著者
大釜 信政 中筋 直哉
出版者
ヒューマンケア研究学会
雑誌
ヒューマンケア研究学会誌 = Japanese Society of Human Caring Research (ISSN:21872813)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.1-10, 2014-09-30

本研究は、在宅医療現場における看護師の裁量権拡大について、訪問看護事業所サービス利用者の家族認識を明らかにすることを目的とした。 455 名の家族に対して質問票を配布し、300 名から有効回答を得た。その後、質問票に回答した家族の中から5 名を抽出し、半構成的面接調査を実施した。 この調査結果から、看護師が行う診療に対する家族の認識としては、条件付きでこれを容認できる意向や、また、この理由等が明らかとなった。そして、利用者が置かれる診療環境、家族の性別、世代的特徴といった要因に大きく左右されることのない、医療サービスに対する普遍的な価値観や経験的見地に基づきながら、看護師が行う診療に対する認識へと繋がっている旨が示唆された。
著者
石井 薫 藤野 文代 木村 美智子 掛橋 千賀子
出版者
ヒューマンケア研究学会
雑誌
ヒューマンケア研究学会誌 (ISSN:21872813)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.27-34, 2016

長期入院中の統合失調症患者の自己決定支援の場面と看護を明らかにすることを目的に,精神科病棟に勤務する5 年以上の臨床経験年数を持つ看護師15 名を対象に半構成的面接を実施し,質的帰納的に分析した. 結果,長期入院中の統合失調症患者の自己決定の支援場面は7 場面あり,1 . 飲食,2 . 服薬,3 . 私物管理,4 . 金銭管理,5. 対人関係,6. 外出,7. 身だしなみ,に関する場面であった.自己決定を支援する看護は9カテゴリから構成され, 3 側面に大別できた. 1 . 刺激の大きさを調整する緩衝材としての看護は4 カテゴリ, 2 . 患者を支える土台としての看護は3 カテゴリ, 3 . 看護者の固定観念に変容を与える看護は, 2カテゴリで示された.
著者
前田 晃史
出版者
ヒューマンケア研究学会
雑誌
ヒューマンケア研究学会誌 = Japanese Society of Human Caring Research (ISSN:21872813)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.25-32, 2014-09-30

本研究は、院内トリアージシステム導入後、成人自己来院患者のトリアージの現状と課題を明らかにすることを目的とし、救急外来を受診した511 症例とこれらをトリアージしたトリアージナース19 名のトリアージ結果を事後検証した。未トリアージ数は、受診患者数と相関があり、煩雑時に増加していたため、マンパワー不足により発生している可能性があった。アンダートリアージは、トリアージナースの看護師経験年数や救急外来経験年数、救急関連の研修受講と相関はなく、それ以外の要因と関連していた。アンダートリアージが多かったのは、緊急群の全身性炎症反応症候群(Systemic Inflammatory Response Syndrome:以下SIRS とする)患者、トリアージナースがバイタルサイン値を優先してトリアージを行った場合であった。 今後、未トリアージの減少には、適切な人員配置や煩雑時に使用できるSimple Triage Scale の作成の検討が必要である。また、アンダートリアージの減少には、バイタルサインでのトリアージレベル決定の留意点やSIRS の勉強会を行う必要がある。
著者
贄 育子 小幡 孝志 室津 史子
出版者
ヒューマンケア研究学会
雑誌
ヒューマンケア研究学会誌 (ISSN:21872813)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.29-36, 2014

【目的】母性看護学実習に対する男子学生の思いを明らかにし、実習展開の示唆を得る。【方法】母性看護学実習を終了した男子学生9名を対象とし、半構造化面接により作成した逐語録を、テキストマイニングで分析した。【結果】補完類似度を用いた特徴表現抽出の結果、実習前は「男性-疎外感」、「実習-行く+したくない」、実習中は「新生児-看護」、「つながり-理解+できる」、「学生-必要」、「看護-経験+できる」、「観察-重要」、実習後は「まじめ-実習+したい」、「育児休暇-取る+したい」、「実習前-意味+ない」、「精神的サポート-必要」、「男性-支える」、「視点-増える」が抽出された。【結論】母性看護学実習に対して男子学生は、実習前は性差による疎外感から不安を抱えている。しかし、実習中は対象者とのかかわりを通して、学生にとって必要な経験ととらえ、実習後は父親としての将来像についても考えていることがわかった。
著者
木村 由美 小嶋 章吾
出版者
ヒューマンケア研究学会
雑誌
ヒューマンケア研究学会誌 = Journal of Japanese Society of Human Caring Research (ISSN:21872813)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.39-47, 2022-12-15

