著者
杉山 実加
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2018, no.28, pp.14-19, 2018-01-01 (Released:2019-07-26)
参考文献数
23

これまでの研究において,保育者養成段階の「保育・教育課程論」で使用されているテキストにおいて,計画の連続性への意識がほとんど見られないことなどが指摘されてきた.2018年4月には,新たな幼稚園教育要領・保育所保育指針が施行され,保育者には「カリキュラム・マネジメント」が求められていく中で,養成段階においても,教育課程や指導計画について十分な知識や技術を身に着けることが求められる.そこで,本論文では,2015年から2017年の間に出版されたテキストの記載内容を分析し,編成の目的や意義,各指導計画の連続性に即した作成方法について,どのように解説が行われているのかを検討した.結果,計画の必要性において,保育者間の連携や省察の手がかりとなる記録という部分をきちんと明記していた書籍は一部であること,長期的計画と短期的計画の関連性については全てのテキストで解説が行われていたが,その実際について,資料をもとに具体的に解説したテキストは少なく,解説されている場合も特定の記載内容のみを扱っている場合が多いことを明らかにした.
著者
池上 幸江
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2021, no.31, pp.647-655, 2021-01-01 (Released:2021-12-16)
参考文献数
14

粘性のある難消化性多糖類5種(ジェランガム、タマリンドガム、サイリウムシードガム、グアガム、キサンタンガム)についてラット消化器官に対する影響と粘性の関係について検討した。実験には4週齢のSprague Dawley 系雄性ラットを用い、難消化性多糖類5%を含む飼料とセルロース5%飼料をコントロールとして24日間投与した。 実験1では上記6種の難消化性多糖類飼料を投与し、飼料投与中止後5時間目に解剖し、消化管重量、内容物の重量と粘度、糞重量を測定した。小腸、盲腸の内容物の粘度はキサンタンガム群が最も高く、グアガム群がもっとも低く、難消化性多糖類そのものの粘度とは相関しなかった。また、消化管重量、消化管内容物重量、糞便量にも粘度との関連性は見られなかった。 実験2ではセルロース、ジェランガム、タマリンドガム、サイリウムシードガム、キサンタンガムを含む飼料で飼育し、5時間絶食後を0時間として、飼料5gを投与して2時間後に解剖した群を2時間とした。2時間後の胃固形物量は最も粘度の高いキサンタンガム群が他の4群に対し、有意に低かった。 実験3ではセルロース、サイリウムシードガム、グアガムを含む飼料で飼育し、絶食後を0時間として、飼料5gの投与2、5時間後に解剖した。2時間後の胃固形物量は粘度の高いグアガム群が他の2群に比べて有意に低かった。しかし、グアガム群の胃内容物の高粘度は、小腸と盲腸では顕著に低下した。他方、サイリウムシードガム群では胃内容物の粘度は低かったが、盲腸ではグアガム群より高くなった。 以上の結果より、難消化性多糖類を飼料として投与すると、飼料や消化管内容物の粘度は本来の粘度とは異なることがあり、飼料成分や消化管内での物理化学的影響によって変化することが示唆された。また、従来高粘度の難消化性多糖類は胃から小腸への食物の移動を低下させることによって、血糖値低下などの機能が示されると考えられてきたが、本研究は再考が必要であることを示した。
著者
小関 右介
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2021, no.31, pp.62-67, 2021-01-01 (Released:2021-09-17)
参考文献数
19

文献調査にもとづき,佐渡島の淡水魚類相の変遷を調べた.2012年の前回魚類相報告以降,本島の淡水魚類目録には2種の純淡水魚と1種の周縁性淡水魚が加わり,目録掲載種数は46種となった.魚類相の大きな特徴は,通し回遊魚,とくに両側回遊性ハゼ科魚類の種の多さであり,この特徴は過去60年間で大きく変化していなかった.しかし,人為的移入により,種全体に占める純淡水魚の割合がかつての4分の1から3分の1に上昇しており,これら移入種による生態系への影響が懸念された.種の移入防止のために講ずべき施策および侵入の早期発見のために実現すべき環境DNAベースの魚類群集モニタリングについて簡単に述べた.
著者
数土 武一郎 清原 康介
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.30, pp.438-443, 2020-01-01 (Released:2020-07-21)
参考文献数
14

