傾向を示し,また小学生時代から現在までの運動量が少なかった.食事因子では,隠れ肥満群で果物類,肥満群で肉類,卵類の摂取頻度が高い傾向を示した.身体症状では,肥満群と隠れ肥満群で肩こりと頭痛が高い出現傾向を示した.肥満は隠れ肥満よりも睡眠障害が有意に高値だった.今回は症例数が少なく隠れ肥満と標準を区別するライフスタイル項目は運動因子以外見つからなかった.
著者
福島(平川) あずさ
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2019, no.29, pp.101-111, 2019-01-01 (Released:2019-10-10)
参考文献数
27
被引用文献数
1 1

目的 玄米食者は便通や便の性状がよく,望ましい腸内環境である可能性があり,主観的健康感が高いことが報告されている.本研究では,主観的健康感と腸内細菌叢の関連性を明らかにすることを目的とした.方法 1,222 名が参加したGENKI Study の対象者に呼びかけて,Nested Study として97 名の便を集め16S rDNA アンプリコン解析を行い,門レベル,属レベルで主観的健康感との関連を検討した.結果 主観的健康感が高い者はとくに酪酸産生菌の占有率が高い傾向があり(p=0.052),またRosebria 属の占有率が高いほど主観的健康感が有意に高かった(p=0.020).主観的健康感が高かった玄米食者は酪酸産生菌が有意に高く(p=0.023),とくにFaecalibacterium prausnitzii (p=0.026),Rosebria (p=0.013),Bilophila (p=0.048)属の占有率が有意に高かった.考察 主観的健康感が高い者は酪酸産生菌や短鎖脂肪酸産生菌と関連があることが明確になった.腸内細菌によって産生される酪酸とその代謝産物は,直接ないし間接的に中枢神経系の回路網を介し情動に影響を及ぼすことが先行研究で推察されている.今後の研究課題は,対象の選択バイアスを少なくすると共に,追跡研究や介入研究によって,普遍性の高い,主観的健康感と「腸内細菌叢―腸管―脳」の因果関係を明確にすることである.結論 主観的健康感が高いほど酪酸産生菌のRosebria,Faecalibacterium prausnitzi の占有率は高く,短鎖脂肪酸産生菌Blautia,Bilophila 属の占有率が高いことが明らかになった.
著者
榎本 恵子
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2018, no.28, pp.435-439, 2018-01-01 (Released:2019-07-26)
参考文献数
11

王太子グラン・ドーファン(ルイ14世の長男)が古典ラテン喜劇作家プラウトゥスとテレンティウスを読んでいたという事実に多くの研究者たちは驚きと不可解さを提示している.事実,「喜劇の父」であり「ラテン語日常会話の師」と称され評価されているにもかかわらず,古典ラテン喜劇作家の扱いは当時の教育機関によって異なっていた.本稿では,文学,芸術,演劇,建築等の様々な分野でのメセナとして君臨した「偉大なる世紀」17世紀フランスを統治したルイ14世の王太子教育において古典ラテン喜劇作家が重要な位置を占めていたことを調査確認した報告である.
著者
生田 茂 葛西 美紀子
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2014, no.24, pp.160-167, 2014 (Released:2014-10-24)
参考文献数
26
被引用文献数
6

文や文節をハイライトしながら同期をとって読み上げを行う Media Overlays の機能を持つ電子書籍を手作りし,ダウン症の児童の読みの促進や誤読率の改善に効果があるかを調べた. HTML5 や CSS3 を用いて,テキストや図からなる各ページを作り込み,文や文節をハイライトし同期をとって読上げを行うための SMIL ファイルの作成を行った.こうして制作した「はらぺこあおむし」の電子書籍を,原本の絵本の音読に加えて用いることで,ダウン症の児童の読みの速さや誤読率の改善の取り組みを行った.本取り組みの結果,ダウン症の児童の文や文節の読みの速さや誤読率の大幅な改善がみられ,引き続き,詳細な実験を期待する結果となった.
著者
中村 純子
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2016, no.26, pp.168-172, 2016-01-01 (Released:2020-03-18)
参考文献数
18