本研究の目的は,わが国の2011年から2022年までの統合失調症者の家族研究の現状を明らかにし,今後の研究課題を検討することを目的とした.統合失調症者の家族研究を概観し整理した結果【統合失調症者家族の理解】【統合失調症者家族に提供される専門職による支援】【統合失調症者家族が認識しているケア継続の支え】の3つの内容に分類された.統合失調症者の家族理解の為に,質的に家族の理解を紐解く調査が多くを占め,特にネガティブな事象から支援を検討する調査が多くポジティブな事象に着目した調査は僅少であった.一方で,家族の生活を支える地域支援体制に関する調査は僅かであり,これらの調査の積み重ねが課題である.今後は,地域での専門職による家族支援の調査を蓄積していくことに加え,ポジティブな事象とネガティブな事象の両側面から統合失調症者を介護する家族の生活を捉える調査が必要である.
著者
重本 津多子 室津 史子
出版者
ヒューマンケア研究学会
雑誌
ヒューマンケア研究学会誌 (ISSN:21872813)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.35-40, 2015

本研究の目的は、組織基盤の異なった2 つの病院で、主観的職務満足度・継続の意志等と背景、および仕事役割と家庭役割から発生する役割葛藤(Work Family Conflict :WFC)について検討することである。近畿地方の病床数220の総合病院と四国地方の病床数500 の総合病院に勤務する看護師を対象に自記式質問紙調査で実施した。その結果、対象者の背景の違いは年代構成であり、これは経験年数・継続年数と関連していた。離職率調査の結果では地域性に差があることが明らかになっているが、本研究でも地域差、組織基盤による継続意志の違い、職場定着への影響があることが明らかとなり、看護師の定着を促す組織運営への影響を示唆していた。また、WFCと背景についての関連はパートナーや子どもの存在が家族生活領域に大きく関係していることから、仕事と家庭を調整する組織文化マネジメントが重要であることが示唆された。
著者
古谷 ミチヨ
出版者
ヒューマンケア研究学会
雑誌
ヒューマンケア研究会学会誌 = Japanese Society of Human Caring Research (ISSN:21872813)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.47-54, 2014-09-30

本研究の目的は、我が国における「性同一性障害当事者の性同一性」の概念分析を行って当事者への包括的支援の重要性に言及し、実践と研究における本概念の活用性を検討することである。便宜的に抽出された看護学、医学、心理学、社会学領域の文献・資料25 件を対象に、Walker & Avant の分析手法を用いて質的に分析した。その結果、本概念の定義は見当たらず、本分析によって二つの属性、三つの先行要件、三つの帰結が導き出された。分析結果から本概念を、「性別違和感が緩和された肯定的・客観的な自己意識と、自認する性で紡ぐ他者との相互関係において経験される性の共有感とが統合された感覚」と定義した。本研究によって性同一性障害当事者への包括的支援の重要性が示され、本概念は当事者の性同一性形成に向けた実践と研究への活用が可能であると考えられた。今後は当事者アイデンティティにまつわる研究を進行させ、本概念の充実と洗練を図る必要がある。
著者
大釜 信政 中筋 直哉
出版者
ヒューマンケア研究学会
雑誌
ヒューマンケア研究学会誌 (ISSN:21872813)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.1-10, 2014

本研究は、在宅医療現場における看護師の裁量権拡大について、訪問看護事業所サービス利用者の家族認識を明らかにすることを目的とした。 455 名の家族に対して質問票を配布し、300 名から有効回答を得た。その後、質問票に回答した家族の中から5 名を抽出し、半構成的面接調査を実施した。 この調査結果から、看護師が行う診療に対する家族の認識としては、条件付きでこれを容認できる意向や、また、この理由等が明らかとなった。そして、利用者が置かれる診療環境、家族の性別、世代的特徴といった要因に大きく左右されることのない、医療サービスに対する普遍的な価値観や経験的見地に基づきながら、看護師が行う診療に対する認識へと繋がっている旨が示唆された。
著者
山根 一美 井上 祐子 倉田 節子 小河 育恵 岡 須美恵
出版者
ヒューマンケア研究学会
雑誌
ヒューマンケア研究学会誌 (ISSN:21872813)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.79-83, 2013

