著者
MATSUDA GOODWIN Reiko GONEDELE BI Sery Ernst BAXT Alec BITTY E. Anderson WIAFE Edward D. KONE N'Golo A.
出版者
Pro Natura Foundation Japan
雑誌
自然保護助成基金助成成果報告書 (ISSN:24320943)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.343-358, 2020 (Released:2020-09-29)
参考文献数
19

コートジボワール北東の角にあるコモエ国立公園でフィールド調査を行った.この調査の主な目的は,モモジロコロブス(Colobus vellerosus)とノドジロマンガベイ(Cercocebus lunulatus)の相乗的保全行動を実施する優先場所を見つけることであった.両種共,種の分布範囲全体において絶滅に瀕している.公園内で3ヶ所の調査地を選択し10のトランセクトを設け各トランセクト上に樹冠自動操作カメラを設置した.また,森林(154km)でのライントランセクトサンプリング法を使用した歩行調査と,他の様々な生息地タイプを通過するレコネサンスサーヴェイ(21km)を実施した.樹冠自動操作カメラで,モモジロコロブスを含む4種を除くすべての霊長類の画像を取得した.歩行調査(両データを集め)の結果では,ノドジロマンガベイとモモジロコロブスの平均視覚遭遇率(グループ/km)はそれぞれ0.22と0.07であり,マンガベイはある程度の個体数が存在し,少なくとも,いくつかのモモジロコロブスのグループが生息していることを確認した.予期せぬことに,歩行調査中にヒヒとマンガベイの雑種のような個体が観察された.しかしながらオリーブコロブスが観察されなかった事は懸念事項である.霊長類の種の相乗保全のための公園内の優先場をしっかり見極めるために,これからもさらに調査を続けたい.(日本人メンバー:松田グッドウィン禮子 訳)
著者
澤 祐介 池内 俊雄 田村 智恵子 嶋田 哲郎 Ward David Lei Cao
出版者
公益財団法人 自然保護助成基金
雑誌
自然保護助成基金助成成果報告書 (ISSN:24320943)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.81-87, 2020-01-10 (Released:2020-01-10)
参考文献数
10

コクガンはロシアやアラスカなどの北極圏で繁殖地する鳥類で,日本を中心とする東アジアでは約1万羽が越冬する.しかしその渡りルートや重要な生息地については,未解明の部分が多く詳細な生態も明らかになっていない.本研究では,約7,000羽が秋季の渡り時期に集結する北海道野付半島において,コクガンにGPS発信機を装着し,追跡することで,渡りルートを明らかにすることを目的とした.2017年11月,2018年3月に野付半島において,コクガンの捕獲を試みた.2017年11月には4羽のコクガンを捕獲し,GPS発信器による追跡を実施した.その結果,4羽中2羽で有効なデータを約1ヶ月間にわたり取得することができた.調査期間中,長距離の移動を確認することはできなかったが,北海道道東部を中心に生息地間を移動していることが明らかとなった.また捕獲方法を確立したことにより,今後の調査に対して重要な知見を得ることができた.
著者
内田 翔太 篠部 将太朗 平野 尚浩
出版者
公益財団法人 自然保護助成基金
雑誌
自然保護助成基金助成成果報告書 (ISSN:24320943)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.131-139, 2020-01-10 (Released:2020-01-10)
参考文献数
13

大東諸島は外来種によって固有陸貝相が壊滅的な状態に近づいていることが示唆されている.しかし先行研究では,外来捕食者のツヤオオズアリやオガサワラリクヒモムシの効果は無視されていた.そこで本研究はこれら 2 種に対する影響の解明を目的として,先行研究が実施された地点で 2 種の分布調査と,先行研究で不十分であった海岸線近くの陸貝調査を実施した.沖縄本島では外来捕食者に対して応答が大東諸島と異なるのかを明らかにすることを目的として陸貝調査を実施した.また,大東固有陸貝の繁殖技術の確立を目的として飼育を行った.その結果,ツヤオオズアリは小型陸貝の個体数を減少させていた.オガサワラリクヒモムシは陸貝への影響はなかった.沖縄本島では外来捕食者に対して大東諸島と似たような応答をしている可能性があった.飼育下ではダイトウノミギセルは繁殖に成功したが,アツマイマイ属は成功しなかった.大東諸島の陸貝相の保全には飼育技術の発達が望まれる.
著者
高山 雄介 松永 恵
出版者
公益財団法人 自然保護助成基金
雑誌
自然保護助成基金助成成果報告書 (ISSN:24320943)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.385-393, 2020

