著者
岩橋 尊嗣
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.101, 2011

花き類の魅力と言えば,やはり鮮やかさを眼で見,香りを鼻で嗅いで楽しみ,癒され,そして元気付けられることであろうか.私事で恐縮であるが,先日(2月27日)「世界らん展日本大賞2011」の最終日,東京ドームへ足を運んだ.最終日とあってかなりの混雑ぶりであった.ドーム内は人混みのせいもあり汗ばむ感じであったが,蘭は見た目の華やかさとは違い,花の香りはどちらかというと控え目である.展示の中で興味をそそられたのが"フレグランス審査部門"であった.洋蘭,東洋蘭,日本の蘭などさまざまな香りを放つ蘭が一堂に会し,見事に咲き誇っていた.しかし,香りとなると花に顔を近づけて初めてはっきりと認識できる程度であり,あくまでも控え目であった.<BR>香りの強い花の代表の一つとしてユリ(百合)が挙げられる.本特集の一番目は,ユリの中の代表ともいえる「カサブランカ」について,大久保氏((独)農業・食品産業技術総合機構 花き研究所)に"ユリ「カサブランカ」の強い香りの抑制"という題目で執筆していただいた.通常,花き類の場合,バラなどに代表されるようにいかにして香りを強くするかという研究は盛んに行われている.しかし,カサブランカの場合は全く逆で,香りが強すぎるため室内に飾るには抵抗を持つ人も多い.本内容は香りを抑制するための研究成果についての情報で,切り花のつぼみ状態のときにフェニルアラニンアンモニアリアーゼを含有する水に生けると,開花した時に大幅に香りが抑制される事を見出し,現在実用に向けたさらなる研究が進められている.<BR>次は,石坂氏(埼玉県農林総合研究センター園芸研究所)に"種間交雑による芳香シクラメンの開発"という題目で執筆していただいた.シクラメンは,歌謡曲の題目に取りあげられたり,12月にはクリスマスの時期に合わせて花屋の店頭に数多くの鉢植えが並び,日本人にとって非常に馴染みの深い花になっている.しかし,あれだけの数が店先に並べられていても,シクラメンの香りをイメージ出来る人はそう多くはないと思う.園芸品種のシクラメンは,華やかさに優れているが香りは弱く,ウッディー・パウダー調であり好ましいとは言い難い.これに対し,野生種には花としての価値は低いがフローラル系の強い香りを持つ種が存在するらしい.著者の所属する研究所ではこれらの品種の掛け合わせを長年にわたり研究し続け芳香シクラメンの育成に成功した.本文からは新品種を作り出す時の並々ならぬ努力の積み重ねの結果である事がうかがえる.<BR>次は,津田氏(中部電力株式会社),大西氏(日本メナード化粧品株式会社)らに"甘い香りのキク「アロマム」の開発について"という題目での執筆である.キクから抱くイメージはと問われると,殆どの人は仏事(お葬式)と答えるだろう.一方,秋には菊人形や社寺境内などで大輪を咲かせる菊展覧会などのイメージも付きまとう.しかし,キクの香りとなるとしばし考え込む.著者らは「誰も見たこともないキクを作る」という大目標をかかげ,栽培種と野生種を交配するという研究に着手し,平成22年にいままでには存在しないフローラルでフルーテイ感のあるフレッシュな香りを放つキクの新種の開発に成功している.<BR>最終の4編目は,野口氏に((独)農業・食品産業技術総合研究機構野菜茶業研究所野菜育種研究チーム)"野生種から新しい香りを導入したイチゴ種間雑種品種「桃薫」"という題目で執筆していただいた.前3編は花き類に関する情報であったが,ここでは日本人に最も好まれている果物の代表であるいちごの香りについての記述である.「とよのか」,「とちおとめ」などの名前を聞いて多くの人はイチゴを思い浮かべる.ここでは,市場に無い新しい切り口となるいちごを作り出すという目標に向かい種々研究されたことが述べられている.本文中の表−7に記載されているいちごの品種間の香気成分の相違は非常に興味深い.<BR>以上,特集を掲載するにあたり,僅かばかりの紹介文を書かせていただいた.今後も花き類,果物類の分野では飽くなき香り・味への挑戦が繰り広げられるであろう.本誌でも新しい情報が得られれば遂次紹介していきたい.最後になったが,本特集を掲載するにあたって,執筆依頼をさせていただいた先生方に深く感謝申し上げる次第である.
著者
三井 正昭
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.116-124, 2013