中堅看護師は、専門的知識・技術に裏付けされた看護が実践できる自律した看護実践者であり、かつ看護組織において、看護実践以外にも後輩や学生の教育、リーダー業務や委員会活動など中心的役割を担う者として期待されている。しかし、日常業務に追われ、自己のキャリアを十分に発揮できず、役割が遂行できないという実情に苦悩している。先行研究では、役割の曖昧さがストレスとして離職の要因となったり、今の職位のまま仕事の続行を希望する中堅看護師が約90%あるとの報告があった。また、中堅看護師に対する支援として、上司からの承認やワーク・ライフ・バランスを考慮した組織的な支援体制の構築が重要との報告があった。一方、中間看護管理者は役割の変化に伴い、役割葛藤・困難さを自覚しており、中間看護管理者への支援に管理者研修、メンターの配置、組織的な教育体制などが重要と指摘されていた。このようにそれぞれの支援に関する研究は多数存在するが、中堅看護師から中間看護管理者に役割移行時の支援に焦点を当てた研究は見当たらない。そこで本研究は、中堅看護師から中間看護管理者への役割移行に必要な支援を検討するために、文献から中堅看護師と中間看護管理者のとらえる役割、役割遂行上の困難、および求める支援を明らかにすることを目的とした。
著者
大釜 信政
出版者
ヒューマンケア研究学会
雑誌
ヒューマンケア研究学会誌 = Journal of Japanese Society of Human Caring Research (ISSN:21872813)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.37-46, 2017-09-30

本研究の目的は,高度実践看護師による訪問診療サービスに関して,在宅療養支援診療所・病院の医師の認識を明らかにすることである.医師100 名に対して,高度実践看護師との提携 を想定した場合,その看護師がもつ裁量範囲や診療にまつわる責任所在等に関する無記名自記式質問票を配布した.有効回答数は56 になった.選択肢回答の結果から,高度実践看護師の裁量範囲に関する認識において有意な偏りが認められた.自由回答からは,【高度実践看護師が行う訪問診療サービスへの賛否】【高度実践看護師に求める裁量範囲】【責任の所在】【高度実践看護師と提携するうえでの環境】【制度に対する要望】の概念を抽出した.両回答を考察した結果,高度実践看護師と医師が同じ医療機関内に所属したうえでスムースかつタイムリーなコミュニケーションを図りながら,高度実践看護師が手順書に基づいて質の高い訪問診療サービスを担うことへの期待感が示唆された.
著者
古川 智恵 森 京子
出版者
ヒューマンケア研究学会
雑誌
ヒューマンケア研究学会誌 (ISSN:21872813)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.83-87, 2018

本研究の目的は,看護大学生の学びのレポートから清潔間欠自己導尿指導のシミュレーション演習の評価を行うことである.研究への同意が得られた81 名の学生の演習終了後のレポートを分析対象とした.その結果,【正しい手順を理解するために患者の状況を見ながら根拠を踏まえたわかりやすい指導を行う必要性】,【看護師の温かく見守る態度やよき相談者として信頼関係を築く関わり】など6 カテゴリーが形成された.演習を通して学生は,患者または看護師の立場に立って排尿障害のため清潔間欠自己導尿を行いながら生活する患者の指導方法や苦痛について学んでおり,清潔間欠自己導尿指導のシミュレーション演習は,看護大学生にとって患者理解を学ぶ効果的な演習方法の一つであると言える.
著者
濱西 誠司
出版者
ヒューマンケア研究学会
雑誌
ヒューマンケア研究学会誌 (ISSN:21872813)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.19-23, 2018