本研究では理想自己と現実自己の差異と,非機能的・機能的自己注目である「反芻」「省察」が,劣等感に与える影響を検討した.青年は自己概念の不明確さから,自己認識の行動を多くとり,その過程で他者や理想自己と現在の自己を比較する中で,劣等感を感じる.しかし劣等感とは,青年にとって適応上の障害ともなり得る感情であり,青年は何らかの対処が必要となるだろう.その具体的な対処手段について,自己注目という観点から検討を行うことが有用であると考えられた.338名の大学生を対象として質問紙調査を行い,278名の回答を得た.重回帰分析の結果,理想自己と現実自己の差異と反芻は,それぞれ劣等感に対して有意な正の影響を与えることが示唆された.さらに理想自己と現実自己の差異は,反芻にも有意な正の影響を与えることが示唆され,反芻が理想自己と現実自己の差異と劣等感を有意に媒介していた.また省察は理想自己と現実自己の差異と有意な関連が見られなかったが,劣等感に対して有意な負の影響を与えることが示唆された.また交互作用の検討からは,反芻を高めず,省察のみを高めることが最も劣等感低下に効果的である可能性が示された.
著者
加藤 淳
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2018, no.28, pp.595-609, 2018-01-01 (Released:2019-07-26)
参考文献数
39

本稿では,看護師のヒューマンエラーによる医療事故について,エラー誘発要因を明示化することを目的とする.まず,看護師のヒューマンエラーによる医療事故の代表的な事例について,ヒューマンエラー分析モデルであるP-mSHELL モデルを用いてエラー誘発要因を抽出した.その結果,役に立たない手順書,不十分なコミュニケーションの2 つのエラー誘発要因がいずれの事例においても抽出された.その後,ディスカッションでは,医療事故を防止するための論考を試みている.
著者
伊藤 みちる
出版者
Institute of Human Culture Studies, Otsuma Women's University
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2016, no.26, pp.613-645, 2016 (Released:2017-03-04)
参考文献数
124
被引用文献数
1 2

本稿は,植民地時代より圧倒的な経済的且つ文化的な影響力を持ちながらも,長らく研究の対象とされてこなかったトリニダードのフレンチ・クレオールと呼ばれる人々の白人性について探求した.白人性は非普遍的で時と場所により異なる概念を持つが,植民地時代から現代のトリニダード社会において,貴族性や徹底的な白人純血性を誇るフレンチ・クレオールが,非白人に対する根拠のない差異と優越性を信仰し社会経済的特権を享受する「白人性」をどのように構築,継続,再構築してきたのかを探った.トリニダードにおいて,フレンチ・クレオールの白人性構築過程に関連する一次資料の収集を行った.雪達磨式標本抽出法により集めた24名のフレンチ・クレオールに対し,オーラル・ヒストリー法を用い対面聞き取り調査を行い,談話分析を通して体験談の分析を行った.調査結果によると,トリニダードのフレンチ・クレオールは,世代に関わらず,強い白人優越性を持つことが明らかになった.一方で,植民地時代を経験した世代とは異なり,若年層はマイノリティとして,アフリカ系・インド系がマジョリティのトリニダード社会への同化を試みるため,フレンチ・クレオールとしてのアイデンティティを軽視すると発言する.しかしフレンチ・クレオールとしての主観的,また総人口の8割を占めるアフリカ系・インド系などの他社会構成員による客観的な白人性が原因となり,フレンチ・クレオールは現代トリニダード社会へ完全には同化していない.
著者
武田 千夏
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.30, pp.500-510, 2020-01-01 (Released:2020-10-03)
参考文献数
41

スタールの小説『コリンヌもしくはイタリア』(Corinne ou de l’Italie, 1807)が今日欧米を中心に再評価される理由は何か.本論文ではこの小説に登場する神話的要素に着目しつつこの問いに答える.先行研究は主にコリンヌを「古代ローマのシュビラ」と結びつけて解釈するがそれはあくまでも女主人公のキャラクター構成に関するものであり,この神話的要素によってこの小説の現代性について読み取ることはできなことを指摘する.本論文はスタール自身が『ドイツについて』(De l’Allemagne, 1813)で分析の対象としたドイツ・オペラの『ラ・サアルのニンフ』をあらためて取り上げ,スタールが中世ドイツに由来する「ローレライ」を19世紀初頭に流行したこのドイツ・オペラの内容に準拠して近代的に解釈し自身の小説に取り入れた具体的経緯について明らかにする.その結果「コリンヌ 」は「特別な才能を持った女性の自由と結婚の間のジレンマ」という極めて近代的な内容を持つ神話の女主人公となり,今日ジェンダーの視点からこの小説が再び注目される直接的理由となった.
著者
大喜多 紀明
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2017, no.27, pp.1-13, 2017-01-01 (Released:2020-04-02)
参考文献数
15