<p>人は嗅覚により香りを識別し,生活を豊かにします.五官(目,耳,鼻,舌,身)でものを捉えます.目でものを見,耳で音を聞き,舌で味わい,手で触り・形・硬軟・熱を感じます.そして鼻でにおいを知ります.しかし,五官の中で最も進化していないのが嗅覚であるといわれています.</p><p>見ることが出来ない,触ることも出来ないにおい.人の感性によりのみ存在する香りの世界,これは無限のものです.</p><p>この香りを文化に,芸道として完成させたのが,世界に誇れる日本固有の文化「香道」です.</p><p>香りは,西洋には香水として伝えられ,東洋に伝わった香木はわが国に於いて,どのように使われ,珍重されてきたのかその歴史を,更に,四季を楽しみ,幻想の世界を文学にあらわした和歌にあわせ,考案創造された香道の概観について,紹介します.</p><p>先人が遺した香道には,精神的にも物質的にもにおいに関した意味深い教養がかくされています.香道を正しく理解し,伝統文化として伝え,普及させていく活動の原点は,香道を知り,体験し,関心をもつことにはじまります.</p>
著者
渡辺 えり代
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.125-132, 2013

<p>香研究会IRIは,香道の世界で伝えられる香十徳の中の香の効能,すなわち,感覚を研ぎ澄まし,心身を清浄にして,汚れや穢れを取り除き,孤独感を癒し,多忙時に心を和ますという働きを現代生活に活かすために,新しいスタイルの香道としての聞香体験,平安時代の貴族に愛された練香や古代エジプトの薫香キフィの創作を通して,心身のウエルネスに役立てる活動を行っている.</p>
著者
南戸 秀仁
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.154-163, 2006 (Released:2006-11-16)
参考文献数
32
被引用文献数
1

21世紀は,「かおり」の時代だという.「におい」や「かおり」の文化は,人類文明とともに築き上げられ,食物に香味と心に豊かさを与えてきたが,「におい」や「かおり」はいつも我々の身の回りに存在して,常に我々の生活と深くかかわっているにもかかわらず,空気と同様に,忘れられがちな存在で,しかもわからない面が多い.このような「におい」や「かおり」を,人間や犬に代わって検知をする「におい」センサーシステム,すなわちエレクトロニックノーズ(e-Nose)の研究開発が活発化してきている.本稿では,このエレクトロニックノーズシステムの開発現状について概観するとともに,そのコア技術であるケモセンサーの原理・特徴およびセンサーシステムの応用分野について言及する.
著者
岩橋 尊嗣
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.183-183, 2012