指差呼称は安全確認やヒューマンエラー防止を目的として,指差しを行い,その名称や状態を声に出して確認することである.我が国では,指差呼称は有効な安全対策として各業界で推奨され,医療現場や製造業等で幅広く実施されている.本研究では,医薬品製造の実生産ラインにおいて,指差呼称の実施回数を増やした際の作業員の肉体的・精神的疲労度およびヒューマンエラーの発生回数の変化について検討した.D製薬会社福島工場の製造作業員30名を対象に,1日の作業終了後に腕,口,目,足,精神の疲労度をVisual Analog Scaleにより10日間測定した.その後,作業中の指差呼称実施回数を通常の3倍として10日間勤務してもらい,同様に疲労度を測定して従前と比較した. その結果,指差呼称実施回数を3倍とした期間は,通常回数の期間と比較して,腕,目,精神の疲労度が有意に上昇した(p<0.05).口と足の疲労度には有意な変化は見られなかった.一方,ヒューマンエラーは全研究期間をとおして一度も発生しなかった. 以上の結果より,指差呼称実施回数を増やすことは作業員の疲労度を増大させる一方で,短期的にはヒューマンエラーの発生回数に影響しない可能性が示唆された.ただし,本研究の調査期間は計20日間と短く,ヒューマンエラー発生回数の差を把握するには十分な観察期間ではなかった可能性がある.今後はより長期的なモニタリングを行い,指差呼称の実施回数とヒューマンエラーの発生との関係を評価していく必要がある.
著者
趙 方任
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.30, pp.268-282, 2020-01-01 (Released:2020-04-09)
参考文献数
48

喫茶に水は欠かすことができない.中国の喫茶文化において,茶の味をよりいっそう引き出すために,各地,各種の水を飲み比べてその品質を定め,優れた水を選び,水のランキングをつけるということを行う.そうした行為,およびその鑑定結果,判断基準などを中国茶文化では「水品」と言う. 「水品」と言った場合,大別すると二つの異なる概念が含まれている.一つは,実際に水の品質を定める行為と,その判断の結果であり,もう一つは,「水の品質の判定基準」,つまり「良い水の基準」である.そこで本稿では,前者を「水品実践」,後者を「水品基準」と呼ぶことにする. 今までの研究では,古人の「水品」に関する諸説の矛盾について論及したものは見当たらない.また,「水品」に関する理論面での時代変遷に応じた変化,それに伴う各時代の特徴について言及したものは見当たらない.この面で言えば,本稿は中国茶文化研究領域において,「喫茶用水」に関する初の全面的な研究になる. 本稿は,文献を中心に,そして中国の唐・宋・明・清の四代を中心にして,喫茶文化における「水品実践」及び「水品基準」の時代特徴,そして,それぞれの歴史的な変遷について考察して行く. そして,本校は「水品実践」と「水品基準」について,歴代の特徴を述べた上,その時代の変遷の特徴を発見し,まとめた.つまり,「水品実践」の変遷では,(唐)ランク付けをおこない活発な動き→(宋)前時代を踏襲し,地味で新鮮味に欠ける→(明)新しいランク付けが起き,再び活発化→(清)前時代を踏襲し,地味で新鮮味に欠ける,という結果であった.一方,「水品基準」では,(唐)水は「重」を良いとした→(宋)水は「軽」を良いとした→(明)再び「重」に→(清)また「軽」に,という変遷だった. 本稿は最後で表を作り,その原因について,下記のように分析した. 唐代と宋代は多少の変化はあるものの,本質的には同じ喫茶法,同じ茶だった.そして明代と清代も同じ喫茶法,同じ茶だったのである.しかし,「水品実践」と「水品基準」になると,唐代と宋代,明代と清代は異なってしまい,唐代と明代,宋代と清代が同じになるのである.唐代と明代が「水品実践」と「水品基準」が同じなのは,喫茶特徴として挙げた「新しい喫茶法の確立時代」で,宋代と清代が同じなのは,「前時代の喫茶法を継承した」からである. また,「重」と「軽」という「水品基準」の変遷は喫茶法継承の宋代と清代は「繊細さ」を追求するので,中国茶文化では,「淡」と表現するが,「軽」水を好む結果につながったと分析した.
著者
古市 孝義
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2019, no.29, pp.516-521, 2019-01-01 (Released:2020-01-24)
参考文献数
18