本稿では,スタジオジブリが製作した長編アニメーション作品『崖の上のポニョ』に関する構造分析を行った.本稿の検証によれば,当該作品は,裏返し構造により構成された2編の異郷訪問譚が接合した構造であることが確認できた.
著者
山名 章二
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2016, no.26, pp.551-571, 2016 (Released:2016-11-30)
参考文献数
18

Eugene O’Neillが異例の長時間をかけ苦吟の末に完成した戯曲Days Without End (1934)は説得力を持つものにはならなかった. 本論は草稿類の検討により創作の推移を跡づけ, 戯曲の趣意を探る. その結果, 特に手子摺った結末が明らかにするのは, 中心人物の戯曲の虚構空間での課題が執筆した自伝的小説のモデルとした自らの不倫に行き着いた人生と, その小説に書き込んだ当の不倫の被害者である妻の死を望む底意との都合の良い妥協, もとどおり赦されかつ愛されて生き続ける日々の構築であることがわかる. そして, 伝記的には, それはそのままO’Neillの劇作家としての創作と実人生の妥協の模索, あるいはそのための迷走の実態でもある. 劇中で中心人物が書く小説の結末は, O’Neillが二人目の妻のAgnes Boultonを裏切り実現させた三人目の妻Carlotta Montereyとの日々を蝕む罪悪感の底にうごめくもの, すなわちAgnesの存在を抹消する願望が結晶したものである. さらに, 込み入ったことに, O’Neillの最深奥の真実でもあるこの罪悪感は, この戯曲の執筆中も赤裸な弾劾をやめない. その葛藤に取り組み書き換えるよう執拗に迫る創作衝動は, O’Neill好みの表現ならば“Something behind life”すなわち生の衝動そのものだ. この込み入った難題の打開策, 一個人としての究極の目的は, 弾劾を突きつける自らの内実を塗りつぶし, 創作による自己正当化の偽装以外になかったことが浮かび上がる. 同じくO’Neillの言葉ならば, 自らを“a whited sepulcher”「白く塗りたる墓」とすることである. かくて, もとより自伝色の濃い戯曲Days Without Endは, O’Neill深奥のカトリックの教えへの傾斜を踏まえた宗教色が強いものの, 回心, 自我からの解放あるいは人間理解の新しい段階を表現するなどとする従来の見方とは異なり,「書く人物」が書くことにより自らに関わる現実を操作しようとする企ての形象であり, The Iceman Comethで改めて取り組み, さらに自ら自伝と呼ぶLong Day’s Journey into Nightで続ける探求の先駆けとして捉えることができる.
著者
正村 俊之
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.30, pp.1-20, 2020-01-01 (Released:2020-02-16)
参考文献数
37

情報化が新たな段階を迎えつつある今日,AIやIoTに代表される最新の情報技術が人間の自由の実現に繋がるか否かが問われている.この問題を考察するための予備的作業として,近代的自由の成り立ちについて検討する.最初に,自由論の論点を整理し,自由論の「分析論的モデル」「生命論的モデルⅠ(主客合一論)」「生命論的モデルⅡ(主客分離=結合論)」という三つのモデルを提示する.次に,古代ギリシャから西欧近代に至るまでの過程を辿りながら,近代的自由が「因果的必然性」「国家権力」「市場メカニズム」「近代法」という四つの構造的条件に支えられた「自由の生命論的モデルⅡ」として成立したことを述べる.そして最後に,従来のメディア概念を拡張したうえで,近代的自由を規定する構造的条件とメディアとの関係について言及する.
著者
阿部 惠理 小林 実夏
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.30, pp.380-384, 2020-01-01 (Released:2020-05-12)
参考文献数
12
被引用文献数
1