日本では,これからの季節,温度と湿度の高い生活環境を迎える.そして,梅雨どきのジメジメ感は不快指数を一気に押し上げる.においと湿度の関係の定義は未だ確立されていないが,一般的には,湿度が高くなると,においに対しても敏感になりがちである.これは,高湿度によりもたらされる身体的な不快感との相乗効果も考慮する必要がありそうだ.また,高湿度になると空気の循環性が悪くなり,におい物質は滞留し易くなる.このような現象によっても,人はにおいをより強く,不快に感じるようになる.さらにこの時期,気温・湿度の上昇にともない微生物の働きが活発化する.この時に問題になるのがカビ・バクテリア(細菌)によって作りだされるにおい物質である.本特集では,微生物分野の研究で活躍されている専門の方々に,以下に示すテーマについてご執筆いただいた.いずれのテーマも,読者の方々に有益な情報となり興味深く読んでいただける事を確信している.鍵氏(東工大大学院)には「居住空間での微生物由来揮発性有機化合物(MVOC)について」という題目で執筆していただいた.真菌(カビ)や細菌(バクテリア)などの増殖と代謝過程において様々なMVOCが産生される.ここでは,カビによって作られるMVOC に特化しての記述である.主たるMVOCはアルコール類,ケトン類,アルデヒド類,スルフィド類,低級脂肪酸類,テルペン類,フェノール類等で,これら多種の物質が複合されて,カビ臭が形成されるようだ.通常,ジェオスミン,2-メチルイソボルネオール類がカビ臭の典型とされるが,室内空間のカビ臭は単純ではなく複合臭である事が解る.柳氏(工学院大)には「空調システム内微生物の汚染とカビ臭の対策」という題目で執筆していただいた.空調システム(エアコン)内は,微生物(カビ,バクテリア)が容易に増殖できる環境が整っている.特に冷房時は栄養分,温度,湿度,酸素(空気)の条件が揃っており,微生物の増殖が活発化され,それに伴ってにおい物質も産生される.また,空調システムで生起する微生物汚染は,外部から空調系を経由する在郷軍人病(レジオネラ肺炎)と空調系自身が汚染源となる加湿器病に分類される事,調査事例も含め空調システムから分離された微生物,さらに殺菌法についても詳細に述べられている. 丸山氏(帝京大),安部氏(帝京平成大)らには「植物精油の抗真菌・抗炎症効果〜真菌感染症治療への可能性〜」という題目で執筆していただいた.近年,日本でもアロマセラピーや森林浴などという言葉が定着しつつある.趣味・嗜好的な分野と思われがちだが,植物精油の働きの一つとして,抗菌性・抗炎性など医療としての効能が注目されている.精油には既存薬剤にはない優れた皮膚浸透性や揮発性という物理的特性があり,これを生かした活用法が差別化となる.精油は細菌より真菌に対して強い効果を示すとされ本文中では,白癬菌(水虫)およびカンジダ菌に対する精油の有効性(治療効果)について詳細に述べられ,さらに,抗炎症効果についてもそのメカニズムとともに述べられている.最後に,竹内氏(奈良女子大),木内氏(産総研),鈴木氏(奈良女子大)らには「文化財保全のためのカビ臭対策」という題目で執筆していただいた.文化財の保護・保存で最も厄介なことはカビの発生による損傷であるとも言われている.記憶に新しいものとしては,古墳壁画のカビによる破損消滅がある.国宝や国宝級と言われる文化財がカビによって,いとも簡単に壊されていくのには驚かされる.しかしカビが,目に見えるレベルに達すると,既に被害が出ているらしい.著者らはカビによって産生されるにおい物質に着目し,これらをいち早く検出する事で,目視での確認以前の状態でカビ発生を早期確認出来る手法を開発した.本文ではこれらの研究結果について解説されている.最後になったが,本特集を企画するにあたり,ご多忙中にも関わらず執筆をご快諾いただいた著者の方々に,本紙面を借り深く感謝申し上げます.
著者
蓬田 勝之 黒澤 早穂
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.164-174, 2010-05-25 (Released:2016-04-01)
参考文献数
17
被引用文献数
2

現代バラは,西洋のバラと東洋のバラが人のひらめきや知恵によって交配され誕生した.より美しいものを創り出したいとする人間の代わらぬ情熱が,いつの時代にも見えてくる.そして現代にあっても,美しいバラの神秘さは人を惑わせるほどの「香り」にあることに異論はないであろう.現代バラのハイブリット・ティー(HT)ローズは,ティー・ローズとハイブリット・パペチュアルローズの交配により誕生した.現在,園芸種の約70%はHTローズと言われている.古代から現代バラおよび原種や原種間交雑種などの嗅覚評価とヘッドスペースGC/MS分析を行うことで,現代バラの香りの系譜およびタイプ分類について言及した.
著者
岩下 剛
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.391, 2011