本研究では,高齢者福祉における介護の質の向上を目指した取り組みについて制度の側面から記録を通した質の向上に向けた考え方について研究を行った.本研究で検討した介護福祉士の質と,介護福祉士が残す記録との関係から,介護福祉士が残す記録によって質の向上を図ることができることが分かった.しかし,介護の質を評価するには,先に述べた評価手法や評価方法だけでは,現在の介護に即した評価ができているとは言い難く,さらに,介護の提供内容を正確に評価するといった手法も定まっていない.介護を受けている利用者にとってどのような介護に対して安心して自分の生活を任せることができるのか,現在行っている利用者満足度調査といった取り組みに加えて利用者に確認する仕組みを新たに検討作成していく必要があるといった示唆を得た.
著者
鹿野 美由紀
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2015, no.25, pp.314-318, 2015-01-01 (Released:2020-03-14)
参考文献数
1

平安貴族女性の正装である裳唐衣装束は袴,単,袿,表着,唐衣,裳などから構成されている.その中で今回は,袿と衵の着用について着用実態の若干の整理と用例の分析を行った. 袿と衵を辞書で確認すると区別は,袿は裾の長いもので女性用のものとし,衵は裾の短いもので男性や幼童用のものとされている.しかし王朝物語を確認すると,袿の着用者にも男性はおり,同様に衵の着用者にも女性は見られる.また被物として使われることが多く,これは男女ともに贈られていた.また有職故実書で書かれていた説明も矛盾しているものも多く,実際の形状・着用について不明なことが多い.そのことを受けてか,現代の辞典類や注釈書類類の説明も曖昧なところが多くなっている.この研究の目的は,文学作品と古記録における用例の分析を行って,「衵」の着用実態の若干の整理と検討をしていくことである. なお,今回は特に男性の着用について検討を行う.そのため,童と僧侶の着用の用例は除いた.
著者
山名 章二
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2019, no.29, pp.119-128, 2019-01-01 (Released:2020-01-24)

これは草稿転写の報告だが, 解読に詰めも残しており, 資料の紹介ノートと呼ぶのがふさわしい. 原本は日本放送協会のラジオ放送劇の脚本で, 金沢市在石川近代文学館に北村喜八関連資料の一として所蔵されている. 放送は日本の連合国軍への降伏からほぼ三年後, 1948年8月であった. 築地小劇場に始まり演劇界で広範に活躍し, 英米さらにドイツの文学作品を幅広く翻訳出版, 数多の著書を公刊, 晩年には日本の劇界を代表して国際的に活動し, その中でオニールにも上演に翻訳に深く取り組み続け,文通もあった北村喜八の執筆による. その内容はオニールが波乱の青年期を終え演劇に確固たる基盤を築く頃をセリフ劇形式で跡付け, その後の主要戯曲および近作情報を紹介し, オニールの一層の活躍への期待も込められている. 1946年初演の The Iceman Cometh はいち早く触れられているが, 没後25年を経て公開するよう遺言されることになる Long Day’s Journey into Night への言及はない.当然ながら. アメリカ文化に大いに関心を寄せその影響も色濃い1920年代, 30年代の日本がアメリカ演劇を受容した熱気を戦後に復興しようとする意欲をも窺わせる資料である.
著者
児玉 成未 西河 正行 古田 雅明 齊藤 圭 中村 純子
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2016, no.26, pp.98-102, 2016-01-01 (Released:2020-03-18)
参考文献数
7