<p>2019年1月,西表島が世界自然遺産登録推薦され,2020年7月には登録となる見込みとなっている.西表島では,8割の住民が遺産登録のプラスよりもマイナスが大きいと考えており(県アンケート結果),4候補地中,遺産登録に最も否定的である.その不安は,過剰利用による自然環境の劣化,イリオモテヤマネコの交通事故増加,集落の生活環境の悪化(喧噪・公共交通・生活ごみ処理・上下水・公衆トイレ等のインフラ機能の不足等)にわたる.本プロジェクトでは,登録に伴うオーバーツーリズムのインパクトとその変化を地域目線で理解し,その対策を地域から政策決定者に求めるため,これまで実施してきた夜間パトロールによる交通量調査に新たな参加者を迎え体制強化を図ったほか,地域住民が自立的・持続的に実施できる新たなモニタリングについてもを検討した.</p>
著者
Arum Widayati Kanthi Rianti Puji Tsuji Yamato Sofiana Nugraheni Latif Nila Sarah Fadli Rahman Muhammad Purnomo Sugeng
出版者
公益財団法人 自然保護助成基金
雑誌
自然保護助成基金助成成果報告書 (ISSN:24320943)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.224-232, 2020

<p>我々の研究の目的は,インドネシア西ジャワ州・テラガワルナのエコツーリズムサイトで,人間活動がここに生息するカニクイザル(<i>Macaca fascicularis</i>)の行動にいかに影響するかについての科学的なデータを提供することである.人間活動のレベルが異なる3つのタイプ(平日:42日,週末・祝日:33日,ラマダン期:24日)の計425時間にわたってサルを観察し,サルの行動がタイプ間で異なるか否かを検討した.観光客の1日当たりの平均数は平日が103.3人,休日・祝日が232.2人,ラマダン期が36.8人だった.ラマダン期は,サルの移動割合が他のタイプに比べ有意に高く,逆に休息割合が低かった.このことは,サルが観光客の数に応じて自らの行動を変えていることを示唆する.行動観察と並行して,304人(観光客:162人,住民:131人,管理作業員:11人)にサルとの軋轢に関するインタビューを実施した.サルによるトラブルの多くは食物に関するものであった.サルとヒトとの間に軋轢はないとする回答が70%を占め,またサルに餌を与えたいと考える人が多かった.多くの人は人獣共通感染症のリスクを知らなかった.将来的に,人とサルとの軋轢が強まることが懸念される.(推薦者:辻 大和 訳)</p>
著者
カンドゥ ペマ ゲール ジョージ A. ブンルングリ サラ
出版者
Pro Natura Foundation Japan
雑誌
自然保護助成基金助成成果報告書 (ISSN:24320943)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.359-372, 2020 (Released:2020-09-29)
参考文献数
36

シロハラサギ(WBH)は,その基本的な生態も種の理解もあまりされないままに,絶滅の危機に瀕している.この研究の目的は,シロハラサギの残された最大の個体群の1つが生息していると思われるブータンの2つの河川流域におけるシロハラサギの採餌時の微小環境の選択性,採餌行動,およびその食性(餌の嗜好性)を分析することであった.河川の瀬と淵は,採餌行動観察で,80事例と62事例が得られ,最も一般的に使用される微小環境であった.シロハラサギは魚の3つの属(Gara,Salmo,およびSchizothorax)を主に摂食し,その中でSchizothorax(64%)がもっとも優占される属であった.本研究は,既存の知識の不足部分を埋め,川という生息地のさらなる保全とシロハラサギの種の長期の保全のために必要な餌資源の増殖のために,効果的な政策と管理を支える証拠を提供することになる.
著者
戸部 有紗 中西 希 佐藤 行人 和智 仲是 伊澤 雅子
出版者
公益財団法人 自然保護助成基金
雑誌
自然保護助成基金助成成果報告書 (ISSN:24320943)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.238-248, 2020