自動車に乗る際,車室内の空気質を気にする時は,どんな時だろうか?昔は新車のにおいが顕著で,それを好ましく感じる人もいれば不快に感じる人もいた.空気質を考慮した自動車内装材の選定により,新車のにおいは以前に比べ顕著ではなくなった.排気ガスのにおいとともに小さい頃自動車に乗った記憶を甦らす人もいるだろう.喫煙者の所有する自動車の内装材およびエアコンのにおいに閉口した経験がある人も多そうだ.しかし,普段,運転をしていない方にとっては,車室内のにおいや空気質に対し,現実的なイメージをお持ちでない場合が多いと思われる.<BR>日常的に自動車を運転する方にとっては,もっと現実的な考えをお持ちだろう. 「幹線道路を運転する時は,大型車からの排気ガスが車室内に侵入するのを嫌い,外気を取り入れない換気モードを選択する」という行動を取られる方は少なくないだろう.夏季に冷房の効率を上げるために,外気を取り入れないという行動もあるだろう.そして,不快な外気を取り入れないため,室内空気(内気)を循環させる換気のモードを選択すると,換気量が減り,車室内発生の汚染物質の濃度が上昇することを知覚することは少ない.それは自動車に乗っている間に嗅覚疲労,嗅覚順応が生じてしまっているからかもしれない.<BR>建築の室内空気質については,シックビル・シックハウス・シックスクール問題が顕著になって以降,多くの研究がなされてきた.一方,居室と同等の居住性が要求されるようになってきている自動車車室内のにおい・空気質に関する研究例は少ない.そこで,今回の特集では「自動車車室内のにおい・空気質」と題し,様々な立場から,最近の動向を記述いただくことにした.<BR>株式会社ヴァレオジャパンの原氏には,自動車の車外,車内からのにおい発生源について解説いただき,その対策技術についても記述いただいた.<BR>日産自動車株式会社の吉浪氏には,自動車用の香り発生装置を組み込んだ車室内空調システムについて解説いただき,その目的,性能,運転方法などを記述いただいた.<BR>株式会社いすゞ中央研究所の達氏には,自動車部品から放散する VOCs(揮発性有機化合物)の評価方法について詳細に解説いただいた.<BR>最後に,筆者(東京都市大学・岩下)が車室内空気質の実測例を報告した.これら様々な視点から捉えた自動車車室内のにおい・空気質の現状が読者の方々にご理解いただければ幸いである.<BR>建築では室内環境が作業効率・知的生産性に及ぼす影響が注目されている.不快な環境による作業効率の低下が,企業生産性や安全性の低下につながるとしたら,それは由々しき問題である.2003年に建築基準法が改正される以前は居住空間に換気設備設置の義務はなく,住宅,学校などでは換気が不十分な箇所が少なくなかった.ビル衛生管理法では室内 CO<sub>2</sub>濃度は 1000ppm以下,学校環境衛生基準では教室内 CO<sub>2</sub>濃度は 1500ppm以下にすることが定められているが,換気量の少ない教室では 1500ppmを上回る測定例がしばしば見受けられた.60m<sup>2</sup>程の面積の教室に 40名もの生徒が一日中在室している在室密度の高さが高 CO<sub>2</sub>濃度の主要因となっている.在室密度の高さから言えば,普通乗用車も例外ではない.3〜10m<sup>3</sup>の車室内に 1〜8名の乗員がいるのである.コンパクトカーに4名の成人が乗車していれば換気が少なければ車室内 CO<sub>2</sub>濃度はかなり高くなるであろう.人体由来のVOCsはもちろん,人体由来以外のVOCsも内気循環の換気モードでは濃度が高くなる.換気状態の悪化が運転者の運転パフォーマンスに影響を及ぼすことがあってはいけない.安全性の視点からも車室内のにおい・空気質について考えてみたい.
著者
高野 岳
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.2-8, 2014-01-25 (Released:2018-02-13)
参考文献数
17
被引用文献数
1

我が国の悪臭防止法では,ガスクロマトグラフを使用した特定悪臭物質の測定の方法と人の嗅覚を使用した臭気指数測定が採用されており,悪臭規制に利用されている.また,室内空間のにおいの測定ではにおい嗅ぎガスクログラフ質量分析計やにおいセンサが使用される.本報では悪臭防止法に基づく悪臭の測定方法の概要とにおい分野への測定技術の応用について述べる.
著者
栗屋野 伸樹
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.192-200, 2013-05-25 (Released:2017-10-11)
参考文献数
2
被引用文献数
1 2

酸化チタンを代表とする光触媒は日本発祥の技術であり,また環境材料として我々の身近に幅広く応用されている.光触媒にはあらゆる有機物を酸化分解できる「光誘起分解性」と表面が水に非常によくなじむ「光誘起超親水性」の2つの大きな機能がある.本文では「光誘起分解性」を利用した光触媒フィルタが搭載された空気浄化システムについての概要,「脱臭」「揮発性有機化合物(VOC)の分解除去」「抗菌・抗ウイルス」の3大機能,今後の光触媒による空気浄化について説明する.
著者
小林 隆嗣 吉松 大介 宮﨑 秀夫
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.246-252, 2013-11-25 (Released:2017-10-11)
参考文献数
24

タンパク質を主成分とする舌苔を除去すると,口気中の揮発性硫黄化合物(volatile sulfur compounds : VSCs)濃度が低下することが知られている.本研究では舌苔を効率よく除去するように設計されたタブレットの評価を行った.被験者にプロテアーゼ含有/非含有タブレットを3回舐めてもらい,舌苔をスコア付けした.タブレットを舐める前後で口気中VSCs濃度をガスクロマトグラフィー法で測定した.プロテアーゼ含有タブレットを舐めることで,舌苔スコアが減少し,口気中の硫化水素とメチルメルカプタン濃度が有意に減少した.
著者
石坂 宏
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.107-113, 2011-03-25 (Released:2016-04-01)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