近年,人の心に関わる臨床心理士は医療・福祉・教育・司法・産業など様々な現場において幅広く活躍している.本研究では臨床心理士訓練途中である大学院生と大学院を修了して数年の臨床経験を経たカウンセラーを対象とし,カウンセリング場面における初心者カウンセラーの特徴を抽出し,それらがどのように作用しているのかを検討した.そして大学院を修了したカウンセラーの特徴を抽出し,初心者カウンセラーとの違いを探索的に検討し,それらの違いを明らかにすることで,臨床心理士養成教育へ提言することを目的とした.その結果,大学院生はクライエントの問題を十分に理解していない,うまく対応できていないと感じていた.また,「自分がカウンセラーとして技量を試されているようなプレッシャー」「中断の恐怖」を感じていた.そして,「今後カウンセラーとして働いていく上で適性が脅かされる不安」が明らかとなり,クライエント,指導教員の期待に応えていない葛藤の背景に,より根本的な適性不安があることが示唆された.しかし,大学院を修了したカウンセラーには大学院生に見られたような特徴は見られなかった.これらのことから,大学院生には「誰に何を期待され,自分自身は何を期待しているのかを考えさせる機会を持たせる」などの「型」への固執を引き起こす要因への配慮なり対策が講じられなければ根本的な解決にはならないことが示唆された.
著者
早川 公康 小林 寛道
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2014, no.24, pp.78-95, 2014-01-01 (Released:2014-06-30)
参考文献数
64
被引用文献数
1 1

知的障害児の身体的側面や体力・運動能力に関する調査・研究は部分的,限定的なものも含め,様々な報告が見受けられるが,わが国の文部科学省によって推進されている新体力テストを踏まえた測定および考察については,まだそれほどのデータや研究知見はほとんど見当たらない.今回は文部科学省の新体力テストを主な項目として定め,一般健常児と知的障害児の身体的側面および体力・運動能力を比較し,知的障害児の実態に迫ることで,知的能力への対応だけでなく身体的側面や体力・運動能力の向上に寄与することを目的として本研究を行った.東京大学生涯スポーツ健康科学研究センターにおいて身体的側面および体力・運動能力を評価するために各種測定を行った.被験者は知的障害児24名で,そのうち男子が20名(16.0±5.5歳),女子が4名(13.3±3.4歳)であった.身体的側面については,身長,体重,体脂肪率,筋量等を測定した.体力・運動能力の測定については,主に文部科学省・新体力テスト実施要項等に則り,握力,背筋力,長座体前屈,股関節開脚角度,10m歩行,10m障害物歩行等を実施した.一般健常児等の全国平均値と比較できる項目については,比較の上,検討を行った.男子において身長,体重,体脂肪率,筋肉量いずれも個人差が大きく,特に体脂肪率については10%を下回る人と60%に迫る人との差が顕著であるなど,発育の改善,適正な体組成維持のための各種要因について検討される必要があるものと考えられた.長座体前屈について,健常児の全国平均では年齢とともに向上するのに対して,今回の被験者の場合,向上していく人と低下していく人の両極端なケースがあり,個人差を大きくする生活要因が存在する可能性も推察された.背筋力について,男子においては同年齢(13歳)で85kgの差がある被験者2名が存在したが,その原因については筋量,筋-神経系,認知機能の状態等が関係しているものと考えられる.10m歩行については,歩行それ自体は生活の基本動作でもあるため,著しく能力の低い人にとっては日常生活に支障を感じている機会が多いことが推察される.10m障害物歩行能力については男女ともに全被験者が一般高齢者の全国平均よりも低く,50m走能力についても男女ともに全被験者が健常児の全国平均よりも低いことが示された.背筋力,握力および10m歩行,10m障害物歩行,50m走については,有意差は認められなかったものの男女ともに筋量が多い群のほうが筋力や運動能力が高い傾向がうかがえた.しかし,標準偏差が大きいことや知的障害児の心身の状態が多岐にわたり個人差も大きい実情についても理解する必要がある.
著者
松岡 美香
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2016, no.26, pp.129-131, 2016-01-01 (Released:2020-03-18)
参考文献数
1