<p>本研究は,琉球諸島南西部西表島の生態系全体の維持,保全を効率的に行うことを目指して,西表島の頂点捕食者でありアンブレラ種である,絶滅危惧種イリオモテヤマネコとカンムリワシの餌資源の観点から2種の生息環境の保全を効果的に行うための基礎資料を蓄積することを目的とした.近年開発され,野外動物に適用され始めた食性解析法であるDNAバーコーディングを用いることで,両種の食性を詳細に解析した.冬季,夏季に2種の糞を採集し,糞中のDNA解析によって餌動物種を同定した.その結果,それぞれの食性についての先行研究に比べ,多数の餌動物を種まで特定することができ,本手法の有効性が確認された.両種とも多種多様な餌動物を利用し,特にカエル類,トカゲ属,クマネズミ,鳥類,ベンケイガニ,トビズムカデの重要度が高いことが分かった.今後,2種の保全を目指し,これらの餌動物の多様性や生息個体数,生物量を維持していく必要がある.</p>
著者
曲渕 詩織 黒沢 高秀 山ノ内 崇志
出版者
Pro Natura Foundation Japan
雑誌
自然保護助成基金助成成果報告書 (ISSN:24320943)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.249-261, 2020 (Released:2020-09-29)
参考文献数
26

東日本大震災の津波と地盤沈下により仙台湾沿岸の海岸林の多くは壊滅的な被害を受け,現在,復旧事業として盛土とクロマツの造林が行われている.一方,復旧事業の範囲外にある海岸林跡地にはクロマツの実生が自然更新し始めた場所もある.このような海岸林の植生を把握するために,本研究では仙台湾沿岸の自然更新地4カ所と比較対象として造林地4カ所の植生を調査した.種の在不在を用いたNMDSによる解析では,自然更新地と造林地はそれぞれでまとまり混在しなかった.このことは両地点の種組成が異なることを示す.自然更新地の構成種には高木,低木および海岸生植物の種類数が多く,造林地に比べ種組成の違いが相対的に大きかった.このような差異の原因として,攪乱からの経過年数の違いのほか,盛土を伴う造林地では種子の供給が乏しく,また均一化されていることが考えられた.このことは,自然更新地が海岸林生態系の種多様性の保全の上で重要であることを示唆すると考えられた.
著者
樋口 広芳 長谷川 雅美 上條 隆志 岩崎 由美 菊池 健 森 由香
出版者
公益財団法人 自然保護助成基金
雑誌
自然保護助成基金助成成果報告書 (ISSN:24320943)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.69-75, 2020-01-10 (Released:2020-01-10)

八丈小島は外来種であるイタチや野ネコがいない島として,典型的な伊豆諸島の食物連鎖系が残された唯一の島である.しかし昭和44年全島民が離島の際に残されたノヤギが増加し植生被害が顕在化したため,本研究会がノヤギの駆除を提言し,東京都と八丈町が2001年~2007年に計1137頭のノヤギを駆除した.その後,植生は回復していったが,駆除後の生態学的調査は行われていなかったため,今後の保全と活用に資するための基礎査として本研究を行なった.植物においては,希少種であるハチジョウツレサギ,カキラン,オオシマシュスランが駆除後はじめて確認され,爬虫類では準固有種であるオカダトカゲが他の島と比較してより高密度で生息していることが確認された.鳥類では2013年には準絶滅危惧種のクロアシアホウドリが飛来し,2016年-2017年には2個体,2017-2018年には7個体が巣立ち,同種の繁殖北限地となった.イイジマムシクイやアカコッコ,ウチヤマセンニュウなどの希少種が観察されたほか,準絶滅危惧種のカラスバトも高密度で生息していることが確認され,本島が伊豆諸島において貴重な生態系を有することが示唆された.
著者
上田 昇平 渡邊 琢斗 池田 健一 兵藤 不二夫
出版者
公益財団法人 自然保護助成基金
雑誌
自然保護助成基金助成成果報告書 (ISSN:24320943)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.76-80, 2020-01-10 (Released:2020-01-10)
参考文献数
10

アルゼンチンアリ(以下,本種)は,南米を原産地とする世界的な侵略的外来種であり,国内の12都府県で定着が確認されている.本種は侵入先で在来アリ類を駆逐することで生態系機能を撹乱するとされる.本研究では,安定同位体分析を用いて本種の食性を検証し,本種と在来アリ類の競合機構を明らかにすることを目的とした.2015年,大阪府堺市では本種の侵入が確認されており,本研究グループは,環境省・地方行政と連携して本種のモニタリング調査と防除に継続して取り組んでいる.2017年10月から2018年6月にかけて本調査地から採集した本種と在来アリ8種を用いて安定同位体分析を行い,δ15N値の種間比較から,アリ類が動物質と植物質のどちらを餌として利用しているかを推定した.本種のδ15N値は,同所的に分布するアリ類の中で2番目に高く,捕食者であるオオハリアリやウロコアリ類と同程度であったこの結果は,本調査地において本種は高次消費者であり,動物類を餌として利用していることを示している.