シクラメンの園芸品種はCyclamen persicumの野生種の花の色,形,大きさを改良することにより育成されてきたが,C. persicumの育種において香りは改良されてこなかった.そこで,シクラメンの香りの育種を開始した.C. persicumの園芸品種とC. purpurascensの芳香性野生種の種間交雑によりC. purpurascensと同様の香りを発散する芳香シクラメン,‘麗しの香り’, ‘香りの舞い’および‘孤高の香り’を育成した.芳香シクラメンの香りはC. persicumの園芸品種に比較して大きく改善されたが,それらの花色の多様性は少なくなった.これまでに,芳香シクラメンの花色の多様性を増やすためにイオンビーム照射技術による突然変異育種を実施してきた.
著者
古田 厚子
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.252-261, 2014-07-25 (Released:2018-02-13)
参考文献数
33
被引用文献数
1 2

嗅覚の異常を自覚した患者の多くが耳鼻咽喉科を受診する.耳鼻咽喉科における嗅覚障害の診察の手順として,問診,視診,画像診断,嗅覚検査が挙げられる.嗅覚障害を的確に診断し,適切な治療を行うためには,これらの結果を総合的に判断して,嗅覚障害の原因の特定と障害部位の同定を行い,嗅覚障害の程度を評価する必要がある.本稿では基準嗅力検査および静脈性嗅覚検査など嗅覚検査を中心に嗅覚障害の診断に必要な検査について解説する.
著者
村松 學
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.242-250, 2006 (Released:2007-02-20)
参考文献数
11

室内空気汚染の対策として,「学校環境衛生の基準」が平成16年に全面改訂された.このほか飲料水の衛生,排水,プール,衛生害虫などの項目も,さまざまな社会的な指摘を受けて改訂されたものである.社会的に問題となっているシックハウス症候群については,学校建築も同様であり,児童生徒の健康に影響を及ぼす影響が大きく,教室などに使われている建材や,空気質の低下と換気量の著しい不足が問題とされた. 特に学校での汚染源,悪臭原因物質としては,新築時や増改築で使われている新建材や塗料からの化学物質の発生があり,その他,教材として使用されるフェルトペン,ワックスや洗剤など学校で日常的に使われている用品などがある.ここでは,ホルムアルデヒドなど揮発性有機化合物(VOC)と二酸化窒素(NO2)濃度の基準の追加など基準の解説と教室の換気の重要性とアスベスト(石綿)について述べる.
著者
阿部 竜
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.93-100, 2009-03-25 (Released:2016-04-01)
参考文献数
13
被引用文献数
1

新規な可視光応答型光触媒として,白金と酸化タングステンの複合型光触媒を紹介する.酸化タングステンは,その伝導帯レベルが低く,単体では励起電子による酸素分子の還元が起こりにくいが,白金を高分散に担持させることにより,白金上において酸素の多電子還元が促進され,結果として正孔による有機物の酸化分解が高効率で進行する.この光触媒は蛍光灯の下において従来の酸化チタン系光触媒に比べて極めて高い活性を示し,室内空間での脱臭や抗菌作用への応用展開が期待される.
著者
相根 義昌 中川 純一 戸枝 一喜 佐藤 広顕
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.298-306, 2013-09-25 (Released:2017-10-11)
参考文献数
14

食材の香りと風味は,食材に含まれる複数の化合物が人の感覚器によって検出されることによって生まれる.したがって,香りや風味を機器分析によって評価することは困難とされてきた.しかし,人による官能試験と機器分析を組み合わせた方法で香りや風味を評価できる可能性がうまれてきた.一方,好まれる食材の香りを生み出すためには,香りや風味に関わる化合物がどのように合成されるかを解明することが必要である.本稿では,香り成分の視点から,発酵食品中の化合物とその代謝経路,植物の香りに関わる遺伝子の研究について紹介する.
著者
上村 繁樹 山口 菜摘 大久保 努 吉井 文子
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.397-404, 2013-11-25 (Released:2017-10-11)
参考文献数
11

本研究では,香り分子の抗菌活性を検討するに当たり,大腸菌を検定菌とした寒天気体法を試みた.測定する香り分子によっては,阻止円の外周にあたる部分(非阻止円部)においても菌の増殖が阻害される現象が見受けられ,一概に阻止円の面積だけでは評価できないことを見出した.そこで,このような現象が生じた場合でも,正しく抗菌活性を評価するために,寒天をくり抜き,くり抜いた寒天の表面上の菌数を直接測定する方法を考案し,非阻止円部の増殖抑制の評価法を検討した.さらに,本方法を用いて2種の香り分子を組合せて抗菌活性を測定した結果,例えば,酢酸リナリル単独では抗菌活性をほとんど示さないが,リナロールと混合することによって,お互いの抗菌活性を向上させる可能性が示唆された.