イギリス文学の背景的特徴として,階級が挙げられる.現在のイギリスにおいて,階級という仕組みは表面上ではかなり隠ぺいされているが,実際には依然として,社会に何らかの影響を及ぼす力を持ち続けている.本研究では20世紀に焦点をあて,階級の変遷,階級を反映させた小説が一体どのようなものなのか,ということを考察していくことを目的とする.
著者
村里 好俊
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2022, no.32, pp.82-94, 2022-01-01 (Released:2022-04-14)
参考文献数
14

一六・一七世紀イギリス・ルネサンス期の詩人たち、サー・フィリップ・シドニーとレディ・メアリ・ロウスは、叔父と姪との間柄で、時代を代表する詩集・長編の散文ロマンスを残した。二人の作風には共通点もあるが、叔父の作品を強烈に意識して、女性の立場から家父長制への反撥を意識して書いたロウスの作品には、大きな違いも見られる。二人の作品を時代思潮の相違を観点に入れ、ここでは美術史的立場から解明し、その共通点と相違点とを明らかにしたい。
著者
大喜多 紀明
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2019, no.29, pp.15-21, 2019-01-01 (Released:2020-01-24)
参考文献数
37

裏返し構造は,異郷訪問譚にみとめられる構造であるとされてきた.しかし,近年,異郷訪問譚ではないにもかかわらず,裏返し構造が見いだされる事例が聖書テキストにおいて紹介されている.こうした裏返し構造の出現が聖書全般にみとめられる特徴か否かを検証するため,本稿では,新約聖書に収納されたテキストの一つである「ヤコブの手紙」の分析を,裏返し構造の観点から行った.
著者
大喜多 紀明
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.30, pp.353-357, 2020-01-01 (Released:2020-05-12)
参考文献数
15

ユダの手紙は,新約聖書に収納された巻の一つである.本稿では,ユダの手紙の構造を,裏返し構造をあてはめる観点から分析した.本稿の分析により,ユダの手紙は,合計5対の対応を持つ裏返し構造であることがわかった.
著者
厚東 芳樹 森下 純弘
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.30, pp.549-559, 2020-01-01 (Released:2020-09-24)
参考文献数
32

本研究では,小学校低学年(2年生)の子どもを対象に,ボール操作を伴わずに相手との駆け引きが存在する鬼遊びゲーム教材「カバディ」の体育授業を実施し,単元内で子どもたちがどのような「戦術の立案」をいくつ考えるのか,また「戦術の実行数」はどうかといったチーム戦術を事例的に検討することで,低学年で「ゴール型」ゲームにつながる戦術学習の導入可能性を明らかにすることを目的とした. まず,態度測定による体育授業診断の結果,男女共に比較的高い評価になった.これより,実施した「カバディ」の単元計画は低学年2年生にとってある程度妥当な内容であったことがわかる.また,「プレイ数」「戦術(ゲーム様相毎も含む)の立案数」「戦術の実行数」は,単元計画や企図した戦術的気づきに関わった内容構成とよく対応していた.これらより,実施した鬼遊びゲーム教材「カバディ」の体育授業は,低学年の子どもたちに戦術学習の「わかる」と「できる」の両面を保証できていた可能性が示唆された.以上のことから,低学年の体育授業でも「ゴール型」ゲームにつながる戦術学習を導入することは可能であることが示唆された.
著者
相良 友哉
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.30, pp.852-859, 2020-01-01 (Released:2020-10-15)
参考文献数
18