妊娠期は母子の健康のために適切な食生活を営み体重増加量を管理しなければならない.つわりは妊娠期の食生活に影響を与える要因のひとつである.母子の健康の観点からは食事摂取量の減少やつわりの悪化した妊娠悪阻に注意が払われる.しかし,吐き気を緩和させるために食事を頻回摂取するいわゆる食べつわりの症状に着目した報告は少ない.本研究では食べつわりも含めたつわりの症状と栄養摂取および妊娠中体重増加量との関連を明らかにすることを目的とした. 対象の日本人妊産婦154名(35.2±3.7歳,妊娠前BMIは20.1±2.3)をつわりの症状別に食べつわり群,変化なし群,吐きつわり群の3群に分類した.各群の妊娠初期・中期の栄養摂取状況,および妊娠中体重増加量を比較した.その結果食べつわり群は他の2群と比較し,妊娠中体重増加量が有意に多かった.妊娠初期における3群のエネルギー摂取量は吐きつわり群が少なく有意差があった.妊娠中期には吐きつわり群のエネルギー摂取量は初期と比較し有意に増加し,3群間の有意な差はなかった. つわりは生理的な現象であり悪阻以外は臨床的に重要視されにくいが,つわりの影響で妊娠初期の段階で食事摂取量が増した者はその後の体重管理に注意を払う必要性があると示唆された.
著者
大喜多 紀明
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2017, no.27, pp.251-258, 2017-01-01 (Released:2020-04-02)
参考文献数
13

宮崎作品に共通する表現上の特徴を検証することが,なぜ宮崎作品に人気があるかを解明するに資するとの考えに基づき,本稿では,宮崎駿の短編アニメーション作品『On Your Mark』を裏返し構造の観点から分析した.それによれば,当該作品は短編であるにもかかわらず,6対の対応を持つ裏返し構造からなることが見いだされた.これを,すでに裏返し構造の観点から議論されている他のいくつかの宮崎作品の場合と比較したところ,対応数に関しては同等程度であることがわかった.かかる結果がもたらされる理由に対し,本稿では,『On Your Mark』の個別的特徴に由来するとする仮説,および,宮崎の作品製作上の特徴に由来するとする仮説を提示した.
著者
高橋 ゆう子
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2019, no.29, pp.581-590, 2019-01-01 (Released:2019-11-09)
参考文献数
19
被引用文献数
1

本論の目的は,RDI(対人関係発達指導法)の特徴と効果について,一家族の事例から検討することである.対象は,6 歳のASD 児とその両親で,約2 年間RDI に取り組み,その間,アセスメント(RDA)として親子のやりとりを3 回録画した.その映像は,関係性を捉える3 つの状態(共同注意,相互調整,間主観性)について評価された (Larkin, et al, 2010).また,日常生活における母子のやりとりを録画した63 場面について母親が振り返りとして記述した内容について,コンサルタントとともに分類を試み,その特徴を整理した.結果は次の通りである.まず,3 回のRDA から父親,母親とも共同注意,相互調整,間主観性のいずれにも変化がみられた.次に母親の記述については,その内容が肯定,否定,分析,課題,疑問の5 つのカテゴリーに分類でき,否定的な内容が減って肯定的なもの,子どもとの関係性に関する内容が増えた.以上から,RDI が親子の関係性の変容に影響することが推測された.そして,情緒的意欲的関係性に焦点をあてた育て直しをねらったRDI の特徴と課題について考察を行った.
著者
柏木 由夫
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2017, no.27, pp.121-133, 2017-01-01 (Released:2020-04-02)
参考文献数
18

まず,崇徳院の『久安百首』春部末尾の独自性を指摘した.次に四季部を中心に彼の和歌の特徴的要素を“和歌の用語と手段”の面から3点,“和歌の方向性(心の在処)”の面から5点を指摘し,後者の要素は連環する崇徳院の心の世界を示すと考えた.次に恋部は,恋の進行に従った構成に,和漢の知識に拠る恋歌を添えたとした.一般的恋歌から外れた身勝手さや,強引さ,あるいは卑屈さの裏にある孤独などが読み取れるとした.恋の進行の末尾歌を俊成が改訂した本文が『百人一首』に入ったとした.
著者
大喜多 紀明
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.30, pp.146-150, 2020-01-01 (Released:2020-03-14)
参考文献数
25