黄体期に限局して生じる強い眠気と過眠は月経前過眠症と呼ばれている.黄体期の眠気は軽症例も含めると多くの女性が経験する症状である1 )- 3 ).日中の強い眠気は女性の活動性を低下させるだけでなく,作業効率を低下させヒューマンエラーのリスクを増大させる要因となる.また,月経関連症状の多くは閉経期まで繰り返されるため,重篤な症状は女性の生活の質を低下させる要因となる.そのため,生活に支障を来たすような重症例では薬物療法の適用となり4 ),軽度-中等度の症状に対してもセルフケアによって症状の緩和を図っていくことが生活の質の向上のために重要であると考える.しかし,月経前の眠気の改善に有用なセルフケア法は確立されていない. 黄体期には中途覚醒が増加する一方,レム睡眠や深い睡眠の指標である徐波睡眠が減少するなど睡眠の質が低下することが報告されており,睡眠の質の低下は眠気の増強に影響している可能性がある1 ),5),6).円滑な入眠と睡眠の維持にはメラトニンの働きによる夜間の体温低下が不可欠であるが,黄体期にはプロゲステロンの影響で熱放散が阻害されるため,夜間の十分な体温低下が生じない7 ).このように,黄体期の生理的な体温上昇が睡眠の質を低下する一因と考えられており,夜間の円滑な体温低下を促進することで黄体期における睡眠の質および日中の眠気を改善することが期待できる. 暑熱環境では熱放散が困難となることで高体温が維持されるため,中途覚醒の増加など睡眠の質の低下が認められるが,睡眠中に頭部を冷却することで中途覚醒が減少することが複数の研究で報告されている8 )- 9 ).そこで,暑熱環境と同様に熱放散量が低下する黄体期においても,睡眠中に頭部を冷却することで体温低下と睡眠の質の改善に寄与できる可能性があると考えた.本研究では睡眠時の頭部冷却が黄体期における睡眠の質や日中の眠気に及ぼす影響について検討することを研究目的とする。
著者
堀井 瀬奈 能見 清子
出版者
ヒューマンケア研究学会
雑誌
ヒューマンケア研究学会誌 = Japanese Society of Human Caring Research (ISSN:21872813)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.27-33, 2020-03-31

目的:A 大学看護学部生の学年ごとのキャリア成熟度を明らかにし,志望動機との関連について検討する.方法:A 大学看護学部生1 ~ 4 年生300 名を対象とし無記名自己式質問紙調査を行った.質問項目はキャリア成熟度,職業選択志望動機,研究者が作成した学習意欲の原動力とした.結果: 回収された質問紙は241 部( 回収率80%) で,有効回答235 部を分析対象とした.一元配置分散分析を行った結果,キャリア成熟度の値は学年間で有意差はみられなかった.重回帰分析の結果,キャリア成熟度の〔関心性〕〔自律性〕〔計画性〕全ての因子と内発的動機に有意な正の関連がみられた.考察: キャリア成熟度を高めるには内発的動機を高く維持することが重要であるという知見が得られた.
著者
石井 薫 上野 瑞子
出版者
ヒューマンケア研究学会
雑誌
ヒューマンケア研究学会誌 (ISSN:21872813)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.1-8, 2019-03-30

認知症以外の精神疾患患者とBPSD を有する患者が混在する状況下における精神科急性期病棟看護師の体験を明らかにすることを目的に,混在による体験を持つ看護師10 名を対象にインタビューガイドを用いた半構成的面接を行った.本稿では,混在する状況下における精神科急性期病棟看護師の対応について報告する.看護師の対応として,【疾患特性に合わせて接し方を切り替え】【相互作用による患者の刺激を回避】【トラブル対処能力が低い患者の安全を確保】の3 カテゴリが明らかになった.看護師は,精神状態の不安定な患者集団の思いを橋渡しし,患者にとって未知の存在である新たな入院患者の環境適応を促すことで,疾患特性の異なる患者間の共同生活で生じる刺激を軽減し,環境変化への順応を促進していた.また,患者の関係が量的にも質的にも適正なコミュニケーションとなるよう調整し,患者の対人関係にまつわる問題に対応していたことが明らかになった.
著者
濱西 誠司
出版者
ヒューマンケア研究学会
雑誌
ヒューマンケア研究学会誌 = The Journal of Japanese Society of Human caring Research (ISSN:21872813)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.59-61, 2014-03-31