社会構造の変化により,「社会的な居場所づくり」への関心が高まっている.とりわけ,家庭,職場・学校に次ぐ第三の場,いわゆるサードプレイスを持つことが重要視されているが,コロナ禍の外出自粛に代表されるように,様々な事情で,人々が直接集うことが出来ない場合がある.このような問題に対処するひとつの方策として,サイバー空間にサードプレイスを形成し,オンラインで交流する方法がある.そこで,本研究は,動画の生配信を行うコミュニティスタジオに注目し,サードプレイスとしての要件を持っているか検討した. 首都圏にあるスタジオCのFacebookページの内容分析および,スタジオでの参与観察により,スタジオCが,サードプレイスとしての8つの特徴を備えていること,スタジオにおけるオフラインの直接的なコミュニケーションと生配信を通じたオンラインのコミュニケーションとが重層的に機能しており,配信者にとっても,視聴者にとっても心地よい居場所になっていることが示唆された.
著者
牧野 智和
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2019, no.29, pp.162-167, 2019-01-01 (Released:2020-01-24)
参考文献数
24

戦後学校建築のはじまりにおいて,「鉄筋コンクリート造校舎の標準設計」(1949)のモデルスクールとして建設された西戸山小学校(1950)は,学校建築の質的向上を図ろうとしたエポックメイキングな建築だという評価と,従来的な学校建築を踏襲したものだという評価が相半ばしている.このような評価の混在はどのように理解することができるのか.本報告では,戦後から1960年代までの学校建築計画研究の展開を参照して,当時の学校建築の評価を分ける「計画性」の合格ラインがどのように引かれていたのかを考察する.
著者
相良 友哉 戸川 和成 田川 寛之 崔 宰栄 辻中 豊
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2021, no.31, pp.614-622, 2021-01-01 (Released:2021-12-15)
参考文献数
36

ますます長寿化が進む現代の日本においては,健康長寿を目指し,高齢期においても積極的に社会参加することが重要である.既に,高齢者の地域活動に関する研究は多数見られるが,活動への参加行動に着目されることが多く,活動内容や頻度,地域内の人的ネットワークについての検討は少なく,また,地域も限定的である.そこで,本研究では,全国13都市の住民に対して実施したWebアンケートの結果をもとに,どのような属性を持った高齢者が活発に地域活動をしたり,地域の役職者と交流しているか検討した.その結果,他者との交流や地域活動の多くにおいて,住民の性別による違いが顕著であった.女性は日常的な人付き合いが多いが,男性は地域の役職者との交流や役割・目的が明確な地域活動への参加者が多い.居住年数や就業状態,教育状況では,性別ほどの顕著な参加状況の差は見られなかった.人生100年時代とも言われる昨今の日本において,より効果的に高齢者の地域活動,ひいては社会参加を促進させていくためには,こうした性別による違いを踏まえる必要がある.
著者
井上 淳
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2018, no.28, pp.708-720, 2018-01-01 (Released:2019-07-26)
参考文献数
65

本論文は,既にEU研究に適用されながらもその問題点が指摘されてきた歴史的制度主義をEU(European Union)研究に活用することができるようにするために,歴史的制度主義アプローチの操作,修正を試みるものである. それまで停滞していたEU統合が1980年代半ばの域内市場統合計画によって息を吹き返すと,EUに対する理論的アプローチが発展した.歴史的制度主義はそのうちのひとつであり,EU諸機関が時間の経過とともに加盟国政府に影響を与えて,加盟国政府にさらなる制度化を選択させると主張してきた.しかしながら歴史的制度主義は,政府の国益や選好に関わる前提を競合理論であるリベラル政府間主義と共有したため,議論の上で大きな制約を抱えることになった.本論文はその制約を明らかにしたうえで,EU研究に適合するように歴史的制度主義を操作,修正する. 新たに操作を加えた歴史的制度主義は,加盟国による制度的選択が自国では解決することができない課題の「欧州的(集合的)解決」であること,それゆえに当該制度選択がゆくゆくは加盟国を拘束することを明らかにする.このような理解は,EU研究における歴史的制度主義に向けられてきた学術的批判にこたえてその問題点を克服するとともに,たとえばユーロ危機の顛末のように一度統合が停滞した後に再統合が進む理由やメカニズムを明らかにする可能性がある.
著者
井上 淳
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.30, pp.444-456, 2020-01-01 (Released:2020-09-12)
参考文献数
41