本稿において,漫画『チェンジ』(小山ゆう作品)の構造を,裏返し構造の特徴に基づいて分析したところ,当該作品が裏返し構造であることがわかった.従来,裏返し構造は,異郷訪問譚にみとめられてきた構造上の特徴であるとされ,異郷訪問譚形式の,口承由来を含む文字による物語やアニメーション作品にみいだされてきた.漫画作品にみいだされる裏返し構造を紹介したのは本稿が最初である.
著者
松村 茂樹
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2015, no.25, pp.33-36, 2015-01-01 (Released:2020-03-14)
参考文献数
4

「文系不要論」が論議されている.どうしてこういった状況に至ったのであろうか.また,この状況を打開するには,どうしたらいいのであろうか.一度,「文」の字義という原点に立ち戻って考えてみたい.「文系」は役に立たないと言われるが,ビジネスの現場でも,就職でも大いに役に立つ.というより,「文系」の学問なきところ,ビジネスも就職も成功しないのである.こういった「文系」のすばらしさをもっと積極的に喧伝すれば,「文系不要論」を克服できるのではないか.
著者
小林 洋子 湯淺 洋子 新堀 多賀子 伊藤 由加里 明渡 陽子
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2014, no.24, pp.120-124, 2014 (Released:2014-07-25)
参考文献数
5

子宮頸がん発症が20歳代からと低年齢化しており,また乳がんの高い罹患率などから,若い世代から女性特有のがんに関する知識を持ち,健康への意識を高めることは重要である.そこで,本学女子大生で同意の得られた164名に子宮頸がん,乳がんについての知識調査を実施し,知識の普及啓発と自己管理能力の向上を目的とした.子宮頸がん,乳がんの知識調査では,子宮頸がんの知識がある学生は,有意に乳がんの知識もあり,また子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)の接種を受けていた.HPVワクチン接種の有無別による子宮頸がんの知識の平均正解数は,ワクチン接種ありの正解数が有意に高かった.全体でHPVワクチンの接種率は25.0%で,接種理由は家族や友人などの勧めが58.5%と最も多かった.子宮頸がん検診の受診率は8.5%と低く,HPVワクチンを接種した学生においても9.8%と同様に低い結果であった.乳がんの知識のある学生は,自己触診法の経験があるものが有意に多かった.また,自己触診法の認知度は高かったが,実際に自己触診法の経験のある学生は全体のわずか14.7%に過ぎなかった.しかし,自己触診法の具体的な方法を知りたいと希望する学生は81.6%と多かったことから,今後乳がん自己触診法の指導と女性のがんについての啓蒙教育を実施していきたい.
著者
大喜多 紀明
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2018, no.28, pp.610-618, 2018-01-01 (Released:2019-07-26)
参考文献数
28
被引用文献数
2

前稿では,新約聖書に収納された「ルカによる福音書」にみとめられる裏返し構造を紹介した.本稿では,前稿を踏まえ,「ルカによる福音書」の約三分の一の範囲を占めるルカによる福音書9章51節~19章46節をテキストとし,裏返し構造の特徴を照合することにより得られた知見を資料として紹介する.
著者
真家 和生 鳴瀬 麻子
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2013, no.23, pp.97-100, 2013-01-01 (Released:2013-05-17)
被引用文献数
1 1

日本の旧石器時代は極めて特殊な特徴を有している.それは,旧石器が出土する遺跡からは人骨すなわち旧石器時代人が伴出されず,旧石器時代人が発見された遺跡からは石器が出土しない,ということである.これは旧石器使用者がどのような人々であり,現在の日本人につながる人々であるのかどうかという判定ができないということを意味しており,日本の旧石器時代研究の足枷となっている.本報告では,人類学および考古学の最新情報を整理し,現時点でのこれら情報の整理を行った.なお本報告は,平成24年度大妻女子大学人間生活文化研究所共同研究として「東国の旧石器時代文化の再考と復元」の題名で研究費をいただいて行った作業のまとめであり,オリジナル研究ではないことをお断りしておく.