月経前に繰り返し生じる精神的あるいは身体的症状をP M S(月経前症候群)といい、特に精神症状が強く生じる重症例はP M D D(月経前気分不快障害)と呼ばれている。P M S / P M D Dは「人に対して不機嫌な態度をとる」「人にあたる」などの攻撃的な行動がみられることも多く、家庭や職場における対人関係に支障をきたすことがある。近年、精神症状に対してはS S R Iの有効性が確立してきており、身体症状に対しては漢方療法や低用量ピルが選択されることもある。「2012年P M S(月経前症候群)に関する男女の意識調査」(小林製薬)によると、20代以上の女性85.9%がP M S を経験していると報告されている。また、90%以上の女性がP M Sを経験したことがあるという報告もあり、P M Sは多くの女性に共通した問題であることがわかる。しかし、P M S は多くの女性が経験し、月経発来とともに症状が軽減ないし消失するため、疾病としての認識は低く、日常生活や社会生活が困難であるにも関わらず医療機関を受診していない女性も多数存在し、P M S / P M D Dの潜在的な患者は約18万人に及ぶと推定されている。また、同調査では働く女性の約1割がP M SあるいはP M D Dの症状のために仕事を休むことがあると報告されており、P M S / P M D D に対する支援は労働衛生の観点からも重要と考えられる。そこで本研究では、若年女性のP M S / P M D Dの重症度や治療に関する知識およびニーズに関する調査を実施し、P M S / P M D D に関する支援法を開発するための基礎的な知見を得ることを主な研究目的とする。
著者
江口 実希 國方 弘子
出版者
ヒューマンケア研究学会
雑誌
ヒューマンケア研究学会誌 = Journal of Japanese Society of Human Caring Research (ISSN:21872813)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.17-26, 2015-03-31

本研究の目的は、看護師のnegative な気分に影響を与える認知プロセスを明らかにすることである。看護師を対象に自記式質問紙調査を行い、回答に欠損値がない381 名のデータを分析に用いた。認知モデルとして「看護師のスキーマ、推論の誤り、自動思考、negative な気分の因果モデル」を措定し、共分散構造分析を行った。分析の結果、モデルのデータへの適合度は良好であり(CFI:0.958、RMSEA:0.041)、スキーマから推論の誤りに向うパス係数は0.542、推論の誤りから否定的自動思考は0.533、推論の誤りから肯定的自動思考は-0.217、否定的自動思考からnegative な気分へは0.738、肯定的自動思考からnegativeな気分へは-0.155 であった。以上よりnegative な気分は、スキーマ、推論の誤り、自動思考のプロセスを経て形成されることが示唆された。
著者
古谷 ミチヨ
出版者
ヒューマンケア研究学会
雑誌
ヒューマンケア研究学会誌 (ISSN:21872813)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.55-64, 2014

本研究の目的は、我が国における「性同一性障害当事者の性同一性」の概念分析を行って当事者への包括的支援の重要性に言及し、実践と研究における本概念の活用性を検討することである。便宜的に抽出された看護学、医学、心理学、社会学領域の文献・資料25 件を対象に、Walker & Avant の分析手法を用いて質的に分析した。その結果、本概念の定義は見当たらず、本分析によって二つの属性、三つの先行要件、三つの帰結が導き出された。分析結果から本概念を、「性別違和感が緩和された肯定的・客観的な自己意識と、自認する性で紡ぐ他者との相互関係において経験される性の共有感とが統合された感覚」と定義した。本研究によって性同一性障害当事者への包括的支援の重要性が示され、本概念は当事者の性同一性形成に向けた実践と研究への活用が可能であると考えられた。今後は当事者アイデンティティにまつわる研究を進行させ、本概念の充実と洗練を図る必要がある。
著者
井田 歩美 猪下 光
出版者
ヒューマンケア研究学会
雑誌
ヒューマンケア研究学会誌 (ISSN:21872813)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.7-13, 2014

本研究の目的は、ソーシャルメディア上における1 歳未満の児をもつ母親の育児に関する発言状況から利用実態を明らかにし、今後の育児支援に向けた研究の糸口を見出すことである。分析対象は株式会社 ベネッセコーポレーション『ウィメンズパーク』内「0 ~ 6 カ月ママの部屋」「7 ~ 11 カ月ママの部屋」での母親の発言である。1 年間34 万件超の発言を分析した結果、母親達がソーシャルメディアを利用する曜日は平日が多く、母親は児の月齢、性別、出生順位などの自己紹介から発言を始め、育児への疑問や不安、思いや本音などを語っていた。母親にとってのソーシャルメディアは、育児情報の収集や意見交換などに利用され、新たなコミュニティとしての機能を果たしていることが明らかになった。 今後、ソーシャルメディア上の母親の発言を詳細に分析することは、新たな育児支援策を検討する上で有益であると示唆された。