ギリシャに端を発する財政,債務危機で一部では崩壊まで懸念されたユーロだったが,現在は「真の経済通貨同盟へ」の標語のもと,それまで取り組まれてこなかった財政同盟や銀行同盟に向けた取り組みすら進んでいる.EUを分析する理論研究は,それぞれがそうした動向に対する説明能力をもつことを示すために,様々な論考を展開している.本論文は,そのうち,EU理論研究の一大学派を形成しておりEU統合を説明する「ベースライン」だと自らを位置づけているリベラル政府間主義(Liberal Intergovernmentalism)を取り上げ,その説明力を検証する. リベラル政府間主義は,危機後の取り組みがEU内の債権者であるドイツの国益,選好を反映したものであると議論している.ただ,多くの加盟国が参加する制度にかかる選択が特定加盟国のプロフィールで説明されるという結論は,リベラル政府間主義の特徴である選好形成,政府間交渉,制度選択という3段階のモデルを必要としない説明になりかねない.ドイツの意見が,リベラル政府間主義のいう「トランスアクション・コストが下がる」ものだと受け入れられた理由や背景を説明する必要がある.また,欧州中央銀行による国債買い入れ(OMT)決定のように,危機後の対策の全てがドイツの意見の反映ではない.こうしたリベラル政府間主義に見られる説明不足がその静的かつ短期の視座に起因するのであれば,考慮しなければならない問題である. そこで本論文は,経済通貨同盟の提案から今日に至るまでのEUの取り組みを概観した.歴代の経済通貨同盟に関する取り組みは,特定加盟国の国益の反映ではなく,その都度の制度選択は完全な解決でもなかった.経済通貨同盟には,経済や金融面でEUをリードしているドイツよりも,ドイツ・マルクを抑えて対称的な通貨関係を希求するフランスが積極的になっていた.ただ,その制度的なデザインは,フランスの選好,国益通りにはならなかった.それはドイツとて同じであり,各国の国益はそれぞれ部分的にしか反映・採用されていなかったのである. そのうえ,これまでのスネーク,欧州通貨制度,ユーロといった諸制度はいずれも「部分的」な解決,つまり未完成のまま徐々に進んできた.リベラル政府間主義は,この「部分的」あるいは「漸進的」にしか統合が行われていない事実,そしてその部分的な統合では各国の国益が単線的に反映されている訳ではないことを捉えなおすべきである. 初期の経済通貨同盟を実施する直前にこれが破綻したのも,フランスがスネーク(フロート)を離脱したのも,欧州通貨制度が当初不安定だったが1980年代に安定に転じたのも,ドラギ欧州中央銀行総裁がOMT決定にあたって意識したのも,いずれもドイツの通貨や経済政策を評価し,フランス(や危機後はギリシャなど)の通貨や経済評価を懸念する国際金融市場・投機の存在が鍵になっている.加盟国やEUの取り組みを評価する存在がいたからこそ,「部分的」に進められた統合がそれでよしとされることはなく次の危機を招き,加盟国がそれに取り組むことが求められた可能性がある.つまり,統合の進展を説明する際に,加盟国やEU(制度)だけでは説明できない何かを説明要因に加えねばならない可能性がある.今後の研究課題としたい.